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 この村は、『火竜』の呪いにより自ら火をおこす事が出来ませんでした。
 火打ち石を弾いても、燃えやすい木をどれほど擦り合わせても、火を得る事が出来ないのです。
 過去に何度となく勇敢な若者が谷を登り魔女の森を越え、他の村から火種を持ち帰った事もありました。しかし赤々と燃えていた炭は谷に下りた途端にただの炭となり、いくら空気を通しても突いて掘り起こしても火はよみがえらなかったのです。
 村が火を得る方法は、一つしかありません。
 夏の終わりの「夏祭り」、その収穫祭の時に『火竜』が運んでくる火だけが唯一使える火なのでした。
 村人は一年を掛けて魔女の森から切り出した木を乾かし、薪にして積み上げておきます。すると村に飛来した『火竜』が炎を吐き、そのたくさんの薪を一瞬で炭に変えるのです。薪の中には火種があり、ワラや細木を継げば火を得る事が出来ました。魔法のようなその火は多くの燃料を必要としないので、谷を出ないと木材を手に入れられない村人にとってはありがたいものでした。
 しかし薪に宿る火種は、次の年の夏祭りには全て消えてしまいます。谷が風を遮るため村の冬はあまり厳しくありませんが、それでも火のない冬越えは考えられません。村人はまた、『火竜』から火をもらわなくてはならないのです。
 たとえそれが、大きな代償を伴うことであろうとも。

(つづく)

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