★45・46回連続アップしました、読んで下さる方はご確認下さい。

[第44回のあらすじ]
◇轟木の、らしからぬ態度に疑問を持ちながらもアキラは遼に邪気の正体を尋ねる。しかし説明しようとする遼に優樹が反論した。その時ようやく、優樹の抱える孤独の深さと自分を制御できなくなる恐怖を遼は理解し、共に戦おうと告げたのだった。

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 細波さえなく鉛を流したような湖面が、やけに薄気味悪く思えるのは日暮れが近いためだろう。それにしても鳥のさえずりさえ聞こえず、飛び交う姿もないのはどういう訳か?ズキズキと痛む鼻をアイスパックで冷やしながら、鳥羽山はボートが繋がれた桟橋に腰掛け暗くなるのを待っていた。
 事故処理業者に引き上げてもらった車は幸いなことに故障もなく、木や岩にぶつかって出来た何カ所かの凹みや傷だけで済んでいた。昼間に学生との喧嘩で怪我した鳥羽山を病院に運び、日下部だけ『美月荘』に戻って荷物を積み込み次第引き払う約束でオーナーを取りなしたのだが……。
「けっ、糞面白くもねぇっ!」
 警察沙汰にするのは賢くないと双方が納得したとはいえ、低姿勢でひたすら詫びる日下部に鳥羽山は苛立ちを抑えられなかった。日下部が本気になれば、あんな連中の口を塞ぐことなど造作もないはずだ。しかし鳥羽山を咎めることもせず、病院に連れて行くと偽って桟橋に連れてくると暗くなるまで待つように命じて去っていった。おそらく予てからの計画を実行するため必要な機材を調達に行ったに違いない。その計画とは、『秋月島』の祠から仏像を盗み出し闇ルートで売りさばくことだった。
 暴力団のパシリをしていた鳥羽山が日下部と知り合ったのは、抗争相手の組員を半殺しにして刑務所に入った時である。生来、気弱なくせに激昂しやすく手が早い為に刑務所内でもトラブルが絶えなかったが、他の受刑者達から怖がられ好い気になっていた鼻っ柱を日下部にへし折られたのだ。ボクシングの試合で人を殺してしまい刑務所に入った日下部は、義に厚く面倒見が良いため他の受刑者から信頼されていた。鳥羽山より半年ほど早く出所し、その時に「行くところがなかったら頼ってこい」と言われ迷わず訪ねていったのだ。これ以上、暴力団のパシリや鉄砲をさせられて怖い思いをするのは真っ平だ。だが出所したことが解れば連れ戻されてしまうだろう。日下部なら自分を守ってくれるかもしれないと思ったからだった。
 力がものを言う世界で一目置かれていたらしい日下部は、組の幹部に掛け合って鳥羽山を譲り受けてくれた。もうキレたふりを装って人を脅したり、ヤバイ取引の斥候に立ったり、女を殴ったりしなくて済む。鳥羽山は日下部のためなら何でもしようと自分に誓いを立てた。死ぬことだって厭わない。今までの生き方からすれば、意味があるとさえ思えるからだった。
 日下部が始めた山師まがいの古物商は、意外に楽な商売だった。山村を訪れ軒先で農作業をしている人の良さそうな年寄りに声を掛け、少し力仕事などを手伝いながら上手く取り入り家のお宝を見せてもらうのだ。そして電化製品や他の美術品、もしくはわずかな現金で手に入れ都心で高く売りさばく。若い世代が出てきた場合は、早々に切り上げるのがコツだった。今回も悪い噂が立って人気の無くなった村があると知り、商売もしくは無人の民家にちょいとお邪魔してお宝を集めるつもりで来たのだが、途中立ち寄った役場で価値ある仏像の事を知り、ついでに頂いて帰るつもりでいたのだ。
「気にいらねぇ、ぜってぇぶっ潰してやる!」
 学生に殴られ無様を晒したことは、爪の垢程しかないとはいえ鳥羽山の自尊心を傷つけた。何より悔しいのは初めから勝てる気がしなかった事もあるが、どうやら日下部があの学生に一目置いているようだったからだ。もしや日下部は同じ気質をあの学生に感じて、鳥羽山を使い何かを測ろうとしているのか? 確かに底知れない強さに臆したが、何かが違った。力に気圧されたというよりも、得体の知れない気迫に身が竦んだのだ。思い返せば惨めな気持ちになり、日下部に対して恥ずかしかった。

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◆ここで鳥羽山君活躍(?)ですが……。連続アップしました、続けてお楽しみいただけたら幸いです。

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