◆負けるものかと、声に出して言う

 我が家は西武池袋線沿いにあるマンションだ。西武池袋線は高架橋や地下通路がほとんど無い路線である。どこに出かけるときも必ず、2回は踏切を通る。

「カンカンカン……」と、警報機が鳴っている。でも鳴り始めても、なかなか電車は来ない。遮断機が下りたって、電車が来る前に向こう側に行けそうな気がするんだよ。

 途中で立ち止まったら、どうなるんだろう?
 その時、子供と手を繋いでいたらどうだろう?

 逃げる? 逃げないかも知れない……。

 気持ちの落ち着いた今だから吐露できるけど、バレーのコーチの件や他にも人間関係やらで、少し前まで何もかもが面倒になっていた。

 死にたいんじゃなくて、終わりにしたい。投げ出したい。
 踏切をぼんやり眺めながら、その考えが頭から離れなかった。

 そうか、みんな死にたいんじゃないんだ。終わらせたいんだ、煩わしさから逃げたいだけなんだ。

「ママ、もっとこっちに来てよ、危ないから」
 突然T君が、遮断機の近くに立つあたしの手を引っ張った。

 その日も、いつものようにバレーの練習が終わる時間にお迎えに行く途中だった。留守番をしてることが多いT君が、めずらしく一緒に行くと言ってついてきたのだ。そう言えば、今日は道路側を歩くあたしの手を離さなかった。車が来ると、T君は自分の方に手を引っ張った。

 家に帰って、その事を旦那に話した。

「T君は、ママの精神状態が危ないと解るんだよ」

 そう言う旦那にも、たぶん解ってるんだろうな。
 負けるものか、負けるものか、自分。

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