◆中身の濃かった、3週間……

 いきすぎた指導でレギュラーが2人辞めてしまい、6年生3人と5年生3人、3年生一人になってしまったチーム。正直言って、サントリーカップは参加しても一次予選で敗退だと思っていた。

 チームに残った6年生に、焦りや苛立ちは当然ある。なにしろ、代わりにレギュラーになった5年生2人はバレーを初めてまだ半年。戦力としては、物足りないからだ。今までのメンバーならベスト8は確実だった……6年生最後の全国大会で一次予選敗退なんてしたくないに決まっている。

 6年生の焦りは5年生2人に伝わり、厳しく当たられたことや勝つ事へのプレッシャーで「練習が辛い、行きたくない」と娘が言い出したのは一次予選一週間前。

 だけどここで、辞めさせるわけにいかなかった。

 ゆっくりと話を聞けば、「みんなの役に立ちたい、でも練習が恐い。勝ちたいけど、自信がない」と泣く。いつまでも泣くだけで、自分でどうしたいか決めることができないのだ。

「泣いていたって時間の無駄、決められないならママが決めてあげる。これから体育館に行って、コーチに辞めますと言ってくる。もし辞めたくないなら、一緒に来なさい。来なければそれで終わり」

 私も辛かったけど、娘を信じようと思った。

 泣きながら娘は、私の後を追いかけてきた。

◆誰にも言えない

 私が一人で体育館にはいると、チームの子ども達があきらかに不安そうな顔で出迎えた。「まさか、辞めると言いにきた?」そう言いたげな顔だった。胸が締め付けられるように傷む。

「このくそコーチ、子ども達がどれだけ辛い思いしてるか解ってるのか」と、言いたいのをぐぐっとこらえ娘の心境を説明。「今日は練習に参加しませんが、娘の中で覚悟は決まったようです。もう逃げないで試合のために頑張ります。今日ここまで来たのがその証拠です」と伝えた。

 コーチもいろいろありすぎて、かなり凹んでいた。神妙な顔で娘を励まし、一緒に頑張ろうと言った。

 実は数日前、コーチの元に辞めてしまったメンバーの親が怒鳴り込んできたという。その親の言い分では、「コーチが責任を取ってチームから去ればいい。その代わりに自分が責任者になって、サントリーカップに行く。断れば怪我の件で告訴する」というものだった。

 その親は、県のバレーボール協会に顔が利き、ソフトバレーの社会人チームでコーチを務める有力者だった。怪我をした当事者の親ではないが、以前から指導方法などでコーチと意見が対立していたらしい。

「このチームは、あなたとあなたのお子さんのためのチームではない」と言って、コーチはその申し出を断った。

 怒鳴り込んできた親はコーチの指導法が気に入らなかったから、怪我の件をきっかけに子供を退部させたのだ。しかし大会に自分の子を出したいがために、コーチに辞めろと言いに来た。この親の言い分に関しては、私もコーチの意見が正しいと思った。

 おそらく告訴は出来ない。
 なぜなら、決して他言できない理由があるから……。

◆ふっきれてから、強くなったね

 娘は泣いて、ごねて、それでも練習を休まなかった。試合までの一週間でいい、今回だけ頑張ってごらんと励ました。
 学校の勉強も運動能力もそこそこ良かった娘は、負けることを知らず競うことに興味がなかった。だから、本気で何かを成して欲しいと思った。

 親の過小評価で、自分はダメだと思い込んでいる子。親の過大評価で、鼻持ちならない自信家になった子。親の期待に応えようとして自己表現が出来なくなり、他人を虐めることで発散する子。

 そうならないように、そうしないように、私も頑張らなくちゃいけない。

 これまで、適当にやっているように見えた練習。ふっきれてからは、目付きが変わった。以前は「自身もっていいよ、頑張れよ」と言うと「え〜?」と返ってきたのに、「うん、頑張るよ」と応えるようになった。

 強くなったね、ママは嬉しいよ。

 だけどなんで、こんなに寂しいのかなぁ……?

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