[第48回のあらすじ]
◇解決の糸口を捜して郷田を突き詰めた遼は、その様子から自分の考えが正しかったことを知る。しかしまだ、美月が何をしようとしているか解らない。

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<本文>

『蜻蛉鬼は力の源たる怨念を得て甦ろうとしている。人肉を喰らい、力を蓄え、やがてその姿を現すだろう』
 現代に化け物まがいの現象が起きるとは考えられなかった。しかし放っておけば取り返しが付かなくなると解るのだ。恋愛感情には人それぞれの理由があり、なぜ郷田が美月を選ばなかったか遼には知るよしもない。しかし今ほどの様子から、かつて郷田は美月に想いを寄せていたのだと伺い知れた。湖の怪異は美月の仕業と郷田に信じさせれば、何か手が打てるかも知れないのだが……。
「美月ちゃんとは……小学校の頃から仲が良かった。とても優しくて可愛い子だったけど身体が弱くてね、いつも嫌々マゴタロウを飲まされてたな。中学校に入るまではかなりのお兄ちゃん子で、冬也さんがいないとすぐに泣き出す甘えん坊だった」
「付き合っていた事があったんですか?」
「いや……いつも三人一緒だったからね。オフロードレースで大怪我をした冬也さんがレーサーを諦めて上京した時、美月ちゃんも東京の学校に通うって随分言い張ったんだけど叶わなかった。冬也さんと入れ替わりに僕が帰郷して『美月荘』のシェフになり、冬也さんの代わりにお兄ちゃんになれたらなって思ったんだ……」
 郷田は寂しそうな顔で笑った。
「結局、冬也さんには敵わないって思い知っただけだったよ。それでも傍にいたいと思っていた……そして辛さは募るばかりだった。そんなとき、以前一緒の職場にいた片瀬由利菜という女の子が僕を慕って訪ねてきたんだ。美月ちゃんの役に立てなくて落ち込んでいた僕は、由利菜に惹かれていった」
「湖で亡くなった女性ですね、洞窟の祠に生けてある花を見つけた時に美月さんから聞きました」
 苦渋の表情で深く息を吐き、頭を抱える様に郷田は手を組む。
「由利菜は一人っ子で、地方都市で経営している実家のレストランを継がなくちゃならなかった。でもまだ先の話だと思っていたら婚約する直前に母親が急死して……結婚の日取りは喪が明けてからと言う事になったんだけど、父親だけになったレストランを手伝いに二人で行く事になったんだ。ところが同じ時期に僕が卒業した調理師専門学校からフランス留学の勧めがあって、僕は行きたかったんだけど由利菜に五年も待てないと言われて諦めるつもりだった。そして……あの事件が起きたんだよ」
 しばらく黙した郷田が、口を開くまで遼は待った。辛い記憶は容易に他人に話せるものではないからだ。しかし、疑いを持ちながらも美月が関係していると言った遼の真剣な態度は、郷田に話す決意をさせたに違いなかった。
「悲しみや苦痛から逃れたかった……だから僕は留学を決めて逃げ出したんだ。その時初めて、帰ってきて欲しいと言った美月ちゃんが僕に好意を持っていると知ったんだ。美月ちゃんの気持ちは嬉しかった……だけど……次の言葉で僕の血は凍りついた」
「美月さんは、何と言ったんですか?」
 遼の動悸は速くなる。
「美月ちゃんは……僕にこう言った『良かったわね郷田君、これで留学できるじゃない。私の望み通りになったわ』と……」
 堰を切り押し寄せてきた感情は、計り知れないほどの悲しみだった。愛情と憎悪、寂寥と苦痛、疑問と戸惑い……。あらゆる感傷が綯い交ぜになり、うねりあい、包み込まれて遼の胸は潰されそうになる。苦しさから逃れようと、大きく息を吸い込んだ。もはや疑う余地はない。
「望み通りになったと……言ったんですね」
「ああ……だが待ってくれ、それだけで美月ちゃんが由利菜の死に関係してるとは言えないだろう? 全くの偶然だ」
「本当にそう思いますか? たとえば……及川さんに危険が及ぶ事はないと言い切れるんですか? もし同じ悲劇が……」
「よしたまえ、そんなことあり得ない! 君は……どうかしている!」
 そう叫んだ郷田が、否定しながらも気持ちのどこかで美月に疑いを持っているのは明らかだった。しかし、これ以上問いつめても今日の所は無駄なようだ。
「僕らは客にすぎませんから、明後日にはこの地を去ります。でも……関係ないと済ませる事は出来ない。『秋月湖』には何かが居ます……それを止められるのは郷田さんだけかも知れません。……帰ります、ミルクご馳走様でした」
 顔を俯け無言のままの郷田に会釈すると、遼は冬也を探して傘を借りた。玄関を出れば、さらに雨足は強くなり横殴りの風が傘を奪おうとする。
 しかし遼は濡れるに任せ、コテージに向かって歩き出した。

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◆この回まででVOL6にまとめます。近日中に(今日とは言わない・笑)ホームページ・ノベルにアップしますので、まとめて読んでみて下さい。
鳥羽山君の登場シーンが、涼しく読めるかも知れません。

◆これから先は「解決編」です。
優樹君の秘密が次々と明らかになります、お楽しみに。

◆女の子も活躍します(どういう風に?)
登場シーンがあるだけか?(苦笑)

◆日下部さん、頑張ります〜!

◆ご感想をお気軽に

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