◆もう嫌だ……
幼稚園年中さんの我が息子。最近、同じクラスのN君に目を叩かれたり、お腹を蹴られたりしているらしい。あまり目に余るようなら、先生に言うか直接お母さんに言うしかないなと思っていた矢先。
同じバス停のお母さんから、「うちの娘が酷く虐められて、幼稚園に行きたくないと言い出した。だから、今度の音楽会でお母さんにあったら直接言うつもり。かざとさんのT君も叩かれてるんでしょう?一緒に言いましょうよ。他のお母さんも一緒に言うそうだから」
ちょっと待って。
確かにT君も被害に遭っているけど、それはうちの問題。何人もで一人のお母さんを責めるのは酷でしょう?多勢に無勢、それじゃ虐めみたいじゃないか。責められたお母さんは、逃げ場が無くなる。そんなのは嫌だ。
だけど、そうは言えない事情がある。
みんなで抗議しようと言い出したお母さんは、あたしが辛かった時、手を差し伸べてくれた人だった。だから反論するのが恐い。またひとりぼっちになるかもしれない。
あたしはいいけど、子供達が遊んでもらえなくなったら可愛そうだ。どうしたらいいんだろう。どうしたらいいんだろう……。苦しくて眠れない、逃げ出す事も出来ない。憂鬱な気持ちで朝を迎えた。
ところが
言い出したお母さんのお子さんが当日、急性腸炎でお休みになった。そして抗議するお話も、お流れになった。ほっとする反面、卑怯な自分に嫌気がさす。
自己保身しか頭に無い卑怯者だ。生きてる事さえ嫌になる。物語の主人公のように、自分を貫く事が出来ないんだ。
小説を書くのが辛くなる。
嘘だ、嘘だ、こんなのは嘘だ。
でもこうありたいと願うから、書かなくちゃいけないのかもしれない。
己の真実を確認して矛盾に苦しまなくちゃいけない。
当たり前があってはいけない。
悩んで、苦しんで、強くならなくちゃね。
幼稚園年中さんの我が息子。最近、同じクラスのN君に目を叩かれたり、お腹を蹴られたりしているらしい。あまり目に余るようなら、先生に言うか直接お母さんに言うしかないなと思っていた矢先。
同じバス停のお母さんから、「うちの娘が酷く虐められて、幼稚園に行きたくないと言い出した。だから、今度の音楽会でお母さんにあったら直接言うつもり。かざとさんのT君も叩かれてるんでしょう?一緒に言いましょうよ。他のお母さんも一緒に言うそうだから」
ちょっと待って。
確かにT君も被害に遭っているけど、それはうちの問題。何人もで一人のお母さんを責めるのは酷でしょう?多勢に無勢、それじゃ虐めみたいじゃないか。責められたお母さんは、逃げ場が無くなる。そんなのは嫌だ。
だけど、そうは言えない事情がある。
みんなで抗議しようと言い出したお母さんは、あたしが辛かった時、手を差し伸べてくれた人だった。だから反論するのが恐い。またひとりぼっちになるかもしれない。
あたしはいいけど、子供達が遊んでもらえなくなったら可愛そうだ。どうしたらいいんだろう。どうしたらいいんだろう……。苦しくて眠れない、逃げ出す事も出来ない。憂鬱な気持ちで朝を迎えた。
ところが
言い出したお母さんのお子さんが当日、急性腸炎でお休みになった。そして抗議するお話も、お流れになった。ほっとする反面、卑怯な自分に嫌気がさす。
自己保身しか頭に無い卑怯者だ。生きてる事さえ嫌になる。物語の主人公のように、自分を貫く事が出来ないんだ。
小説を書くのが辛くなる。
嘘だ、嘘だ、こんなのは嘘だ。
でもこうありたいと願うから、書かなくちゃいけないのかもしれない。
己の真実を確認して矛盾に苦しまなくちゃいけない。
当たり前があってはいけない。
悩んで、苦しんで、強くならなくちゃね。
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【私立叢雲学園怪奇譚・第二部〔本章〕62】
2004年12月14日 【小説】私立叢雲学園怪奇譚[第61回のあらすじ]
◇一連の事件に責任を感じ、冬也は美月を止めようとする。しかし今、美月を追いつめるのは危険と判断した遼は冬也を止めた。すると、激昂した日下部が冬也に掴みかかった。
:::::::::::::::::::::::::::::
<本文>
古美術商を名乗っていたが、胡散臭さが拭えなかった。遼は敢えて言い切ると、日下部の出方を伺う。恐らく間違いない。
だが日下部は表情を変えず、黙していた。焦れてなお、問いつめようとする遼の肩に優樹が手を置く。
「後にしろ、遼。急いだ方がいい」
「……わかった」
素直に引き下がった遼は、呆然と立ちつくしている冬也に向き直った。
「冬也さん、我々を『秋月島』に連れて行って下さい」
「島に……? そこで何を?」
「『蜻蛉鬼』を封じていた菩薩像を、元の場所に戻すんです」
すぐに思い当たったのだろう冬也は、そうか、と頷く。自分がやるべき事を知り、その表情に覇気が戻った。
「ボートで待っていてくれ、すぐにキーを取ってくる!」
走り去る冬也を見送り、遼はアキラと轟木に続いてボートに乗り込んだ。優樹が舫綱の結び目を解いて操船準備をしていると、近付いてきた日下部が沈黙を破った。
「頼みがある、俺も島に連れてっちゃくれねぇか……」
遼と優樹が返答に窮していると、アキラが前に進み出る。
「日下部さん、悪いが貴方は信用できない。菩薩像は重要な役割を担っている、もしも貴方達が狙っていたのなら、同行させるわけにはいかない」
アキラの言葉に顔を歪めた日下部が、どのような思惑を抱いていたか遼には量れなかった。鳥羽山の敵を討ちたいと思っているのか、それとも隙を狙って菩薩像を手に入れるつもりなのか……。
「待たせたね、優樹! すぐに出せるか?」
息せき切って冬也が戻ってくると、優樹は舫綱をボートに放り、桟橋を蹴った。冬也は、ちらりと日下部に目をやったが、そのままボートに飛び乗りエンジンを始動させる。
泡立つ湖水が大きく波打った。島に舳先を向けたボートがスピードを増すと、白い破線が美しい尾を引き、桟橋に向かって細く消えてゆく。その先に小さくなりつつある人影が、心許なく見えるのは気のせいだろうか……。
「美月さんは、もう帰ってきていましたか?」
美月は朝早く、麓の町まで医療品を調達に出かけた。日下部と殴り合って怪我を負った優樹の為である。コクピットのデジタル時計は昼近い時間を指している、もう帰ってきてもおかしくないはずだ。
「それが……車はあるのに、姿が見えないんだよ。急いだ方が良いと思って、探してはみなかったが」
遼の胸に、一抹の不安が去来する。現在の美月は、美月としての人格なのだろうか。それとも山に取り残された幼い時から、既に別の人格に変わってしまったのか。
「美月さんが変わったのは、山に取り残された時からですか?」
「……いや、あの時は熱を出して入院したが、退院してからも変わった様子はなかった。相変わらず身体は弱かったし、気が優しくて控えめでね……。変わったなと、思ったのは……」
冬也は視線を落とすと、言葉を濁らせる。
「片瀬由利菜……郷田君の婚約者だった女性が、湖で亡くなった時からだよ」
半分、予想していた言葉だった。幼い頃の美月には、憎しみを形にするほど力が無かったのかもしれない。しかし報われぬ愛が、美月を変えてしまったのだ。
『秋月島』が近付くつれ、湖の色が変わり始めた。空の碧さと木々の緑が混ざり合ったように、輝くエメラルド色をした湖水が徐々に濁る。湖底から何かが浮き上がり、エメラルドの輝きを浸食し、やがて茶褐色に変化した湖水はボートのエンジンに巻き上げられ、泡の飛沫をブリッジに撒き散らす。同時に饐えた腐臭が鼻腔を衝き、遼は気分が悪くなってきた。
「嫌な匂いだな……まるで……」
小さく呟いて、そのまま黙ったアキラは何を言おうとしたのか。解らないままにも、遼は想像する事が出来た。これは、死の匂いだ。
『秋月島』の桟橋にボートを係留し、コンクリートを打った歩道に降り立つと、胸の悪くなる悪臭が勢いを増す。丘の頂の祠を目指し、先に立った優樹に遼も続いた。並んで歩く冬也がふと足を止め、湖に目を移す。
「美月を救う事が、本当に出来るのだろうか……。あの子は言った、『兄さんの為に愛する者を失った、私の幸せを二度と奪わないで欲しい』と……」
「冬也さんの為に……? 何か思い当たる事があったんですか?」
謎かけのような美月の言葉に興味を持ち、遼も足を止めた。
「思い当たる事などないが……もしかしたら、この土地から逃げた私を責めているのかもしれない」
自責の念から冬也は、全てにおいて悪いのは自分だと思い込んでいる。しかし美月の言葉は、何か別の意味があるのではないかと遼は思った。美月の意図するものは、なんだろうか。絡まった糸を解きながら、最後の小さな結び目に苛つく。そんな気分だ。
「これ以上、時間を無駄には出来ん……往け」
促す轟木の声に、むっとして遼は振り返った。優樹の力を当てにしながら、これ以上尊大な態度を取られるのは我慢がならない。ひとこと言い返そうとしたが、出来なかった。
悲愴の眼差しで、轟木は冬也を見つめていた。瞳の奥に揺らめく黄金色の焔が、憐憫の色を湛えている。
(……何故だ?)
遼の胸に、新たな疑問が湧き上がった。
:::::::::::::::::::::::::::::
◆更新遅れがちでごめんなさい。しかし、終盤に向けてようやく筆がのってきました。この先は、少し速いペースで上げられると思います。年内には終わりたいですね、是非とも。
◆終盤に近づくに連れて、煩悩がパワーアップです(笑)
書いている方は恥ずかしいけど、読んで下さる方は、恥ずかしがらないで応援してあげて下さい。優樹君も、遼君も、がんばります!!
◆ご感想をお気軽にどうぞ!
〔叢雲掲示板〕
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◇一連の事件に責任を感じ、冬也は美月を止めようとする。しかし今、美月を追いつめるのは危険と判断した遼は冬也を止めた。すると、激昂した日下部が冬也に掴みかかった。
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<本文>
古美術商を名乗っていたが、胡散臭さが拭えなかった。遼は敢えて言い切ると、日下部の出方を伺う。恐らく間違いない。
だが日下部は表情を変えず、黙していた。焦れてなお、問いつめようとする遼の肩に優樹が手を置く。
「後にしろ、遼。急いだ方がいい」
「……わかった」
素直に引き下がった遼は、呆然と立ちつくしている冬也に向き直った。
「冬也さん、我々を『秋月島』に連れて行って下さい」
「島に……? そこで何を?」
「『蜻蛉鬼』を封じていた菩薩像を、元の場所に戻すんです」
すぐに思い当たったのだろう冬也は、そうか、と頷く。自分がやるべき事を知り、その表情に覇気が戻った。
「ボートで待っていてくれ、すぐにキーを取ってくる!」
走り去る冬也を見送り、遼はアキラと轟木に続いてボートに乗り込んだ。優樹が舫綱の結び目を解いて操船準備をしていると、近付いてきた日下部が沈黙を破った。
「頼みがある、俺も島に連れてっちゃくれねぇか……」
遼と優樹が返答に窮していると、アキラが前に進み出る。
「日下部さん、悪いが貴方は信用できない。菩薩像は重要な役割を担っている、もしも貴方達が狙っていたのなら、同行させるわけにはいかない」
アキラの言葉に顔を歪めた日下部が、どのような思惑を抱いていたか遼には量れなかった。鳥羽山の敵を討ちたいと思っているのか、それとも隙を狙って菩薩像を手に入れるつもりなのか……。
「待たせたね、優樹! すぐに出せるか?」
息せき切って冬也が戻ってくると、優樹は舫綱をボートに放り、桟橋を蹴った。冬也は、ちらりと日下部に目をやったが、そのままボートに飛び乗りエンジンを始動させる。
泡立つ湖水が大きく波打った。島に舳先を向けたボートがスピードを増すと、白い破線が美しい尾を引き、桟橋に向かって細く消えてゆく。その先に小さくなりつつある人影が、心許なく見えるのは気のせいだろうか……。
「美月さんは、もう帰ってきていましたか?」
美月は朝早く、麓の町まで医療品を調達に出かけた。日下部と殴り合って怪我を負った優樹の為である。コクピットのデジタル時計は昼近い時間を指している、もう帰ってきてもおかしくないはずだ。
「それが……車はあるのに、姿が見えないんだよ。急いだ方が良いと思って、探してはみなかったが」
遼の胸に、一抹の不安が去来する。現在の美月は、美月としての人格なのだろうか。それとも山に取り残された幼い時から、既に別の人格に変わってしまったのか。
「美月さんが変わったのは、山に取り残された時からですか?」
「……いや、あの時は熱を出して入院したが、退院してからも変わった様子はなかった。相変わらず身体は弱かったし、気が優しくて控えめでね……。変わったなと、思ったのは……」
冬也は視線を落とすと、言葉を濁らせる。
「片瀬由利菜……郷田君の婚約者だった女性が、湖で亡くなった時からだよ」
半分、予想していた言葉だった。幼い頃の美月には、憎しみを形にするほど力が無かったのかもしれない。しかし報われぬ愛が、美月を変えてしまったのだ。
『秋月島』が近付くつれ、湖の色が変わり始めた。空の碧さと木々の緑が混ざり合ったように、輝くエメラルド色をした湖水が徐々に濁る。湖底から何かが浮き上がり、エメラルドの輝きを浸食し、やがて茶褐色に変化した湖水はボートのエンジンに巻き上げられ、泡の飛沫をブリッジに撒き散らす。同時に饐えた腐臭が鼻腔を衝き、遼は気分が悪くなってきた。
「嫌な匂いだな……まるで……」
小さく呟いて、そのまま黙ったアキラは何を言おうとしたのか。解らないままにも、遼は想像する事が出来た。これは、死の匂いだ。
『秋月島』の桟橋にボートを係留し、コンクリートを打った歩道に降り立つと、胸の悪くなる悪臭が勢いを増す。丘の頂の祠を目指し、先に立った優樹に遼も続いた。並んで歩く冬也がふと足を止め、湖に目を移す。
「美月を救う事が、本当に出来るのだろうか……。あの子は言った、『兄さんの為に愛する者を失った、私の幸せを二度と奪わないで欲しい』と……」
「冬也さんの為に……? 何か思い当たる事があったんですか?」
謎かけのような美月の言葉に興味を持ち、遼も足を止めた。
「思い当たる事などないが……もしかしたら、この土地から逃げた私を責めているのかもしれない」
自責の念から冬也は、全てにおいて悪いのは自分だと思い込んでいる。しかし美月の言葉は、何か別の意味があるのではないかと遼は思った。美月の意図するものは、なんだろうか。絡まった糸を解きながら、最後の小さな結び目に苛つく。そんな気分だ。
「これ以上、時間を無駄には出来ん……往け」
促す轟木の声に、むっとして遼は振り返った。優樹の力を当てにしながら、これ以上尊大な態度を取られるのは我慢がならない。ひとこと言い返そうとしたが、出来なかった。
悲愴の眼差しで、轟木は冬也を見つめていた。瞳の奥に揺らめく黄金色の焔が、憐憫の色を湛えている。
(……何故だ?)
遼の胸に、新たな疑問が湧き上がった。
:::::::::::::::::::::::::::::
◆更新遅れがちでごめんなさい。しかし、終盤に向けてようやく筆がのってきました。この先は、少し速いペースで上げられると思います。年内には終わりたいですね、是非とも。
◆終盤に近づくに連れて、煩悩がパワーアップです(笑)
書いている方は恥ずかしいけど、読んで下さる方は、恥ずかしがらないで応援してあげて下さい。優樹君も、遼君も、がんばります!!
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【私立叢雲学園怪奇譚・第二部〔本章〕61】
2004年12月4日 【小説】私立叢雲学園怪奇譚[第60回のあらすじ]
◇現れた冬也が語る美月の過去を聞き、『蜻蛉鬼』との関係を再確認した遼だった。だが、なぜ冬也は今まで知らぬふりをしてきたのだろうか……。
:::::::::::::::::::::::::::::
<本文>
緊迫した空気が場を満たす。半信半疑の面持ちで聞いていた日下部さえ、真一文字に結んだ唇が今や蒼白になっていた。
「郷田さんの恋人が亡くなったときも、あなたは見て見ぬふりをしていたんですか」
咎める口調の遼には応えず、冬也は踵を返した。
「美月と、話をしてくる」
「待ってくれ!」
遮るように飛び出した優樹が、冬也を睨み付ける。
「『蜻蛉鬼』の仕業が、本当に美月さんが望んでいた事とは限らないじゃないか! 誰だって恨んだり嫉んだりする事くらいある、殺したいほど憎む事だってある。だけど……だけど、その気持ちを抑える事が必ず出来るはずなんだ。美月さんは『蜻蛉鬼』に利用されていただけだ……『蜻蛉鬼』の力は、俺たちで封じてみせる! 美月さんに話すのは、その後にして欲しい……」
幼い頃に優樹が体験した出来事を知った遼は、その気持ちが痛いほど解った。孤独に押し潰されそうになれば、誰でも何かにすがりたくなるだろう。その時、美月の心に介在した闇に『蜻蛉鬼』が付け込んだに違いないのだ。しかし美月でなければいけない何かが、在ったのだろうか……。
「お願いです冬也さん、優樹の言う事を聞いてやって下さい。今、美月さんを追いつめるのは得策ではないと僕も思います」
「遼君……私は気が付いていながら、この土地から逃げたんだよ。あの子を守れなかった、だから何も言えなかった……。しかし今まで見過ごしてきた責任がある。止めるのは、私の役目だ」
「今更……勝手な事を言わないで下さい。あなたが解決できるという、自信があるんですか?」
「それは……」
言葉に詰まった冬也を追いつめるように、遼は前に進み出た。
「美月さんの心は……暗い山に、置いてきぼりにされたままなんだと思う。なのに冬也さんは手を差し伸べずに、突き放すつもりなんですか? 美月さんを『蜻蛉鬼』から切り離さなくちゃいけない、優樹にはそれが出来る。優樹を……信じて下さい」
遼には確信があった。己の闇を抑え込み、辛さに耐えながらも、他人の闇を優しさで包む事が出来る……。だからこそ優樹は強いのだ、美月を救えるのは優樹しかいない。
戸惑った表情で冬也は、その場の全員を見渡した。
「私は恐かった……一人でこの土地に帰り、美月に会う自信がなかった。一ヶ月ほど前、郷田君から及川君との婚約を聞いた私は、美月を湖から遠ざけようと決意した。同じ悲劇が繰り返される事を恐れたんだよ……。相次ぐ怪事件で客足が遠のいたのは好都合だった、君達なら美月に笑顔を取り戻させてくれる、そうすれば他の土地に出る気になるかもしれない、そう期待したんだ」
「湖から離れるように、言ったんですね?」
顔を伏せた冬也の足下に、一滴の液体が黒い染みを作った。涙かと遼は思ったが、違った。
「美月は……この土地を離れるつもりはないと言った。望むものを手に入れるまでは、決して動かないと……」
冬也の顎から滴り落ちていたのは、血だった。噛み切られた唇から細い筋となり、足下の砂利に血溜まりをつくる。声にならない魂の慟哭が聞こえて、遼は顔を背けた。冬也が妹の美月を、いかに想い、愛しているかが解るからだった。
「ふざけんじゃねぇ!」
突然、大声を張り上げた日下部が冬也の襟首を掴んだ。
「ふざけんじゃねぇ……まったくよぉ……ふざけんじゃねぇぞっ! てめぇと、あの女のせいで鳥羽山は死んだってのかっ? てめぇら二人纏めてぶっ殺してやる!」
ぎりぎりと首を締め上げられ、顔面蒼白になりながらも冬也は抵抗しようとはせずに目を瞑った。日下部の怒りを享受し、死で償うつもりなのだろうか? 慌てた遼が止めに入るよりも早く、優樹が日下部の腕を掴む。
「やめろ、冬也さんを責めるのは筋違いだ」
ここで二人が争う事になれば、身体を張ってでも止めるつもりで遼は身構えた。しかし意外にも日下部は反撃せず、おとなしく冬也から手を離した。
「ああ、その通りだ……まずは化け物をぶっ潰すのが先だな。だがよぉ、覚えておきな! てめぇと、あの女に責任がないとは言わせねぇぞ、必ず落とし前はつけて貰うからなぁ……!」
「責任で言うなら、日下部さんはどうなんです? 鳥羽山さんが湖に来たのは、何か目的があったんでしょう?」
遼は優樹の横に並ぶと、きっちり日下部を見据える。
「……なん……だとぉっ!」
「鳥羽山さんは、あなたと落ち合うために桟橋に来た。そして……『蜻蛉鬼』に喰われたんだ」
「どういう意味だ……」
日下部が顔色を変えると、遼の目配せで優樹は手を離した。
「僕は見た、昨夜ここで何があったかを」
佐野の話を聞いて現場に着いた途端、遼は酷い眩暈を覚えた。忌み嫌いながらも、その役割に必要性を感じつつある特別な力……。そのヴィジョンが伝えた、凄惨な光景。
「貴様、鳥羽山が殺されるのを黙って見てやがったのかっ!」
「その場にいたわけじゃない」
「どいつもこいつも……訳わかんねぇこと言いやがって……」
「日下部さん、あなた達は『秋月島』に祀ってある仏像を、盗もうとしたんですか?」
古美術商を名乗っていたが、胡散臭さが拭えなかった。遼は敢えて言い切ると、日下部の出方を伺う。恐らく間違いない。
:::::::::::::::::::::::::::::
◆お待たせしました、久しぶりの更新です(汗)
◆いやはや、世の中いろんな事があるものです。自分にとって今年は、一生分ばたばたしたみたいに疲れました。来年は穏やかだと良いなぁ……(まだ早い)
◆日記でも触れましたが、「むらくも」一部が某公募で一次予選を抜けました。皆さんの感想を参考に改稿したおかげです、ありがとうございました。
二部もどうぞよろしく!!
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◇現れた冬也が語る美月の過去を聞き、『蜻蛉鬼』との関係を再確認した遼だった。だが、なぜ冬也は今まで知らぬふりをしてきたのだろうか……。
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<本文>
緊迫した空気が場を満たす。半信半疑の面持ちで聞いていた日下部さえ、真一文字に結んだ唇が今や蒼白になっていた。
「郷田さんの恋人が亡くなったときも、あなたは見て見ぬふりをしていたんですか」
咎める口調の遼には応えず、冬也は踵を返した。
「美月と、話をしてくる」
「待ってくれ!」
遮るように飛び出した優樹が、冬也を睨み付ける。
「『蜻蛉鬼』の仕業が、本当に美月さんが望んでいた事とは限らないじゃないか! 誰だって恨んだり嫉んだりする事くらいある、殺したいほど憎む事だってある。だけど……だけど、その気持ちを抑える事が必ず出来るはずなんだ。美月さんは『蜻蛉鬼』に利用されていただけだ……『蜻蛉鬼』の力は、俺たちで封じてみせる! 美月さんに話すのは、その後にして欲しい……」
幼い頃に優樹が体験した出来事を知った遼は、その気持ちが痛いほど解った。孤独に押し潰されそうになれば、誰でも何かにすがりたくなるだろう。その時、美月の心に介在した闇に『蜻蛉鬼』が付け込んだに違いないのだ。しかし美月でなければいけない何かが、在ったのだろうか……。
「お願いです冬也さん、優樹の言う事を聞いてやって下さい。今、美月さんを追いつめるのは得策ではないと僕も思います」
「遼君……私は気が付いていながら、この土地から逃げたんだよ。あの子を守れなかった、だから何も言えなかった……。しかし今まで見過ごしてきた責任がある。止めるのは、私の役目だ」
「今更……勝手な事を言わないで下さい。あなたが解決できるという、自信があるんですか?」
「それは……」
言葉に詰まった冬也を追いつめるように、遼は前に進み出た。
「美月さんの心は……暗い山に、置いてきぼりにされたままなんだと思う。なのに冬也さんは手を差し伸べずに、突き放すつもりなんですか? 美月さんを『蜻蛉鬼』から切り離さなくちゃいけない、優樹にはそれが出来る。優樹を……信じて下さい」
遼には確信があった。己の闇を抑え込み、辛さに耐えながらも、他人の闇を優しさで包む事が出来る……。だからこそ優樹は強いのだ、美月を救えるのは優樹しかいない。
戸惑った表情で冬也は、その場の全員を見渡した。
「私は恐かった……一人でこの土地に帰り、美月に会う自信がなかった。一ヶ月ほど前、郷田君から及川君との婚約を聞いた私は、美月を湖から遠ざけようと決意した。同じ悲劇が繰り返される事を恐れたんだよ……。相次ぐ怪事件で客足が遠のいたのは好都合だった、君達なら美月に笑顔を取り戻させてくれる、そうすれば他の土地に出る気になるかもしれない、そう期待したんだ」
「湖から離れるように、言ったんですね?」
顔を伏せた冬也の足下に、一滴の液体が黒い染みを作った。涙かと遼は思ったが、違った。
「美月は……この土地を離れるつもりはないと言った。望むものを手に入れるまでは、決して動かないと……」
冬也の顎から滴り落ちていたのは、血だった。噛み切られた唇から細い筋となり、足下の砂利に血溜まりをつくる。声にならない魂の慟哭が聞こえて、遼は顔を背けた。冬也が妹の美月を、いかに想い、愛しているかが解るからだった。
「ふざけんじゃねぇ!」
突然、大声を張り上げた日下部が冬也の襟首を掴んだ。
「ふざけんじゃねぇ……まったくよぉ……ふざけんじゃねぇぞっ! てめぇと、あの女のせいで鳥羽山は死んだってのかっ? てめぇら二人纏めてぶっ殺してやる!」
ぎりぎりと首を締め上げられ、顔面蒼白になりながらも冬也は抵抗しようとはせずに目を瞑った。日下部の怒りを享受し、死で償うつもりなのだろうか? 慌てた遼が止めに入るよりも早く、優樹が日下部の腕を掴む。
「やめろ、冬也さんを責めるのは筋違いだ」
ここで二人が争う事になれば、身体を張ってでも止めるつもりで遼は身構えた。しかし意外にも日下部は反撃せず、おとなしく冬也から手を離した。
「ああ、その通りだ……まずは化け物をぶっ潰すのが先だな。だがよぉ、覚えておきな! てめぇと、あの女に責任がないとは言わせねぇぞ、必ず落とし前はつけて貰うからなぁ……!」
「責任で言うなら、日下部さんはどうなんです? 鳥羽山さんが湖に来たのは、何か目的があったんでしょう?」
遼は優樹の横に並ぶと、きっちり日下部を見据える。
「……なん……だとぉっ!」
「鳥羽山さんは、あなたと落ち合うために桟橋に来た。そして……『蜻蛉鬼』に喰われたんだ」
「どういう意味だ……」
日下部が顔色を変えると、遼の目配せで優樹は手を離した。
「僕は見た、昨夜ここで何があったかを」
佐野の話を聞いて現場に着いた途端、遼は酷い眩暈を覚えた。忌み嫌いながらも、その役割に必要性を感じつつある特別な力……。そのヴィジョンが伝えた、凄惨な光景。
「貴様、鳥羽山が殺されるのを黙って見てやがったのかっ!」
「その場にいたわけじゃない」
「どいつもこいつも……訳わかんねぇこと言いやがって……」
「日下部さん、あなた達は『秋月島』に祀ってある仏像を、盗もうとしたんですか?」
古美術商を名乗っていたが、胡散臭さが拭えなかった。遼は敢えて言い切ると、日下部の出方を伺う。恐らく間違いない。
:::::::::::::::::::::::::::::
◆お待たせしました、久しぶりの更新です(汗)
◆いやはや、世の中いろんな事があるものです。自分にとって今年は、一生分ばたばたしたみたいに疲れました。来年は穏やかだと良いなぁ……(まだ早い)
◆日記でも触れましたが、「むらくも」一部が某公募で一次予選を抜けました。皆さんの感想を参考に改稿したおかげです、ありがとうございました。
二部もどうぞよろしく!!
◆ご感想をお気軽にどうぞ!
〔叢雲掲示板〕
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8歳児の語る世界情勢(笑)
2004年11月30日 ◆普段の出来事◆これ以上税金とられたら、子供産む女性は確実にいなくなりますよ?
最近、ジャパンパッシング著しい某国。報道特番を見ている私の横で、お絵かきをしていた娘が考え深そうに呟いた。
「この学者さんは、C国の学者さんだから、自分だけが正しいように言ってるけど、日本の学者さんはこう言わないよね。喧嘩は両方良くないんだよ、ちゃんと話して仲良くしなきゃいけないんだよ。自分だけが正しいみたいな言い方は、いけないんだよ」
あっぱれ8歳児(笑)
なんだ、あたしが言い聞かせる時は反発して、自分だけがただしいと言うくせにね。
肝心な事は、理解してるんじゃないか。
しかし……
「M子の言う事は正しいよ、でもね、あなたがそれを外で言うと嫌な気持ちになる人もいるから、外では言わないんだよ」
「わかった、お家でだけにする」
そう諭さないと安心できない母親でした……。
◆心配掛けるな、バカ娘!
先日、娘が少し遠方の友人宅に遊びに行った時です。嫌な事件があったばかりだし、5時(17時)には必ず迎えに行くから待つように言い聞かせて送り出したのですが……。
先方の家の方が4時45分くらいになって、「送っていく」と言って下さったそうです。娘は、「ママが向かえに来るから待っている」と言い出す事が出来ずに途中まで送ってもらって帰りました。
そして行き違いに……
住宅街ですから、入り組んだルートがたくさんあります。あたしな娘に会う事が出来ずに5時丁度、先方のお宅に着きました。
「M子ちゃんなら、途中まで送って帰りましたよ」
外は既に真っ暗、ひやりと冷たいものが背筋に走ります。下のチビを乗せた自転車を大急ぎでこぎました。
帰宅時を急ぐ人の群れが、これほど恨めしく思った事はありません。
それでも10分ほどでマンションに着きました。
娘はマンション入り口の階段に座って泣いていました。
「ママ、ママ、ごめんなさい」
反省している娘に、たたみ掛けるように諭しても仕方ないです。
「このバカ娘」
冷たいほっぺを挟んで、ぎゅっと抱きしめました。
マンションは駅が近く、通りからも駅からも、入り口が丸見えです。それに1階の角部屋。そんなところで泣きながら20分も座っていたのかと思うと、冷や汗が出ます。
寒くて、暗くて、心細かったよね。
「ママが帰ってこなかったら、どうしようかと思った」
おい、それなはいだろう?
何より無事で良かったです。
翌日に、みっちり言い聞かせましたけどね(笑)
◆事の顛末(その2)
開き直れました。
皆さん口をそろえて仰います。
「考えてみれば、SさんはNさんに騙されてただけで、悪い人じゃないのよ。かざとさんも、すぐには許せないだろうけど、気持ちを切り替えた方が良いわよ」
ええ、ええ、わかってますよ。
そんなこたぁ、百も承知です。
「今だから言うけど、実は私もNさんからかざとさんの事を悪く聞かされていてね…。でも私は信じてなかったわ」
はい、はい、もういいですってば。
「だけどNさんは、問題よねぇ……。早く引っ越せばいいのに」
いい加減にしてくれ……、黙れ
◆「むらくも」
某公募の一次予選が通りました。
ひとえに、感想を下さった方、励まして下さった方のおかげです。
本当にありがとうございました。
感謝の気持ちで一杯です。
二次選考は通らないと思うけど
書き続ける力が出てきます。
これからもどうぞ、よろしくお願い致します。
「二部」完結に向かってがんばります。
最近、ジャパンパッシング著しい某国。報道特番を見ている私の横で、お絵かきをしていた娘が考え深そうに呟いた。
「この学者さんは、C国の学者さんだから、自分だけが正しいように言ってるけど、日本の学者さんはこう言わないよね。喧嘩は両方良くないんだよ、ちゃんと話して仲良くしなきゃいけないんだよ。自分だけが正しいみたいな言い方は、いけないんだよ」
あっぱれ8歳児(笑)
なんだ、あたしが言い聞かせる時は反発して、自分だけがただしいと言うくせにね。
肝心な事は、理解してるんじゃないか。
しかし……
「M子の言う事は正しいよ、でもね、あなたがそれを外で言うと嫌な気持ちになる人もいるから、外では言わないんだよ」
「わかった、お家でだけにする」
そう諭さないと安心できない母親でした……。
◆心配掛けるな、バカ娘!
先日、娘が少し遠方の友人宅に遊びに行った時です。嫌な事件があったばかりだし、5時(17時)には必ず迎えに行くから待つように言い聞かせて送り出したのですが……。
先方の家の方が4時45分くらいになって、「送っていく」と言って下さったそうです。娘は、「ママが向かえに来るから待っている」と言い出す事が出来ずに途中まで送ってもらって帰りました。
そして行き違いに……
住宅街ですから、入り組んだルートがたくさんあります。あたしな娘に会う事が出来ずに5時丁度、先方のお宅に着きました。
「M子ちゃんなら、途中まで送って帰りましたよ」
外は既に真っ暗、ひやりと冷たいものが背筋に走ります。下のチビを乗せた自転車を大急ぎでこぎました。
帰宅時を急ぐ人の群れが、これほど恨めしく思った事はありません。
それでも10分ほどでマンションに着きました。
娘はマンション入り口の階段に座って泣いていました。
「ママ、ママ、ごめんなさい」
反省している娘に、たたみ掛けるように諭しても仕方ないです。
「このバカ娘」
冷たいほっぺを挟んで、ぎゅっと抱きしめました。
マンションは駅が近く、通りからも駅からも、入り口が丸見えです。それに1階の角部屋。そんなところで泣きながら20分も座っていたのかと思うと、冷や汗が出ます。
寒くて、暗くて、心細かったよね。
「ママが帰ってこなかったら、どうしようかと思った」
おい、それなはいだろう?
何より無事で良かったです。
翌日に、みっちり言い聞かせましたけどね(笑)
◆事の顛末(その2)
開き直れました。
皆さん口をそろえて仰います。
「考えてみれば、SさんはNさんに騙されてただけで、悪い人じゃないのよ。かざとさんも、すぐには許せないだろうけど、気持ちを切り替えた方が良いわよ」
ええ、ええ、わかってますよ。
そんなこたぁ、百も承知です。
「今だから言うけど、実は私もNさんからかざとさんの事を悪く聞かされていてね…。でも私は信じてなかったわ」
はい、はい、もういいですってば。
「だけどNさんは、問題よねぇ……。早く引っ越せばいいのに」
いい加減にしてくれ……、黙れ
◆「むらくも」
某公募の一次予選が通りました。
ひとえに、感想を下さった方、励まして下さった方のおかげです。
本当にありがとうございました。
感謝の気持ちで一杯です。
二次選考は通らないと思うけど
書き続ける力が出てきます。
これからもどうぞ、よろしくお願い致します。
「二部」完結に向かってがんばります。
◆ああ、もう、全てを投げ出してしまいたいんだ
嫌な記憶は、鍵付きの箱に入れて心の奥底に積んでおく。だけど、どんどん増えて鉛のように重くなってくるのが解る。積み重なるうちに、胸まで上がってきそうになるんだよ。叫び出しそうになるんだよ。
気のおけない友人とだけ、笑いあっていたい。
煩わしさから切り離されていたい。
嫌な事や自分に都合の悪い事が、耳に入らなければいい。
何も見たくない。
何も聞きたくない。
何もしたくない。
声を掛けないで、偽りの善意を装わないで。
すり寄ってこないで。
頭が空っぽになっちゃったよ。
戸惑った気持ちのまま、今日はTDLに行ってきた。
空っぽの頭の中を、あざやかな色彩と明るい音楽が満たす。
空は秋晴れで気持ちが良かった。
泣きそうだった。
あたしが辛い時、ちょっとした嬉しい事を届けてくれる存在。
今日は出血大サービス、してくれたんだね。
ありがとう、大丈夫だよ。
嫌な記憶は、鍵付きの箱に入れて心の奥底に積んでおく。だけど、どんどん増えて鉛のように重くなってくるのが解る。積み重なるうちに、胸まで上がってきそうになるんだよ。叫び出しそうになるんだよ。
気のおけない友人とだけ、笑いあっていたい。
煩わしさから切り離されていたい。
嫌な事や自分に都合の悪い事が、耳に入らなければいい。
何も見たくない。
何も聞きたくない。
何もしたくない。
声を掛けないで、偽りの善意を装わないで。
すり寄ってこないで。
頭が空っぽになっちゃったよ。
戸惑った気持ちのまま、今日はTDLに行ってきた。
空っぽの頭の中を、あざやかな色彩と明るい音楽が満たす。
空は秋晴れで気持ちが良かった。
泣きそうだった。
あたしが辛い時、ちょっとした嬉しい事を届けてくれる存在。
今日は出血大サービス、してくれたんだね。
ありがとう、大丈夫だよ。
◆SさんがNさんを見切った
もう二度と、ご近所のトラブルに関して書くまいと思っていた。自分で自分を追いつめても仕方がないと思った。でも、整理を付けたくて書くことを、許して貰いたい。
今から一年半ほど前、引っ越し後まもなくだった。Nさんの息子T君(小学校3年生)と私の娘M子(小学1年生)が遊んでいる時に、娘がNさんの息子の肩をふざけて押した。T君はよろめいて尻餅をつき、M子に「お前力があるな」と笑った。それだけと、思っていた。
翌日になって、Nさんが「ちょっと、言いたい事があるんだけど」と言いにきた。Nさんが言うには、「合気道を習っているんだから、人に暴力をふるわないように教えるのは親の勤めでしょう」
娘は暴力など使っていない。遊んでいて、ちょっと押しただけだった。でも、そう見えたなら仕方ないと、その時は謝った。
その後、Nさんの息子と娘がちょっとしたことで喧嘩になった。テレビゲームのやり方云々だから、子供同士で解決すればいいと静観していた。しかしNさんは、娘に向かって「あなたは生意気だし口も悪い。高学年になったら必ずいじめられるから、今のうちに気をつけなさい。私はあなたの為に言ってるの、解ってる?」と言った。娘は黙って聞いていたけど、Nさんが帰ってから泣きながら私に聞いた。「M子は、いけない子なの?」私は娘を抱きしめて、「そんなこと無い、M子は良い子だよ、きっとNさんも解ってくれる」そう言うしかなかった。
悔しくて、娘を庇えなかった自分が情けなくて、その夜は布団で泣いた。
その後も、Nさんは謂われのない悪意を振りまいた。
Nさんの息子を先生がひいきしているのをねたんで、私が幼稚園で悪口を言いふらしているから、職員会議になった。
私は感情的で躁鬱の気があるから、声を掛けられても相手にしない方が良い。
そんなことを、言っていたようだ。
仕舞いには主人を呼びだし「奥さんに一言注意して欲しい」とまで言ってきたのだ。
謂われのない事だった。事実無根、覚えのないことばかりだ。
そしてNさんの言うことを信じたSさんが、私に言った。
「みんながあなたを無視してるのが解らない?挨拶しないで欲しいの、私たちも挨拶しようとは思わないから」
悔しかった。
情けなかった。
でもどうしようもなくて、私は逃げた。
事情を理解してくれていた、お母さんがいたから
バス停を移った。
もう、関わらなくて良い。
関係ないところで、平穏に日常を過ごしていた。
ところが……
先日、幼稚園ママ達の親睦会があった。
Nさんは参加しなかったけど、Sさんが参加していた。
ちょっと、どきどきしながらも、まあ直接話さなければ問題ないと気持ちを落ち着けようと思った。
ランチタイムに関わらず、Sさんはビールをジョッキで3杯も飲んでいて、大丈夫かな?くらいに見ていたのだけど……。
帰り道で、Sさんに呼び止められてしまった!
心臓はドキドキ、手が震えた。
今度は何を言われるんだろうと思った。
もう、顔もあわせることもないし、思い当たることなんか無いのに!!
Sさんは言った、最近Nさんの言動に不信感を覚えていると。
私の話をきちんと聞きたいと。
それを言う為に、お酒の力が必要だったと。
Nさんは、私の自転車が何時から何時まで無かったとか、今日の服装とか、誰がいつ遊びに来ていたとか、とにかく気にしているという。毎日のように聞かされて、なおかつ、私の交友関係まで探りその友人の悪口を聞くに至って、SさんもNさんの言動に嫌気がさしてきたというのだ。
そのうえ、「Nさんの子供が、うちの子に乱暴をする」という。
「だから、かざとさんちのT君みたいな優しい子と遊びなさいって言ってるのよ」
なぜ今更、そんなことを言うの?
あなた、あたしになんて言ったのよ?
それでも平静を装い、あたしはSさんの言うことに「もっともです」と頷く。
何て憐れ。
なんと馬鹿馬鹿しい。
バス停を変わったあの日、
悔しくて、唇をかみ切った。
眠れなくて、相手を呪った。
仇なす者全て、滅びよと願った。
対岸の揺らめく炎に誘惑を感じて、河を渡ろうと思った。
行動に移せば、一時的な満足を得られると思った。
相手を切り刻む夢を見た。
だけど理性が許さなかった。
引き留めてくれる友の手があると知っていた。
だから耐えた、
逃げたと言われてもかまわなかった。
今は、
Nさんが只憐れと思う。
あなたに救いはなく、
たどり着く先が、見えているから。
どうしよう
どうしたらいい?
Sさんが、いろいろと話を聞いて欲しいという。
いまさら?
いまさらね?
笑うしかないよ。
もう二度と、ご近所のトラブルに関して書くまいと思っていた。自分で自分を追いつめても仕方がないと思った。でも、整理を付けたくて書くことを、許して貰いたい。
今から一年半ほど前、引っ越し後まもなくだった。Nさんの息子T君(小学校3年生)と私の娘M子(小学1年生)が遊んでいる時に、娘がNさんの息子の肩をふざけて押した。T君はよろめいて尻餅をつき、M子に「お前力があるな」と笑った。それだけと、思っていた。
翌日になって、Nさんが「ちょっと、言いたい事があるんだけど」と言いにきた。Nさんが言うには、「合気道を習っているんだから、人に暴力をふるわないように教えるのは親の勤めでしょう」
娘は暴力など使っていない。遊んでいて、ちょっと押しただけだった。でも、そう見えたなら仕方ないと、その時は謝った。
その後、Nさんの息子と娘がちょっとしたことで喧嘩になった。テレビゲームのやり方云々だから、子供同士で解決すればいいと静観していた。しかしNさんは、娘に向かって「あなたは生意気だし口も悪い。高学年になったら必ずいじめられるから、今のうちに気をつけなさい。私はあなたの為に言ってるの、解ってる?」と言った。娘は黙って聞いていたけど、Nさんが帰ってから泣きながら私に聞いた。「M子は、いけない子なの?」私は娘を抱きしめて、「そんなこと無い、M子は良い子だよ、きっとNさんも解ってくれる」そう言うしかなかった。
悔しくて、娘を庇えなかった自分が情けなくて、その夜は布団で泣いた。
その後も、Nさんは謂われのない悪意を振りまいた。
Nさんの息子を先生がひいきしているのをねたんで、私が幼稚園で悪口を言いふらしているから、職員会議になった。
私は感情的で躁鬱の気があるから、声を掛けられても相手にしない方が良い。
そんなことを、言っていたようだ。
仕舞いには主人を呼びだし「奥さんに一言注意して欲しい」とまで言ってきたのだ。
謂われのない事だった。事実無根、覚えのないことばかりだ。
そしてNさんの言うことを信じたSさんが、私に言った。
「みんながあなたを無視してるのが解らない?挨拶しないで欲しいの、私たちも挨拶しようとは思わないから」
悔しかった。
情けなかった。
でもどうしようもなくて、私は逃げた。
事情を理解してくれていた、お母さんがいたから
バス停を移った。
もう、関わらなくて良い。
関係ないところで、平穏に日常を過ごしていた。
ところが……
先日、幼稚園ママ達の親睦会があった。
Nさんは参加しなかったけど、Sさんが参加していた。
ちょっと、どきどきしながらも、まあ直接話さなければ問題ないと気持ちを落ち着けようと思った。
ランチタイムに関わらず、Sさんはビールをジョッキで3杯も飲んでいて、大丈夫かな?くらいに見ていたのだけど……。
帰り道で、Sさんに呼び止められてしまった!
心臓はドキドキ、手が震えた。
今度は何を言われるんだろうと思った。
もう、顔もあわせることもないし、思い当たることなんか無いのに!!
Sさんは言った、最近Nさんの言動に不信感を覚えていると。
私の話をきちんと聞きたいと。
それを言う為に、お酒の力が必要だったと。
Nさんは、私の自転車が何時から何時まで無かったとか、今日の服装とか、誰がいつ遊びに来ていたとか、とにかく気にしているという。毎日のように聞かされて、なおかつ、私の交友関係まで探りその友人の悪口を聞くに至って、SさんもNさんの言動に嫌気がさしてきたというのだ。
そのうえ、「Nさんの子供が、うちの子に乱暴をする」という。
「だから、かざとさんちのT君みたいな優しい子と遊びなさいって言ってるのよ」
なぜ今更、そんなことを言うの?
あなた、あたしになんて言ったのよ?
それでも平静を装い、あたしはSさんの言うことに「もっともです」と頷く。
何て憐れ。
なんと馬鹿馬鹿しい。
バス停を変わったあの日、
悔しくて、唇をかみ切った。
眠れなくて、相手を呪った。
仇なす者全て、滅びよと願った。
対岸の揺らめく炎に誘惑を感じて、河を渡ろうと思った。
行動に移せば、一時的な満足を得られると思った。
相手を切り刻む夢を見た。
だけど理性が許さなかった。
引き留めてくれる友の手があると知っていた。
だから耐えた、
逃げたと言われてもかまわなかった。
今は、
Nさんが只憐れと思う。
あなたに救いはなく、
たどり着く先が、見えているから。
どうしよう
どうしたらいい?
Sさんが、いろいろと話を聞いて欲しいという。
いまさら?
いまさらね?
笑うしかないよ。
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◆今年の紅葉は見事でした。
天変地異や自然災害のある年は、例年に比べ山々がより紅く色付くと言います。夏の暑さ、季節の風向き、大地の温度、激しい寒暖差、様々な要因が影響するのでしょう。
しかし、人間はそれを感じることが出来ない。太古の人々なら感じ取ったかもしれないけれど、現代の人間は忘れてしまったのでしょう。
気付くことが出来ればと思うけど、叶わぬ望みでしかありません。
それでも生きようとする力に変わりはなく、家が崩れ、道路は寸断され、瓦礫に足を取られても、日常を回復しようと働く人々に逞しさを感じました。
◆十日町は
関越を降りて八箇峠を越え、十日町に入ったのは14時頃でした。関越道は塩沢あたりにブルーシートで覆われたところがありましたが、雪が降る前の融雪装置の点検か地震被害か判別は出来ません。
峠を下りて意外に思ったほど、表向きひどい損壊は目にしませんでしたが、家があったはずのところが更地になっていたり、空き地に積み上げた瓦礫にブルーシートが被せてあったり。古い紡績工場が傾いているのに気づいて、ようやく地震の大きさを実感しました。
実家の紅葉も、いつもより綺麗に染まっています。くすんだ紅ではなく、鮮やかな紅でした。池に落ちた葉が水底に降り積もり、その上を悠然と錦鯉が泳いでいます。
しかし目を上げれば、トタンが剥げた壁。よく見れば池の底にも亀裂が入っていました。
家の中は片づいていて、生活に支障はないようです。地震直後に駆けつけた主人が、だいぶ片づけてくれたとか。それでも壁は崩れ落ち、バラバラになった本棚を見れば怪我人が出なくて良かったとしみじみ思います。
子供達に、あまり走り回るなと注意。震動で壁が落ちてくるからです。依然と変わらないように見えても、クロス張りの壁はクロスが浮いて波打ち、柱と壁の隙間があき、台所の食器はほとんど割れて食器棚はガラガラ。
近所の家の人が、自力で修繕作業をしています。一部損壊程度では、災害給付金は出ません。暗くなるまで一日中、電動ノコギリや金槌の音が響いていました。
◆店舗営業
ブルーシートで覆われたところもたくさんありましたが、大方の店舗は何事もなかったかのように営業していました。もちろん、何事もないわけなどありません。
それでも普段通り店が営業すること。これが生活にどれだけ安心とやる気をもたらすか、お店を営業する人は知っているのでしょう。
普段より愛想良く、元気に、軽口をたたき、ちょっと地震で傷物になったからと商売品をおまけに付けてくれたりします。
◆あまり付き合いがないと思っていたけど
近所の人が協力して助け合っている話を聞くと、逆境に置かれた人間は助け合えるんだと、ちょっと感動しました。
◆まだまだ
陥没したアスファルトは大方埋めてありましたが、所々に赤いパイロンが立っています。のぞき込むと深い穴。スーパーの広い駐車場には、縦横無尽に亀裂が。市の産業会館駐車場には、仮設住宅を建設しています。
じきに十日町は雪に覆われます。全てのご家族が、暖かなお正月が迎えられるようにと、祈らずにはいられませんでした。
天変地異や自然災害のある年は、例年に比べ山々がより紅く色付くと言います。夏の暑さ、季節の風向き、大地の温度、激しい寒暖差、様々な要因が影響するのでしょう。
しかし、人間はそれを感じることが出来ない。太古の人々なら感じ取ったかもしれないけれど、現代の人間は忘れてしまったのでしょう。
気付くことが出来ればと思うけど、叶わぬ望みでしかありません。
それでも生きようとする力に変わりはなく、家が崩れ、道路は寸断され、瓦礫に足を取られても、日常を回復しようと働く人々に逞しさを感じました。
◆十日町は
関越を降りて八箇峠を越え、十日町に入ったのは14時頃でした。関越道は塩沢あたりにブルーシートで覆われたところがありましたが、雪が降る前の融雪装置の点検か地震被害か判別は出来ません。
峠を下りて意外に思ったほど、表向きひどい損壊は目にしませんでしたが、家があったはずのところが更地になっていたり、空き地に積み上げた瓦礫にブルーシートが被せてあったり。古い紡績工場が傾いているのに気づいて、ようやく地震の大きさを実感しました。
実家の紅葉も、いつもより綺麗に染まっています。くすんだ紅ではなく、鮮やかな紅でした。池に落ちた葉が水底に降り積もり、その上を悠然と錦鯉が泳いでいます。
しかし目を上げれば、トタンが剥げた壁。よく見れば池の底にも亀裂が入っていました。
家の中は片づいていて、生活に支障はないようです。地震直後に駆けつけた主人が、だいぶ片づけてくれたとか。それでも壁は崩れ落ち、バラバラになった本棚を見れば怪我人が出なくて良かったとしみじみ思います。
子供達に、あまり走り回るなと注意。震動で壁が落ちてくるからです。依然と変わらないように見えても、クロス張りの壁はクロスが浮いて波打ち、柱と壁の隙間があき、台所の食器はほとんど割れて食器棚はガラガラ。
近所の家の人が、自力で修繕作業をしています。一部損壊程度では、災害給付金は出ません。暗くなるまで一日中、電動ノコギリや金槌の音が響いていました。
◆店舗営業
ブルーシートで覆われたところもたくさんありましたが、大方の店舗は何事もなかったかのように営業していました。もちろん、何事もないわけなどありません。
それでも普段通り店が営業すること。これが生活にどれだけ安心とやる気をもたらすか、お店を営業する人は知っているのでしょう。
普段より愛想良く、元気に、軽口をたたき、ちょっと地震で傷物になったからと商売品をおまけに付けてくれたりします。
◆あまり付き合いがないと思っていたけど
近所の人が協力して助け合っている話を聞くと、逆境に置かれた人間は助け合えるんだと、ちょっと感動しました。
◆まだまだ
陥没したアスファルトは大方埋めてありましたが、所々に赤いパイロンが立っています。のぞき込むと深い穴。スーパーの広い駐車場には、縦横無尽に亀裂が。市の産業会館駐車場には、仮設住宅を建設しています。
じきに十日町は雪に覆われます。全てのご家族が、暖かなお正月が迎えられるようにと、祈らずにはいられませんでした。
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【私立叢雲学園怪奇譚・第二部〔本章〕60】
2004年11月10日 【小説】私立叢雲学園怪奇譚[第59回のあらすじ]
◇学生達から聞いた意想外の話を、日下部は一笑に付した。しかしどこか信じるに足る部分があることを自覚し狼狽える。その理由は、果たして優樹という少年のせいなのか?話だけでも聞こうと思い直したとき、現れたのは緒永冬也だった。
:::::::::::::::::::::::::::::
<本文>
日下部の動揺が手に取るように伝わり、秋本遼の胸には嘗ての怒りを忘れた同情心が湧き上がっていた。鳥羽山がどのような人間であれ、こんな形で命を奪われていいわけがない。その上、死因が化け物に喰われた為と言われれば、普通なら怒り疑いを持つのが当たり前だろう。しかしブナ林から遊歩道におりた緒永冬也は、訝る様子もなく鳥羽山を一瞥すると、両手で顔を覆い唸るように呟いた。
「やはり蜻蛉鬼が、化け物の正体なのか……!」
冬也の言葉に、遼は固唾をのむ。『蜻蛉鬼』を封じる結界を守った園部家の末裔となれば、伝承を信じる気持ちがあっても不思議はない。しかし冬也は、むしろその伝承を笑い詳しく知るつもりが無い素振りさえ見せていたはずだ。
「冬也さん、あなたはまさか……まさか最初から知っていたんじゃないでしょうね、この湖での怪異が『蜻蛉鬼』の仕業だと」
ゆっくりと顔から手を下ろした冬也は、遼に苦渋に満ちた顔を向け頷いた。
「最初から……いや、果たしていつからが始まりだったのか……蜻蛉鬼のことは確証がなかった。だが……湖に何かが棲んでいると気付いた時には、もう遅かったんだよ……私にはどうすればいいか解らなかった……」
「詳しく教えて下さい、僕らには……いえ、日下部さんにも聞く権利がある!」
遼が詰め寄ると、冬也は力なく膝を折り砂地にくずおれた。
「犠牲者は出ないと思ったんだ……君達、『叢雲学園』の生徒は私の友人だから安全だと思っていた。だが、鳥羽山さんは……」
「冬也さんの友人なら安全……?」
はっとして遼は、冬也に駆け寄り膝をついた。
「あなたには解っていた……怪異を呼び起こしたのが、誰なのかを」
無言で俯く冬也の肩が震え、全てを物語る。
「身体の弱かったあの子は、子供の頃よく友達から仲間はずれにされていた。この土地の子供達は野山で自然を相手に遊ぶことが多いから、あの子の為に行動範囲が狭まることを嫌ったんだ。しかし親たちに一緒に遊んであげるようにと言われて、かえって疎まれ恨まれるようになったんだよ。その子供達の中に、ひときわ活動的で皆を先導する男の子がいた。ある時その男の子は、身体の弱いあの子を遊びに誘い、山の奥深いところでわざと置き去りにした。他愛のない悪戯だった……男の子は他の子に頼んで、すぐに私に教えるように言ったそうだからね。だけど私が迎えに行った時、あの子は蒼白な顔で自分を失っていた……」
「美月さん……のことですね」
遼が美月の名を口にした途端、冬也はびくりと身を固くした。その背は今までになく弱々しく見えて、普段の覇気ある姿は微塵も感じることが出来ない。が、深く息を吐き立ち上がった冬也は、落ち着きを取り戻した顔で湖の向こう『秋月島』に目を向けた。
「美月の身体は死人のように冷たく硬かった……だが額は焼けるように熱く、目は赤く淀んだ色をしていたよ。救急車でふもとの病院に運んで医者に診せたところ、ショック症状だと言われて三日ほど入院したが……退院する日になって置き去りにした男の子が父親と謝りに来たんだ。私は怒りのあまり年下のその子に殴りかかった、慌てて親父が止めたけど、気持ちが収まらずに『美月は死ぬところだったんだぞ、お前が死んでしまえ』と暴言を吐いたんだ。それから一週間後、男の子は行方不明になり無惨な死体となって湖から引き上げられた」
鳥羽山の死体に目を向け、次に向き直った冬也の瞳は全ての感情を失ったかのように無機質な光を帯びていた。ある覚悟を決めた目だ、即座に理解した遼は息を呑んで次の言葉を待つ。
「その時……直感で男の子の死因に美月が関係している気がした。だが、まだ子供だった私は死を悼むどころか、当然の報いと思った。ところが犠牲者は、それだけでは済まなかった……」
緊迫した空気が場を満たす。半信半疑の面持ちで聞いていた日下部さえ、真一文字に結んだ唇が今や蒼白になっていた。
:::::::::::::::::::::::::::::
◆禁じ手!独白で謎解きです(笑)
独白の場合、ちゃんと伏線を張らないと「なんのこっちゃ?」になるから気を使います。合いの手を入れるタイミングも難しいですね〜。
◆冬也さんの役割は、一応最初から決まっています。この先、美月さんはどうするんでしょう?書いてる本人にも解りません(オイ!)
あとはラストに向かって勢いが盛り上がると良いのですが……
◆ご感想をお気軽にどうぞ!
〔叢雲掲示板〕
http://www.ad-office.ne.jp/cgi-bin/bbs/ad1.cgi?8429maki
◇学生達から聞いた意想外の話を、日下部は一笑に付した。しかしどこか信じるに足る部分があることを自覚し狼狽える。その理由は、果たして優樹という少年のせいなのか?話だけでも聞こうと思い直したとき、現れたのは緒永冬也だった。
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<本文>
日下部の動揺が手に取るように伝わり、秋本遼の胸には嘗ての怒りを忘れた同情心が湧き上がっていた。鳥羽山がどのような人間であれ、こんな形で命を奪われていいわけがない。その上、死因が化け物に喰われた為と言われれば、普通なら怒り疑いを持つのが当たり前だろう。しかしブナ林から遊歩道におりた緒永冬也は、訝る様子もなく鳥羽山を一瞥すると、両手で顔を覆い唸るように呟いた。
「やはり蜻蛉鬼が、化け物の正体なのか……!」
冬也の言葉に、遼は固唾をのむ。『蜻蛉鬼』を封じる結界を守った園部家の末裔となれば、伝承を信じる気持ちがあっても不思議はない。しかし冬也は、むしろその伝承を笑い詳しく知るつもりが無い素振りさえ見せていたはずだ。
「冬也さん、あなたはまさか……まさか最初から知っていたんじゃないでしょうね、この湖での怪異が『蜻蛉鬼』の仕業だと」
ゆっくりと顔から手を下ろした冬也は、遼に苦渋に満ちた顔を向け頷いた。
「最初から……いや、果たしていつからが始まりだったのか……蜻蛉鬼のことは確証がなかった。だが……湖に何かが棲んでいると気付いた時には、もう遅かったんだよ……私にはどうすればいいか解らなかった……」
「詳しく教えて下さい、僕らには……いえ、日下部さんにも聞く権利がある!」
遼が詰め寄ると、冬也は力なく膝を折り砂地にくずおれた。
「犠牲者は出ないと思ったんだ……君達、『叢雲学園』の生徒は私の友人だから安全だと思っていた。だが、鳥羽山さんは……」
「冬也さんの友人なら安全……?」
はっとして遼は、冬也に駆け寄り膝をついた。
「あなたには解っていた……怪異を呼び起こしたのが、誰なのかを」
無言で俯く冬也の肩が震え、全てを物語る。
「身体の弱かったあの子は、子供の頃よく友達から仲間はずれにされていた。この土地の子供達は野山で自然を相手に遊ぶことが多いから、あの子の為に行動範囲が狭まることを嫌ったんだ。しかし親たちに一緒に遊んであげるようにと言われて、かえって疎まれ恨まれるようになったんだよ。その子供達の中に、ひときわ活動的で皆を先導する男の子がいた。ある時その男の子は、身体の弱いあの子を遊びに誘い、山の奥深いところでわざと置き去りにした。他愛のない悪戯だった……男の子は他の子に頼んで、すぐに私に教えるように言ったそうだからね。だけど私が迎えに行った時、あの子は蒼白な顔で自分を失っていた……」
「美月さん……のことですね」
遼が美月の名を口にした途端、冬也はびくりと身を固くした。その背は今までになく弱々しく見えて、普段の覇気ある姿は微塵も感じることが出来ない。が、深く息を吐き立ち上がった冬也は、落ち着きを取り戻した顔で湖の向こう『秋月島』に目を向けた。
「美月の身体は死人のように冷たく硬かった……だが額は焼けるように熱く、目は赤く淀んだ色をしていたよ。救急車でふもとの病院に運んで医者に診せたところ、ショック症状だと言われて三日ほど入院したが……退院する日になって置き去りにした男の子が父親と謝りに来たんだ。私は怒りのあまり年下のその子に殴りかかった、慌てて親父が止めたけど、気持ちが収まらずに『美月は死ぬところだったんだぞ、お前が死んでしまえ』と暴言を吐いたんだ。それから一週間後、男の子は行方不明になり無惨な死体となって湖から引き上げられた」
鳥羽山の死体に目を向け、次に向き直った冬也の瞳は全ての感情を失ったかのように無機質な光を帯びていた。ある覚悟を決めた目だ、即座に理解した遼は息を呑んで次の言葉を待つ。
「その時……直感で男の子の死因に美月が関係している気がした。だが、まだ子供だった私は死を悼むどころか、当然の報いと思った。ところが犠牲者は、それだけでは済まなかった……」
緊迫した空気が場を満たす。半信半疑の面持ちで聞いていた日下部さえ、真一文字に結んだ唇が今や蒼白になっていた。
:::::::::::::::::::::::::::::
◆禁じ手!独白で謎解きです(笑)
独白の場合、ちゃんと伏線を張らないと「なんのこっちゃ?」になるから気を使います。合いの手を入れるタイミングも難しいですね〜。
◆冬也さんの役割は、一応最初から決まっています。この先、美月さんはどうするんでしょう?書いてる本人にも解りません(オイ!)
あとはラストに向かって勢いが盛り上がると良いのですが……
◆ご感想をお気軽にどうぞ!
〔叢雲掲示板〕
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穏やかな日常に感謝を
2004年11月6日 ◆普段の出来事◆新潟の地震は
落ち着いたかと思ったら、また大きな余震があったり。本当ならば今週家族で様子を見に行くはずでした。しかし心配した両親は来るなと言うし……。直に雪が降るから、その前に道路状況を把握しておきたいな。
◆幼稚園のお休みに
平日、幼稚園が代休でお休みだったのでお友達を呼びました。お母さんが4人、子供が4人。小学生が帰ってきてからは小学生が3人。それはもう賑やかでしたが楽しかったです。
お昼に簡単な手料理を作り、ワインをあけました。それでは足らないというお母さんがいたので(あたしじゃないですよ・笑)ビール2本もあけて、日本酒も5合ほど。まだ飲むというお母さんをみんなで止めました(笑)
昼からお酒というなかれ、こんな事は一年に一度くらいです。楽しく食べて飲むことは、人間の基本。生きるエネルギーです。お母さん達はそれを補う機会が少ない。
生きてるって楽しい。そう思うから他人や子供に優しくできるんだと思うよ。
◆スポーツクラブ
市民体育館のスポーツ施設に行ってきました。400円でマシントレーニングが出来ます。
自分は文化系ですが、身体を動かすのは好きです。暫く嵌りそう(笑)
◆最近になって
ようやく新しいバス停のお母さん達から、よそよそしさが無くなって嬉しいな。
ご近所さんとトラブった時に助け船を出してくれた人たちだけど、毎日顔を合わせるとなるとやはり最初は距離を測ります。
でも最近は、ちゃんと目を見て話してくれる。
そういえば、例のご近所さんは絶対に目を合わせない人だった。目を見て話すのが苦手な人もいるから気にしなかったけど……まあ、いいや(笑)
落ち着いたかと思ったら、また大きな余震があったり。本当ならば今週家族で様子を見に行くはずでした。しかし心配した両親は来るなと言うし……。直に雪が降るから、その前に道路状況を把握しておきたいな。
◆幼稚園のお休みに
平日、幼稚園が代休でお休みだったのでお友達を呼びました。お母さんが4人、子供が4人。小学生が帰ってきてからは小学生が3人。それはもう賑やかでしたが楽しかったです。
お昼に簡単な手料理を作り、ワインをあけました。それでは足らないというお母さんがいたので(あたしじゃないですよ・笑)ビール2本もあけて、日本酒も5合ほど。まだ飲むというお母さんをみんなで止めました(笑)
昼からお酒というなかれ、こんな事は一年に一度くらいです。楽しく食べて飲むことは、人間の基本。生きるエネルギーです。お母さん達はそれを補う機会が少ない。
生きてるって楽しい。そう思うから他人や子供に優しくできるんだと思うよ。
◆スポーツクラブ
市民体育館のスポーツ施設に行ってきました。400円でマシントレーニングが出来ます。
自分は文化系ですが、身体を動かすのは好きです。暫く嵌りそう(笑)
◆最近になって
ようやく新しいバス停のお母さん達から、よそよそしさが無くなって嬉しいな。
ご近所さんとトラブった時に助け船を出してくれた人たちだけど、毎日顔を合わせるとなるとやはり最初は距離を測ります。
でも最近は、ちゃんと目を見て話してくれる。
そういえば、例のご近所さんは絶対に目を合わせない人だった。目を見て話すのが苦手な人もいるから気にしなかったけど……まあ、いいや(笑)
【私立叢雲学園怪奇譚・第二部〔本章〕59】
2004年11月2日 【小説】私立叢雲学園怪奇譚[第58回のあらすじ]
◇鳥羽山の死体を前にして、日下部は喪失感を感じていた。しかし不自然と思われるその姿に疑問が湧く。いったい鳥羽山の死因は何だったのか?
:::::::::::::::::::::::::::::
<本文>
考え込んで辺りに気を配ることを忘れていると突然、背後から名前を呼ばれて日下部は心臓が止まりそうに驚いた。振り返ってみれば鳥羽山が学生と殴り合いをした時、仲裁に入った青年が神妙な顔で立っている。あの時は、才気走った目が気にくわない男だと思ったが、どうやら学生達の中ではリーダーを務めているらしい。
「まさか……こんな事になって、掛ける言葉もありません……」
「君は……須刈君だったかな? お気遣いは有り難いが、興味本位で子供の見る物じゃない。警察が来るまで、ここは私一人でいいから君たちはコテージにいたまえ」
苦々しい面持ちで、日下部は学生達を追い払おうとした。だが後ろから進み出た少年の睨み付けるような視線に、すんなり立ち去る気は無いらしいと溜息を吐く。
「優樹君……怪我の具合はどうだね? 見たところかなり回復しているようだが、俺としちゃあ詫びるつもりはない……。ところで念のため聞いておくが、昨夜は鳥羽山に会っていないだろうな」
後ろにいた優しい面立ちの少年が、むっとした顔で代わりに答えようとすると篠宮優樹が遮るように手を挙げた。
「いいよ、遼……鳥羽山さんとは、あの時以来会ってないけど……この人が死んだのは俺のせいだ。怪我なんか、どうってことない……」
日下部はしばらく言葉に詰まり、次に呆れた顔になると真剣な表情の優樹をまじまじと見つめた。
「君に殴られたくらいで鳥羽山が死ぬ事はないよ。見ての通り、こいつは……」
言い掛けて、どう説明するべきか迷う。大人びた外見をしていても相手は子供だ、子供相手に死体を見せない良識くらい、日下部も持ち合わせていた。だがなぜだろう、優樹という少年には抗いがたい威圧感があり、偽りや欺瞞を語ることが許されない気がするのだ。他の少年達に対しても侮りがたいものを感じたが、篠宮優樹の持つ雰囲気はそれとは明らかに違い、人格的に帰依せざるを得ない魅力がある。彼らが集っているのは、その力に無意識に惹かれているのかもしれなかった。一瞬、日下部自身も一員に加わりたい欲求を覚え、慌てて否定する。馬鹿馬鹿しい、子供相手に何を考えているのだろうか……。
「ああ、何でもない……とにかく後は、警察に任せたまえ。それより女の子達が不安に思っているだろうから、側にいてあげた方が良いだろう」
しかし日下部の言葉に引き下がろうとはせず、須刈アキラがなおも進み出る。
「彼女たちには佐野が付いています。日下部さん、我々は鳥羽山さんの死因を確かめなければならないんです。死体を……見せてもらえませんか」
「死因を確かめるだと? ……利いた風な事を言いやがる」
生意気な態度が腹に据えかね凄みを利かせると、相手は怯むどころか真っ直ぐその視線と対峙した。肝の据わったやつだと胸に呟き、日下部は苦笑する。
「とにかく……ガキの出る幕じゃねぇんだ、鳥羽山のことは警察が……」
「警察は何も出来ない」
「何も出来ないだと? ……それは、どういう意味だ」
訝りながら尋ねると、須刈アキラは顔を曇らせた。
「鳥羽山さんは……湖に棲んでいる化け物、『蜻蛉鬼』に喰われたのかもしれない」
「化け物に、喰われた?」
意想外の言葉に日下部は、高々と笑い声を上げていた。
「この湖に、化け物がいるのか! それは確かに警察の手に負えないだろうなぁ……では自衛隊でも呼んでくるか? それとも坊主か神主がいいかね? くだらん話だ、現実を漫画やゲームと一緒にしないでくれたまえ!」
怒りに駆られ、手が出そうになるのを堅く拳を握ることで堪えたが、律しきれない奮えが走る。荒唐無稽と頭で否定しつつ、その話に不思議と真実の匂いを感じる自分に戸惑っているのだ。彼らの話を証明するに足る、鳥羽山の死体を見て日下部の思考は錯綜する。
「……もしも君等の言うことが本当だとしたら、その化け物とはいったい何だ? 『人喰い湖』の噂は、その化け物の仕業と言うことか? 鳥羽山を殺した奴の正体を知っていると言うんだな」
取り敢えず話を聞いてみようと、日下部が須刈アキラの出方を伺い見た時。
「私にも聞かせて貰いたい、化け物の正体を。そして……君達が何をするつもりなのかを……」
厳しい表情の緒永冬也が、ブナ林から姿を現した。
:::::::::::::::::::::::::::::
◆冬也さん登場で新たな展開。ちゃんと冒頭で伏線張ってあるんですよ、うふふ。
◆新潟の震災を心配して下さった方々に心からお礼申し上げます、ありがとうございました。
少し気持ち的にも落ち着いたので、定期更新を心掛けたいと思っています。
VOL7纏められなくてごめんなさい、近いうちに必ず。
◆ご感想をお気軽にどうぞ!
〔叢雲掲示板〕
http://www.ad-office.ne.jp/cgi-bin/bbs/ad1.cgi?8429maki
◇鳥羽山の死体を前にして、日下部は喪失感を感じていた。しかし不自然と思われるその姿に疑問が湧く。いったい鳥羽山の死因は何だったのか?
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<本文>
考え込んで辺りに気を配ることを忘れていると突然、背後から名前を呼ばれて日下部は心臓が止まりそうに驚いた。振り返ってみれば鳥羽山が学生と殴り合いをした時、仲裁に入った青年が神妙な顔で立っている。あの時は、才気走った目が気にくわない男だと思ったが、どうやら学生達の中ではリーダーを務めているらしい。
「まさか……こんな事になって、掛ける言葉もありません……」
「君は……須刈君だったかな? お気遣いは有り難いが、興味本位で子供の見る物じゃない。警察が来るまで、ここは私一人でいいから君たちはコテージにいたまえ」
苦々しい面持ちで、日下部は学生達を追い払おうとした。だが後ろから進み出た少年の睨み付けるような視線に、すんなり立ち去る気は無いらしいと溜息を吐く。
「優樹君……怪我の具合はどうだね? 見たところかなり回復しているようだが、俺としちゃあ詫びるつもりはない……。ところで念のため聞いておくが、昨夜は鳥羽山に会っていないだろうな」
後ろにいた優しい面立ちの少年が、むっとした顔で代わりに答えようとすると篠宮優樹が遮るように手を挙げた。
「いいよ、遼……鳥羽山さんとは、あの時以来会ってないけど……この人が死んだのは俺のせいだ。怪我なんか、どうってことない……」
日下部はしばらく言葉に詰まり、次に呆れた顔になると真剣な表情の優樹をまじまじと見つめた。
「君に殴られたくらいで鳥羽山が死ぬ事はないよ。見ての通り、こいつは……」
言い掛けて、どう説明するべきか迷う。大人びた外見をしていても相手は子供だ、子供相手に死体を見せない良識くらい、日下部も持ち合わせていた。だがなぜだろう、優樹という少年には抗いがたい威圧感があり、偽りや欺瞞を語ることが許されない気がするのだ。他の少年達に対しても侮りがたいものを感じたが、篠宮優樹の持つ雰囲気はそれとは明らかに違い、人格的に帰依せざるを得ない魅力がある。彼らが集っているのは、その力に無意識に惹かれているのかもしれなかった。一瞬、日下部自身も一員に加わりたい欲求を覚え、慌てて否定する。馬鹿馬鹿しい、子供相手に何を考えているのだろうか……。
「ああ、何でもない……とにかく後は、警察に任せたまえ。それより女の子達が不安に思っているだろうから、側にいてあげた方が良いだろう」
しかし日下部の言葉に引き下がろうとはせず、須刈アキラがなおも進み出る。
「彼女たちには佐野が付いています。日下部さん、我々は鳥羽山さんの死因を確かめなければならないんです。死体を……見せてもらえませんか」
「死因を確かめるだと? ……利いた風な事を言いやがる」
生意気な態度が腹に据えかね凄みを利かせると、相手は怯むどころか真っ直ぐその視線と対峙した。肝の据わったやつだと胸に呟き、日下部は苦笑する。
「とにかく……ガキの出る幕じゃねぇんだ、鳥羽山のことは警察が……」
「警察は何も出来ない」
「何も出来ないだと? ……それは、どういう意味だ」
訝りながら尋ねると、須刈アキラは顔を曇らせた。
「鳥羽山さんは……湖に棲んでいる化け物、『蜻蛉鬼』に喰われたのかもしれない」
「化け物に、喰われた?」
意想外の言葉に日下部は、高々と笑い声を上げていた。
「この湖に、化け物がいるのか! それは確かに警察の手に負えないだろうなぁ……では自衛隊でも呼んでくるか? それとも坊主か神主がいいかね? くだらん話だ、現実を漫画やゲームと一緒にしないでくれたまえ!」
怒りに駆られ、手が出そうになるのを堅く拳を握ることで堪えたが、律しきれない奮えが走る。荒唐無稽と頭で否定しつつ、その話に不思議と真実の匂いを感じる自分に戸惑っているのだ。彼らの話を証明するに足る、鳥羽山の死体を見て日下部の思考は錯綜する。
「……もしも君等の言うことが本当だとしたら、その化け物とはいったい何だ? 『人喰い湖』の噂は、その化け物の仕業と言うことか? 鳥羽山を殺した奴の正体を知っていると言うんだな」
取り敢えず話を聞いてみようと、日下部が須刈アキラの出方を伺い見た時。
「私にも聞かせて貰いたい、化け物の正体を。そして……君達が何をするつもりなのかを……」
厳しい表情の緒永冬也が、ブナ林から姿を現した。
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◆冬也さん登場で新たな展開。ちゃんと冒頭で伏線張ってあるんですよ、うふふ。
◆新潟の震災を心配して下さった方々に心からお礼申し上げます、ありがとうございました。
少し気持ち的にも落ち着いたので、定期更新を心掛けたいと思っています。
VOL7纏められなくてごめんなさい、近いうちに必ず。
◆ご感想をお気軽にどうぞ!
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◆人間は強し
新潟の震災を心配して下さった方々に、心からお礼申し上げます。地域の人々も、日常生活を取り戻すために出来ることに勤めています。
看護婦の友人からは、「がんばってるよ、心配しないで」とメールが来ました。被害が大きかった小千谷に働きに行っていた従姉妹も一週間ぶりに帰ってきたし、両親も腹をくくって自宅で寝ています。
今週、様子を見に行くつもりでしたが、「来るな」と言われちゃいました。まだ子供達が寝泊まりできるほど片づいていないからだそうです。
私としては一時も早く現場に行きたい気持ちですが、両親は子供達のことを考えて来るなと言います。焦燥感ばかり募り、気もそぞろ。
しかし現場の人間の逞しさに負けてはいられないですね、自分がしっかり日常を保ってこそ、両親の安心につながるのですから。
助けを求められた時すぐに動けるよう、心構えだけはしっかりしておきましょう。
◆霊的見方?
やれやれ、今年は本当に色々ありました。それもこれも心の糧として我が身に取り込み、少しでも成長したと思いたい。物事を大局的にとらえ、動じずに思いやりある人間になれたらいい。
まだまだ小心者だけど(笑)
今日は霊感の強い友人が遊びに来て、明るい見通しを予言してくれた。ありがたく受け入れて、前向きに考えていこう。
◆小説に着手
まわりから「書け書け攻撃」。有り難いこと、この上ないが…「アキラ君」のお話と「神崎君」のお話をリクエストされている。それはまあ、いいんだけどね(笑)
千葉県警捜査一課を舞台にして刑事物を書いてみる。あまりハードでなくて、人間関係ものかな。サイトをリニュしたら、アップします。
「蒼の破線」
主人公は神崎刑事、濱田刑事、早川刑事、風間刑事、エトセトラ……。「はみだし」よりは、「踊る」みたいにしたいな。ところで、あたしの文章って、男っぽいのかな?
新潟の震災を心配して下さった方々に、心からお礼申し上げます。地域の人々も、日常生活を取り戻すために出来ることに勤めています。
看護婦の友人からは、「がんばってるよ、心配しないで」とメールが来ました。被害が大きかった小千谷に働きに行っていた従姉妹も一週間ぶりに帰ってきたし、両親も腹をくくって自宅で寝ています。
今週、様子を見に行くつもりでしたが、「来るな」と言われちゃいました。まだ子供達が寝泊まりできるほど片づいていないからだそうです。
私としては一時も早く現場に行きたい気持ちですが、両親は子供達のことを考えて来るなと言います。焦燥感ばかり募り、気もそぞろ。
しかし現場の人間の逞しさに負けてはいられないですね、自分がしっかり日常を保ってこそ、両親の安心につながるのですから。
助けを求められた時すぐに動けるよう、心構えだけはしっかりしておきましょう。
◆霊的見方?
やれやれ、今年は本当に色々ありました。それもこれも心の糧として我が身に取り込み、少しでも成長したと思いたい。物事を大局的にとらえ、動じずに思いやりある人間になれたらいい。
まだまだ小心者だけど(笑)
今日は霊感の強い友人が遊びに来て、明るい見通しを予言してくれた。ありがたく受け入れて、前向きに考えていこう。
◆小説に着手
まわりから「書け書け攻撃」。有り難いこと、この上ないが…「アキラ君」のお話と「神崎君」のお話をリクエストされている。それはまあ、いいんだけどね(笑)
千葉県警捜査一課を舞台にして刑事物を書いてみる。あまりハードでなくて、人間関係ものかな。サイトをリニュしたら、アップします。
「蒼の破線」
主人公は神崎刑事、濱田刑事、早川刑事、風間刑事、エトセトラ……。「はみだし」よりは、「踊る」みたいにしたいな。ところで、あたしの文章って、男っぽいのかな?
◆昨夜も今朝も、地震がありました。
小さなものでも、こう度々重なると恐い。新潟が大変なのは分かってるけど、早く旦那が帰ってこないかなと思う。
学校にやっても大丈夫なのかな。もし大きな地震が来たら、どうしよう。幼稚園と学校、どっちに先に行けば良いんだろう。
もしあたしが動けなかったら?
恐い。
小さなものでも、こう度々重なると恐い。新潟が大変なのは分かってるけど、早く旦那が帰ってこないかなと思う。
学校にやっても大丈夫なのかな。もし大きな地震が来たら、どうしよう。幼稚園と学校、どっちに先に行けば良いんだろう。
もしあたしが動けなかったら?
恐い。
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◆地震被害
私の実家が新潟県十日町市だとご存じの方にご報告申し上げます。
実家はかろうじて倒壊を免れましたが、ライフラインはストップし、崩れた家具などで居住場所確保は困難なようです。しかし家族に怪我はなく、今朝になり電話もつながりました。
今ほど主人が水を積んで応援の為出かけましたが、長野方面から山間部の117号線沿いにしか入ることが出来ないそうなので、到着は夜になるかもしれません。
◆寒波
木枯らし一号のニュースを聞きました。十日町周辺はそろそろ初雪の季節、なるべく早く寒さがしのげるようにライフラインが復旧すると良いのですが。年老いた両親が心配ですが、子連れで行っても足手まといになるだけなので自宅待機。主人にお願いするより仕方がありません。
◆心配して下さった方々
日記を読んでくれている友人達から、案じるメールをたくさん頂きました。心強く思います、ありがとうございました。
私の実家が新潟県十日町市だとご存じの方にご報告申し上げます。
実家はかろうじて倒壊を免れましたが、ライフラインはストップし、崩れた家具などで居住場所確保は困難なようです。しかし家族に怪我はなく、今朝になり電話もつながりました。
今ほど主人が水を積んで応援の為出かけましたが、長野方面から山間部の117号線沿いにしか入ることが出来ないそうなので、到着は夜になるかもしれません。
◆寒波
木枯らし一号のニュースを聞きました。十日町周辺はそろそろ初雪の季節、なるべく早く寒さがしのげるようにライフラインが復旧すると良いのですが。年老いた両親が心配ですが、子連れで行っても足手まといになるだけなので自宅待機。主人にお願いするより仕方がありません。
◆心配して下さった方々
日記を読んでくれている友人達から、案じるメールをたくさん頂きました。心強く思います、ありがとうございました。
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◆今回も台風は甚大なる被害を出しました。被害にあった方々に、心からお見舞い申し上げます。
我が家の5歳の息子でさえ、幼稚園から帰ってココアを飲みながら溜息混じりにつぶやきました。
「ママ、今回の台風31号は大変だってねぇ……。雨や風がすごくて、沢山の人が困ってるんでしょ」
「Tくん、よく知ってるね」
こんな小さい子でも、ニュースや大人の会話から台風の大きさと名前、被害にあって困っている人がいると分かるんだなぁ。ちょっと感心してみたり。そうか、31号という名前もちゃんと……?
新聞で確認してみた
「23号じゃん……」
◆ハウル
公開が近くなり、テレビで宣伝を見かける機会が増えた。あれは一種の暗示です、あれだけ宣伝されれば観なきゃいけないような強迫観念に襲われるでしょう。
娘が「ママ、ハウルの原作読んだでしょ?面白かった?面白かった?」としつこく聞きます。
「つまんなかった」と答えるのは大人げないので、「M子が読んでみて自分で判断するんだよ、人の意見は人の意見だからね」と言ってます(笑)
原作は「どうか?」と思いましたが、そのエピソードを上手にピックアップしてアニメにすれば面白いと思うし。
だけど娘は続けます。
「隠したって知ってるよ、あのおばあさん、ホントは女の子なんでしょう?だって宣伝で、主人公は90歳の少女って言ってたもん。おばあさんならおばあさんと言うでしょ?」
ええ?そうなのか?結構細かいところをチェックしてるもんですねぇ(笑)
我が家の5歳の息子でさえ、幼稚園から帰ってココアを飲みながら溜息混じりにつぶやきました。
「ママ、今回の台風31号は大変だってねぇ……。雨や風がすごくて、沢山の人が困ってるんでしょ」
「Tくん、よく知ってるね」
こんな小さい子でも、ニュースや大人の会話から台風の大きさと名前、被害にあって困っている人がいると分かるんだなぁ。ちょっと感心してみたり。そうか、31号という名前もちゃんと……?
新聞で確認してみた
「23号じゃん……」
◆ハウル
公開が近くなり、テレビで宣伝を見かける機会が増えた。あれは一種の暗示です、あれだけ宣伝されれば観なきゃいけないような強迫観念に襲われるでしょう。
娘が「ママ、ハウルの原作読んだでしょ?面白かった?面白かった?」としつこく聞きます。
「つまんなかった」と答えるのは大人げないので、「M子が読んでみて自分で判断するんだよ、人の意見は人の意見だからね」と言ってます(笑)
原作は「どうか?」と思いましたが、そのエピソードを上手にピックアップしてアニメにすれば面白いと思うし。
だけど娘は続けます。
「隠したって知ってるよ、あのおばあさん、ホントは女の子なんでしょう?だって宣伝で、主人公は90歳の少女って言ってたもん。おばあさんならおばあさんと言うでしょ?」
ええ?そうなのか?結構細かいところをチェックしてるもんですねぇ(笑)
【私立叢雲学園怪奇譚・第二部〔本章〕58】
2004年10月20日 【小説】私立叢雲学園怪奇譚[第57回のあらすじ]
◇明らかにされた優樹の出生、その哀しい事実に遼の胸は痛んだ。それでもなお、誰かのために出来ることをしたいという優樹が轟木に続いて部屋を出ようとしたとき、佐野が鳥羽山の死を告げに来た。
:::::::::::::::::::::::::::::
<本文>
かつて人の姿をしていたであろう無惨な残骸は、とても直視に耐えられる物ではなかった。日下部は再び込み上げてきた不快感を無理矢理抑え込み、上着を脱いで肉塊に被せる。辛うじて鳥羽山と判別できる物は派手な色のシャツと顔の一部、それに片方だけ残った腕に巻かれた安物の時計だけだった。下半身はなく、上体もあらかた白骨がむき出しになっている。時間が無くて食べ残した残飯、そんな哀れな形容が似合うような姿だった。
言づてを頼んだ女性は日下部が苦手とする才女タイプだが、岸に近付きつつある死体をどの程度判別したかと心配になる。駆けつけてきたオーナーの息子、緒永冬也の手を借り岸に引き上げたとき、二人とも嘔吐を堪えることが出来なかったからだ。
警察に連絡するため冬也が立ち去ると、胸に喪失感が去来した。日下部としては警察沙汰を避けたかったが、短い間とはいえ自分を慕ってくれた舎弟のために出来る限りのことはしてやらねばならない。それが役目だと心に言い聞かせた。
短絡的で激高しやすく小心者の鳥羽山が、このまま暴力団の使い走りをしていればいつかは命を落とすことになると容易に予想できた。成り行きと同情心から面倒を見ることになったが、ただ何かと便利に使っていただけで特に可愛がっていたわけではない。しかし「兄貴、兄貴」と慕われれば少なからず情も湧き、今になって思えばそんなに悪いやつではなかったなと、込み上げてきた熱い物を日下部はぐっと飲み込んだ。この時ほど、入所以来やめていたタバコが欲しいと思ったことはない。
昨日は日暮れ前から雲行きが悪く、雨が降り出す前に目的を果たしたかった日下部は、暗くなるのを待ってすぐに鳥羽山を待たせている桟橋に来た。だが、声を掛けても返事はなく、人の気配もない。用足しにでも行ったかと待つうち時は過ぎ、暗さの増した湖から生暖かな風に乗って饐えたような腐臭が漂ってきた。繁華街の路地裏で鼻につくような臭いが、いったいどこから漂ってくるのだろうか。日中に臨む湖は澄み渡り、臭いの出所など思い当たらない。不思議に思いながらも気分が悪くなりはじめ、同時に苛々は募り悪態を付いた。
だが、鳥羽山は命令を忠実に守る男だ、もしや何かあったかのだろうか……。不安に思う頃になって雨が降り出し、予想外に激しさを増すと身体は冷えて奥歯が鳴り出す。仕方なく日下部は、『美月荘』に戻り待機する事に決めたのだ。
それにしても、鳥羽山をこんな目に遭わせたのは一体何だ? 一瞬、得体の知れない殺意を内に秘めた例の学生を思い浮かべたが、どう考えても無理がある。これは人間の仕業でないと、日下部の脳裏を未知なる恐怖が覆った。この湖は山中の淡水湖だ、映画に出てくるような人喰鮫がいるはずもない。では、噂に聞いた化け物が実在するとでも言うのだろうか……。
陽光に煌めく湖面は、まるで現実を忘れそうになるほど美しかった。高原の鳥がさえずり、涼しい風が木々の葉を震わせる。人間を喰らうような化け物が棲んでいるとは、到底思えない景観だった。だが足下に目をやれば、容赦のない現実がそこにあるのだ。
奇妙なことに最初の衝撃は薄らぎ、日下部は冷静に鳥羽山の死体を観察していた。上着で覆い隠しきれなかった腕の部分は、湖の水で奇麗に洗われ生々しさもなく白い蝋細工のようにも見える。ふと、その手が握りしめた黒い物体に気がつき、硬直した指を無理に開いてみた。
「何だ……これは、虫か……?」
乾いた血のように赤黒く、幾つもの節をもった体長6センチほどの虫が体をくねらせ、鋭い顎で日下部の指に噛みついた。
「うっ、わっ!」
思い切り手を振り払うと、指から離れた虫はポチャンと湖に落ちる。噛まれた痕を見れば深くえぐられたように皮が無く、血が止めどなく流れ出していた。舌打ちして日下部は、ハンカチで指をきつく縛る。トンボの幼虫のようでもあったが、あれほど大きく凶暴な虫は見たことがない。
昨夜の雨で桟橋から足を滑らせ、湖で溺れたところを虫に喰われたのだろうか。しかし、足下から這い上がってきたような喰われ方はどうにも不自然だった。考え込んで辺りに気を配ることを忘れていると突然、背後から名前を呼ばれて日下部は心臓が止まりそうに驚いた。
:::::::::::::::::::::::::::::
◆寒い、寒いです!ファンヒーターつけたよ、さすがに。しかし、今年は台風が多いですね。「デイアフタートモロゥ」みたいになったら、嫌だなぁ。
◆また視点が変わって、日下部さんになってます。ああぁぁぁ、おじさんの視点で書くのが好きなんだよ〜。だって、主人公を大人の目で分析してくれるし、いざというときに子供をフォローしてくれるし。子供だけじゃ、お話に奥行きが無いと思うのは、あたしの好みの問題でしょうが。
◆VOL7を纏めたり、他の作業があったりで、次の更新は10/27の予定です。カウンタ見ると火曜日と金曜日が多いようなので、更新に会わせて見てくれてる人がいるのかな〜と、嬉しかったりするのですが、申し訳ありません。
◆「二部」終わったら、キャラ・ランキングしてみようかな?でも、誰も入れてくれないと哀しいからやめよう……。
◆ご感想をお気軽にどうぞ!
〔叢雲掲示板〕
http://www.ad-office.ne.jp/cgi-bin/bbs/ad1.cgi?8429maki
◇明らかにされた優樹の出生、その哀しい事実に遼の胸は痛んだ。それでもなお、誰かのために出来ることをしたいという優樹が轟木に続いて部屋を出ようとしたとき、佐野が鳥羽山の死を告げに来た。
:::::::::::::::::::::::::::::
<本文>
かつて人の姿をしていたであろう無惨な残骸は、とても直視に耐えられる物ではなかった。日下部は再び込み上げてきた不快感を無理矢理抑え込み、上着を脱いで肉塊に被せる。辛うじて鳥羽山と判別できる物は派手な色のシャツと顔の一部、それに片方だけ残った腕に巻かれた安物の時計だけだった。下半身はなく、上体もあらかた白骨がむき出しになっている。時間が無くて食べ残した残飯、そんな哀れな形容が似合うような姿だった。
言づてを頼んだ女性は日下部が苦手とする才女タイプだが、岸に近付きつつある死体をどの程度判別したかと心配になる。駆けつけてきたオーナーの息子、緒永冬也の手を借り岸に引き上げたとき、二人とも嘔吐を堪えることが出来なかったからだ。
警察に連絡するため冬也が立ち去ると、胸に喪失感が去来した。日下部としては警察沙汰を避けたかったが、短い間とはいえ自分を慕ってくれた舎弟のために出来る限りのことはしてやらねばならない。それが役目だと心に言い聞かせた。
短絡的で激高しやすく小心者の鳥羽山が、このまま暴力団の使い走りをしていればいつかは命を落とすことになると容易に予想できた。成り行きと同情心から面倒を見ることになったが、ただ何かと便利に使っていただけで特に可愛がっていたわけではない。しかし「兄貴、兄貴」と慕われれば少なからず情も湧き、今になって思えばそんなに悪いやつではなかったなと、込み上げてきた熱い物を日下部はぐっと飲み込んだ。この時ほど、入所以来やめていたタバコが欲しいと思ったことはない。
昨日は日暮れ前から雲行きが悪く、雨が降り出す前に目的を果たしたかった日下部は、暗くなるのを待ってすぐに鳥羽山を待たせている桟橋に来た。だが、声を掛けても返事はなく、人の気配もない。用足しにでも行ったかと待つうち時は過ぎ、暗さの増した湖から生暖かな風に乗って饐えたような腐臭が漂ってきた。繁華街の路地裏で鼻につくような臭いが、いったいどこから漂ってくるのだろうか。日中に臨む湖は澄み渡り、臭いの出所など思い当たらない。不思議に思いながらも気分が悪くなりはじめ、同時に苛々は募り悪態を付いた。
だが、鳥羽山は命令を忠実に守る男だ、もしや何かあったかのだろうか……。不安に思う頃になって雨が降り出し、予想外に激しさを増すと身体は冷えて奥歯が鳴り出す。仕方なく日下部は、『美月荘』に戻り待機する事に決めたのだ。
それにしても、鳥羽山をこんな目に遭わせたのは一体何だ? 一瞬、得体の知れない殺意を内に秘めた例の学生を思い浮かべたが、どう考えても無理がある。これは人間の仕業でないと、日下部の脳裏を未知なる恐怖が覆った。この湖は山中の淡水湖だ、映画に出てくるような人喰鮫がいるはずもない。では、噂に聞いた化け物が実在するとでも言うのだろうか……。
陽光に煌めく湖面は、まるで現実を忘れそうになるほど美しかった。高原の鳥がさえずり、涼しい風が木々の葉を震わせる。人間を喰らうような化け物が棲んでいるとは、到底思えない景観だった。だが足下に目をやれば、容赦のない現実がそこにあるのだ。
奇妙なことに最初の衝撃は薄らぎ、日下部は冷静に鳥羽山の死体を観察していた。上着で覆い隠しきれなかった腕の部分は、湖の水で奇麗に洗われ生々しさもなく白い蝋細工のようにも見える。ふと、その手が握りしめた黒い物体に気がつき、硬直した指を無理に開いてみた。
「何だ……これは、虫か……?」
乾いた血のように赤黒く、幾つもの節をもった体長6センチほどの虫が体をくねらせ、鋭い顎で日下部の指に噛みついた。
「うっ、わっ!」
思い切り手を振り払うと、指から離れた虫はポチャンと湖に落ちる。噛まれた痕を見れば深くえぐられたように皮が無く、血が止めどなく流れ出していた。舌打ちして日下部は、ハンカチで指をきつく縛る。トンボの幼虫のようでもあったが、あれほど大きく凶暴な虫は見たことがない。
昨夜の雨で桟橋から足を滑らせ、湖で溺れたところを虫に喰われたのだろうか。しかし、足下から這い上がってきたような喰われ方はどうにも不自然だった。考え込んで辺りに気を配ることを忘れていると突然、背後から名前を呼ばれて日下部は心臓が止まりそうに驚いた。
:::::::::::::::::::::::::::::
◆寒い、寒いです!ファンヒーターつけたよ、さすがに。しかし、今年は台風が多いですね。「デイアフタートモロゥ」みたいになったら、嫌だなぁ。
◆また視点が変わって、日下部さんになってます。ああぁぁぁ、おじさんの視点で書くのが好きなんだよ〜。だって、主人公を大人の目で分析してくれるし、いざというときに子供をフォローしてくれるし。子供だけじゃ、お話に奥行きが無いと思うのは、あたしの好みの問題でしょうが。
◆VOL7を纏めたり、他の作業があったりで、次の更新は10/27の予定です。カウンタ見ると火曜日と金曜日が多いようなので、更新に会わせて見てくれてる人がいるのかな〜と、嬉しかったりするのですが、申し訳ありません。
◆「二部」終わったら、キャラ・ランキングしてみようかな?でも、誰も入れてくれないと哀しいからやめよう……。
◆ご感想をお気軽にどうぞ!
〔叢雲掲示板〕
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◆最近、いろいろなサイトでオンライン小説を読む機会が増えた。
そして感じるのは「なんて上手な文章だろう!」です。自分の未熟さを痛感しますね、本当に。
あたしの小説は、面白いんだろうか?このまま書いてて良いのだろうか?自己満足と言えばそれまでだけど、やはり上手な人の面白い作品を読むと、落ち込んでしまう。
でも、やはり考えるより先に書く。だって書かないで一生終わったら、必ず後悔するから。
そして感じるのは「なんて上手な文章だろう!」です。自分の未熟さを痛感しますね、本当に。
あたしの小説は、面白いんだろうか?このまま書いてて良いのだろうか?自己満足と言えばそれまでだけど、やはり上手な人の面白い作品を読むと、落ち込んでしまう。
でも、やはり考えるより先に書く。だって書かないで一生終わったら、必ず後悔するから。
◆今、文化祭という物がないんですね
あたしが子供の時は、10月になると「文化祭」の名目で各教室に制作物や絵や習字を張り、地域の人も自由に出入りして子供たちの作品を閲覧した。それが文化祭だった。
知らない人にも自分も作品が見られてしまう緊張感や恥ずかしさ、嬉しさ。そんな気持ちがない交ぜになって楽しみだった。
でも今は、そんな文化祭ないのかな?
引っ越しでいろいろな地域の学校行事を目にしてきたけど、秋に行う行事は「学校祭」。
校庭にゲームコーナーやフリマ、模擬店を出して生徒はお小遣いでそれを楽しむ。用意をするのは「育成会」や「PTA」のお母さんたち。ただし、5・6年生は運営を手伝うことになってる(しかし強制ではない)
ゲームやくじ引きは大体20円。焼きそば、うどんは100円。ジュースにお握りが80円。他にも、ポップコーン、わたあめ、フランクフルト、ドーナツなど。
子供は500円玉を握りしめて、友達と嬉しそうに出かけていった。あたしは役員なのでお手伝いだ。「ガチャポン」のカラケースが山ほど入った宝箱(段ボール箱を飾った物)に、番号を書いた紙が幾つか入っている。それを引き当てた子供に番号の商品を渡すのだ。
混み合ってくると声を枯らして順番を守らせたり、気に入った景品番号が見つかるまで粘る子供を諭したり。小さな子にやり方を説明したり。結構忙しかったけど、とても楽しかった。
企画運営は大変だと思う、でもみんなが集まって一所懸命なのは好き。地域のお年寄りが畑で作った野菜を安く売り出しているのも素敵だ。
来年は企画の方にまわらなきゃイケナイ。気は重いけど、がんばらなくちゃね。
◆教育実習生、 某リンク先の方を思い出しながら(笑)
ポップコーンの模擬店を、教育実習の先生二人で運営していました。一人は女の子、「でかれん」のウメコに似た可愛い子です。もう一人は男の子、坂口憲二似でさわやか笑顔。結構楽しそうに見えたけど、大変なのかな?女の子はあまり笑ってなかったけど、男の子は終始笑顔でした。(格好いいからって、ずっと見てたわけじゃないですよ・笑)
◆明日からまた
お天気が悪くなるようです。さすがにファンヒーターを出しました。灯油も買ったし、準備万端。もう冬が目の前なんですねぇ。
あたしが子供の時は、10月になると「文化祭」の名目で各教室に制作物や絵や習字を張り、地域の人も自由に出入りして子供たちの作品を閲覧した。それが文化祭だった。
知らない人にも自分も作品が見られてしまう緊張感や恥ずかしさ、嬉しさ。そんな気持ちがない交ぜになって楽しみだった。
でも今は、そんな文化祭ないのかな?
引っ越しでいろいろな地域の学校行事を目にしてきたけど、秋に行う行事は「学校祭」。
校庭にゲームコーナーやフリマ、模擬店を出して生徒はお小遣いでそれを楽しむ。用意をするのは「育成会」や「PTA」のお母さんたち。ただし、5・6年生は運営を手伝うことになってる(しかし強制ではない)
ゲームやくじ引きは大体20円。焼きそば、うどんは100円。ジュースにお握りが80円。他にも、ポップコーン、わたあめ、フランクフルト、ドーナツなど。
子供は500円玉を握りしめて、友達と嬉しそうに出かけていった。あたしは役員なのでお手伝いだ。「ガチャポン」のカラケースが山ほど入った宝箱(段ボール箱を飾った物)に、番号を書いた紙が幾つか入っている。それを引き当てた子供に番号の商品を渡すのだ。
混み合ってくると声を枯らして順番を守らせたり、気に入った景品番号が見つかるまで粘る子供を諭したり。小さな子にやり方を説明したり。結構忙しかったけど、とても楽しかった。
企画運営は大変だと思う、でもみんなが集まって一所懸命なのは好き。地域のお年寄りが畑で作った野菜を安く売り出しているのも素敵だ。
来年は企画の方にまわらなきゃイケナイ。気は重いけど、がんばらなくちゃね。
◆教育実習生、 某リンク先の方を思い出しながら(笑)
ポップコーンの模擬店を、教育実習の先生二人で運営していました。一人は女の子、「でかれん」のウメコに似た可愛い子です。もう一人は男の子、坂口憲二似でさわやか笑顔。結構楽しそうに見えたけど、大変なのかな?女の子はあまり笑ってなかったけど、男の子は終始笑顔でした。(格好いいからって、ずっと見てたわけじゃないですよ・笑)
◆明日からまた
お天気が悪くなるようです。さすがにファンヒーターを出しました。灯油も買ったし、準備万端。もう冬が目の前なんですねぇ。
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【私立叢雲学園怪奇譚・第二部〔本章〕57】
2004年10月15日 【小説】私立叢雲学園怪奇譚[第56回のあらすじ]
◇轟木の呪縛から解放された遼は、その優樹の力に戸惑いを隠せなかった。いったい何が起きようとしているのか?「蜻蛉鬼」を封じるには美月を殺めろと言う轟木に反発し、優樹は意外な言葉を口にした。
:::::::::::::::::::::::::::::
<本文>
言葉の意味を計りかね、戸惑いの目を向けた遼の瞳を真っ直ぐに受け止めた優樹は、ゆっくり深呼吸をすると決意の顔つきに変わった。
「俺の母さんに……二人目の子供が出来たと知った横浜の本家は、すぐに始末しろと言ったそうだ。二人目を産んではいけない、それが男なら尚のことだと言われて親父と母さんは横浜の家を出た。母さんの弟の田村さんが色々助けてくれて俺が生まれたんだけど、三歳になった時とうとう本家に見つかっちまって……。結局、生まれたからには仕方ないが日本で生活されては困ると言って、本家の祖父さんは俺と母さんだけ海外に移住するように手配したんだ……」
表情も変えず淡々と話す優樹が、努めて感情を殺そうとしているのが遼には解る。優樹は自分の中にある怒りや憎しみと、今まさに対峙している。言葉にして話すことが、抑え込むことではなく自分自身と戦うことなのだ。
「移住の話を聞かされた翌日、『村雲神社』に母さんの身を隠して親父は本家を訪ねた。本家の意向は親父だけ日本に残れというものだったから、一緒に暮らせるように頼みに行ったんだ。姉さんは産まれてすぐに本家が連れて行ってしまったから、帰してもらって親子四人で暮らしたいって……。でも親父の留守に本家の使いがやってきて、母さんと俺を連れ出そうとした。本家の言うことを信じずに、俺が殺されると思い込んだ母さんは逃げようとして境内に追いつめられ、俺を抱いたまま……『村雲神社』から海に身を投げた」
心臓を鷲掴みにされ、遼は息苦しさに顔を歪める。膝が震え、立っているのがやっとだった。優樹が語りたがらなかった真実、それはあまりに重く、辛い記憶だったのだ。
「崖の上に張り出した境内から見下ろす海は怖かった、恐ろしかった……。岩に波飛沫が散って、雷みたいな音が下から響いていた。空には叢雲がかって太陽は見えなかったけど、恐ろしいくらい真っ赤に染まった空を覚えている。俺に向かって母さんが寂しそうに笑ったとき、オレンジ色に染まった顔はすごく奇麗で……その時俺は、もう怖くない、どうなってもいいと思って目をつむった。そしたらふわっと、身体が浮いた気がしたんだ。その後のことは覚えていない……だけど、すぐに助けられた俺は奇跡的に怪我一つ無かったそうだ」
そこまで話して、初めて優樹の顔が苦渋を湛えた。蒼白になった唇から、絞り出す声が震える。
「……なぜ俺は、あのとき死ななかった? 俺のために母さんは、今も意識のないままだ。俺がいなければ……俺さえ産まれてこなければ……だから俺は……誰かに必要とされていたかった……そうじゃなかったら俺が生きてる意味なんか、無いんだ……」
自らの生を否定されながらも、母親を犠牲にして生きている。優樹の辛く悲しい波動に包まれた遼の胸は軋み、堪えきれずに涙があふれた。
遼が受けた差別や偏見、虐めの辛さは優樹がいつも理解し受け止め助けてくれた。不仲の両親に寂しさを感じたときもあったが、父も母も身近に生きている。だが優樹は生きること自体に畏れを持ち、たった一人で不安や寂しさを押し隠してきたのだ。そして恐怖から感情が制御できなくなり、人を傷つけ見捨てられて孤独になることが怖かったのだ。
母親が身を投げるまでの経緯を、優樹はいつ、誰から聞いたのだろう? 幼少の頃から素直で真っ直ぐで正義感が強く、自分に厳しく他人に優しかった。時に理解できないほどの善人ぶりが、煩わしく感じる事さえあった。不自然なほどの誠実さが、その時の記憶上に成り立っているとしたら悲しすぎる。
遼と優樹を隔てていた高く冷たい壁の入り口を見つけ、扉は開かれた。だが果たして、その向こうにある虚空を満たすことが自分に出来るのだろうか。あまりに暗く深い闇の深淵に嵌り、抜け出せなくなりそうだった。とどまることなく流れ落ちる涙を拭うことも忘れ、呆然とする遼に優樹がタオルを手渡した。
「ばぁか……なんて顔してんだよ、俺の為に泣いてんのか? 相変わらず泣き虫だな……ガキの頃と変わらねぇや……」
「……そうさ、僕は君とは違うんだからね。だって君は……」
受け取ったタオルを顔に当てると、堰を切って嗚咽が漏れた。情けないと思いながらも止めることが出来ない。今まで優樹が遼に向かってしてくれたように大丈夫だと言ってあげたかった……不安を忘れさせるような明るい笑顔で言ってあげたかった。だが遼には泣くことしかできない。
「篠宮優樹の父親は禁忌を犯したのだ……よって自らの死をもち贖わねばならなかった。しかし、貴様の生は必然に適っている、その役割を果たすまではな」
諭すように重い口調で語った轟木を、アキラの視線が刺す。
「俺は普段、短気は起こさないんだけどねぇ……今日は機嫌が悪いんだ。頼むから、これ以上余計な事を言わないでもらえるかな」
肩を竦め、轟木はドアに向かった。
「ならば貴様がどれだけやれるか、しかと見せて貰おうぞ……篠宮優樹」
その背中を睨んで優樹が足を踏み出した時、バタバタと階段を駆け上る音がしたかと思うと勢いよくドアが開いた。
「大変だ、湖で鳥羽山さんの死体がみつかった!」
部屋に飛び込んできた佐野が叫び、三人は言葉を失った。
:::::::::::::::::::::::::::::
◆ようやくここまで来ました。よく言われる「モチベーションの維持」って、こういう事なんですかねぇ。こらえ性のない自分にはキツイ制約かも(笑)
◆週末「VOL7」として纏めます。続けて読んでみて下さい。
[HOME]
http://mypage.odn.ne.jp/home/kazatoyou
◆ここでお詫びです。
「一部」ではお母さんが入院したのは小学校に上がる少し前と書きましたが、幼稚園年長さんでは優樹君の場合、身長120センチ、体重25キロはあるでしょう。と、いうわけで、年少さんの時にしました。それだと無理がないかな?
ちなみに、あたしの息子は5歳ですが、身長115センチ体重20キロです。
◆少しだけ明らかになった優樹君の出生です。この先、物語とどのように関係してくるでしょう。
◆ご感想をお気軽にどうぞ!
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◇轟木の呪縛から解放された遼は、その優樹の力に戸惑いを隠せなかった。いったい何が起きようとしているのか?「蜻蛉鬼」を封じるには美月を殺めろと言う轟木に反発し、優樹は意外な言葉を口にした。
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<本文>
言葉の意味を計りかね、戸惑いの目を向けた遼の瞳を真っ直ぐに受け止めた優樹は、ゆっくり深呼吸をすると決意の顔つきに変わった。
「俺の母さんに……二人目の子供が出来たと知った横浜の本家は、すぐに始末しろと言ったそうだ。二人目を産んではいけない、それが男なら尚のことだと言われて親父と母さんは横浜の家を出た。母さんの弟の田村さんが色々助けてくれて俺が生まれたんだけど、三歳になった時とうとう本家に見つかっちまって……。結局、生まれたからには仕方ないが日本で生活されては困ると言って、本家の祖父さんは俺と母さんだけ海外に移住するように手配したんだ……」
表情も変えず淡々と話す優樹が、努めて感情を殺そうとしているのが遼には解る。優樹は自分の中にある怒りや憎しみと、今まさに対峙している。言葉にして話すことが、抑え込むことではなく自分自身と戦うことなのだ。
「移住の話を聞かされた翌日、『村雲神社』に母さんの身を隠して親父は本家を訪ねた。本家の意向は親父だけ日本に残れというものだったから、一緒に暮らせるように頼みに行ったんだ。姉さんは産まれてすぐに本家が連れて行ってしまったから、帰してもらって親子四人で暮らしたいって……。でも親父の留守に本家の使いがやってきて、母さんと俺を連れ出そうとした。本家の言うことを信じずに、俺が殺されると思い込んだ母さんは逃げようとして境内に追いつめられ、俺を抱いたまま……『村雲神社』から海に身を投げた」
心臓を鷲掴みにされ、遼は息苦しさに顔を歪める。膝が震え、立っているのがやっとだった。優樹が語りたがらなかった真実、それはあまりに重く、辛い記憶だったのだ。
「崖の上に張り出した境内から見下ろす海は怖かった、恐ろしかった……。岩に波飛沫が散って、雷みたいな音が下から響いていた。空には叢雲がかって太陽は見えなかったけど、恐ろしいくらい真っ赤に染まった空を覚えている。俺に向かって母さんが寂しそうに笑ったとき、オレンジ色に染まった顔はすごく奇麗で……その時俺は、もう怖くない、どうなってもいいと思って目をつむった。そしたらふわっと、身体が浮いた気がしたんだ。その後のことは覚えていない……だけど、すぐに助けられた俺は奇跡的に怪我一つ無かったそうだ」
そこまで話して、初めて優樹の顔が苦渋を湛えた。蒼白になった唇から、絞り出す声が震える。
「……なぜ俺は、あのとき死ななかった? 俺のために母さんは、今も意識のないままだ。俺がいなければ……俺さえ産まれてこなければ……だから俺は……誰かに必要とされていたかった……そうじゃなかったら俺が生きてる意味なんか、無いんだ……」
自らの生を否定されながらも、母親を犠牲にして生きている。優樹の辛く悲しい波動に包まれた遼の胸は軋み、堪えきれずに涙があふれた。
遼が受けた差別や偏見、虐めの辛さは優樹がいつも理解し受け止め助けてくれた。不仲の両親に寂しさを感じたときもあったが、父も母も身近に生きている。だが優樹は生きること自体に畏れを持ち、たった一人で不安や寂しさを押し隠してきたのだ。そして恐怖から感情が制御できなくなり、人を傷つけ見捨てられて孤独になることが怖かったのだ。
母親が身を投げるまでの経緯を、優樹はいつ、誰から聞いたのだろう? 幼少の頃から素直で真っ直ぐで正義感が強く、自分に厳しく他人に優しかった。時に理解できないほどの善人ぶりが、煩わしく感じる事さえあった。不自然なほどの誠実さが、その時の記憶上に成り立っているとしたら悲しすぎる。
遼と優樹を隔てていた高く冷たい壁の入り口を見つけ、扉は開かれた。だが果たして、その向こうにある虚空を満たすことが自分に出来るのだろうか。あまりに暗く深い闇の深淵に嵌り、抜け出せなくなりそうだった。とどまることなく流れ落ちる涙を拭うことも忘れ、呆然とする遼に優樹がタオルを手渡した。
「ばぁか……なんて顔してんだよ、俺の為に泣いてんのか? 相変わらず泣き虫だな……ガキの頃と変わらねぇや……」
「……そうさ、僕は君とは違うんだからね。だって君は……」
受け取ったタオルを顔に当てると、堰を切って嗚咽が漏れた。情けないと思いながらも止めることが出来ない。今まで優樹が遼に向かってしてくれたように大丈夫だと言ってあげたかった……不安を忘れさせるような明るい笑顔で言ってあげたかった。だが遼には泣くことしかできない。
「篠宮優樹の父親は禁忌を犯したのだ……よって自らの死をもち贖わねばならなかった。しかし、貴様の生は必然に適っている、その役割を果たすまではな」
諭すように重い口調で語った轟木を、アキラの視線が刺す。
「俺は普段、短気は起こさないんだけどねぇ……今日は機嫌が悪いんだ。頼むから、これ以上余計な事を言わないでもらえるかな」
肩を竦め、轟木はドアに向かった。
「ならば貴様がどれだけやれるか、しかと見せて貰おうぞ……篠宮優樹」
その背中を睨んで優樹が足を踏み出した時、バタバタと階段を駆け上る音がしたかと思うと勢いよくドアが開いた。
「大変だ、湖で鳥羽山さんの死体がみつかった!」
部屋に飛び込んできた佐野が叫び、三人は言葉を失った。
:::::::::::::::::::::::::::::
◆ようやくここまで来ました。よく言われる「モチベーションの維持」って、こういう事なんですかねぇ。こらえ性のない自分にはキツイ制約かも(笑)
◆週末「VOL7」として纏めます。続けて読んでみて下さい。
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「一部」ではお母さんが入院したのは小学校に上がる少し前と書きましたが、幼稚園年長さんでは優樹君の場合、身長120センチ、体重25キロはあるでしょう。と、いうわけで、年少さんの時にしました。それだと無理がないかな?
ちなみに、あたしの息子は5歳ですが、身長115センチ体重20キロです。
◆少しだけ明らかになった優樹君の出生です。この先、物語とどのように関係してくるでしょう。
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◆じんわり涙が出てきます、先生の紹介してくれた小説があたしの原点だった。
小説家で翻訳家の矢野徹先生が亡くなった。先生は、私が小学校高学年から、高校時代までむさぼるように読んだ小説の多くを翻訳し、紹介して下さった方。
大好きなハインライン、スタージョン、ハーバート。宇宙の果てに夢をはせ、冒険活劇にわくわくした。今のアニメ調スペースオペラの基盤は、すべて先生が紹介した良質な小説の上にあるのではないだろうか。
「宇宙の戦士」ではカルメン・シータに憧れ、「デューン・砂の惑星」ではサンドワームに恐怖した。今ある小説の何を読んでも亜流にしか思えないほど、当時は衝撃を受けた。時代の先駆者と言うにふさわしい人が、また消えてしまった。
新しいモノはドンドン生まれている。でも、その基盤に何があったか忘れてはいけないと思う。古典を侮る無かれ、古典的な文学には常に新しいモノが隠れている。書くことに行き詰まったら、古典を読み直せとも言う。亜流には発見がないからだ。
先生は亡くなったけれど、先生が育てた作家がまた、新しい作家を生んでいく。その意味では、永遠の人と言えるだろう。
SF大会で一度お見かけしたことがあるが、大物すぎて近くに寄ることが出来なかった。でも人柄がにじみ出るような、素敵な方だったと記憶している。
ご冥福をお祈りし、好きだった小説をもう一度開いてみたい。
小説家で翻訳家の矢野徹先生が亡くなった。先生は、私が小学校高学年から、高校時代までむさぼるように読んだ小説の多くを翻訳し、紹介して下さった方。
大好きなハインライン、スタージョン、ハーバート。宇宙の果てに夢をはせ、冒険活劇にわくわくした。今のアニメ調スペースオペラの基盤は、すべて先生が紹介した良質な小説の上にあるのではないだろうか。
「宇宙の戦士」ではカルメン・シータに憧れ、「デューン・砂の惑星」ではサンドワームに恐怖した。今ある小説の何を読んでも亜流にしか思えないほど、当時は衝撃を受けた。時代の先駆者と言うにふさわしい人が、また消えてしまった。
新しいモノはドンドン生まれている。でも、その基盤に何があったか忘れてはいけないと思う。古典を侮る無かれ、古典的な文学には常に新しいモノが隠れている。書くことに行き詰まったら、古典を読み直せとも言う。亜流には発見がないからだ。
先生は亡くなったけれど、先生が育てた作家がまた、新しい作家を生んでいく。その意味では、永遠の人と言えるだろう。
SF大会で一度お見かけしたことがあるが、大物すぎて近くに寄ることが出来なかった。でも人柄がにじみ出るような、素敵な方だったと記憶している。
ご冥福をお祈りし、好きだった小説をもう一度開いてみたい。
【私立叢雲学園怪奇譚・第二部〔本章〕56】
2004年10月13日 【小説】私立叢雲学園怪奇譚[第55回のあらすじ]
◇桟橋の向こうからやってきた日下部に挨拶をされて、杏子たちは不快感を露わにする。と、美加が湖に漂うものを見つけて声を上げたが、それは鳥羽山の無惨な死体だった……。
:::::::::::::::::::::::::::::
<本文>
吐き気と頭痛は徐々に収まり、やっとの思いで遼は立ち上がった。不機嫌そうな顔でベッドにもたれたアキラはまだ気分が悪いのか、こめかみを押さえている。
優樹が轟木をベッドに抑え込んだ途端、金縛りにあっていた身体が解放された。人知を越えた体験は紛れもなく轟木の仕業と確信出来たが、未だに神懸かりの話には不信感が拭えなかった。しかし暴力を使わずに、優樹はどうやって轟木を苦しめたのか。内なる力が目覚めた優樹は、無意識にそれを操れるようになりつつあるのだろうか。
「まったく……酷い目にあったなぁ。貴様自身に本体があれば、ぶん殴ってやりたいくらいだが……轟木に悪いから堪えておくか。で、なぜ篠宮が必要なんだ?」
半ば諦め顔で傍らに立ったアキラに肩を叩かれ、優樹は轟木を押さえていた手を離した。二人に見下ろされた轟木は身体を起こし、汗で貼りついたシャツのボタンを一つ外す。
「まさか、これほどの力があろうとは……。どうやら貴様らがこの地に来たのは、篠宮優樹の覚醒と自制に必要があったからだろう……。我もその一役に、関わらねばならなかったようだが」
「それはどういう意味です?」
まだ何かを知っていそうな轟木に、用心深く遼は尋ねた。
「ハッキリしたことは解らない……ただ、この件は来るべき大局に備えての前哨としか思えないのだ。偶然の要因はなく、全ては必然に成された出来事であり、全ての関わりが一端を担っている。我に出来ることは篠宮優樹と共に『蜻蛉鬼』を封じることだ、その事に何の意味があるかは明らかでない……」
眉根を寄せた轟木は、全てを知っているわけでは無さそうだった。
『全ては必然のもとに成され、偶然の要因はない……』
優樹の父親が亡くなる時に残した言葉が、新たな意味を持って目の前に突きつけられた気がした。『来るべき大局』とは……一体何のことだろう。
「今やらなくちゃならない事さえ解れば、俺のことなんかどうでもいいだろっ! もたもたしてる暇があるのかよ!」
苛ついた口調の優樹を、なだめるようにしてアキラが肩に手を回した。
「どうでもよくは無いけどねぇ……まあ、篠宮の言うことはもっともだな。ややこしいのは面倒だから、とりあえずアンタの事は轟木と呼んで良いか?」
轟木は意を得て頷いた。
「それじゃあ轟木、俺の質問に答えて貰えるかな?」
「よかろう……湖に再び結界を張るためには、『蜻蛉鬼』の邪気より強い篠宮優樹の『気』が必要だからだ。我の力が及ばぬが為に、緒永の末裔に頼んで結界を絶やさぬようにしてきたが……昨今になって、いらぬ者どもが仏像をあるべき場より持ち出してしまった。本来あの仏像は、美那姫が居られた洞窟の奥に祀られていたのだ。洞窟の祠に残る姫の遺髪と想いがあってこそ、仏像に込められた念が活かされる……。『蜻蛉鬼』の力がここまで増した今となっては、普通の人間が洞窟に足を踏み入れることは出来ない。我も仮の依代の身では、近付くことさえままならんのだ。島に渡ったとき、試みてはみたが……」
口惜しいと言わんばかりに、轟木は顔を歪める。
「では丘の上の仏像を洞窟に戻せば、『蜻蛉鬼』を封じることが出来るんですね?」
その姿を見ながらも、思いの外に容易そうだと遼は安堵の息を吐いた。もしや死闘を懸ける事になるかと思っていたからだ。しかし遼に向けられた轟木の表情は、一瞬に期待を打ち砕く険しいものだった。
「いや、それだけでは済まない。問題は『蜻蛉鬼』を現世に呼び起こした……美月だ、あの女が死なねば完全に封じることは無理であろう」
「死……? 美月さんを、殺せとでも言うつもりか?」
アキラの手を振り払い、優樹が轟木に詰め寄る。
「そうだ、篠宮優樹……。貴様ならば直接手を汚さずとも、あの女を死に至らしめることが出来る。既に貴様は、目覚めつつある力を制して見せたではないか」
「あれが俺の力? そんな馬鹿な……俺はただ、轟木先輩を還せと言っただけだ!」
「強く心に念じ、言霊とすることにより力は発露するのだ。死を念じ、唱えればそれでいい。直接手を汚すことにはならん」
「……そんなこと、出来るわけねぇだろっ!」
「やらねば多くの犠牲者が出るぞ」
「いい加減にしやがれっ!」
満身の怒りを込めて優樹が叫んだ。ピシリ、と音を立てて窓ガラスが砕け散る。
「俺は、誰も殺さない……誰も傷つけない! 化け物だけ、ぶっ潰す! 俺に力があるなら、出来るはずだっ!」
「貴様が死ぬぞ」
「今更……それが何だ? もともと俺は、生きているはずの無い人間だ……」
言葉の意味を計りかね、戸惑いの目を向けた遼の瞳を真っ直ぐに受け止めた優樹は、ゆっくり深呼吸をすると決意の顔つきに変わった。
:::::::::::::::::::::::::::::
◆次回、優樹君の出生が垣間見えます。ようやく「あ〜、そうだったんだ」と納得してもらえると嬉しいのですが……。
◆「ノベルウッド」さんで推薦文を頂きました。きっと毎回読んで下さっている方だと思います。暖かい御声援、本当に有り難うございました。心の糧にがんばります。
◆最近はあたししか書き込んでいませんが、ご感想をお気軽にどうぞ!
〔叢雲掲示板〕
http://www.ad-office.ne.jp/cgi-bin/bbs/ad1.cgi?8429maki
◇桟橋の向こうからやってきた日下部に挨拶をされて、杏子たちは不快感を露わにする。と、美加が湖に漂うものを見つけて声を上げたが、それは鳥羽山の無惨な死体だった……。
:::::::::::::::::::::::::::::
<本文>
吐き気と頭痛は徐々に収まり、やっとの思いで遼は立ち上がった。不機嫌そうな顔でベッドにもたれたアキラはまだ気分が悪いのか、こめかみを押さえている。
優樹が轟木をベッドに抑え込んだ途端、金縛りにあっていた身体が解放された。人知を越えた体験は紛れもなく轟木の仕業と確信出来たが、未だに神懸かりの話には不信感が拭えなかった。しかし暴力を使わずに、優樹はどうやって轟木を苦しめたのか。内なる力が目覚めた優樹は、無意識にそれを操れるようになりつつあるのだろうか。
「まったく……酷い目にあったなぁ。貴様自身に本体があれば、ぶん殴ってやりたいくらいだが……轟木に悪いから堪えておくか。で、なぜ篠宮が必要なんだ?」
半ば諦め顔で傍らに立ったアキラに肩を叩かれ、優樹は轟木を押さえていた手を離した。二人に見下ろされた轟木は身体を起こし、汗で貼りついたシャツのボタンを一つ外す。
「まさか、これほどの力があろうとは……。どうやら貴様らがこの地に来たのは、篠宮優樹の覚醒と自制に必要があったからだろう……。我もその一役に、関わらねばならなかったようだが」
「それはどういう意味です?」
まだ何かを知っていそうな轟木に、用心深く遼は尋ねた。
「ハッキリしたことは解らない……ただ、この件は来るべき大局に備えての前哨としか思えないのだ。偶然の要因はなく、全ては必然に成された出来事であり、全ての関わりが一端を担っている。我に出来ることは篠宮優樹と共に『蜻蛉鬼』を封じることだ、その事に何の意味があるかは明らかでない……」
眉根を寄せた轟木は、全てを知っているわけでは無さそうだった。
『全ては必然のもとに成され、偶然の要因はない……』
優樹の父親が亡くなる時に残した言葉が、新たな意味を持って目の前に突きつけられた気がした。『来るべき大局』とは……一体何のことだろう。
「今やらなくちゃならない事さえ解れば、俺のことなんかどうでもいいだろっ! もたもたしてる暇があるのかよ!」
苛ついた口調の優樹を、なだめるようにしてアキラが肩に手を回した。
「どうでもよくは無いけどねぇ……まあ、篠宮の言うことはもっともだな。ややこしいのは面倒だから、とりあえずアンタの事は轟木と呼んで良いか?」
轟木は意を得て頷いた。
「それじゃあ轟木、俺の質問に答えて貰えるかな?」
「よかろう……湖に再び結界を張るためには、『蜻蛉鬼』の邪気より強い篠宮優樹の『気』が必要だからだ。我の力が及ばぬが為に、緒永の末裔に頼んで結界を絶やさぬようにしてきたが……昨今になって、いらぬ者どもが仏像をあるべき場より持ち出してしまった。本来あの仏像は、美那姫が居られた洞窟の奥に祀られていたのだ。洞窟の祠に残る姫の遺髪と想いがあってこそ、仏像に込められた念が活かされる……。『蜻蛉鬼』の力がここまで増した今となっては、普通の人間が洞窟に足を踏み入れることは出来ない。我も仮の依代の身では、近付くことさえままならんのだ。島に渡ったとき、試みてはみたが……」
口惜しいと言わんばかりに、轟木は顔を歪める。
「では丘の上の仏像を洞窟に戻せば、『蜻蛉鬼』を封じることが出来るんですね?」
その姿を見ながらも、思いの外に容易そうだと遼は安堵の息を吐いた。もしや死闘を懸ける事になるかと思っていたからだ。しかし遼に向けられた轟木の表情は、一瞬に期待を打ち砕く険しいものだった。
「いや、それだけでは済まない。問題は『蜻蛉鬼』を現世に呼び起こした……美月だ、あの女が死なねば完全に封じることは無理であろう」
「死……? 美月さんを、殺せとでも言うつもりか?」
アキラの手を振り払い、優樹が轟木に詰め寄る。
「そうだ、篠宮優樹……。貴様ならば直接手を汚さずとも、あの女を死に至らしめることが出来る。既に貴様は、目覚めつつある力を制して見せたではないか」
「あれが俺の力? そんな馬鹿な……俺はただ、轟木先輩を還せと言っただけだ!」
「強く心に念じ、言霊とすることにより力は発露するのだ。死を念じ、唱えればそれでいい。直接手を汚すことにはならん」
「……そんなこと、出来るわけねぇだろっ!」
「やらねば多くの犠牲者が出るぞ」
「いい加減にしやがれっ!」
満身の怒りを込めて優樹が叫んだ。ピシリ、と音を立てて窓ガラスが砕け散る。
「俺は、誰も殺さない……誰も傷つけない! 化け物だけ、ぶっ潰す! 俺に力があるなら、出来るはずだっ!」
「貴様が死ぬぞ」
「今更……それが何だ? もともと俺は、生きているはずの無い人間だ……」
言葉の意味を計りかね、戸惑いの目を向けた遼の瞳を真っ直ぐに受け止めた優樹は、ゆっくり深呼吸をすると決意の顔つきに変わった。
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◆次回、優樹君の出生が垣間見えます。ようやく「あ〜、そうだったんだ」と納得してもらえると嬉しいのですが……。
◆「ノベルウッド」さんで推薦文を頂きました。きっと毎回読んで下さっている方だと思います。暖かい御声援、本当に有り難うございました。心の糧にがんばります。
◆最近はあたししか書き込んでいませんが、ご感想をお気軽にどうぞ!
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