[第51回のあらすじ]
◇怪我の様子を見に来た女の子達に元気に振る舞う優樹だったが、その心中は穏やかとは行かないようだった。その優樹を気遣いながらも遼は、触れられない部分があることが焦れる。その時アキラと共に轟木が部屋を訪ねてきた。

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<本文>

 昨日は奇妙な力に気圧され何も言うことが出来なかったが、轟木に対する疑問は計り知れない。何から問い質せばいいか迷う遼の出方を伺うように、轟木が静かに口を開いた。
「何もせずに、この地を去るつもりか?」
 眼鏡の奥、研ぎ澄まされた刀身の鋭さを宿した瞳には、普段の知性的な穏やかさはなかった。射止められ、畏怖を感じて身が竦む。高潔な意志と強大な力に相対して、無力な己に恥じ入りたくなる威圧感だった。だが、この瞳を遼は知っている。優樹が友人同士の無益な争いを諫めるとき、意味無く力を誇示する輩を抑えるとき、確かにこの瞳があった。ただ轟木と違い、その瞳には常に暖かく優しい光が宿っていたのだが……。
「あのなぁ……昨夜から何を聞いても無視してたくせに、それが開口一番に言うセリフかねぇ? 二人に話があるって言うから期待してたんだぜ……そろそろ、お前が抱いてる思惑が何か聞かせて欲しいんだけど?」
 笑みを浮かべながらも轟木に詰め寄るアキラの口調には、抑えた怒りが伺えた。
「僕らに何が出来ると言うんですか? 轟木先輩。まさか妖怪退治をしろとでも? 冗談でしょう、そんなこと出来るわけない」
 遼の反論を鼻であしらい、轟木は優樹に目を向けた。
「また犠牲者が出る……いや、既に出たかも知れない。それでも放っておくつもりか? 篠宮優樹」
「これ以上、優樹を引き合いに出さないで下さい。先輩はいったい、優樹に何をさせるつもりなんだ!」
 相手が先輩であろうと関係ない、今や遼にとっての轟木は優樹だけでなく全ての友人を危険に巻き込もうとする敵にしか思えなかった。同じ想いからか、アキラが遼と優樹を庇う様に轟木の前に立つ。が、突然アキラを押しのけ、優樹が前に進み出た。
「俺に何か出来ることがあるなら……やらせてくれ。これ以上あの人に恐ろしい真似をさせたくない」
「君は美月さんを救えない……遅かれ早かれ、あの人は自らの怨念で破滅するしかないと思うよ。気持ちは解るけど、僕たちには何も出来ないんだ」
 冷たく言い放った遼を、優樹は無言のまま真摯な瞳で見つめた。その視線に耐えられず、つい顔を背ける。
「いつも君の言うことは正論だ……揺るぎない正義と、それを行う勇気がある。だけど、それだけで解決できることばかりじゃない。そんなことをしたら君が……」
 同情の余地はあれど美月に対して冷たい感情しか抱けない遼にとっては、内なる闇の部分と向き合う覚悟が出来たとはいえ、その正体も解決の方向も解らぬままの優樹を危険にさらす様な真似はしたくなかった。これ以上優樹を傷つけない為に、どう思われようとも冷然とした態度を取るつもりだった。しかし優樹の瞳を直視すれば、決意は脆く崩れそうになる。錯綜する想いを読み取ったのか、優樹が遼の腕を掴んだ。
「解ってくれよ、遼。俺は誰かが泣いたり傷ついたりするのは嫌なんだ……助けられるのなら、俺の出来ることをやれるだけやりたい。それが、俺が俺でいられる唯一のやり方なんだ。本当の自分と向き合うためにも、今までの俺を否定するようなことは出来ない」
「優樹……」
 保身にまわり、計算してから行動するなど優樹にとっては意味が無いのだ。優樹には優樹のやり方があり、自分らしさを貫きたいという気持ちは理解できた。ならばそれに従ってサポートするのが、遼のやり方になるのだろう。
「敵わないな、君の好きにしたらいいよ」
 知らず微笑んだ遼は、重く気負っていた責が軽くなるのを感じた。心配には及ばない、優樹を信じて任せればいいのだ。悪い方向に向かうことはないのだと。
 黙したままの轟木に話の先を求めて目を向けると、轟木はすっと目を細め優樹を見つめた。
「かなり意志の力が強くなったな……篠宮優樹が邪念に取り込まれたのは猜疑心や不安から精気が弱くなっていたからだが、今のところ内なる闇に支配される心配はないだろう。内なる闇は自らを殺す、おまえの父のように……。正義感が強いところはよく似ているよ、だだそれが仇になってしまったが」
「え……っ?」
 意想外の言葉に、遼は目を見開き優樹を見た。轟木の家が優樹の祖父の系列会社だという話は聞いたばかりだが、父親の死についても何か知っているのだろうか? しかし、その口振りには何か含みが感じ取れた。抗いがたい呪縛の力、人知を越えた言霊の力……。
「今やらなきゃいけないことに、親父は関係ないだろう? 俺が知りたいのは、湖の化け物をどうしたらいいかだっ!」
 声を荒げた優樹を再び青白い焔が包み込んだ。それは抑えきれぬ怒りか、それとも闇の支配を受けた別人格なのか、正体を見極めんとして遼は注視する。憎悪、敵意、苛立ち、それらの中から感じるのは悲痛な叫び……? 優樹が求めているものの片鱗が微かに見えそうに思えた時、轟木が片手を挙げ焔は霧散する。

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◆一部から時々現れていた優樹君の別人格が、顕著になってきました。ますます少女漫画(?)になってきて満足の自分です。

◆しかし、乙女要素がだんだん少なくなってきたかな。
う〜ん、う〜ん、こんなはずでは?

◆絶対に10月に完結するんだっ!
そう言えば、一部の完結も10月でした。もうすぐ○○才の誕生日かぁ……。毎年誕生月に一本完結できたら、いいかも。そしたら後、○○作は書けそうだな(笑

◆ご感想をお気軽に

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