【私立叢雲学園怪奇譚・第二部〔本章〕35】
2004年6月15日 【小説】私立叢雲学園怪奇譚[第34回のあらすじ]
◇『秋月島』の岩場にある洞窟には、花が飾られた小さな祠があった。美月が管理しているとばかり思っていた遼達は、意外な事実を知る事になる。
:::::::::::::::::::::::::::::
<本文>
言われて洞窟の中を覗き込んだ遼は、先の見えない暗闇の手前にある小さな祠に気が付いた。優樹の言うように、飾られた花はまだ新しい。隣で疑わしそうな顔をしていた杏子も、屈み込んで首を傾げる。
「あっ、ホントだ……。でもそれは、管理を任されてる美月さんが……」
「私じゃないわ……あの花は、郷田君が供えたのよ」
「えっ? 郷田さんが?」
何故と問いかける瞳で、杏子は美月に向き直った。
「……郷田君は、八年前に恋人をこの湖で亡くしているの」
「恋人を? だって郷田さんの恋人は……」
寂寥を湛えた瞳で、美月は杏子から祠にと視線を移した。
「郷田君は元々この近くの出身なんだけど、自分の小さな洋食屋を持つのが夢だと言って高校を出てからすぐに東京の調理師専門学校に入ったわ。だけど学校を出て二年ほど大きな店で修行したら、結局、生まれ育った土地で働きたいって帰ってきちゃったの。それで『美月荘』のシェフとして働くようになったんだけど……」
美月は、しめ縄を持ち上げると下を潜り、祠の前に屈んで両手を会わせた。
「郷田君が帰ってきて半年くらい経った頃、東京の同じレストランで働いていたという女の子が『美月荘』で働かせてくれって訪ねてきたの。その子は郷田君を好きになったから、追いかけてきたんだって。私とは正反対の、積極的で明るい、とても可愛い子だった……。最初は迷惑がっていた郷田君も、そのうち彼女に好意を寄せるようになって一年もしないうちに婚約する事になったわ」
突然、話に聞き入る遼の背に、ざわりとした厭な感触が走った。その感触には確か覚えがある。美月から島の別名を聞き、揺らめく瞳の中に影を見た時感じたものだ。しかし何故、今その感触を思い出したのか? また何かが見える前兆なのだろうか……? だが遼は、むしろ美月自身に理由があるような気がしていた。細い肩から背にかけて、弱々しい女らしさとは別の強い気が感じられる。それは言葉にする事がはばかられる気だった。
「……ところが婚約から数日後、突然彼女は姿を消してしまった。山で事故にあったか熊に襲われたのかもしれないと、近隣の村人総出で捜したけれど見つからず、警察に頼んで山狩りしても見つけられなかった。実家や友人の所にも連絡はなく、突然気が変わって婚約から逃げ出したという人もいたわ……でも一週間後、この洞窟の前で彼女は見つかったのよ。半身を食いちぎられたような無惨な姿で……」
「いやっ!」
杏子が、口元を押さえて小さく叫ぶ。
「熊に襲われた後、どうかして湖に落ちた遺体がここに打ち上げられたのだろうと警察は結論を出したわ。だけど地元の猟友会で熊撃ちをしている人は、熊にやられたのではないと言うの。ではいったい、何があったのかしら?」
ゆっくりと立ち上がり肩越しに振り返った美月の顔は、洞窟の暗闇を背景に白く冷たく浮かび上がって見えた。それはまるで生気のない蝋人形のような表情に思えたが、遼に向けられた瞳の中にはまた、妖しい影が揺らめいている。
「まさか『魄王丸』が? あ、でもさっきの話だと『蜻蛉鬼』に喰われちまったってことかな?」
謎をかけられて、素直に答える優樹を美月が笑った。途端に影は姿を消し、優しい面差しの表情が戻る。優樹の言い方が気に入らないのか顔をしかめた杏子も、その変化に気が付いていないようだった。
「そう言う人もいたけど、伝説の獣に襲われたなんて誰も信じないわね。それに湖にはマゴタロウムシが沢山いるから、むしろマゴタロウムシのせいかもしれないと言う人もいたし……」
「マゴタロウムシ?」
怪訝そうに遼が問い返すと、優樹が得意そうな顔で代わりに答えた。
「ヘビトンボの幼虫だよ。ヘビトンボはトンボじゃなくて蜻蛉の仲間なんだけど結構でかくてさ、丁度ヘビが、くっと鎌首もたげたみたいな頭の形をしてるんだ。マゴタロウムシも水棲昆虫の中では王様と呼ばれるくらいで、あの顎でガップリやられたら痛てぇのなんのって。肉食だから多分……」
「お願い、やめてっ!」
杏子の悲鳴に吃驚して、優樹は口を噤んだ。
「ひどいよ、そんなの……。ひどい……」
顔を覆い、座り込んだ杏子は声を殺して泣き出してしまった。
「……悪ぃ杏子、俺はそんなつもりじゃ……」
隣に屈み込んだ優樹があやすように杏子の頭を撫でると、胸が、ちくりと痛んだ。遼と張り合った結果が失態に終わり狼狽える優樹を、いつもなら同情して取りなすのだが今日はそんな気になれない。
「それで……郷田さんは、どうしたんですか?」
マゴタロウムシの話に興味はひかれたが、これ以上杏子を泣かせる話は避けて遼は美月に別の話題を振った。
:::::::::::::::::::::::::::::
◆週二回、今週はクリアできそうです。何とか夏休み中には書き終わりたいですね(笑
◆明日も幼稚園関係で集まりがあります。毎日なんだかんだで忙しく、日記をアップするので手一杯な日もあります。
秘密日記、満足にお返事できなくてゴメンナサイ。メールで頂けると確実にお返事するのですが(汗
週末まとめ読みしてると、話題に遅れたり見逃したりする事もあるんですよ〜。どうか寛大なお気持ちでいらしてくれると有難いです。
◆ヤバイ展開になりつつあるお話ですが、伏線を全てクリア出来るように書き出してみたりしています。
一部も行き当たりばったりだったからなぁ……。成長ないです、自分(T_T)
◆こんな「かざと」ですが、頑張っています。今日も凹みましたが、スタバのお兄さんの笑顔が天からのエールだと思って何とか乗り切りました。
明日、気が重いです……。
マケルモンカ!
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◆hotmail:youkazato@hotmail.com
でも、お気軽に。MSNメッセアドにもなっています。
◇『秋月島』の岩場にある洞窟には、花が飾られた小さな祠があった。美月が管理しているとばかり思っていた遼達は、意外な事実を知る事になる。
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言われて洞窟の中を覗き込んだ遼は、先の見えない暗闇の手前にある小さな祠に気が付いた。優樹の言うように、飾られた花はまだ新しい。隣で疑わしそうな顔をしていた杏子も、屈み込んで首を傾げる。
「あっ、ホントだ……。でもそれは、管理を任されてる美月さんが……」
「私じゃないわ……あの花は、郷田君が供えたのよ」
「えっ? 郷田さんが?」
何故と問いかける瞳で、杏子は美月に向き直った。
「……郷田君は、八年前に恋人をこの湖で亡くしているの」
「恋人を? だって郷田さんの恋人は……」
寂寥を湛えた瞳で、美月は杏子から祠にと視線を移した。
「郷田君は元々この近くの出身なんだけど、自分の小さな洋食屋を持つのが夢だと言って高校を出てからすぐに東京の調理師専門学校に入ったわ。だけど学校を出て二年ほど大きな店で修行したら、結局、生まれ育った土地で働きたいって帰ってきちゃったの。それで『美月荘』のシェフとして働くようになったんだけど……」
美月は、しめ縄を持ち上げると下を潜り、祠の前に屈んで両手を会わせた。
「郷田君が帰ってきて半年くらい経った頃、東京の同じレストランで働いていたという女の子が『美月荘』で働かせてくれって訪ねてきたの。その子は郷田君を好きになったから、追いかけてきたんだって。私とは正反対の、積極的で明るい、とても可愛い子だった……。最初は迷惑がっていた郷田君も、そのうち彼女に好意を寄せるようになって一年もしないうちに婚約する事になったわ」
突然、話に聞き入る遼の背に、ざわりとした厭な感触が走った。その感触には確か覚えがある。美月から島の別名を聞き、揺らめく瞳の中に影を見た時感じたものだ。しかし何故、今その感触を思い出したのか? また何かが見える前兆なのだろうか……? だが遼は、むしろ美月自身に理由があるような気がしていた。細い肩から背にかけて、弱々しい女らしさとは別の強い気が感じられる。それは言葉にする事がはばかられる気だった。
「……ところが婚約から数日後、突然彼女は姿を消してしまった。山で事故にあったか熊に襲われたのかもしれないと、近隣の村人総出で捜したけれど見つからず、警察に頼んで山狩りしても見つけられなかった。実家や友人の所にも連絡はなく、突然気が変わって婚約から逃げ出したという人もいたわ……でも一週間後、この洞窟の前で彼女は見つかったのよ。半身を食いちぎられたような無惨な姿で……」
「いやっ!」
杏子が、口元を押さえて小さく叫ぶ。
「熊に襲われた後、どうかして湖に落ちた遺体がここに打ち上げられたのだろうと警察は結論を出したわ。だけど地元の猟友会で熊撃ちをしている人は、熊にやられたのではないと言うの。ではいったい、何があったのかしら?」
ゆっくりと立ち上がり肩越しに振り返った美月の顔は、洞窟の暗闇を背景に白く冷たく浮かび上がって見えた。それはまるで生気のない蝋人形のような表情に思えたが、遼に向けられた瞳の中にはまた、妖しい影が揺らめいている。
「まさか『魄王丸』が? あ、でもさっきの話だと『蜻蛉鬼』に喰われちまったってことかな?」
謎をかけられて、素直に答える優樹を美月が笑った。途端に影は姿を消し、優しい面差しの表情が戻る。優樹の言い方が気に入らないのか顔をしかめた杏子も、その変化に気が付いていないようだった。
「そう言う人もいたけど、伝説の獣に襲われたなんて誰も信じないわね。それに湖にはマゴタロウムシが沢山いるから、むしろマゴタロウムシのせいかもしれないと言う人もいたし……」
「マゴタロウムシ?」
怪訝そうに遼が問い返すと、優樹が得意そうな顔で代わりに答えた。
「ヘビトンボの幼虫だよ。ヘビトンボはトンボじゃなくて蜻蛉の仲間なんだけど結構でかくてさ、丁度ヘビが、くっと鎌首もたげたみたいな頭の形をしてるんだ。マゴタロウムシも水棲昆虫の中では王様と呼ばれるくらいで、あの顎でガップリやられたら痛てぇのなんのって。肉食だから多分……」
「お願い、やめてっ!」
杏子の悲鳴に吃驚して、優樹は口を噤んだ。
「ひどいよ、そんなの……。ひどい……」
顔を覆い、座り込んだ杏子は声を殺して泣き出してしまった。
「……悪ぃ杏子、俺はそんなつもりじゃ……」
隣に屈み込んだ優樹があやすように杏子の頭を撫でると、胸が、ちくりと痛んだ。遼と張り合った結果が失態に終わり狼狽える優樹を、いつもなら同情して取りなすのだが今日はそんな気になれない。
「それで……郷田さんは、どうしたんですか?」
マゴタロウムシの話に興味はひかれたが、これ以上杏子を泣かせる話は避けて遼は美月に別の話題を振った。
:::::::::::::::::::::::::::::
◆週二回、今週はクリアできそうです。何とか夏休み中には書き終わりたいですね(笑
◆明日も幼稚園関係で集まりがあります。毎日なんだかんだで忙しく、日記をアップするので手一杯な日もあります。
秘密日記、満足にお返事できなくてゴメンナサイ。メールで頂けると確実にお返事するのですが(汗
週末まとめ読みしてると、話題に遅れたり見逃したりする事もあるんですよ〜。どうか寛大なお気持ちでいらしてくれると有難いです。
◆ヤバイ展開になりつつあるお話ですが、伏線を全てクリア出来るように書き出してみたりしています。
一部も行き当たりばったりだったからなぁ……。成長ないです、自分(T_T)
◆こんな「かざと」ですが、頑張っています。今日も凹みましたが、スタバのお兄さんの笑顔が天からのエールだと思って何とか乗り切りました。
明日、気が重いです……。
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