[第47回のあらすじ]
◇優樹の暴力を目の当たりにした後輩の心ない会話に、心情を量りながらも込み上げる不安に潰されそうになる遼だった。しかし逃げずに出来ることをしようと、郷田に話を聞きに行く。すると、去ったはずの日下部が戻ってきたのだが……。

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<本文>

 及川が宿泊者用の部屋着を渡すと、日下部は申し訳なさそうに頭を下げ浴室に向かった。その後直ぐに着替えと温かいミルクを持ってきてくれた郷田に礼を言い、遼は服を着替えてミルクに口を付ける。
「あの……美月さんは?」
 夕食の時から姿の見えなかった美月は、今も厨房の片づけを手伝っている様子がなかった。
「気分が悪いとかで……部屋で休んでいる様だよ。やあ、優樹君は残さず食べてくれたんだね、良かった。冬也さんから怪我の様子を聞いた時は、食事が出来る状態だなんて信じられなかったけど」
「とても美味しかったって言ってました。でも郷田さんはフランス料理が専門なんでしょう? 優樹に用意してくれたのは……」
 人懐こい笑顔で、郷田が微笑む。
「和食、中華、エスニック、何でもござれだよ。ペンションのシェフをやるからには、お客さんの要望に応えられなくちゃ。以前つとめていたレストランみたいに、味の分からない客は来るなって態度は嫌いなんだ。美味しいと言って貰えるのが何より嬉しくてね」
 郷田が用意してくれたのは、中華粥の様だった。すっかり平らげ物足りなさそうな顔の優樹を、遼はたしなめたのだ。
「郷田さんは……これからもずっと『美月荘』のシェフを続けるんですか? それだけの腕があるんですから、もっと大きな町で独立したら成功すると思いますよ」
「いやぁ、僕なんかまだまだ……でも、そう言って貰えるのは嬉しいな。それにこの土地は僕の生まれ故郷だし、離れたくないんだ」
 今までの遼ならば立ち入った事を聞いたりはしないのだが、年の離れた学生に意見されても郷田は不快そうな顔をしなかった。遼は小さく深呼吸すると、意を決して言葉を継ぐ。
「それだけが理由なんですか? たとえば……美月さんの傍を離れたくないとか」
「えっ?」
 郷田の顔色が一気に変わる。
「変な事を言わないで欲しいな……。じゃあ僕はまだ仕事があるから……」
「待って下さい、美月さんが理由でないなら亡くなった恋人のためですか?」
「君は何を言ってるんだ! 他人のプライベートに立ち入る権利はないだろう」
 声を荒げた郷田は慌てて厨房を見たが、及川には聞こえていないとわかり少し安心した様に息を吐いた。
「大きな声を出して済まなかったね、でも子供が詮索する事じゃないよ。もう部屋に帰った方がいい」
 しかし遼は引き下がらなかった。
「僕には聞く権利があるんです、郷田さん。優樹が日下部さん達と喧嘩した事は御存じですね? ではその理由が何か聞いていますか?」
「……美月さんが鳥羽山さんに絡まれていたのを助けたそうだが、それが僕に何の関係があるんだい? 君の友人が勝手にした事だろう?」
「関係あるんです……美月さんは貴方を愛している。そして報われない想いが怨念を生み、湖に眠る邪気を呼び起こした。優樹はそのせいで正気を失ったんだ」
「馬鹿馬鹿しい! 友人を庇う気持ちは分かるが、どう考えても理不尽な言い分だ。君は僕のせいで優樹君が暴力を奮ったと言いたいのか?」
「そうです」
 遼が、きっぱり言い切ると郷田は言葉に詰まった。そして複雑に顔を歪め、蹌踉めくように椅子に座る。
「まさか……そんな。僕のせいなのか? 美月ちゃん。僕が君を……追いつめたのか?」
 一笑されるかと予想していた遼は、意外にもみるみる青ざめた郷田の様子に確信を持った。
「思い当たる事が……何かあったんですね?」
「君に……話す様な事じゃない」
「お願いします、郷田さん。僕は友達を助けたいんです! 原因を突き止めなくては、また優樹は暴力の衝動に支配されてしまうかもしれない。僕は優樹の力になりたい、彼を助けたいんです。貴方は美月さんを助けてあげようとは思わないんですか?」
「助ける?」
「このままでは、美月さんは救われない。何か……恐ろしい事が起きる」
 轟木の残した言葉と、湖で見たヴィジョンが気に掛かっていた。それらは何かを暗示しているのではないか?

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◆自分のためには何も出来ないけれど、誰かのために全てを投げ出せる。多分、男の子でないと出来ないと思う。女の子には、明確な理由があるけど、男の子は理屈じゃないんだよね。

◆あたしは女だから、本当に理解しているとは言えません。でも、男の子が競い合う場所で一緒に行動したりお酒を飲んだりしてると、解らないところが沢山あった。だから色々、理解しようと勤めた。その解った部分と理想の部分を物語に生かしたいと思うだけ。

◆寂しがり屋だけど、精一杯の虚勢を張ってる男の子。がんばれがんばれ、母親の気持ちで応援してるよ。

◆随分と一人前の反乱を起こすようになった5才の息子。「ママが好き」と言ってくれるのは後一年くらいかな?虚勢の中に何があるか見誤らないように、甘やかさないように、ママも頑張らなくちゃ。
素直で正義感溢れる男の子になって欲しいけど、優樹君のような試練があったらかわいそうかな(笑

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