[第68回のあらすじ]
◇『蜻蛉鬼』に取り込まれた美月の人格は変わっていた。その中、美月は美那姫としての過去の記憶を語り怨念の正体が明らかにされた。

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<本文>

 美月の美しい面が、鬼気迫る羅刹に変わる。
「近江の山中に赴いた我は仇を討つ事が出来ずとも、義時殿を殺めた獣に喰われるならば幸せとさえ思った。そして『魄王丸』に出会い、真実を知ったのだ。倉田秀剛が陰陽師に頼み呼び出した化け物に、義時殿は喰われたのだと……」
 顔を俯け背を震わせる轟木を、美月の憎悪に充ちた目が見据えた。
「兄者が傷を負わねば、倉田秀剛が父上を見切り裏切る事はなかった。さすれば、義時殿を邪魔に思わなかったはず……。しかし『魄王丸』に頼み倉田の屋敷を焼き払った我に、兄者は矢を放ったのだ!」
「復讐の念を『蜻蛉鬼』に付け入られ、邪念に取り込まれた愛しき妹……。倉田秀剛を仕留めるまで手を貸した『魄王丸』は、おまえが罪なき者や女子供に至るまで見境なく殺めんとしたが為に去っていった。もはや私が『魄王丸』に力を借り、『蜻蛉鬼』を封じるより救う術がなかった……」
「今さら戯れ言を……兄者に裏切られ、暗く湿った洞窟の中で我がどれほど世を恨んだか知るまい! 我が心の闇、思い知るがいい!」
 つい、と顔を上げ天を仰いだ美月が両腕を高く掲げると、地の底が崩れ落ちていくような轟音が足下を揺るがした。湖に赤い高波が起ち上がり、岸に向かってくる。退く道は残されておらず、まともに被れば水中に没して『蜻蛉鬼』の餌となるしかない……。予想を上回る『蜻蛉鬼』の力を目の当たりに、遼は後悔に襲われた。やはり、自分達が太刀打ちできる相手ではないのだろうか。
 美月の口元が、ひたり、と歪む。
「魄王丸、あの波を止めることが出来るか?」
 我が耳を疑い、遼は優樹を見つめた。確かに今、優樹は轟木を『魄王丸』と呼んだのだ。
「生憎、蟲どもの相手で手一杯だ……貴様が止めれば良かろう、篠宮優樹」
「どうすればいい? どうやれば止められるんだ?」
 轟木は馬鹿にしたように鼻を鳴らすと、湖から迫り来る高波を指さした。
「あの女を殺せと言っても聞かぬなら……仕方があるまい。貴様が願うかたちを心に思い描き、言霊とせよ」
「願うかたち……か」
 優樹は湖に向かうと、ゆっくりと右手を前にかざした。再び皮膚が焼けるような、ちりちりとした痛みが遼の全身を襲う。だがそれは『魄王丸』のものではなかった、帯電した空気は優樹を包み込み、渦巻く蒼白い焔となったのだ。
「止まれ」
 正面を見据え優樹が発した言葉に、岸に迫りつつあった高波が、起ち上がった姿のまま静止した。
「散れ!」
 果たして何が起きたのか? 緋色の斑模様となった曇り空に一筋の閃光が駆けめぐり、「じり」とも、「びり」ともつかない音が鼓膜を叩く。その瞬間、泡立つ高波の頂点がかすみ、霧散していった。
 優樹の瞳に赤い影が射し、揺らめき、燃え上がるのを遼は見た。これが優樹の力なのか? 高波のエネルーギー値は莫大なものだ……それを瞬時に無力化してしまうとすれば、恐ろしいほどの力だった。
 呆然とする遼の背を、風が通り抜けた。美月の立つ岩の元に一足で跳躍した優樹は蟲が喰らい付く間を与えず、胸の高さに突いた片手を軸に鮮やかに飛び移った。優樹の着地と同時に足払いを受けた美月は、舞うように後退すると首を掻ききろうと鉈をふるう。間髪、紙一重で避けて優樹は、鉈を持つ手を掴み捻り上げながら後ろに回り込もうとした。優樹に抑え込まれれば、『蜻蛉鬼』に取り込まれていても女性の力で振り払うことは無理だ。

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◆優樹君、発動です。迫力ある戦闘シーンが描けるように頑張らなくては。まだ書き始めて二本目です、手探りながらも頑張りたいと思います。

◆二部になってから反応が無くて寂しいな……。キャラや文が安定してきたからだとも言われましたが、読んでいるの一言でも欲しいです。一言掲示板、借りてみようかな?

◆やる気はあるけど、筆が進まず2月です。とにかく、完結しなくちゃね。

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