【私立叢雲学園怪奇譚・第二部〔本章〕60】
2004年11月10日 【小説】私立叢雲学園怪奇譚[第59回のあらすじ]
◇学生達から聞いた意想外の話を、日下部は一笑に付した。しかしどこか信じるに足る部分があることを自覚し狼狽える。その理由は、果たして優樹という少年のせいなのか?話だけでも聞こうと思い直したとき、現れたのは緒永冬也だった。
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<本文>
日下部の動揺が手に取るように伝わり、秋本遼の胸には嘗ての怒りを忘れた同情心が湧き上がっていた。鳥羽山がどのような人間であれ、こんな形で命を奪われていいわけがない。その上、死因が化け物に喰われた為と言われれば、普通なら怒り疑いを持つのが当たり前だろう。しかしブナ林から遊歩道におりた緒永冬也は、訝る様子もなく鳥羽山を一瞥すると、両手で顔を覆い唸るように呟いた。
「やはり蜻蛉鬼が、化け物の正体なのか……!」
冬也の言葉に、遼は固唾をのむ。『蜻蛉鬼』を封じる結界を守った園部家の末裔となれば、伝承を信じる気持ちがあっても不思議はない。しかし冬也は、むしろその伝承を笑い詳しく知るつもりが無い素振りさえ見せていたはずだ。
「冬也さん、あなたはまさか……まさか最初から知っていたんじゃないでしょうね、この湖での怪異が『蜻蛉鬼』の仕業だと」
ゆっくりと顔から手を下ろした冬也は、遼に苦渋に満ちた顔を向け頷いた。
「最初から……いや、果たしていつからが始まりだったのか……蜻蛉鬼のことは確証がなかった。だが……湖に何かが棲んでいると気付いた時には、もう遅かったんだよ……私にはどうすればいいか解らなかった……」
「詳しく教えて下さい、僕らには……いえ、日下部さんにも聞く権利がある!」
遼が詰め寄ると、冬也は力なく膝を折り砂地にくずおれた。
「犠牲者は出ないと思ったんだ……君達、『叢雲学園』の生徒は私の友人だから安全だと思っていた。だが、鳥羽山さんは……」
「冬也さんの友人なら安全……?」
はっとして遼は、冬也に駆け寄り膝をついた。
「あなたには解っていた……怪異を呼び起こしたのが、誰なのかを」
無言で俯く冬也の肩が震え、全てを物語る。
「身体の弱かったあの子は、子供の頃よく友達から仲間はずれにされていた。この土地の子供達は野山で自然を相手に遊ぶことが多いから、あの子の為に行動範囲が狭まることを嫌ったんだ。しかし親たちに一緒に遊んであげるようにと言われて、かえって疎まれ恨まれるようになったんだよ。その子供達の中に、ひときわ活動的で皆を先導する男の子がいた。ある時その男の子は、身体の弱いあの子を遊びに誘い、山の奥深いところでわざと置き去りにした。他愛のない悪戯だった……男の子は他の子に頼んで、すぐに私に教えるように言ったそうだからね。だけど私が迎えに行った時、あの子は蒼白な顔で自分を失っていた……」
「美月さん……のことですね」
遼が美月の名を口にした途端、冬也はびくりと身を固くした。その背は今までになく弱々しく見えて、普段の覇気ある姿は微塵も感じることが出来ない。が、深く息を吐き立ち上がった冬也は、落ち着きを取り戻した顔で湖の向こう『秋月島』に目を向けた。
「美月の身体は死人のように冷たく硬かった……だが額は焼けるように熱く、目は赤く淀んだ色をしていたよ。救急車でふもとの病院に運んで医者に診せたところ、ショック症状だと言われて三日ほど入院したが……退院する日になって置き去りにした男の子が父親と謝りに来たんだ。私は怒りのあまり年下のその子に殴りかかった、慌てて親父が止めたけど、気持ちが収まらずに『美月は死ぬところだったんだぞ、お前が死んでしまえ』と暴言を吐いたんだ。それから一週間後、男の子は行方不明になり無惨な死体となって湖から引き上げられた」
鳥羽山の死体に目を向け、次に向き直った冬也の瞳は全ての感情を失ったかのように無機質な光を帯びていた。ある覚悟を決めた目だ、即座に理解した遼は息を呑んで次の言葉を待つ。
「その時……直感で男の子の死因に美月が関係している気がした。だが、まだ子供だった私は死を悼むどころか、当然の報いと思った。ところが犠牲者は、それだけでは済まなかった……」
緊迫した空気が場を満たす。半信半疑の面持ちで聞いていた日下部さえ、真一文字に結んだ唇が今や蒼白になっていた。
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◆禁じ手!独白で謎解きです(笑)
独白の場合、ちゃんと伏線を張らないと「なんのこっちゃ?」になるから気を使います。合いの手を入れるタイミングも難しいですね〜。
◆冬也さんの役割は、一応最初から決まっています。この先、美月さんはどうするんでしょう?書いてる本人にも解りません(オイ!)
あとはラストに向かって勢いが盛り上がると良いのですが……
◆ご感想をお気軽にどうぞ!
〔叢雲掲示板〕
http://www.ad-office.ne.jp/cgi-bin/bbs/ad1.cgi?8429maki
◇学生達から聞いた意想外の話を、日下部は一笑に付した。しかしどこか信じるに足る部分があることを自覚し狼狽える。その理由は、果たして優樹という少年のせいなのか?話だけでも聞こうと思い直したとき、現れたのは緒永冬也だった。
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<本文>
日下部の動揺が手に取るように伝わり、秋本遼の胸には嘗ての怒りを忘れた同情心が湧き上がっていた。鳥羽山がどのような人間であれ、こんな形で命を奪われていいわけがない。その上、死因が化け物に喰われた為と言われれば、普通なら怒り疑いを持つのが当たり前だろう。しかしブナ林から遊歩道におりた緒永冬也は、訝る様子もなく鳥羽山を一瞥すると、両手で顔を覆い唸るように呟いた。
「やはり蜻蛉鬼が、化け物の正体なのか……!」
冬也の言葉に、遼は固唾をのむ。『蜻蛉鬼』を封じる結界を守った園部家の末裔となれば、伝承を信じる気持ちがあっても不思議はない。しかし冬也は、むしろその伝承を笑い詳しく知るつもりが無い素振りさえ見せていたはずだ。
「冬也さん、あなたはまさか……まさか最初から知っていたんじゃないでしょうね、この湖での怪異が『蜻蛉鬼』の仕業だと」
ゆっくりと顔から手を下ろした冬也は、遼に苦渋に満ちた顔を向け頷いた。
「最初から……いや、果たしていつからが始まりだったのか……蜻蛉鬼のことは確証がなかった。だが……湖に何かが棲んでいると気付いた時には、もう遅かったんだよ……私にはどうすればいいか解らなかった……」
「詳しく教えて下さい、僕らには……いえ、日下部さんにも聞く権利がある!」
遼が詰め寄ると、冬也は力なく膝を折り砂地にくずおれた。
「犠牲者は出ないと思ったんだ……君達、『叢雲学園』の生徒は私の友人だから安全だと思っていた。だが、鳥羽山さんは……」
「冬也さんの友人なら安全……?」
はっとして遼は、冬也に駆け寄り膝をついた。
「あなたには解っていた……怪異を呼び起こしたのが、誰なのかを」
無言で俯く冬也の肩が震え、全てを物語る。
「身体の弱かったあの子は、子供の頃よく友達から仲間はずれにされていた。この土地の子供達は野山で自然を相手に遊ぶことが多いから、あの子の為に行動範囲が狭まることを嫌ったんだ。しかし親たちに一緒に遊んであげるようにと言われて、かえって疎まれ恨まれるようになったんだよ。その子供達の中に、ひときわ活動的で皆を先導する男の子がいた。ある時その男の子は、身体の弱いあの子を遊びに誘い、山の奥深いところでわざと置き去りにした。他愛のない悪戯だった……男の子は他の子に頼んで、すぐに私に教えるように言ったそうだからね。だけど私が迎えに行った時、あの子は蒼白な顔で自分を失っていた……」
「美月さん……のことですね」
遼が美月の名を口にした途端、冬也はびくりと身を固くした。その背は今までになく弱々しく見えて、普段の覇気ある姿は微塵も感じることが出来ない。が、深く息を吐き立ち上がった冬也は、落ち着きを取り戻した顔で湖の向こう『秋月島』に目を向けた。
「美月の身体は死人のように冷たく硬かった……だが額は焼けるように熱く、目は赤く淀んだ色をしていたよ。救急車でふもとの病院に運んで医者に診せたところ、ショック症状だと言われて三日ほど入院したが……退院する日になって置き去りにした男の子が父親と謝りに来たんだ。私は怒りのあまり年下のその子に殴りかかった、慌てて親父が止めたけど、気持ちが収まらずに『美月は死ぬところだったんだぞ、お前が死んでしまえ』と暴言を吐いたんだ。それから一週間後、男の子は行方不明になり無惨な死体となって湖から引き上げられた」
鳥羽山の死体に目を向け、次に向き直った冬也の瞳は全ての感情を失ったかのように無機質な光を帯びていた。ある覚悟を決めた目だ、即座に理解した遼は息を呑んで次の言葉を待つ。
「その時……直感で男の子の死因に美月が関係している気がした。だが、まだ子供だった私は死を悼むどころか、当然の報いと思った。ところが犠牲者は、それだけでは済まなかった……」
緊迫した空気が場を満たす。半信半疑の面持ちで聞いていた日下部さえ、真一文字に結んだ唇が今や蒼白になっていた。
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◆禁じ手!独白で謎解きです(笑)
独白の場合、ちゃんと伏線を張らないと「なんのこっちゃ?」になるから気を使います。合いの手を入れるタイミングも難しいですね〜。
◆冬也さんの役割は、一応最初から決まっています。この先、美月さんはどうするんでしょう?書いてる本人にも解りません(オイ!)
あとはラストに向かって勢いが盛り上がると良いのですが……
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