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<本文>

 昨夜のまとわりつく様な、重く、濃い霧とうってかわり、ブナ林から白樺並木と続く湖沿いの道に立ちこめた朝靄は清々しかった。海の近くで生まれ育った優樹にとって高原の空気は、より強い自然の息づかいを感じさせてくれる。
 ベッドに入らずリビングで雑魚寝している先輩達を起こさないようにコテージを出たのは夜が明けてすぐの時間だったが、ロードワークで湖を一周する頃にはすっかり顔を出した朝日が湖面をきらきらと輝かせる時間になり、身体は気持ちよく汗ばんでいた。木立に掛かった薄いベールも既に消えている。
 山荘の赤い屋根が林の間に見えてきた頃、湖畔に立つ人影を見つけて優樹は足を止めた。走る姿に気付いていたのだろう、その人物が片手を上げる。
「おはよう、優樹君。」
「……おはようございます、轟木先輩。」
 水際の砂地に立っていた轟木彪留(とどろき たける)は、クマザサをかき分けて優樹のいる場所まであがってきた。
「湖の全周は6キロから7キロあると聞いたけど、一周したのか?」
「ええ、まだみんな寝てるから、もう一周しようかと思ってたとこです。」
「相変わらずタフだな。」
 そう言うと彪留は、眼鏡の奥にある知的な目を細めて静かな笑みを浮かべた。
 優樹はもの静かな学識者であるこの先輩が、少し苦手だった。彪留は理学部部長を務めながらも各分野の見識が広く、大学も一流と言われるところにストレートで合格している。しかし奢ったところはかけらもなく、むしろ控えめであった。高校時代、理学部がコンピューター好きの部員に占領され居心地が悪いと言ってアキラのもとに良く顔を出していたが、大抵は隅で本を読んでいて優樹は存在に気付かなかった事さえある。
 ところが、どうやら遼とは気が合うらしく時々なにやら白熱した論議を闘わせていることがあった。何を論じているかさえ優樹にはさっぱり解らなかったのだが、常に遼の方が論破されて落ち込んでいたようだ。
「先輩だけ随分と早起きですね、アキラ先輩も佐野先輩も当分起きそうじゃなかった。」
 彪留は大きく伸びをすると、深呼吸するように両手を広げた。
「高原の朝を満喫しないのはもったいない。と、言っても実は昨夜早々に自分は面子から外されてしまったんだ。それで仕方なく先に寝たんだけど、代わりに緒永さんのお父さんが呼ばれたようだったな。やれやれ、せっかく奴等をカモにしようと思っていたのに、もっと手加減するんだった。」
 真面目な顔で言われて、優樹は困惑の表情を浮かべる。すると彪留が面白そうに笑った。
「ここは一言突っ込みを入れてもらいたかったんだが……君らしい反応だ。そう言えばあまり話したことがなかったから困るのも道理か。」
「えっ、あ、すいません。」
「謝ることはないよ。」
 静かで低い、落ち着きのある声。威圧的ではないが、何故か抗い難い魅力のある声だ。
「あの、俺はまだロードワークの途中だから……。」
 居心地の悪さを感じて、優樹は踵を返す。
「ああ、引き止めて悪かったね。ところで湖の周りを一周した君に聞きたいことがあるんだけど、あの中島に渡れるようなボート乗り場を見なかったかい?」
「ボート乗り場ですか? ……そう言えばこの少し先に桟橋があってボートが繋がれてましたよ。小型のモーターボートでした。」
「そうか、ありがとう。中島に渡れるか緒永さんに聞いてみるよ。」
「中島に渡りたいんですか?」
 優樹は再び向き直り、何となく聞いてみた。
「あの中島の祠には、面白い経緯があるらしいんだ。実は考古学者になるのが俺の夢でね、伝説や伝奇に謂われのある史跡が好きなんだよ。」
「えっと、それはその……。」
 彪留は大学で、経済学部に在籍しているはずである。どう答えたらいいのか解らず複雑な顔をすると、
「これは本当の話、突っ込んでくれなくても結構。」
 彪留がにっこりと微笑んだ。優樹は照れたように笑い返し、ロードワークに戻った。

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◆最近ネットで遊んでばかりいて、作品が進まない。反省。
出来れば一日おきのペースで載せたいところです。どんどん構想がまとまってきたから、がんばらなきゃ。

◆読者様も増えてくださり嬉しい限り。ちゃんと感想を戴くためには完結が一番。二部完結、5月くらいが目安です。平行して三部の構想も考え中。フルキャラクターで、賑やかにやりたいところですが、うーん、まとまり付かないかな?

◆バレンタイン番外、本家ページに13日夜にアップ予定です。かなり短い掛け合いコント仕立て。誰が出るかはお楽しみ。裏番外ではないので期待はしないでね(笑

◆アキラの裏番外書いてる場合じゃないや。本編ざくざく書いて、ドムドムとアップします。(出典解る?・笑)

◆第一部・全文アップ!番外編も掲載してありなす。(なお裏番外は腐女子的内容のためパスワード制です、ごめんなさい。興味があるかたはメールで問い合わせてください。ホームページ・掲示板からメールで問い合わせできます)

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やた!
お気に入りの「サーチマン」再登場。ロックマンとの関わりを期待していたのに、オペレーター同士の対立の話で少しがっかり。(まあ、ライカ君可愛いから良いけど、どこかで見たタイプだなぁ?それもライカ?カメラじゃあるまいし?)
でも来週はサーチマンと合体するぞ!!わくわく(この言い方には抵抗あるんですが・爆)

「リベリオン」を見ました。知人の推薦だったので、是非見たかった。ストーリーは、まあ、おいときます。
ただ、主人公はめちゃくちゃ格好良かった。この監督好みの美形が「かざと」のツボにはまります。(ストーリー構成としては苦言を呈したところですが)
アクション、綺麗でした。ワイヤーアクションが主流になってきましたが、監督によって見せ方違うものですね。はっきりいって、「リベリオン」の前に見た「デアデビル」はいただけなかった。こっちが先でよかったな、「リベリオン」の後なら途中で止めてたよ。コリン・ファレルは美味しいキャラだった。それだけかな?続編考慮に入れてるような作りも今ひとつ。
でも続編、無さそうだなぁ…。

明日は「ブレード」ですが、なんだか美形キャラ萌ちゃんが増えてちょっと引いてます。「クレヨンしんちゃん」でも取り上げられてるし。
「かざと」はオタクなので、変身後のキャラや、ロボットに色香を感じます。(ええ、変人ですよ。なんとでも・笑)
「ブレード」はどうもキャラがかぶってて、判断しにくいな。これからハッキリするかも知れないけど、初回は詰め込みすぎの気が。カリスなんか、もっと後で出せばいいのに。

以外に見てみようと思ったのが「ふたりはプリキュア」見事に女の子世界を描いてくれそうで、楽しみです。
女の子の気持ちが分からない男の子は、「ぴっち」や「プリキュア」は参考になりますよー!(大笑い)
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<本文>

『美月荘』には、本棟である山荘にツインの洋室が三室、他にログハウス風のコテージが二棟ある。3LDKの大きい方を遼たち男子が使い、もう一方の2DKの方を明日電車で来ることになっている女子、田村杏子と村上琴美、牧原美加、琴美の姉の黎子が借りることになっていた。
 田村杏子は『ゆりあらす』オーナー、田村夫妻の一人娘で同じ叢雲学園の二年生である。田村が優樹の母親の実兄に当たるため優樹にとっては従妹になるが、一緒に行きたいと言い出された時にはかなり不満顔だった。しかしアキラを始め、他の男子が歓迎するのをみて渋々承知せざるを得なかったようだ。女子であることを田村はかなり心配したが、小枝子は時期的に『ゆりあらす』が忙しく付き添う事が出来ない。結局、琴美の社会人である姉が代わりを努めることになり、杏子の願いは聞き届けられたのだった。
 ドライブ中は意識していなくても車中で一睡もしていない遼はやはり疲れが出たようで、食事の後コテージに案内された途端リビングのソファーですっかり寝入ってしまった。
 肩を揺する手に、うっすらと目を開けると優樹が顔を覗き込んでいる。
「風邪引くぞ、寝るなら部屋で寝ろよ。」
「んっ? ああ、寝ちゃったんだ。」
「そりゃあ、もう、風呂いくぞって声かけても返事もなかったぜ。目が覚めたんなら本棟の風呂に行ってみたらどうだ? 遥斗と宙と一緒に行ってきたんだけど、露天風呂があって気持ちよかった。俺達と入れ替わりに今先輩達が行ったところだけど、結構飲んでたから心配だな。」
 優樹が持っているのは、近くの牧場から届けてもらっているという牛乳だ。一リットル入りのガラス瓶だが、もう一口しか残っていなかった。あれだけ食べて、まだこれだけ飲める事が遼には信じられない。
「この牛乳、美味いぜ。美月さんがくれたんだ。館山の牧場で飲んだのと似たかんじかな?」
「……熊。」
「なんか言ったか?」
「何でもない。ところでその美月さんという人、綺麗な人だよね。」
 突然、優樹が牛乳にむせて咳き込んだ。
「何やってんのさ。……ははん、さてはタイプなんだろ。」
「んなわけねぇだろっ! あの人二十五歳だって言うし、相手になんかされねぇよ。」
 わかりやすい性格に、遼は笑った。それにしてもいつの間に年齢まで聞きだしたのか? 優樹のことだ、牛乳をもらったときに単刀直入に聞いたに違いない。
「俺はもう寝るぞ、朝ロードワーク行くのに早く起きるつもりなんだ。湖の周りを一周する道が、走るのに丁度良いって聞いたからさ。おまえはどうすんだ?」
「僕は……少し勉強してからここのシャワーを浴びて寝るよ。ところで真崎と忠見は?」
「あいつらなら風呂の後、轟木先輩と天体観測ドームに行ったよ。備え付けの反射望遠鏡は緒永さんの手作りなんだって。それから本棟のプレイルームでテレビゲームするとか言ってたな。」
 遼にとっては、今年高校に入学したばかりであり、TVゲームに余念のない彼等はまだ幼く見えた。屈託なく、子犬のようにまとわりつく忠見遥斗。少し斜に構えて無口な真崎宙。この二人が何故一緒にいるのかわからない。轟木についてきて、いつの間にか写真部に出入りするようになった二人の勉強を見てやることもあったが、どうやらこのかわいい後輩達は、特に優樹が気に入っているらしかった。好かれて悪い気がしないのだろう、優樹も良く面倒を見てやっているようだ。
「ここの部屋割は一階の広いところが先輩達で、二階の右側が遥斗と宙。左が俺とおまえ。荷物は運んどいたから。」
「ありがとう、君が寝られないと悪いからリビングで勉強するよ。」
 おそらくそれはないだろうと思ったが、一人の方が集中できる。
「あ、言い忘れてた。後で緒永さんが来て、先輩達に麻雀教えてくれるんだってさ。」
 二階への階段を上りかけて振り返った優樹の言葉に、遼は考えを変え部屋で勉強することにした。

 コテージ内装と調和した木製のドアを開けると、居心地の良さそうな部屋の壁に掛けられたトールペイントが何点か目に入った。どれも高原が花をモチーフだ。窓際のカントリー調チェストを挟んでベッドが二つ並び、入り口横には小さなライティングデスクが備え付けてあった。デスクライトを使えば優樹に迷惑をかけず勉強が出来るだろう。
 遼は自分の荷物が置かれた方のベッドに着替えを出し、服を脱ごうとして窓が開いていることに気付いた。おそらく暑がりの優樹が開けたに違いないが、本人は既にランニングにトレパン姿のままベッドに大の字になっている。
「風邪引きそうなのは、君の方だ。」
 呆れたように呟いて、遼は窓を閉めカーテンを引いた。が、ふと窓の外、本棟の二階に目を移す。一階は窓から明るい光が外まで漏れて人の動く影を見ることが出来たが、二階は真っ暗だ。ここに着いたときに美月が見ていた窓も、本棟の宿泊客のない今日は当然人の気配はない。しかし遼には、何かが引っかかっていた。
 食堂で見た美月は、二階の窓から見ていた女性と確かに同じ人物だった。肩までの明るく染めた髪、白いブラウス。優しそうな顔立ち。
(何だろう? 何か印象が違って見えたんだけど……。)
 あるいは夕闇が迫る時間帯と、ライトアップされた建物のせいかもしれなかった。深く考える必要も無いのだろうが、どこか陰りがなかったか……。
「ねえ、優樹。君が……。」
 優樹の感じた印象を聞いてみようとして、遼は声をかけた。が、諦めて肩をすくめる。優樹はとうに、夢の中だった。

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◆1〜7回をまとめてホームにアップする予定が、htmlでやろうとして挫折。まあいいやと、今回までをまとめてアップします。一部改稿あり。

◆「かざと」のネタ振りは、料理中や買い物に行くときに浮かびます。タマネギみじん切り、にんじん千切りしながら考えてるわけですね。単純作業中は頭が働きやすいようです。
高校生の時は、グランドの草取り時間が一番妄想できました(笑
そうだ、今日はハンバーグにしよう。

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昨日の娘の宿題です、百マス計算4題。
400問ですよ!あなた!!

最近ADSLにしたもので、すっかりPCから離れない自分が悪いのですが、「答え合わせしてー」と言う娘に生返事。
「あいよー、ちょっとまってね。」

さて、夕飯の準備をして娘達とドラゴンボールをみながら食事を済ませ、マル付けしようと思ったら。
「げげっ、400問。」

もう寝る時間まで30分もない。動揺・汗。
単純計算でも400問はきついよー、先生。何で答え合わせは親なのだ?答えを配ってくれ。

タイミング良く旦那が帰宅。ちと酔っぱらい。
「引き算200問、お願い」
押しつけた。

うとうとしながら、やってくれたけど、大丈夫だよね?(笑
一問だけ違ってたのは、今朝直させました。

今日は早く、見てやらなくては。あっでもパトロールだな、所沢不審者多過ぎ。
木の芽時にはまだ早いぞ、そんなカッコで風邪ひきたいのかね?
(どんな格好って、ほら、例の奴ですよ・大笑い)

★「叢雲学園8」今日中にアップしまーす。
我が家に「酒を飲みに行きたい」と言ったそうだ。

おおっ?なぜなぜ??Why?

我が家は無類の酒好きです。あたしは日本酒からワイン、シングルモルト、ビール、ラム、ブランデー、etc何でもこなします。なおかつ良い酒が好き。その辺は小説をお読みの方はきっとわかっていらっしゃると思います。(笑)
まあ、酒談義になると長いのでおいといて。

新潟出身ですから、日本酒は得意です。ウィスキー党の旦那を日本酒党に変えた地酒、「天神囃子」は絶品。近所で造ってる「八海山」なんて目じゃないです。……だから酒談義じゃなくて。

何度か上司におみやげであげたことがあるんですよね。そしたら事あるごとに、向こうから戴きモノするようになりまして。
暮れには立派なリンゴが一箱。
そしてとうとう!!

来ますか、うちに。いつでもいらっしゃい!!ふふっ、準備万端整えて迎撃、もとい出迎えてあげましょう!!

さーって、何作ろうかな?
「かざと」はお客が大好きだから、準備が楽しい。
カーテン洗ってアイロンかけて、窓を磨いて、隅々まで埃を払って。花は大好きな黄色いチューリップがいい。かすみ草とはあわせずに、どーんと飾るのが好き。
つまみは、レンコンにエビのすり身を挟んだ天ぷら。これは沖縄から通販で買ってる「チャンプルの素」というハーブソルトでいただくと美味しいのだ。それからタイ風もやし炒め。干物は生協さんのホッケ、大根おろしとスダチをつけて。定番の肉じゃが。キュウリの浅漬け。えーと、それから……。

あれ?自分が飲みたいだけかも。いやん、今回は接待に徹しなくては(爆笑)
★☆☆☆祝5000ヒット!!☆☆☆★

あたしってつくづく、イベント好き…(笑)

◆キリ番踏んでくれた方、叢雲掲示板にご一報下さいませ。

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◆今日は暖かいですね、明日はもう立春です。

◆もうすぐ5000ヒットだわ!(ドキドキ;)

◆連載を初めてから約8ヶ月経ちました。大方は自分で踏んでいますが、沢山の方に読んでもらって、身に余る感想もいただき、本当に幸せだなーと思っています。大好きなキャラも沢山出来ました。今までは設定だけで終わっていて、作品になることなんか滅多になかった。でも、話を創り上げるのって楽しいし、わくわくする。
 これからも「青龍編」の後に「波動宇宙編」「冥王の爪」編と続けますが、長くお付き合いいただけると嬉しいです。
大人になって、格好いい優樹君や遼君が出てきますよ。(随分気の長い話だけど、鬼に笑われたって良いんだー!今日節分だもん・笑)
 基本的に、人の悪口は言いたくないです。そりゃあ、もう、良識を持ってしかるべき歳ですから(笑)
 しかし世の中には、悪意を振りまくために全身全霊を尽くす人がいるようです。そして自分がそれに囚われて、正常な判断が出来なくなっていると気付かない。次々と繰り出される言葉が、自分で自分の首を絞めている。
 すごいエネルギーです。こうなるともう、竜巻です。
 はやいとこ避難すれば良かった。理解を求めようとしなければ良かった。その人の中で悪意の対象ができあがってしまった。手遅れでした。
 ちょっと痛い思いをしたけれど、今は通り過ぎるのを待っています。やり返しても意味ないし。
 ああ、でも、言ってやりたいよ!!×××××!!(好きな文字を入れてねっ・苦笑)
<本文>

:::::::::::::::::::::::::::::

 やりとりを聞いていた冬也が、ビールを持って厨房から出てきた満彦に向かって声をかけた。
「おお、そうか、それは悪かったね。おい美月、イノシシがダメな子がいるそうだから、他の肉を用意してくれるか?」
「あっ、いえっ、食べられます……。」
 慌てて否定した遼に、満彦が笑う。
「無理しなくて良いんだよ、山肉が苦手な人は結構いるからね。現に娘の美月も苦手で、シカ肉なんかは見るだけで真っ青になる。カモやウサギは可愛そうだといって口にしないしね。」
「それはお父様がいけないんです。」
 咎めるような口調がしたかとおもうと、厨房からトレーを持った若い女性があらわれた。
「自家製ローストポークよ。これなら大丈夫かしら?」
 テーブルに置かれたディナー皿には、ワインの香りのアップルソースが添えられたローストポークが、色とりどりの温野菜と一緒に美しく盛りつけられていた。
「あのっ、わざわざすみません。すごく美味しそうだ。」
 礼を述べて顔を上げると、白いシャツとジーパンの上から丈の短い黒いエプロンをした優しい顔立ちの女性が、安心したように微笑んだ。
「あっ……。」
 窓から見えた女性だ。
「何かしら?」
「さっき、二階の窓から僕等を見ていましたか?」
「ええ、見てたわ。ごめんなさい、兄さんのお客様がどんな方達なのか気になっていたの。気を悪くした?」
「いえ、そんなこと、全然。」
 戸惑いがちに答えながら、遼は安心した。どうやらヴィジョンを見たわけではないらしい。優樹も納得顔で、こちらを見ている。
 厨房に戻る美月の背を見ながら冬也は困ったように笑った。
「美月が小学校三年の時、父さんが山ウサギを生きたまま捕まえてきたんだ。翌日の朝そのウサギに餌をやって、すっかり自分で世話して飼うつもりでいたのに、夜にはシチューになっていた。あの子は一晩中泣いて、一ヶ月くらい父さんと口を利かなかったんだ。しかしどうにか食べるために狩るということを理解してくれてね。今では自分で料理する事も出来るようになった。決して口にはしないが。」
 冬也の話に満彦は決まり悪そうな顔をすると、頭を掻きながら姿を消した。
「さあ、さあ、食事にしよう。これ以上待たせたら優樹が暴れるかも知れないからな。」
「人のこと、熊みたいに言わないでくれよ。ひでぇなあ、緒永さん。遼、おまえの分は俺が食うから安心していいぞ。」
「後輩の分まで取るなよ。」
 遼の言葉が聞こえているのか、知らん顔で優樹は真っ先に席に着いた。苦笑しながらも自分のためにわざと、からかうような事を言った優樹の気遣いが嬉しい。おかげで苦手なものを前にして、気を遣う必要が無くなったからだ。
 自分から行動出来ないとき、いつも優樹は助けてくれる。それを煩わしく感じたときもあったが、今は素直に受け入れる事が出来る。 美月が白飯を配り終え、緒永達がグラスを鳴らした。我先にと鍋をつつく優樹や後輩達を前にして、急に空腹感をおぼえた遼も箸を取った。

:::::::::::::::::::::::::::::
◆ウサギの話は「かざと」の実体験に基づいています(笑)
オオバコの葉をあげて、食べる様子を見ていたそのウサギが、夜には鍋になりました(T_T)
子供心にショックだったなー。

◆実は今回、舞台が山なのでかなりやりやすいです。所々、妙にリアリティのあるローカルネタが振れるかも?「かざと」は長野よりの新潟出身で、長野にはツーリングに行きました。心の原風景があります。

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◆個人の意志と関係なく、リニューアルされてしまいましたね(笑)
まあ、これも慣れてしまえばそれなりによいかと。

◆と、言うわけで。今までは<本文>の前に<コメント>を書いていたわけですが、テーマ・フォルダが使えると言うことで<本文>を独立させようかと。あたしのぼやきは無視して、小説だけ読みたい人、まとめて印刷して一気に読みたい人がいれば多分便利でしょう。(コメントはチェックするけど、本文はある程度進んでから読むと言うご意見を戴いたことがあるので。)

◆筋金入りのオタクなので(笑)アニメ・特撮の感想書いたり、子供のことを書いたり出来るなー。今までは小説が間に合わないと書けなかったけど、毎日好き勝手書けるから嬉しい。

◆今後もどうぞよろしくお願いします。
<コメント>
★キリの良いところで、ホームにVOL1としてまとめます。何も計画性が無くて、プロットもろくに切らないし、フローチャートもありません。ただ、今まで読んできた沢山の本が、あたしにちょっとだけ勘をくれるわけです。「この辺で展開が変わればいいかな?」みたいな。(笑)
そんな書き方はもちろんやり方として良いわけありませんが、勘を信じて書くことにしています。迷うと書けなくなるから。

★最近「ご近所さん」と、子供がらみでトラブルが。こちらからすれば向こうの言いがかりに過ぎない気もするのですが、どうも相手からすると気が済まないらしいです。
「貴方では話にならないから、ご主人に話したい。」と、ヒステリックに言われて、主人に話しました。そしたら快く引き受けてくれた。
すごく嬉しかったな。仕事で大変な思いしてるのに、近所のトラブルで煩わせたくなかった。でも、子供やあたしのこと、大切に思ってるって実感できた。そんなとき、幸せだって思う。
トラブルがあると、身近な幸せがよくわかる。友人の有り難さもよくわかる。
その点で、良い経験としてプラスに考えるあたしって、おめでたいかもね?

★もちろん暗い部分もありますが、それは「猿日記」で書いてます。内緒です(苦笑)

:::::::::::::::::::::
<本文>

 近づくヘッドライトに気が付いたのであろう、待ちかねていたらしい初老の男性が、車が止まるより早く玄関から小走りに出てきた。
「霧で迷ったかと、心配していたぞ。」
「ただいま、父さん。一年ぶりだから、そう思われても仕方ないけど、まさか自分の家を忘れたりしないさ。お客さんを連れてきたよ。」
「父さん」と呼ばれた男性は、にこやかに笑って手を差し出す。薄いラベンダー色のダンガリーシャツにジーパン姿。長めの白髪は綺麗に後ろに流してまとめ、形よく整えられた口髭をたくわえて、いかにも山荘の主人といった風体だ。山歩きと猟で鍛えていると緒永から聞いてはいたが、年齢よりも若々しい精悍な体躯が見て取れる。
「ようこそ『美月荘』へ。私は冬也の父親で緒永満彦と申します、どうぞよろしく。」
 差し出された手を、アキラが代表して握った。
「こちらこそ、お世話になります。大勢で押し掛けてしまって申し訳ありません。それにしても本当に良いんですか? 緒永さんの計らいで料金を随分割り引いてもらったんですが……。」
「良いんですよ、入っていた予約が直前でキャンセルになりましてね。私どもとしてはかえって助かりました。さあ、早く中にお入り下さい、陽が落ちて寒くなってきました。温かい飲み物を用意いたしましょう。」
 遼に起こされて、ワゴン車の連中もぞろぞろと車から降りる。
「あっ、すげぇ! 天体観測用のドームがあるぜっ!」
 突然その中の一人、忠見遙斗が屋根を見上げて叫ぶと満彦が笑顔になった。
「自慢の反射望遠鏡がありましてね、幸い霧も晴れたから今夜は綺麗な星空を観測できますよ。よかったら、すぐにご案内しますが。」
「えっ、いいんですか?」
 はやる遙斗と宙の頭に、バイクから降りた優樹が手を置いた。
「なあ、遙斗。俺はどっちかってぇと……。」
 途端に二人は身を固くする。
「おまえ達、どうやら天体観測は夕食後の方がよさそうだぜ。」
 その様子を見ていた佐野の言葉に皆が笑った。その中で、ふと、視線を感じて遼が山荘を見上げると、二階の窓から誰かがこちらを見ている。
「どうかしたのか?」
 優樹が気付いて声をかけた。
「二階に女の人が……。」
 表情を変え、優樹も二階を見上げる。が、そこには誰もいない。問いかける優樹の視線に遼は首を傾げた。
 遼には普通の人間には見えないものが見える。優樹を始め、何人かの友人達はそのことを知っていた。幽霊、とは言いはばかられるが、近いものだ。過去にその場所で死んだ、生き物の残像。焼き付いた意識、想い、そして恐怖。幼いときから目の前の幻像に苦しみ続け、殺人現場が見えてしまった事から事件にまで巻き込まれてしまった。しかし友人の力を借りて解決し、自分を取り戻すことができたのだった。優樹、そして友人達。今の遼には、何が見えようとも恐れるものなど何もない。
「夕食の支度が出来てますから、部屋は後でご案内します。去年の狩猟期にでかいイノシシを仕留めましてね、いつもはうちのシェフがフランス料理をご用意するのですが、今日は私が腕を振るいました。」
 満彦に招き入れられ山荘の食堂にはいると、四人掛けのテーブルが五つあり、そのうちの三つに食事の用意がしてあった。テーブル中央の卓上コンロには湯気の立つ土鍋がかかり、食欲を誘う良い匂いをさせている。
「ボタン鍋はみそ仕立てで、煮込んだ方が上手い。早速いただこうじゃないか。須刈君、佐野君、轟木君、ビールは?」
「もちろんいただきます。」
 冬也が聞くと、間髪を入れずに答えた佐野が苦笑するアキラに目配せした。
「この際、固いこと言うなよ?」
「言わないけどさぁ、まっ、いいか。」
 正確には今年大学に入ったばかりの三人は、まだ未成年である。
「それなら俺も……。」
「君はダメだ、後輩の前だよ。」
 あわよくば、と、思ったらしく、仲間に加わろうとした優樹を遼がいさめた。田村に付き合い時々飲んでいるのを知っていたからだ。
「ちぇっ、おまえ頭固すぎ。」
「固くて結構。」
「イノシシ食えないくせに。」
「関係ないだろ、そんなこと。」
 遼は顔を赤らめた。
「ああ、そうだった。父さん、彼はイノシシがダメなようだから、他の物を用意できないかな?」
 やりとりを聞いていた冬也が、ビールを持って厨房から出てきた満彦に向かって声をかけた。

:::::::::::::::::::::
◆一部に比べて仲良しぶりを見せる優樹君と遼君。書いてて楽しいです。でも遼君は、また別の視点で悩んでます。それは優樹君の過去に関わりますが…。

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<コメント>
★友人とは、何でしょう。
何だか小説で書いてると、気恥ずかしくなることもしばしば。(ダメじゃん・笑)

学生時代から、大事にしていた友人がいました。親友?その定義は難しいから、ただとても大事だった人、と、言っておく。
女の子が一人、男の子が一人。
近すぎて、傷つけあうと、とても深く傷ついてしまった。距離が掴めずぶつかり合い、結局物別れになって、十年以上音信不通。
でも最近、奇跡的に連絡が取れた。ずっと忘れたことがないと言われた。いつも幸せを願っていたと言ってくれた。あたしもそうだよ。
近く会うことになった。何だかどきどきする。
「愛してる」って言いたい。女の子、もとい、多分素敵な女性になった彼女に。

:::::::::::::::::::::
<本文>

 湖の丁度中程に、小さな島がある。そこには鳥居と祠らしき物が見て取れた。
「二人とも、やっと見つけたよ。優樹君も無事で良かった。」
 その声に遼が振り返ると、息を切らせた緒永が後ろに立っていた。
「すみません、優樹は直ぐに見付かったんですけど、戻る方向がわからなくなって。」
「私も霧が晴れてからやっと、君達を見つけられたんだよ。ああ、湖の方はもうすっかり晴れて『秋月島』が見えるね。」
「『秋月島』? あの祠のある小さな中島の事ですか?」
「うむ、この湖は『秋月湖』と言ってね、祠はここで悲運の死を遂げた戦国時代の姫君を祀ってあるらしい。詳しいことは良く知らないが。」
「そうなんですか……。」
 遼には、あの獣が湖に還っていたことが気になっていた。『秋月島』、白い獣、深い霧、美しい湖。何か厭な予感がする。
「緒永さん、この辺には白い熊が出るんですか?」
 敢えて言うまいと、遼は思っていたのだが、優樹は構わず緒永に聞いた。
「白い熊? この辺にいるのはツキノワグマで、動物園で見るようなシロクマ、ホッキョクグマなんかいるわけない。」
「だけど……!」
 呆れたように笑う緒永に「むっ」とした顔になって、なお言い募ろうとする優樹の肩を遼がひいた。
「向こうの藪に何かいたみたいです。ウサギか何かじゃないかな?」「ウサギなら、もう体毛は茶色になっている。白っぽく見えて熊と間違えるくらいの大きさならカモシカかも知れないね、背中の体毛が銀白色に見える奴もいるから……。時々この辺りまで下りてくるんだよ。」
 優樹が何か言いたげな表情で顔を向けたが、遼は小さく首を振った。あれは熊でも、カモシカでもない。ではいったい何だったのか?
「さあ、ここまで来ればもうすぐだ。高速を降りたときに電話してあるから親父が今頃イノシシ鍋を用意して待ってるよ。」
「……イノシシ鍋?」
 複雑な顔をした遼に、優樹が笑う。
「おまえ、そういうのだめなんだよな。俺は緒永さんから美味いって聞いてるから、すごく楽しみにしてたんだ。あ、それから妹さんが得意だって言うウサギのシチューに蜂の子の炊き込みご飯も。」
「……ウサギ? 蜂の子?」
 緒永に悟られまいとしながらも、ざわつく肌を抑えられない。
「こら、遼君をからかうんじゃない。心配いらないよ、他に食べ物がないわけじゃないから。」
「はあ……。」
 面白がっている優樹を遼は睨んだ。


 パーキングを左に出て湖沿いの白樺並木を暫く走ると、山中に入る小さな脇道の傍らに見過ごしてしまいそうなほど小さな看板が立っていた。へッドライトに照らされたそれは〈美月荘〉と読める。緒永のバンに続いて、アキラも右にハンドルを切った。
 未舗装の坂道を、なおも五百メートルほど登ると、ブナ林の向こうに暖かなオレンジ色の光が見えてきた。そのころには山間の霧もすっかり無くなり、直ぐにライトアップされた白い壁と赤い屋根の可愛らしい山荘が姿を現した。
 近づくヘッドライトに気が付いたのであろう、待ちかねていたらしい初老の男性が、車が止まるより早く玄関から小走りに出てきた。

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◆名前に変更ありです。アキラ君編に出てきた鷺ノ宮と名前がかぶっていたので、轟木君の名を変更しました。
轟木敦史→轟木彪留(たける)
ちょい、重要な役回りがあるキャラです。
◆サイドキャラの名が凝っているのは、出番が少ないため。字が目に入ったときにキャラを直ぐ思い出してもらうためです。(実は自分の中で混ざらないようにするため?・笑)

◆終了章・全文アップ!番外編も掲載してありなす。(なお裏番外は腐女子的内容のためパスワード制です、ごめんなさい。興味があるかたはメールで問い合わせてください。ホームページ・掲示板からメールで問い合わせできます)

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<コメント>
◆「新バージョン」かぁ、安定したら考える。今のところ不便ないし、最近読んでくれる人が増えたから、面倒かけたくないし。あたし、頭弱いし(笑)
だって、知識のある方は試してみてね、みたいな書き方だったんだもの。無理じゃん。
◆友人から聞いた話「ホモソーシャル」。男性における社会性の特徴。ほほう、面白いじゃないですか。最近で言うところの新撰組、これもまたしかり?
互いの距離感や上下関係。信頼と、出し抜きたいという気持ち。まさに愛と裏切りですねー。
(歪んだ見方・爆笑)
「ヤオイ」と言う言葉がありますが、語源の説明はおいといて。女の子は何故BLが好きか?
大概は「性的なものに興味はあるけど自分を含む女性が対象だと生々しいから厭」というシミュレーション的なものが多いかと。
別方向では「走れメロス」におけるような同志愛。「イリーアス」「トロイア」「オデッセイウス」に発し、未だに不滅なるもの。これが「ホモソーシャル」ですか?
自分は後者が好きです。口惜しいことに、女性間には存在不可ですから(笑)
異論ですか?受付けてませーん!(大爆笑)

:::::::::::::::::::::
<本編>

 ざわめきは次第に近づいてくる。優樹は遼に目配せをすると、前に進み出た。
 突然、目の前に現れた獣の正体を咄嗟に判断することは出来なかった。熊だとすれば大きさは一般的成獣基準の優に倍はあり、そしてその形態は……。
「犬? ……まさかオオカミ?」
「馬鹿、あんなでかいオオカミが日本にいるわきゃねぇだろう?」
 獣の姿を見据えたまま、優樹が遼に応じる。
「どっちかってぇと、……ライオンか?」
 それこそ馬鹿な話だと遼は思ったが、言われてみればそう見えないこともない。しなやかに肩を揺らし、猫科とも犬科とも決めかねる獣は、藪から姿を現すと鼻筋にしわを寄せ、まるで笑うかのように裂けた口を開いた。剥き出された牙はサーベルのように長く、濡れて光っている。双眼は赤みを帯びた金色に輝き、焔のごとく燃えているように見えた。全身は白い。しかし背中にかけて黄金色の鬣があった。
 優樹が息を飲み、呼吸を整えているのがわかる。この獣と闘うつもりでいるのだろう。しかし遼は、獣からの殺意を感じなかった。
「待って。」
 遼が腕を掴み声をかけると、一瞬、優樹の緊張が解けた。すると獣は咆吼をあげ、踵を返すと藪を湖に向かって戻っていく。優樹の身体から力が抜けていくのを感じて、遼は手を離した。
「どういうことだ?」
 不思議そうに獣の消えて行った方向を見つめていた優樹は、遼に目を移した。
「わからない。」
 他に答えようもなかった。
「俺が一人で走っているとき、何かが付いてきている気がした。霧で見えなかったけど、後ろになったり、併走したりしているのを確かに感じたんだ。だから緒永さんに言われたここでバイクを停めたとき、その正体がわかるかと思って探していた。今の奴だったのかな?」
「……わからない。」
 困惑の表情で、遼も湖を見つめた。エメラルド色の湖面が、緑がかった深い藍色に変化しつつある。霧が晴れたかわりに風が強くなり、湖に映し出された白樺の美しい新緑が波に散った。まだ対岸が見えるほどの明るさはあり、改めて見渡せば緒永から聞いていたとおりの美しい景観だった。
「中島が、あるんだ。」
 湖の丁度中程に、小さな島がある。そこには鳥居と祠らしき物が見て取れた。

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<コメント>

★むむっ、週二回の更新ペースに甘んじて、筆を進めるのを怠っているぞ?
ヤオイ書いてる場合じゃないかぁ……(爆笑)
どうにもテーマがすっきりと浮かばない。漠然としたスタイルはあるんだけど。で、フローチャートで物事を分析する友人に電話。一部、番外、二部冒頭と今後の展開を話して分析してもらった。
目から鱗がポロリ。他人の方が、キャラを冷静に分析できるものなんですねぇ。
そういえば映画の感想は自分でも分析できるのに、自分小説は出来ない。思い込みの怖さでしょう。

★おお、そうだ。もうすぐ5000ヒットいくじゃないか。何か企画してみよう。
1)リクエストキャラでのバレンタイン番外・カップリング自由。
2)キャラを一人作ってもらう。
3)バレンタイン企画に囚われず番外を書く。
4)裏番外のリクエスト(いるのか?・笑)
御申告お待ちしてます!(^O^)

:::::::::::::::::::::

<本編>

 予想したとおり15分ほど曲がりくねった細い峠道を降りると、突き当たりが左右に分かれたT字路になっていた。そこには、ちょっとしたパーキングスペースがあり、おそらく天気の良い日には美しい湖を見ることが出来るのだろう。先導していた緒永の車が停まったのが見えて、アキラもその横に車を付けた。
「ここまで来たら待っていろと言ったんだが、優樹のバイクが見あたらないな。」
 車から降りた緒永が苦笑する。遼も車を降りて、辺りを見回した。
「向こうの方を見てくるよ、多分どこかにいるだろう。」 
「僕はこっちを探してみます。」
 二人は優樹を捜すために車を離れた。
 霧に閉ざされた向こうから、微かに水の気配がする。腰の高さほどしかない、自然のままの形をした木で作られた柵の下でクマザサが風にざわめきあった。ひたり、ひたり、と、水音が重なる。
 柵から離れると方向がわからなくなるほど霧が深い。もしかしたら優樹も迷ってしまったのだろうか? ふと、そんな不安が頭をかすめたとき、目の前に見覚えのあるオフロードバイクが現れた。メットはハンドルに引っかけられているが、優樹の姿はない。
「優樹?」
 声は霧に吸い込まれる。
「優樹!」
 さらに大きな声で、遼は呼んでみた。すると白いカーテンの向こうから、ぼんやりとした人影が近付いてきた。
「……優樹?」
「おう、遅かったな。」
 姿を現した篠宮優樹の事も無げな言い方に、遼は眉をひそめた。
「皆が心配している。」
「えっ? そうか? 霧ならじきに晴れるよ。」
「霧の事じゃなくて、君が……。」
 遼が言いかけたとき、湖から冷たい風が吹き渡った。幕が引かれていくように霧は左右に分かれ、エメラルド色をした湖水が眼前に広がってゆく。
「ほら、な?」
 まるで自然を味方に付けているような優樹の勘の良さを、遼は知っていた。だから心配などしていなかった。しかし他に心配をかけるような行動を、親友として見過ごすわけにはいかない。
「ほら、な、じゃないだろう? 緒永さんが探してる。ここから先はわかりにくい道だそうだから、おとなしく付いて来ないと本当に迷うよ。」
「わかった。」
 緒永の名を出されて、優樹も従う気になったようだ。反対を押し切ってバイクに乗ったことを、少しは悪かったと思っているらしい。ヘルメットをハンドルから外し、スタンドを上げて遼の後からバイクを押す。が、すぐに立ち止まると表情を強ばらせて辺りを見渡した。
「なに? どうかしたの?」
 先を歩いていた遼は優樹の所まで駆け戻った。
「なんか、いる。」
「えっ?」
 言われて遼は、優樹の見つめる方向に目を凝らした。コンクリートで固められたパーキングの向こう、湖との間の藪が、ざわざわと動いている。まだ晴れきらない霧の中、その不気味な存在感を遼も感じて、背筋を冷たいものが伝った。
「熊、かな?」
「わかんねぇ。」
 スタンドを立て、優樹がメットを手に持ち身構えた。ウサギのような小さな動物ではないことが、がさり、がさりと、藪が揺れる大きさでわかる。もし冬眠から冷めて凶暴になっている熊だとすれば、182センチの長身と剣道で鍛えた身体を持つ優樹でも、メット一つで太刀打ちできるはずがない。ポケットには携帯電話があるが、峠に入ったときから圏外を表示していた。
「風は湖からこっちに吹いている。静かにしてれば気付かないで行っちまうと思うけど、もし……。」
「了解。」
 最後まで聞く必要はない。こちらに向かってくるようなら、優樹が相手をしている間に助けを呼べるように、遼も後ずさりながら身構えた。

:::::::::::::::::::::

◆うふふ、やっと優樹君が出てきたわ。霧の中から登場なんて、演出過剰かしら?(笑)さっそく息のあったコンビネーションを見せてくれます。(それほどでもないか?)
一部に比べて仲良しぶりを書くのが楽しみですね。

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<コメント>
今日所沢は朝から雪です。買い物行くの厭だなー。夕飯はカレーにするか?それなら家にある材料で……あっ、お肉ないや。こないだ使ったのか、冷凍してたやつ。しくしく、やはり行くか……。
ちなみに家はチビと旦那が辛いのが駄目なので甘口のルーを使います。でもホントはスパイスをブレンドしたインドカレーが得意なんです。こないだ学校関係のママ達と新年会をしたとき持っていったら好評でした。(わーい!!)
お菓子も作ります。イギリス風スコーンと、カリビアンラムたっぷりのシフォンケーキ。チョコマフィンとガトーショコラ。バレンタインが近いねー。
妹の誕生日が近いので、先日シフォンを焼いてお誕生ケーキを作りました。
妹とは趣味の方向が似てるから良く一緒に映画も行きます。先日は「ラストサムライ」を見てきました。くどくど感想を言うのは嫌いだから、ただ面白かったとだけ言っておきますね。
ところで「555」が終わったのですが、これはちょっと言いたいことがあるなぁ。見てない人には関係ないから「秘密日記」でぼやきます(笑)

:::::::::::::::::::::
<本文>

 親友の優樹が、本来の部活の合間に友人達と溜まり場にしている写真部でゴールデンウィークにキャンプに行こうと言い出したのは、新学期が始まってすぐのことだった。世話になっているオートショップ〈スティル・ウイング〉オーナー、緒永冬也の実家が経営する貸別荘に友人達と遊びに来ないかと誘われたからである。緒永は優樹の下宿先であるペンション〈ゆりあらす〉オーナー、田村夫妻の友人で、遼も良く知っていた。
 若い頃にモトクロスレースをやっていたのだが事故で足を痛め、リタイアしたあとショップを始めたという緒永の物静かな落ち着いた印象からは、元レーサーだったという姿が思い浮かばない。バイク仲間であった田村の妻、小枝子の話だと「事故で生死の境をさまよって悟りが開けた」ということらしく、実際事故に遭う以前は、かなり無茶なライディングでレースでも要注意人物とされていたようだ。自分の若かりし頃と姿が重なるためか緒永は優樹に甘く、都心を抜ける長距離移動を高校生にさせられないと渋る田村に、ショップのバンにバイクを積み高速を降りるまでは運転させないと言って説き伏せてくれたのだ。
 山頂付近にかかる雲が風に乗って降りてくるのを見た緒永は、今日は諦めろと優樹に言った。しかし不満から口もきかなくなった様子にとうとう折れて、霧で視界が悪くなったら停まって待つ事を約束させバイクに乗ることを許したのである。
「やれやれ、こんなに視界の悪い峠道を運転することになるなら館山から東京に抜けるまでを引き受けるんだったな、いったい後どのくらい走ればいいのか皆目見当がつかない。霧がなければ湖が見えてくるそうだけど。」
 大きく溜息をついたアキラの横で、遼は地図を広げる。
「アキラ先輩が朝は苦手だって言うから、佐野先輩が運転してくれたんですよ?」
「まあ、そうなんだけどさぁ、何だか後ろで寝てるあいつらを見てると面白くなくてね。そう言えばおまえはずっと起きてたのか?」
「先輩が寝てる間も起きていました、ドライブは好きですから。速度と時間からすると湖までは後十五分くらいだと思いますよ、少し前に下りになりましたから突き当たったところに見えるはずです。」
 二列になった後部座席には、叢雲学園高等部を今年卒業して大学生となったアキラと同じ、写真OBの佐野和紀、理学部OB轟木敦史、轟木の後輩で高等部一年の真崎宙と忠見勇斗の四人が重なり合うように寝ていた。
 房総半島の東部、館山を車で出発したのは夜が明けきらない時間だったが、途中渋滞に巻き込まれ関越自動車道から上信越自動車道に分岐した時点で既に午後二時を過ぎていて、朝からハンドルを握っていた佐野をはじめ、他の三人も長距離の移動に疲れてしまったようだ。
「優秀なナビが起きててくれて助かった。」
 アキラの言葉に、疲れた様子も見せず遼が笑った。

:::::::::::::::::::::
◆Yちゃんからの「ダメ出し」がなかったのでこのまま続きを書きます。(ほっ…。)Yちゃんは自分が小説を書き始めたときからの一番最初の読者なのでありがたい存在。とても厳しい意見をくれるし、興味のないところはすっぱり切り捨ててくれる。でもちっとも誉めてくれないんだよー(T_T)身内も身内、実の妹だからあたりまえか?(笑)

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<コメント>

 お待たせしました!舞台が現代に戻りました。これから先は、一部で活躍してくれた主人公達が力を合わせて妖怪変化と闘うサイキックコメディに……なるわけ無いですね(笑)
 多分また、暗いです。一部ではアキラ君がストーリー・テーラー的な役割でしたが、二部は遼君の視点で優樹君をピックアップするつもりです。アキラ君はお助けキャラに徹してもらいましょう。番外たくさん書いてあげたから許してね。
ところで「魄王丸」は「はくおうまる」と読みます。「魂魄」の「魄」、「たましい・陰の気・月の輪郭・気の集う場所」そんな意味があるようです。これからどう関わるかは、あまり考えてなかったりして?(おい!)

:::::::::::::::::::::
<本文>


 深く、濃い霧が行く手を閉ざしていた。オレンジ色のフォグランプにぼんやりと照らし出された黒いアスファルト。センターラインのない狭い峠道は、路肩を外れればすぐに傾斜する雑木林に嵌り、悪くすればそのまま崖下に転落する危険があった。緊張から息をすることさえ忘れてしまうのだろう、長い髪を後ろに束ねた運転席の青年は、時折り大きく深呼吸をしながらスピードを落として慎重にハンドルを切った。頼りとなる前方の車のテールライトが曇ったフロントガラスに滲んで見える。
「この霧の中、アイツはいったいどこまで先に行ったんだ? 崖下に転がっててもこれじゃわからないなぁ……。霧が晴れなきゃ助けにもいけないぞ。」
「……笑えない冗談はやめてください、アキラ先輩。」
 フロントガラスをタオルで拭きながら、助手席の少年が運転席の須刈アキラに向かって言った。平静な顔をして五メートル先さえも見えない窓の外を見つめているが、少し無茶な友人のことを心配している様子が見て取れる。
「地図を見た限りじゃ目的地まで一本道だし、緒永さんの話では林道にそれる道はみんな未舗装で立入禁止の柵があるそうだから多分迷うこともないだろう。それにアイツは妙にカンがいいから崖下に……。」
 横目でちらりと彼を見た秋本遼の冷たい視線に気付いたのか、アキラはそれ以上言うのをやめておいた。


 私立叢雲学園高等部三年生、秋本遼は来春医大を受験するつもりだった。母親が看護師であるために幼いときから何かと医療現場に接することが多く、力の及ばないところで命を失ってしまう事に苦しみ続けている病院スタッフを見て、いつしか医療に関わりたいと思うようになったからだ。
 そのためゴールデンウィークは、春から本格的に通い始めた予備校の強化合宿に参加する予定でいたのだが……。
「秋本、おまえ確か難度の高い医大を受けるんだろう? 今頃こんな所にいて良いのかい?」
 穏やかに微笑みを返し、遼は視線を窓の外に戻した。
「一週間ぐらい予備校をサボっても、他の受験生に遅れをとらない自信はあります。それに、僕にはみんなと一緒の時間の方が大切ですから。」
「自信がある、と、きたか。一度くらい言ってみたい台詞だね。」
 茶化すようにアキラは笑ったが、遼の言葉の意味は理解してくれている。遼の巻き込まれた殺人事件と、そのやりきれない結末。経緯に関わり、力になってくれた友人達を、何より大事にしたいと思う気持ちを。
 風に流されていく霧は、まるで乳白色の液体の様に見える。その合間、薄ぼんやりと見える雑木林の奥が徐々に暗さを増し、夕闇が近づいていることを教えてくれた。
「陽が落ちる前には着くと思うが、やはり止めるべきだったな。高速を降りる前に寄ったサービスエリアで山の方を見ていた緒永さんが、峠は霧になるって言ったんだけどなぁ。」
「無駄ですよ、優樹は言い出したら誰にも止められない。」
 アキラが案じているのは遼と同じ叢雲学園高等部三年生、篠宮優樹のことである。上信越自動車道を山間のインターチェンジで降りてすぐに、優樹はトランポに改造したバンから愛車の二五〇CCオフロードバイクを下ろして先に峠道に向かった。確かに、バンを運転していた緒永や、もう一台のステップワゴンで同行していた仲間達が止めても聞きはしなかったのだ。
「最後には緒永さんも諦めて許可したけど、おまえだけ止めなかったな。」
 遼は答えるかわりに、肩を竦めた。

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◆えらく時間がかかった割に、ヘタレな文章で申し訳ないです。はぁ、文才が欲しい(苦笑)

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<コメント>
 何とかスランプ脱出したかな?主人公を遼君に決めて、位置決めするのがえらく大変でした。一部と完全に変わってますからね。
「この子はどういう子?」と聞かれて、「とにかく格好いい子」と言ってもわからないのは当たり前。どんな風に格好いいのか説明するのも愚行です。沢山のサイドキャラの中で、どれだけ光るか?難しいです。
 ホームーページを作って、一部全編をアップしました。読みやすいように10回に分けてあります。番外編も全編紹介してありますので読み損ねた人、もう一度読んでやろうという奇特な(笑)かた、覗いてみてください。貴重な意見を採り入れて一部改稿してあります。
 今回で終了の「魄王丸」編もまとめてあります。

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<本文>

義時の討伐隊が化け物の棲む山と噂される近江の山中に向かったのは、それから十日ほど後の事である。その途中、義時は道のりにある兼光の庵に立ち寄った。
「さても心許ない一行ではあるが。」
 兼光は庵の庭の、紅葉の美しい池のほとりに敷物を敷き、義時を頭にわずか十人のこの討伐隊に酒を振舞った。晩秋の、珍しく暖かな陽光とすずやかな風は、気持ち良く酔いをまわらせる。
一行の顔ぶれに不満を隠しきれない兼光をよそに、義時は上機嫌で杯を重ねていた。
「私の刀と槍の腕、加えて弓の名手の佐々木が居れば、山賊などおそるるに足りません。」
「しかし後の連中は金で雇われた足軽ではないか。これから向かう鈴鹿方面は確かに我が軍の勢力ではあるが、敵の斥候にでも出会ったら当てにはならぬぞ。」
「御心配召されるな。あの辺りの土地は私が幼き頃より、よく父上と共に狩をしたところ、いわば庭のようなものですからどんなに細い獣道さえ知っておりまする。かなわぬ相手とあらば見つからぬよう避けて通りますゆえ。」
「されど……。」
「それにあの者どもは、罠を仕掛ける名人ばかり。」
 どうやら義時は、本気で狢狩をしてくるつもりらしかった。
いずれにせよ戦が始まれば実光はすぐに義時を呼び戻す事になろう。兼光が案ずるまでもないのかも知れない。
「まあ良い、くれぐれも気を付けて行くのだぞ。だがしかし、随分と嬉しげにして居るのはどういう訳か。」
「は、いやこれは………。」
 義時はさっと顔を赤らめると、そこで酌をしている美那をちらりと見た。
「ほう、なるほどそうか。父上よりお許しがでたな。」
「はい、化け物退治は切りよく引き上げ祝言をあげるようにと。」
 どうやら実光も、このもくろみを体面のためと見ているにすぎないとわかり、兼光は安堵の息をもらす。
「それはめでたい事よ。では今宵は前祝いといくか。」
秋の日は早々に落ちようとしていた。

翌朝早く、まだ夜の明けきらぬうちに義時一行は兼光のもとを発っていった。その日は朝靄と言うには余りに濃い霧が立ちこめ、隣に立つ者の顔さえはっきりとしないほどであった。
「せめて霧が晴れてからお出かけになればよろしいのに。」
「なんだ、美那。そなた、それほどに名残惜しいのか。」
兼光は、瞬く間に霧にまぎれ見えなくなった義時を、この可愛い妹は何時までも見送っていたかったのだろうと解釈した。
しかし、その顔はどうにも拭いきれぬ不安に曇っている様に見える。
 人は幸せの中にあると、ことさら不幸な自分を心に浮かべ、幸せを確認するというではないか? 美那の杞憂をほほえましく思いながら、ふと、以前姉から聞いた言葉が頭に浮かぶ。
『女は愛しい人の事に関しては格別感がはたらくもの』
 まさか、と苦笑して、兼光は妹の肩を抱き庵に戻った。この霧が晴れ、ぬけるような青空が広がれば、そんな心配も忘れるに違いない。しかし、期待を裏切るかのように、霧は一日中晴れる事はなかった。

義時が、人とは思えぬ無惨な姿となって還ってきたのはそれから三日後の事だった。

:::::::::::::::::::::
◆次回から舞台は現代に。やっと遼君、優樹君アキラ君登場です。
◆全文アップ!二部本編に入る前に、キャラ再確認?(笑)
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<コメント>
 今日からやっと上の子の小学校が始まりました。下の子は明日から幼稚園です。
 第二部、現代に舞台が移ってからの冒頭シーンが決まらない。いつも書き出しが一番苦労します。ここで全体のカラーの大半が決まってしまいますから。新作の場合、大抵10回近く書き直してやっと決まるのですが、続編だともっと苦労します。前作のバックボーンをどの程度活かせばいいのか?
私のように行き当たりばったりで書いてる者には難しいですねー。ちょっと最初は更新が週2回くらいになりそうです。
そうそう、ニューキャラで可愛い男の子を準備中。優樹達の後輩で理学部天文班の一年生二人です。「真崎 宙(そら)」くんと「忠見 勇斗」くん。「叢雲青龍編」(いつの間にか名前が付いてる・笑)が完結したら次回作の主人公になる予定です。(今思いついた・大爆笑!)

:::::::::::::::::::::
<本文>

 美那はみるみる蒼ざめると、逃げるように席を立った。
「ははは、あの様子では当分もどっては来ぬな。では聞かせてもらおうか。この噂、噂にあらず、なのであろう。」
「……実はそのことについて申し上げるべきか否か思い悩んでいる事がございますれば。」
「なんだ、申してみよ。」
 眉を曇らせ口ごもる義時を兼光は即す。
「その化け物、都では魄王丸と呼ばれ、その姿を目にした者はすべて恐ろしさのあまり石になると言われております。されど未だかつてその姿を見た者はおらず、従って石と化した者もおりませぬ。」
「ではただの噂だと申すのか。」
「大方戦にて討ち死に、打ち捨てられた雑兵の死体を野犬どもが食い荒らした後を見て、その余りの酷さに化け物の噂が立ったのに相違なく思われるのですが、ただ……。」
 義時がこの様に言葉を慎重に選ぶときは、決まっている。
「その事について、父上が何か申されたのだな。」
「はい。度重なる戦で都は荒廃し、人々の心もすさんでおります。中には逆恨みから敵味方の区別なく一人になった兵を殴り殺す者まで現れる始末。そこでお館様はどうすれば我が方の兵がそのような不始末に遭わずに済むかお考えになり、化け物退治を家臣に御命じになったのでございます。」
「ううむ、確かにその魄王丸とやらを仕留めたならば人々の心はこちらに好意的になり都合も良い。しかし如何せん、ただの噂話とあってはこれはいい笑い者となりかねんな。」
「噂の真意を確かめずにそのようなことをしてはと父上共々御諌め申し上げたのですが、倉田殿が是非にと話しを勧められて。」
「倉田が、か……。」
 倉田秀綱は柏原正義に次いで園部実光が信頼する家臣である。しかし兼光は幼き頃より倉田を信用できぬ者と嫌っていた。それは倉田の必要以上に媚びへつらう態度や彼の母に対するなれなれしさと、そんな時の嬉しそうな母の顔を見てきたことに起因する。
「あの狢めが、きゃつは表の顔で正論を論じ、裏の顔で奸計を弄する。」
 苦々しげに兼光は吐き捨てた。だが真正直な戦い方しか知らない父、実光の危機を、その知恵で救っていることも確かである。
「して、その化け物退治を任された運のない御仁とは。」
「わたくしめに、ごさいます。」
「な、なんと。」
 兼光は驚きの余り腰を浮かしかけたが、事なげな義時の様子に気を取り直し、居ずまいを正すと深くため息をついた。
「父上もいったい何を御考えなのか。いくら今落ち着いているからとはいえ、いつ又戦が始まらないとは限るまい。その様な時に……。」
 重要な戦力の義時を戦線から外すなどとは考えられない事である。
「御館様の御決めになった事で御座います。喜んで化け物退治にまいりましょう。ただ、私の不在の間、くれぐれも倉田殿の動向に御気を付け下さいませ。私を討伐隊長にと御館様に御進言なされたのは倉田殿なのです。杞憂で済めば良いのですが、どうもいやな予感がしてなりません。」
「あいわかった。しかしそなたはどうするつもりなのだ。居もしない化け物退治などに行って、まさか手ぶらで帰るわけにもいくまい。」
「私はせいぜい山の主のような大狢を捕らえて、倉田殿に献上いたしましょうぞ。」
「おお、それは良い考えだ。」
 二人は顔を見合わせ笑った。その笑い声を耳にしてか、奥から美那が恐る恐る顔を出す。
「恐い御話しはもうおしまいですの?」
 その様子にまた、二人は明るい笑い声を立てた。


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<コメント>
お仕事始め、ご苦労様です。「かざと」も今日からバリバリ書くぞ!!…ああ、でもチビがうるさい(T_T)
時代小説風に始まった二部ですが、いかがでしょう?えっ、言葉遣いが変?気になるところがありましたら教えてくださいね、直しますから。
ところで4000ヒットいきますね。踏んでくれた方、教えてくださいねー。リクエストキャラのバレンタイン番外を書きますので(^O^)

:::::::::::::::::::::
<本文>

その夜、暮六ツ半頃になってようやく義時がやって来た。
柏原義時は園部の家老衆の中でも一番の力を持つ柏原正義の一人息子で、兼光よりも一つ上の二十四歳。武勇誉れ高く目もと涼しき好青年であった。
 正義が年老いてからの初めての男子で、その可愛がり方が尋常ではなかったため回りの者達は心配したが、主君である園部実光が幼き頃より自分の子のように可愛がり、文武ともに我が子兼光と競いあわせてきたために自分に厳しく実直な、下の者に慕われる人物に育った。二人は兄弟のように仲がよく、又、深い信頼で結ばれているのだった。
  その義時と美那が恋仲にある事など、兼光はとうに気付いていた。少し前に父、園部実光が見舞いに来た際そのことを話すと、実光も喜んで二人を夫婦にする約束をして帰ったのだ。
「山のはに いさよふ月を いつとかも 我が待ち居らむ 夜はふけにつつ」
「月待ち酒といったところですな、兼光どの。」
 義時は、そう言って笑うと盃を干す。
「近ごろ兄上は歌に凝りだして、事ある毎に万葉など引用するのです。それはいいのですけれど、ご自分では詠まれず私に詠めなどと。」 美那は義時の盃に酒をつぎながら困ったように笑った。
一通りの話を聞いてからのささやかな宴である。代わりばえのない戦局に話しはすぐに済んでしまい、帰ろうとする義時を引き留めて兼光は酒を勧めた。退屈を紛らわすためでもあったが、つい先日、都より来た使いの者より聞いた噂話が気にかかり、事の次第をこの男ならば知っていようと思い立ったからである。
「されど、いくら歌を詠んだとて心は休まらぬわ。武士の性ともいうべきか、戦が恋しゅうてならぬ。」
「いやですわお兄さま、戦は人が沢山亡くなります。わたくしはもう……。」
「やれやれ又泣かせてしまったか、どうも美那は甘えん坊で困る。母上や姉上達ならば、どんどん戦をして出世なさいませとおっしゃられるのだが。」
「美那殿はお優しいのです。御仏のように慈愛に満ち、美しくいらっしゃる。」
義時の言葉に顔を赤らめながらも、目を反らさず見つめあう二人に兼光はすっかり毒気を抜かれてしまった。
「ところで義時殿。」
 気を取り直すため兼光は盃を干す。
「都では昨今、良からぬ噂が横行しているようだが。」
 義時の顔色が、さっと変わったのに確信を持ち、さらに兼光は言葉を継いだ。
「黄金色の鬣を持つ恐ろしい化け物が、夜毎現れ人を喰らうと。」
「そのような噂、いったい何処で耳にされましたか。」
 義時は一笑する。
「ただの噂にすぎませぬ。もし興味をお持ちならばお話ししますが、美那殿を恐がらせては……。」
「ほう、それは面白そうだな。どうだ、美那。そなたも一緒に話を聞こうではないか。」
「私、お酒を用意してまいります。」
 美那はみるみる蒼ざめると、逃げるように席を立った。

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★読み方がめんどくさいですね、時代小説。ちなみに「実光=さねみつ」「秀綱=ひでつな」「兼光=かねみつ」「義時=よしとき」です。なんだかありきたりですが、こんなもんで(苦笑)
◆<叢雲ご意見掲示板>
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◇◇◇◇あけまして おめでとうございます!!◇◇◇◇

<コメント>
★あけましておめでとうございます!本年もどうぞよろしく。

◇一年の計は元旦にあり。と、いうわけで(?)元旦に二部の一話をアップしました。

◇戦国時代の幕開け「応仁の乱」を舞台にした伝奇に始まり、その伝説の残る山中の湖に遊びに行った叢雲のメンバーが事件に巻き込まれます。予告通りにサイキックなお話になるといいのですが(?_?)

◇優樹君、遼君、アキラ君、杏子ちゃん、琴美ちゃん、岡田君、佐野君、後は大人が数名。訳ありの美女、美青年、怪しい詐欺師二人組、謎を知る老人、などが登場。とにかく楽しいお話になればと思っています。

◇序章「魄王丸」は5回くらいで終わる予定で、現代に戻ります。このお話、実はもう十年くらい前に書いたものなのですが、今とあまり進歩がなくてがっくり。むしろ昔の方がよく調べてました。ああ、でも調べる方が楽しくて、書く方ができなかった気もします。ちなみに「うしとら」の同人誌用に書いたもので未完です(^_^;)

よろしくおつき合いくださいませ。

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<本文>

 私立叢雲学園怪奇譚 第二部
序章 『魄王丸』

今宵は新月。ぬばたまの夜、訪れ来たる。
里村人も都人も、淀みたる闇の中、息をひそめ、針ほどの灯も洩らすまいと戸を堅く閉ざしたり。
その狭間、一頭の獣、空を駆らん。猛々しきその姿、爛々たる双眼、闇を裂きたる黄金色の鬣、その爪一撃のもとに岩をも砕く。焔を吐き人肉を喰らい、雲を呼びいかずちを放つ。人々これを恐れ、あまたの勇者討ち果たさんと挑みたるが叶わず。これなるは雷獣、魄王丸と人の呼ぶ。

都を離れ、この里に来てもうどれほどになろうか。庵の周りを、涼しげな美しい若葉で彩っていた楓、錦木、紙八手、柊、銀杏は、葉を落とし頼りげない幹を寒空に晒すようになり、代わりに燃えるように色ずいた紅葉が恐ろしいほどの緋色で山々を覆い尽くす。
「この緋き色は我が心。燃えたぎる我が血潮。戦えぬこの身を呪う我が焦り。」
園部兼光は傷まだ癒えぬ右足に血の滲むほど爪を立て、口惜しさに歯噛みした。
時は応仁元年。京の大飢饉の後に始まった大乱これを、応仁の乱という。兼光の父実光は、東西に分かれて戦う両軍のうちの西軍、山名宋全に味方し東軍の細川勝元と戦う大名の一人であった。そして六月八日の一条大宮の戦いに父に代わって赴いた兼光は、山名教之の下、赤松政則の勢に敗れ深手を負ってしまったのである。まだ二十三歳という若さ故、傷の治りは早い。だがどうにもこの右足が思うように動かないのだ。
八月下旬になって周防の国の大内政弘が入京し、西軍は優勢になりつつある。今こそ総力を結集し、一気に東軍を攻め潰さねばならぬ時なのに。
「兄上、そろそろ風が冷たくなってまいりました。中にお入りにならないと。」
「ああ、美那か。」
柘植の垣根越しに顔を覗かせた妹が目に入ると、兼光は先ほどまでの厳しい顔を途端にほころばせた。
兼光の兄弟は七人。上に姉が一人、下には弟が一人と妹が四人いる。美那はその一番下の妹で、今年十五歳になったばかりであった。今は兄の身の回りの世話のため、この庵に一緒に住んでいる。
「そういえば今夜、柏原殿が戦局を報らせに来られるはずだな。どうりで美那も楽しげにしておるわ。」
「いやですわ、兄上ったら。」
からかうように言うと、美那は顔を赤らめ小走りに庵へと戻っていった。

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☆伝説を現代にリンクさせるのは楽しいですね。この伝説の登場人物がどう関わってくるのかお楽しみに。
☆今年もがんがん書きとばすぞー!!励ましのお言葉くださいね。厳しいご意見も待ってます(^_^)/

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