[第46回のあらすじ]
◇増殖する邪気は、新たな犠牲者を生んだ。何事もなく静まりかえった湖は、次に何を求めるのだろうか。

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<本文>

 日暮れと同時に風が戻ったが、どうやら運んできたのは雨雲らしい。突然雷と共に大粒の雨が降り出したため、秋本遼はコテージの自室の窓を閉めるとカーテンを引いた。激しい雨がうるさくガラス窓に叩き付け、時折耳を覆いたくなるほどの雷鳴が鳴り響く。しかし優樹は身じろぎもせず、静かに寝息を立てていた。
「……さん」
 小さく寝言が聞こえて、遼はベットに近付いた。汗で額に張り付いた優樹の髪を掻き上げると、彫りの整った顔に紫色の痣が痛々しい。背を丸め、膝を抱えるようにして眠る姿はいつ見ても子供のようだと苦笑しながら夢見て呼んだのは母親だろうか? 父親だろうか? と考える。どちらにせよ穏やかな寝顔に悪夢ではなさそうだと安心して、遼は郷田が優樹のために用意してくれた食事のトレーを手に部屋を出た。
 階下のリビングでは部屋に引きこもった轟木彪留を除く全員が揃っていたが、楽しい雰囲気とはいかないようだ。地図を広げて明日の撮影場所を相談する須刈アキラと佐野和紀も身の入らない様子で、時折考え込むように会話が止まる。カードゲームをしている忠見遥斗と真崎宙も、ぼんやり手元を見つめているだけだった。
「俺、優樹先輩が怖くなった……。大人二人を半殺しにしたんだぜ? なんか、すげぇよな……」
 遥斗が呟くと、佐野と宙が顔を上げた。
「俺はカッコイイと思ったけど? 強いくせにそれを隠してるなんて馬鹿馬鹿しいじゃないか。気取ってないで力に訴える方が先輩らしいのかも知れないぜ」
 冷ややかに宙がそう言うと、テーブルの地図に目を落としたままアキラが上を指さした。
「口が過ぎるぞ、真崎」
 上を見上げて遼に気付き、宙は真っ赤になる。
「えっと、あのっ、俺は別に……」
 大人げないとは思いながらも弁解しようとする宙を無視して、遼はコテージを出た。遥斗も宙も、知らない方がいいのかも知れない。そして知らなければ、力に恐怖を感じたり憧れたりするのも当然なのだろう。それでも改めて普通の人間からの見方を知れば、差別や偏見に苦しんできた数年前の自分を思い出し涙が込み上げる。
「優……樹……優樹……!」
 逃げない、恐れない、そう誓ったはずだった。だが今は、少しだけ泣きたかった。

 雨合羽を着てはいたが、服に染み込むほどにずぶ濡れになった遼は本棟にはいるのを躊躇った。玄関先でビニール袋から出したトレーを渡して引き返そうかと思案している所に車の音がすると、中から様子を見に出てきた緒永冬也に見つかった。
「遼君じゃないか! ずぶ濡れで風邪引くぞ、早く中に入って! 美……いや、及川君! タオルを持ってきてくれ」
 厨房で後片づけをしていた及川睦美が急いでタオルを取りに行き、何事かと顔を出した郷田が駆け寄ってきてトレーを受け取った。
「明日の朝取りに行くつもりで居たんだ、わざわざ有り難う。 少し濡れちゃった? 僕のトレーナーを貸してあげるから着替えたらどうだい?」
 にこやかに微笑みかけられ、遼は申し出を受ける事にした。雨の中、本棟を訪れたのは郷田から話が聞きたかったからだ。暖かな食堂で待つように言われ、及川から受け取ったタオルで髪を拭いていると玄関から怒ったような冬也の声が聞こえてきた。
「帰ってくれと言ったはずだ!」
「解っている、しかし……」
 聞き覚えのある声に、車の音が戻ってきた日下部だと遼は知った。
「鳥羽山さんは来ていません、何かの間違いじゃないんですか? 連絡くらい取れるでしょう?」
 遼と同じくずぶ濡れの日下部に、タオルを差しだそうとした及川を冬也は手で押しとどめる。
「日下部さんは直ぐにお帰りになる、必要ない」
 ぞんざいな態度に苦笑して、日下部は水の滴る髪を後ろに撫でつけた。
「それが携帯も通じないんですよ……病院から最後に連絡があった時、手伝いに戻ると聞かなくてね。最終バスで近くまで来て、後は歩くと言っていたのですがこの雨だ。所々、鉄砲水も出ているようだし心配なんですよ。無理を承知でお願いします、もう一晩だけここで鳥羽山を待たせちゃくれませんか? ご迷惑は掛けないと約束します」
「もう十分迷惑だ、そんなに心配なら探しに行かれたらいいでしょう?」
「いや、そうしたいのはやまやまですが……雨であちこちの路肩が崩れていましてね。沢が溢れたのか川のようになっている道もあるし、二人揃って遭難したくはないんですよ。雨が上がって水が引き、明るくなるまでは動かない方がいい」
 日下部の言う事は正しかった。いくら迷惑な客とはいえ悪天候の夜中に追い出すわけにはいかず、冬也は苦り切った顔で及川からタオルを取ると日下部に手渡した。
「具合でも悪くなられたら、なお迷惑だ。風呂に入って着替えたらいい、ロビーに毛布を用意しましょう」
「有り難う御座います」
 深々と頭を下げた日下部が、ちらりと食堂に視線を投げた。遼は不快な気分で顔をしかめたが、ふと疑問がわき上がる。日下部の言い分はもっともながら、何か不自然なものを感じるのだ。落ち着かない様子は、本気で心配している様に思える。しかし、ここで待つより手がないといった切迫感があった。

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◆謎解きと解決に向かって駆け足にならないように気を付けないと(笑
ああでも、全ての伏線をクリア出来るかな?

◆何だか最近性格悪いと言われる遼君です。さて、彼は血液型で言うと何型でしょうね?誕生日で言うなら優樹は初夏の生まれ、遼は冬の生まれです。血液型や星座に性格が影響されるという話は科学的根拠はないですが、かなり正確に分析出来る気がしませんか?
ちなみに「かざと」は、天秤座のA型です(笑

遼君はB型?異論のある方は、ご意見お待ちしています(笑

◆ご感想をお気軽に

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