[第43回のあらすじ]
◇轟木が語った四獣神の伝承。遼に説明されなおも訝るアキラと佐野は、『魄王丸』が姿を現したと聞いて愕然とする。それも遼と優樹が見ているというのだ。『魄王丸』の正体が四獣神の『白虎』だと言うと、その役割と過去の出来事を轟木は話し始めた。

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<本文>

 ドアが閉じた音で、遼は呪縛から解放された。今までの出来事が全て夢の中で起きたように感じてアキラや佐野を伺い見れば、同じように狐に撮まれたような顔で戸惑いの色を露わにしている。
「あれは……轟木だけど轟木じゃない」
 全員の気持ちを代弁し、佐野が呟いた。
「轟木とは一年の時にクラスが一緒でさ、俺が教室で写真を整理してたら山間のしなびた神社の写真を見つけて場所を聞いてきたんだ。歴史学者になるのが夢で、日本中の神社仏閣や世界中の遺跡を見て歩きたいって言っていた。俺もそういった写真を撮るのが好きだったからよく話すようになって、一緒に写真部に出入りするようになったんだ……。だけど二年生の夏休みが終わってからは人が変わったようになってさ、それが好きなことを諦めて事業を継ぐ為だって知ったのは少し後になってからだった。それでも俺には解るんだ、あいつの本質は変わっちゃいないって。俺は被写体にレンズを向ける前に、頭の中でファインダーを覗く。そうすると、被写体の何を取ればいいかがイメージできるからだ。話を聞きながらファインダーを覗いた時、そこにいたのは轟木じゃなかった……」
 俯いた佐野が泣いているようにも見えたが、遼には掛ける言葉が見つからない。轟木が轟木でないというならいったい何だろう? 同じ確信を抱きながら誰も答えられずにいると、小さく溜息をついてアキラが立ち上がった。
「彪留のことは後で考えるとして……秋本、おまえが邪気の正体を知っているなら教えてほしい。俺はおまえの言葉を信じる、だから隠し事はしないでくれ……頼むよ」
「……はい」
 アキラの言葉が、遼の胸には痛かった。自分だけで解決しようとするあまり、大切な友人の信頼を図らずも裏切ってしまう。だが既に、事態が遼の手に余るところまで来ているのは確かだった。優樹を救うためには、助けがいる。
「邪気の正体は……美月さんです。恨みや怒り、嫉妬といった怨念があの人を取り巻き、死の影を作り出している。理由は推測ですが、郷田さんと及川さんにあると……」
「あの人は関係ない!」
 怒気を孕んだ優樹の声に驚いて、遼は言葉を飲んだ。が、新たに怒りが込み上げる。
「まだ、そんなことを言うつもりなのかい? 君が暴力の衝動に取り込まれたのは、あの人が……」
「あれは俺のせいだ、美月さんは関係ない」
「優樹、君は信じてくれないのか? 僕には解るんだ、湖から感じる邪気は美月さんを取り巻く邪気と同じものだ」
「おまえに、何が解るんだよ! いったい俺の……何が……解る……!」
 身を震わせ、言葉に詰まった優樹を見てようやく遼は理解した。優樹は恐れているのだ、制御できなくなった自分を。そして誰かの責任にして逃れようとする自分が許せないのだ。
「俺は……人を殺すところだったんだ。美月さんのせいじゃない……自分の中にある衝動が、いつか抑えられなくなると思っていた。俺はどこかでいつも、力を奮いたがっていたんだ。暴力の衝動を解放した時、俺は確かに喜んでいた……殴られた時も殴った時も高揚感で身体が震えたんだぜ? どうかしてるんだ、おかしいんだ、俺は……俺は……」
 優樹のベッドに腰掛け、遼はその肩を抱いた。
「大丈夫だよ、優樹。君は決して力に飲み込まれたりしない」
「無理だ……もう俺には抑えきれる自信がないんだ。きっと誰かを傷つける、取り返しの付かないことになる。そして誰もいなくなるんだ……俺の傍から……」
 深い、深い孤独が胸に染み込むように伝わり、優樹が自らを覆っていた壁の正体を遼はやっと知ることが出来た。衝動を抑えられなくなった自分が、見捨てられる事への恐怖。必要とされなくなる事への喪失感。壁への入り口は見つかった。
「無理なんかじゃない、君には出来る。君は、必ず君のままでいることが出来るよ」
「なんで……お前にそう言いきれるんだよ?」
 遼は両手で優樹の肩を掴み、屈したままの上体を起こした。
「顔を上げるんだ優樹! 君は一人じゃない、僕が一緒に戦う。だから何があろうと君は負けない、自分を信じるんだ!」
 顔を上げて、優樹は遼を見つめる。
「俺が……怖くないのか? 傍にいてくれるのか?」
「あたりまえだ」
 言葉もなく、優樹は唇をかんでいた。まなじりに溢れそうになるものを堪えているのだ。優樹の涙を遼が見たのは、父親を亡くした時だけである。何かとすぐに涙する遼と違って、いったいどれだけのやりきれなさと涙を堪えてきたのだろう。もっと早く気付いてあげれば良かった。己を守ることで手一杯だった自分が、ようやく同じフィールドに立つことが出来た気がする。他人の内面にふれ、踏み込むことが怖かった。ただ待つことしかできなかった。優樹の孤独の原因は他にも奥深くある気がしたが、共に戦うために突き止めて入り口を開けてみせる。それが自分のやるべき事だと遼は思った。
「僕はもう待たないよ、優樹。覚悟は出来た、何が来ようと恐れはしない。僕は君と一緒だ」
 優樹の頬を、一筋の光が伝った。

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◆遼君は強くなりましたねぇ……(笑) 主人公という者は成長していくものです。今回はちょっと優樹君が可愛かったかな?

◆原稿は着々と進んでいます、上手くすれば今月中に完結できるかも知れません。出来る限りがんばって、終わらせたいですね。

◆新潟は朝夕の風が涼しくなって参りました、もう秋の気配です。しかし、まだまだ日中の残暑は厳しいです。皆様もお体ご自愛下さいませ。
所沢に帰りたくないなぁ〜(笑)

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