【私立叢雲学園怪奇譚・第二部〔本章〕53】
2004年9月28日 【小説】私立叢雲学園怪奇譚[第52回のあらすじ]
◇再び優樹と対峙した轟木は、挑発するような言葉を吐く。敵意を感じた遼が轟木に意見すると、それを抑えて優樹が自分がやれる事をやりたいという。その気持ちを汲みつつも、轟木の語る新たな事実が遼を困惑させる。
:::::::::::::::::::::::::::::
<本文>
「そう気炎を吐くな、今の私では貴様に到底敵わんよ。さて、『蜻蛉鬼』を封じるには二つの条件を成就させねばならない。一つは篠宮優樹の力で成すことが出来るだろうが、もう一つは少し厄介だ」
これで二度目だと、遼は思った。轟木は優樹を取り巻く焔を見て、かわすことが出来るのだ。その上、深刻な内容とおぼしき話をしながら楽しんでいるようにも思える。
『あいつは……轟木だけど轟木じゃない』
佐野の語った言葉に真実があると、遼は確信した。ならば信用する前に確かめなければならない。
「待って下さい……轟木先輩は、一体どこから化け物の封じ方を聞いてきたんですか? 先輩の言う方法が確実だと言い切れるんですか? 確証があるなら証拠を見せてください。どう呼べばいいのかな……あなたは轟木先輩じゃない、僕と優樹が霧の中で見た獣だ!」
遼が言い放った瞬間、ざわりと空気が震えた。木の枝が裂けるような音がそこかしこから鳴り響き、急激に気圧が変化して鼓膜の奥を不快な圧迫感が襲う。そして眉間に錐を突き立てられ、脳髄をえぐられるような痛みが全身を貫いた。
薄く笑みを浮かべた轟木の瞳は、眼鏡の奥で朱味を帯びた黄金色に揺らめいている。頭を抱え込むようにしたアキラが膝を折ると、遼も吐き気に襲われ前のめりに倒れ込んだ。
「遼っ! アキラ先輩! くそっ、何のつもりだっ!」
激昂した優樹が轟木の襟首を掴んだ。
「礼を弁えぬからだ……うぬらに呼ばせる名など無い。手を離せ篠宮優樹、貴様はこの連中とは違う」
「ふざけんじゃねぇっ! お前も化け物の仲間だな? 今の俺は俺の意志で行動してるんだ……二人に何かするつもりなら、離さねぇぞ!」
「ほう、力ずくで止めるつもりか?」
閉め切った部屋に風が起こった。風はカーテンを引きちぎらんばかりに渦を巻き、壁時計が落ちて砕ける。床がギシギシと悲鳴を上げ、部屋全体が軋んで揺れ動き、空気中が帯電したように体中の毛が逆立った。だがその中心の二人は微動だにしない。
果たして、この現象は轟木によるものなのか。いや違う、風は優樹を軸に轟木に攻めかけているではないか。
「止め……ろっ、優樹! 挑発に乗るな、君は試されている……」
やっとの思いで遼が声を絞り出すと、落ち着いた声で優樹が応じた。
「心配するな、俺は大丈夫だ。だけど、こいつの正体が解るまでは手を離すわけにはいかない」
「貴様がくびり殺しても、死ぬのは轟木彪留であって我ではないぞ」
轟木の言葉に優樹は、ふっと口元を緩めた。
「殺す? 見くびるんじゃねぇよ、俺はもう二度と力に支配されるものか! 直ぐに先輩から出て行け、轟木先輩を俺たちに帰すんだ!」
渦巻く風が青い焔になった。それは今までのような霞に似た不明瞭なものではなく、鮮明で美しい焔の柱だった。柱は幾筋かに分かれて螺旋を描き、絡みつくように轟木を包み込んだかと思うと、捻りあげ、締め付ける。
「ぐううっ……よせっ、やめろっ、解った、解ったから頼む……収めてくれ! 我には、まだ伝えねばならん事があるんだっ! 『蜻蛉鬼』を封じるには、貴様が必要なのだ!」
苦悶の表情で髪を掻きむしり、悲鳴を上げた轟木を優樹は乱暴に突き放した。蒼ざめた顔で蹌踉めくようにベッドに倒れ込んだ轟木に先ほどの勢いは既に無く、憔悴しきっているように見える。
「仮の依代の身では、やはり敵わぬ……」
轟木の言葉に耳も貸さず、優樹は肩を押さえつけると眼鏡を取り去り顔を近づけた。
「さあ教えろ、俺は何をすればいいんだ?」
脱力した身体をマットに沈め轟木は深く息を吐いた。
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◆サイキックになってきました(笑
コミックでサイキック物を読むのは好きですが、書くのはなかなか難しいですね。出来るだけ普通の高校生のレベルから逸脱したくないと思っています。モンスター紛いの化け物退治は、二部だけになるでしょう。三部の敵はやはり人間です。
◆ぼちぼちと三部の設定を固めてみたり。
「叢雲学園高等部横浜校」の生徒会長「鬼龍」くん。優樹君とは剣道の全国大会でいつも二位に甘んじています。趣味はエアライフル。エリート意識の強い秀才タイプ。久々に来栖君に張る、嫌なキャラを登場させられそうで楽しみです。
そしてやはりターゲットは遼君……(笑)
◆ご感想をお気軽に
〔叢雲掲示板〕
http://www.ad-office.ne.jp/cgi-bin/bbs/ad1.cgi?8429maki
◇再び優樹と対峙した轟木は、挑発するような言葉を吐く。敵意を感じた遼が轟木に意見すると、それを抑えて優樹が自分がやれる事をやりたいという。その気持ちを汲みつつも、轟木の語る新たな事実が遼を困惑させる。
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<本文>
「そう気炎を吐くな、今の私では貴様に到底敵わんよ。さて、『蜻蛉鬼』を封じるには二つの条件を成就させねばならない。一つは篠宮優樹の力で成すことが出来るだろうが、もう一つは少し厄介だ」
これで二度目だと、遼は思った。轟木は優樹を取り巻く焔を見て、かわすことが出来るのだ。その上、深刻な内容とおぼしき話をしながら楽しんでいるようにも思える。
『あいつは……轟木だけど轟木じゃない』
佐野の語った言葉に真実があると、遼は確信した。ならば信用する前に確かめなければならない。
「待って下さい……轟木先輩は、一体どこから化け物の封じ方を聞いてきたんですか? 先輩の言う方法が確実だと言い切れるんですか? 確証があるなら証拠を見せてください。どう呼べばいいのかな……あなたは轟木先輩じゃない、僕と優樹が霧の中で見た獣だ!」
遼が言い放った瞬間、ざわりと空気が震えた。木の枝が裂けるような音がそこかしこから鳴り響き、急激に気圧が変化して鼓膜の奥を不快な圧迫感が襲う。そして眉間に錐を突き立てられ、脳髄をえぐられるような痛みが全身を貫いた。
薄く笑みを浮かべた轟木の瞳は、眼鏡の奥で朱味を帯びた黄金色に揺らめいている。頭を抱え込むようにしたアキラが膝を折ると、遼も吐き気に襲われ前のめりに倒れ込んだ。
「遼っ! アキラ先輩! くそっ、何のつもりだっ!」
激昂した優樹が轟木の襟首を掴んだ。
「礼を弁えぬからだ……うぬらに呼ばせる名など無い。手を離せ篠宮優樹、貴様はこの連中とは違う」
「ふざけんじゃねぇっ! お前も化け物の仲間だな? 今の俺は俺の意志で行動してるんだ……二人に何かするつもりなら、離さねぇぞ!」
「ほう、力ずくで止めるつもりか?」
閉め切った部屋に風が起こった。風はカーテンを引きちぎらんばかりに渦を巻き、壁時計が落ちて砕ける。床がギシギシと悲鳴を上げ、部屋全体が軋んで揺れ動き、空気中が帯電したように体中の毛が逆立った。だがその中心の二人は微動だにしない。
果たして、この現象は轟木によるものなのか。いや違う、風は優樹を軸に轟木に攻めかけているではないか。
「止め……ろっ、優樹! 挑発に乗るな、君は試されている……」
やっとの思いで遼が声を絞り出すと、落ち着いた声で優樹が応じた。
「心配するな、俺は大丈夫だ。だけど、こいつの正体が解るまでは手を離すわけにはいかない」
「貴様がくびり殺しても、死ぬのは轟木彪留であって我ではないぞ」
轟木の言葉に優樹は、ふっと口元を緩めた。
「殺す? 見くびるんじゃねぇよ、俺はもう二度と力に支配されるものか! 直ぐに先輩から出て行け、轟木先輩を俺たちに帰すんだ!」
渦巻く風が青い焔になった。それは今までのような霞に似た不明瞭なものではなく、鮮明で美しい焔の柱だった。柱は幾筋かに分かれて螺旋を描き、絡みつくように轟木を包み込んだかと思うと、捻りあげ、締め付ける。
「ぐううっ……よせっ、やめろっ、解った、解ったから頼む……収めてくれ! 我には、まだ伝えねばならん事があるんだっ! 『蜻蛉鬼』を封じるには、貴様が必要なのだ!」
苦悶の表情で髪を掻きむしり、悲鳴を上げた轟木を優樹は乱暴に突き放した。蒼ざめた顔で蹌踉めくようにベッドに倒れ込んだ轟木に先ほどの勢いは既に無く、憔悴しきっているように見える。
「仮の依代の身では、やはり敵わぬ……」
轟木の言葉に耳も貸さず、優樹は肩を押さえつけると眼鏡を取り去り顔を近づけた。
「さあ教えろ、俺は何をすればいいんだ?」
脱力した身体をマットに沈め轟木は深く息を吐いた。
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◆サイキックになってきました(笑
コミックでサイキック物を読むのは好きですが、書くのはなかなか難しいですね。出来るだけ普通の高校生のレベルから逸脱したくないと思っています。モンスター紛いの化け物退治は、二部だけになるでしょう。三部の敵はやはり人間です。
◆ぼちぼちと三部の設定を固めてみたり。
「叢雲学園高等部横浜校」の生徒会長「鬼龍」くん。優樹君とは剣道の全国大会でいつも二位に甘んじています。趣味はエアライフル。エリート意識の強い秀才タイプ。久々に来栖君に張る、嫌なキャラを登場させられそうで楽しみです。
そしてやはりターゲットは遼君……(笑)
◆ご感想をお気軽に
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