[第50回のあらすじ]
◇美月が優樹のために、朝早くから薬を調達に行ったことを及川から聞いた遼は、少し複雑な心境だった。

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<本文>

 優樹を心配して訪れた女の子達は、朝から食欲旺盛と聞いて安心した様だ。湿布を取り替えに来た冬也が運んだ厚切りフレンチトーストを平らげ、牛乳の一リットル瓶をあおる姿に呆れて田村杏子が溜息をつく。
「バッカみたい、美加なんか一晩中寝ないで心配してたっていうのに……心配するだけ無駄だったんじゃない?」
 牧原美加が杏子の後ろからおずおず顔を出すと、優樹は決まり悪そうに笑った。
「悪ぃな……牧原、有り難う」
「あっ、あのっ、昨夜は雨で寝付けなかっただけなの……でも良かった元気そうで。それじゃ私、部屋に戻らなきゃ」
 はにかみながら耳まで真っ赤になった美加は、やっとの様子でそれだけ言うと急いで部屋を出て行った。杏子が、その後ろ姿に溜息を乗せる。
「何やってんのかなぁ……面倒見切れないんだから。とにかく優樹、美加を泣かせる様な真似はもうしないでよねっ! わかった?」
「ええっ? ああ、わかった……」
 何時にも増して強気な杏子に優樹は素直に頷いた。しかし女の子達が居なくなり遼と二人になると首を傾げる。
「杏子のヤツ、最近強くなったと思わないか? それにしても……どういう意味かな?」
「さあね」
 美加の気持ちをくんで遼は惚けておいたが、ここまで鈍いと杏子が気の毒に思える。優樹の暴力を目撃したショックと怪我の心配から杏子も眠れなかったのだろう疲れた顔をしていたが、それでもなお美加を気遣っているのだ。
「だけど……みんなに心配かけちまった、逃げてないでちゃんと解決しなきゃならねぇよな。でないと、また……杏子や牧原を泣かせちまう。多分そう言う意味なんだろうけど」
 微妙に取り違えているようだが、優樹なりの理解に遼は笑った。
「そうだね……もし君が不安や恐怖を抱え込んでいるなら、少しずつで良いから話してくれないかな。抑え込まずに解決しなくちゃ、自分をコントロールできないと思うよ。轟木先輩が横浜の本家の話をした時、君らしくない態度に吃驚した。やっぱりお祖父さんやお姉さんが関係あるの?」
 途端、優樹の表情が険しくなり握りしめた拳が小刻みに震えた。間違いなく理由はそこにある様だ。だが、振り払う様に顔を上げて優樹は堪えた笑みを作った。
「ゴメン、今はまだ言いたくねぇんだ……もうちょっと時間を貰えないかな?」
 だけど、と言い掛け遼は言葉を飲む。無理に問い質し、傷つけたくはなかった。
「うん……わかった。でも覚えていてくれよ、僕は何があろうと君の味方だ」
「サンキュ! なんだか子供の頃と立場が逆になっちまったな……やっぱり強いのはお前の方だよ、遼」
「何言ってるのさ、君がいたから今の僕があるんだよ。僕が力になれるなら、何でもするからね」
「ちぇっ、言ってくれるよな」
 ふざけて口を尖らせて見せた優樹は、ふと真顔になると遼から目を逸らした。
「そう言えば……遥斗と宙はどうしてる?」
「えっ? 彼等なら今日は最後の日だからって、満彦さんと渓流釣りに行くと言ってたけど。雨で水が濁ってるから、沢の上流まで車で行ったらしいよ」
「そっか、それならいいんだ」
「今朝、会わなかったの?」
「……」
 昨夜の遥斗と宙の様子では、優樹を避けていると推測できた。おそらく優樹も気が付いているのだろう。
「今朝は早く出かけたみたいだから忙しかったんじゃないかな、帰ったら釣果を聞かせてもらわなきゃね。まあ、あの二人に期待は出来そうもないけど」
「オーナーが付いてるから解らないぜ? 夕飯になるくらい釣ってくるかも知れないじゃないか」
「どうかな?」
 肩を竦めた遼の軽口に優樹が笑う。
「俺も午後から少し走ってみようかなぁ」
「だめだ、君はこの部屋からでないこと。僕が付き合ってあげるから大人しくしてるんだ」
「お前、ここで何してるつもりだよ?」
「当然、勉強。よかったら参考書を貸してあげるけど?」
 ぐっと喉を鳴らし、優樹は嫌そうな顔になる。
「強くなったっていうより性格悪くなったよな、おまえ」
「そう?」
 すまして遼はライティングデスクに向かったが、美月のことや郷田のこと、この地を去る前に何をどうするべきか考えると参考書を開く気にはなれなかった。美月が帰る前にアキラに相談してみようと思い立った時、ノックの音がして返事も待たずドアが開いた。
「轟木が、話があるそうだ」
 そう告げたアキラの後ろには、悠然と立つ轟木彪留の姿があった。

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◆進行上、女の子がいるのは良いですね。一部ももう少し女の子を出せば良かったかな?

◆相変わらず鈍い優樹君です。そんな、お馬鹿なところが必要な役どころ(笑
遼君みたいなキャラは、動きにくいですからね。

◆さて、轟木君は何しにきたのかな?

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