【私立叢雲学園怪奇譚・第二部〔本章〕63】
2004年12月22日 【小説】私立叢雲学園怪奇譚[第62回のあらすじ]
◇菩薩像を元あった洞窟に戻す為、遼たちは秋月島に向かう。しかし既に怪異は始まりつつあった。急ぎ祠に向かおうとする遼は、冬也の発言と轟木の反応に疑問を抱く。
:::::::::::::::::::::::::::::
<本文>
菩薩像を祀る祠に向かいながら、遼は辺りの景観が記憶と違う事に気が付いた。昨日来た時と何が違うのだろう……。注意深く観察すると、歩道両脇のクマザサが所々茶色く変色している。不思議に思い屈み込んだ遼は、変色した葉を持ち上げてみた。
「優樹、ちょっと待って」
訝しそうに眉を寄せ、振り向いた優樹は只ならぬ様子に道を戻ると、隣から手元を覗き込む。
「トンボの幼生だ……羽化する直前だな」
優樹の言った通り、確かにそれはトンボの幼生に似ていた。しかし、これほど大きく不気味な形態は未だかつて見た事がない。体長は十センチ以上あり、鮮やかに朱い頭の部分から、鋭い大きな顎が突きだしている。幾節にも分かれた胴体はビッシリと細かい毛に覆われ、乾いた血のような赤黒い色をしていた。クマザサの茎を揺すってみても、微動だにしない。冬也が折れた木の枝を拾い、クマザサの藪を掻き分けた。
「マゴタロウムシだ、ヘビトンボの幼生だよ。しかし何て大きさだ……変色したクマザサ全てに幼生が付いているなら、恐ろしい数だ。羽化したら一体……」
「羽化させてはならぬ!」
轟木に威喝された冬也は、説明を乞うように不快な顔を向けた。轟木の正体を知らないのだ、無理もない。
「これは『蜻蛉鬼』に力を蓄えるもの……羽化を許せば、多くの犠牲者が出る」
クマザサの茎から幼生を引き剥がし、轟木は踵で踏みつぶした。かなり殻が固いのだろう、ぎりぎりとコンクリートに摺り合わせると、ようやく耳障りな音と共にどろりとした液体が靴底から流れ出してきた。途端、湖に漂っていたものと同じ腐臭が、強く鼻につく。
「轟木先輩は……こういった怪異に詳しいんです」
その場しのぎに遼が説明すると、冬也は取り敢えず了解の仕草で手を挙げ幼生を観察した。
「定位してからの時間が、どれくらい経っているか解らないが……羽化が始まったら二・三時間で未熟成虫になる。暫くは飛行範囲も短く、摂食しながら成虫になるんだよ。この数のヘビトンボが餌を探すとなると……」
はっとした冬也の顔に、恐怖の色が浮かぶ。言わずとも、その場の空気に緊張感が満ちた。
「こいつらを駆除するのは骨が折れそうだねぇ……焼き払うのが、手っ取り早い方法かな。揮発性の高い……ガソリンを撒いて火をつければ、始末できるだろう」
目を細め、アキラが事も無げに呟いた。理に適ってはいるが、どこまでも得体の知れない人だと遼は苦笑する。
「ガレージに、ボート用のガソリンがある。菩薩像を洞窟に戻したら、須刈君の言う通り火を放とう……」
冬也の発言を受け、優樹が石段を駆け登った。その速さについて行けずに息を切らせながら追いかけた遼は、頂から降る痛恨の声を聞いた。
「ちくしょう、間に合わなかったっ!」
急ぎ頂に辿り着いた遼は、祠を睨む優樹の横に立つと臍を噛む思いで開け放たれた扉を見つめ、呟いた。
「誰かが先に、菩薩像を持ち去ったんだ」
誰か? 問うまでもない……美月だ。
「急いで戻ろう……戻って美月さんに……」
その先の言葉に詰まり、優樹は苦渋に顔を歪めた。誰も傷つけたくないと思いながら、叶わぬ現実に苦しんでいる。遼は優樹と向かい合い、その肩をしっかりと掴んだ。
「まだ間に合う、大丈夫だ」
今ここで、優樹が負けるわけにはいかないのだ。自分の力が及ばずに、誰かが傷つき、悲しみ、失う事があれば、今度こそ優樹は己の闇から抜け出せなくなるような気がした。必ず救ってみせると、遼は肩を掴んだ手に力を込めた。
:::::::::::::::::::::::::::::
◆クライマックスが、痒いです(笑)
なんだか毎回、そう言っていますね。尚かつ、ここまで来て伏線を張ってみたり……。終わるんでしょうか?終わりますよ〜ちゃんと!!
◆クドイほどの友情が鬱陶しい「むらくも」です。ちらっと、BLっぽいかと心配になって某サイトで聞いてみました。
まあ、大丈夫でしょうと言う事で(苦笑)
今更です、突っ走りましょう!
◆先が見えてるのに終わらないなぁ……でも頑張ります!!
◆ご感想をお気軽にどうぞ!
〔叢雲掲示板〕
http://www.ad-office.ne.jp/cgi-bin/bbs/ad1.cgi?8429maki
◇菩薩像を元あった洞窟に戻す為、遼たちは秋月島に向かう。しかし既に怪異は始まりつつあった。急ぎ祠に向かおうとする遼は、冬也の発言と轟木の反応に疑問を抱く。
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<本文>
菩薩像を祀る祠に向かいながら、遼は辺りの景観が記憶と違う事に気が付いた。昨日来た時と何が違うのだろう……。注意深く観察すると、歩道両脇のクマザサが所々茶色く変色している。不思議に思い屈み込んだ遼は、変色した葉を持ち上げてみた。
「優樹、ちょっと待って」
訝しそうに眉を寄せ、振り向いた優樹は只ならぬ様子に道を戻ると、隣から手元を覗き込む。
「トンボの幼生だ……羽化する直前だな」
優樹の言った通り、確かにそれはトンボの幼生に似ていた。しかし、これほど大きく不気味な形態は未だかつて見た事がない。体長は十センチ以上あり、鮮やかに朱い頭の部分から、鋭い大きな顎が突きだしている。幾節にも分かれた胴体はビッシリと細かい毛に覆われ、乾いた血のような赤黒い色をしていた。クマザサの茎を揺すってみても、微動だにしない。冬也が折れた木の枝を拾い、クマザサの藪を掻き分けた。
「マゴタロウムシだ、ヘビトンボの幼生だよ。しかし何て大きさだ……変色したクマザサ全てに幼生が付いているなら、恐ろしい数だ。羽化したら一体……」
「羽化させてはならぬ!」
轟木に威喝された冬也は、説明を乞うように不快な顔を向けた。轟木の正体を知らないのだ、無理もない。
「これは『蜻蛉鬼』に力を蓄えるもの……羽化を許せば、多くの犠牲者が出る」
クマザサの茎から幼生を引き剥がし、轟木は踵で踏みつぶした。かなり殻が固いのだろう、ぎりぎりとコンクリートに摺り合わせると、ようやく耳障りな音と共にどろりとした液体が靴底から流れ出してきた。途端、湖に漂っていたものと同じ腐臭が、強く鼻につく。
「轟木先輩は……こういった怪異に詳しいんです」
その場しのぎに遼が説明すると、冬也は取り敢えず了解の仕草で手を挙げ幼生を観察した。
「定位してからの時間が、どれくらい経っているか解らないが……羽化が始まったら二・三時間で未熟成虫になる。暫くは飛行範囲も短く、摂食しながら成虫になるんだよ。この数のヘビトンボが餌を探すとなると……」
はっとした冬也の顔に、恐怖の色が浮かぶ。言わずとも、その場の空気に緊張感が満ちた。
「こいつらを駆除するのは骨が折れそうだねぇ……焼き払うのが、手っ取り早い方法かな。揮発性の高い……ガソリンを撒いて火をつければ、始末できるだろう」
目を細め、アキラが事も無げに呟いた。理に適ってはいるが、どこまでも得体の知れない人だと遼は苦笑する。
「ガレージに、ボート用のガソリンがある。菩薩像を洞窟に戻したら、須刈君の言う通り火を放とう……」
冬也の発言を受け、優樹が石段を駆け登った。その速さについて行けずに息を切らせながら追いかけた遼は、頂から降る痛恨の声を聞いた。
「ちくしょう、間に合わなかったっ!」
急ぎ頂に辿り着いた遼は、祠を睨む優樹の横に立つと臍を噛む思いで開け放たれた扉を見つめ、呟いた。
「誰かが先に、菩薩像を持ち去ったんだ」
誰か? 問うまでもない……美月だ。
「急いで戻ろう……戻って美月さんに……」
その先の言葉に詰まり、優樹は苦渋に顔を歪めた。誰も傷つけたくないと思いながら、叶わぬ現実に苦しんでいる。遼は優樹と向かい合い、その肩をしっかりと掴んだ。
「まだ間に合う、大丈夫だ」
今ここで、優樹が負けるわけにはいかないのだ。自分の力が及ばずに、誰かが傷つき、悲しみ、失う事があれば、今度こそ優樹は己の闇から抜け出せなくなるような気がした。必ず救ってみせると、遼は肩を掴んだ手に力を込めた。
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◆クライマックスが、痒いです(笑)
なんだか毎回、そう言っていますね。尚かつ、ここまで来て伏線を張ってみたり……。終わるんでしょうか?終わりますよ〜ちゃんと!!
◆クドイほどの友情が鬱陶しい「むらくも」です。ちらっと、BLっぽいかと心配になって某サイトで聞いてみました。
まあ、大丈夫でしょうと言う事で(苦笑)
今更です、突っ走りましょう!
◆先が見えてるのに終わらないなぁ……でも頑張ります!!
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