[第41回のあらすじ]
◇コテージに戻り冬也から傷の手当てを受けた優樹を取り巻いて、アキラは疑問を遼に質した。しかし、その問いに答えたのは、意外にも轟木彪留だったのだ。

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<本文>

「一体の……?」
 ごくりと、遼は息を飲んだ。自分はその答えを知っている。優樹を取り巻く青白い光が成す、それは人の姿ならぬ獣の姿。それが優樹の本性だというのだろうか? だとすれば、優樹は一体何者なのだろう……人としてあり得ないものなど信じられるはずがなかった。しかし、あれはまさに……。遼は喉元まで出かけた言葉を発する事が出来なかった。心中を察するかのように、轟木が目を細める。
「いずれ、このままでは済まないだろう。在るべき覚醒の時期ではない故、他の力に振り回されてしまった。秋本遼、お前は篠宮の力を抑えることが出来るようだ……決して側を離れるな」
 窓際を離れ、部屋を出ようとした轟木の前に突然アキラが立ち塞がった。
「待てよ彪留……お前、何か知ってるな? 思わせぶりな事を言ってないで、ちゃんと説明して貰えないかなぁ。……返答次第じゃ、このまま済まないのは貴様の方だ!」
 アキラが怒っている。初めて見るその姿に、遼の背は凍り付いた。飄々として捕らえどころが無く、しかし達観した物の見方で肝心な時にいつも遼や優樹を助けてくれた。的を射た助言をする事はあっても立ち入らず、常に距離を置いて見守っているような所があるアキラが、剥き出しの感情を轟木にぶつけているのだ。その想いを感じ取り、遼は息苦しさを感じた。学園での事件とは違う強い危機感と不安から、アキラは本気で遼と優樹を案じている。
「須刈を怒らせるとヤバイぜ、轟木。こいつは陰険な性格だから、潰したい相手に対して裏から仕掛けてくるんだ。……厭だぜ、俺は。二人が仲違いするのを見るのなんか……。大事な友達だからさ、須刈も轟木も……」
 ぽつりと佐野が呟き、気勢をそがれたアキラは収まらないといった顔をしながらも轟木から一歩身を引いた。微塵の動揺も見せず、轟木はアキラに冷たい目を向ける。
「己の目で見た物しか信じないのが人間だが、真実を知らねば疑惑から妄想の怪物を生み出すも、また然り。いいだろう、『魄王丸』と『蜻蛉鬼』について私が知りうる事を話そう。『秋月島』の伝説は知っていると思うが、『蜻蛉鬼』という化け物について聞き及んでいるか?」
「『秋月島』の別名、謂われとなった伝説でしたら僕から話します」
 遼がスケッチブックを開いて美月から聞いたもう一つの伝説を語ると、神妙に耳を傾けていたアキラが訝しそうに轟木を睨む。
「……ここに来る前から解っていた様な口振りだったな、彪留。お前が伝説や古い謂われに興味を持っていることは知っていたが、調べたのか?」
「……まあ、そんなところだ」
「何故、黙っていた」
「面白い事を言う……。得体の知れない化け物の存在を教え、気を付けろと警告すれば良かったか? 誰もが一笑するだろう、違うか? 現世の人間達は魑魅魍魎、妖怪変化の類など既に信じてはいない。神仏でさえ、形の上で敬えども信仰はない。森羅万象の霊力を蔑ろにし、意のままにならない物はないと思い上がっている……。ただし、秋本遼は別だな、妙な力を持っているために関わらずにはいられなかったようだ」
 思わず遼は、目を伏せた。奇妙な威圧感から、轟木を直視する事が出来ない。
「だからって、なんで篠宮があんな事になっちまうんだよ? 『蜻蛉鬼』って化け物は、俺たちに殺し合いでもさせようってつもりなのか?」
 佐野の言葉に、優樹の身体がびくりと反応した。自分がやろうとした事を思い出したのだろう、握りしめた両拳が小刻みに震えている。痛々しく包帯の巻かれたその手に、遼は自分の手を添えた。
「『魄王丸』に、もう少し時間があれば『蜻蛉鬼』を完全に滅する事が出来たのだ」
「時間……だと?」
 落ち着きを取り戻したアキラは再びベッドに腰掛け轟木を見上げる。
「この国……倭の国は古来より四体の聖獣に守られている。大陸から伝来した呼び名に倣い、それらは何時しか『青龍』『白虎』『朱雀』『玄武』の四獣神と呼ばれるようになったが、方位学などで言われる役割とは本来違った役目を持っていた」
 眉をひそめ顔を見合わせたアキラと佐野のために、遼が説明を買って出た。

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◆長らくお待たせしました……あ、誰も待ってない?はっはっはっ、まあ、ご挨拶と言う事で。

◆一部の方々より、ご指摘を頂きましたが「轟木 彪留」君は「とどろき たける」と読みます。何だかサブキャラの名が、ますます複雑かつ怪奇になりつつあります。

◆さて、お約束の伝承伝説が出てきましたね。この先、主人公達にどう絡むかは、お楽しみ。
作者、脳みそが暑さで溶け始めているのでウンチクに信憑性は期待出来ませ〜ん(逃げ
でも無い知恵絞ってがんばります。

◆励ましの言葉、お待ちしております。最近活力が乏しい「かざと」です。

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