【私立叢雲学園怪奇譚・第二部〔本章〕12】
2004年2月24日 【小説】私立叢雲学園怪奇譚<本文>
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「あなたは島に渡らなかったの?」
背後からかけられた女性の声に、心臓が止まるほど驚いて振り向くと、そこには美月が微笑みながら立っていた。
「えっ? ああ、はい。僕は湖のスケッチをしたかったから……。」
「そう? 素敵な絵を描くのね。」
まだ真っ白なスケッチブックに目を落として、遼は顔を赤らめる。
「……考え事をしてたんです。」
「冗談よ、私のお気に入りの場所を盗られたから、ちょっと意地悪言ってみただけ。」
「あ、すみません!」
慌てて腰を上げた遼を、待って、という仕草で美月が止めた。
「いいの、私は直ぐにお昼の支度に行かなきゃいけないから今は少し息抜きに来ただけ。ここ、良い場所でしょう? 私もトールの下絵を描いたり考え事したり、何時間も過ごすことがあるわ。」
「部屋に掛かっていたトールペイント、美月さんが描いたんですか?」
興味深そうに遼が尋ねると、美月は少しはにかんだように笑った。
「ええ、そうよ。」
壁に掛けられた数点のトールペイント。キヌガサソウ、タテヤマリンドウ、キバナノコマノツメ、ミズバショウ、キクザキイチゲ、そしてノイバラ。
「僕等の部屋にあった、ノイバラの絵がとても素敵でした。」
黒く塗られたバックに、白く可憐な野のバラ。思い出せば美月のイメージと、どこか重なって見える。
「ありがとう、嬉しいわ。高原の植物に詳しいの?」
「いえ、ここに来る前に少し勉強しただけです。絵の題材にするのに、名前も知らないんじゃ仕方ないから。付け焼き刃ですけど……。」
昨夜はそれほど言葉を交わすことがなかったが、こうして二人きりで向き合うと、少し緊張する。美人と言うよりも、蜻蛉のような儚さが魅力的な女性だった。電灯の下で見たときよりも、白く透けるような肌、薄い色の唇。日本的な面立ちと、すんなり長い襟足は、さぞや和服が似合うことだろう。
「勉強熱心なのね、私でお役に立てることがあったら何でも聞いて下さいな。絵も、見せていただけたら嬉しいわ。」
「はい、喜んで。」
返事の声が少しうわずってしまい、遼の顔に血が上る。その様子に気付いて少し微笑み、邪魔をしては悪いと思ったのか、
「じゃあ、ごゆっくり。良い絵が描けるといいわね。」
そう言って美月は立ち去ろうとした。
「あっ、あのっ!」
が、呼び止められて意想外な表情で振り向く。
「何かしら?」
聞き返されて、遼は言葉に詰まった。自分は何が聞きたいのだろう? 聞いても無駄なことだと解っている。それでも聞かずにはいられなかった。
「あの島には……、何があるんですか?」
「『秋月島』のこと?」
美月は美しく弧を描いた眉を僅かにひそめた。
「小さな鳥居と祠、それだけよ。以前は年に何回か、近くの村の宮司さんが来て荒らされていないか管理していたようだけど、その方が亡くなってしまってからは誰も行かないわね。父が役場に頼まれたときだけ様子を見に行っているわ。」
「動物は、いないんですか?」
馬鹿な質問だと、口に出した後から遼は気が付いた。案の定、美月は困惑の笑みで答える。
「とても小さな島だし、岩場だからウサギも居ないと思うわ。渡り鳥ならいるかも知れないけど。」
「そうですか……。」
体裁悪そうに俯いた遼を気の毒に思ったのか、美月は水際に歩み寄り島を指さした。
「あの島には、山城から落ち延びた姫君が一匹の獣と住んでいたという伝説があるのよ。」
えっ、と、遼は顔を上げる。
「白い、獣ですか?」
「白い獣? ええ、その通りよ。黄金の鬣を持つ白い獣だと言い伝えられているわ、何故知っているの?」
「昨日の夕方、湖畔のパーキングで島を見たとき湖面を渡る霧が生き物のように見えたんです。まるで白い獣のように見えました。」
小さな嘘だった。しかし見た事を、そのまま話しても信じて貰えるわけがない。
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◆ホームページを立ち上げて一月たちました。お陰様で500ヒットも超えて、読んで下さる方も増え、嬉しい限り。
何より嬉しいのが感想をいただいたときです。主人公よりサブキャラに意見しやすいのかな?相変わらずアキラ君人気です(笑
遼君は、また別の視点で悩んでます。気の毒なお悩みキャラですね、がんばって下さい(無責任・爆)
◆第一部・全文アップ!番外編も掲載してありなす。(なお裏番外は腐女子的内容のためパスワード制です、ごめんなさい。興味があるかたはメールで問い合わせてください。ホームページ・掲示板からメールで問い合わせできます)
★[MURAKUMO]ホームページ
▽二部VOL1・掲載しました
▽バレンタイン番外編・こちらに移動しました
▽時間帯により繋がりにくくなっていますが、現在サーバー側で調整中との事です。ご不便おかけしています。
http://happytown.orahoo.com/murakumo/
★キリ番プレゼント「神崎君の受難・アフターバレンタイン」掲載しました。
http://open.sesames.jp/youkazato/
★ご意見ご感想はこちらへどうぞ!
(裏設定・ぼやきありです。遊びに来てね!)
[叢雲掲示板]
http://www.ad-office.ne.jp/cgi-bin/bbs/ad1.cgi?8429maki
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「あなたは島に渡らなかったの?」
背後からかけられた女性の声に、心臓が止まるほど驚いて振り向くと、そこには美月が微笑みながら立っていた。
「えっ? ああ、はい。僕は湖のスケッチをしたかったから……。」
「そう? 素敵な絵を描くのね。」
まだ真っ白なスケッチブックに目を落として、遼は顔を赤らめる。
「……考え事をしてたんです。」
「冗談よ、私のお気に入りの場所を盗られたから、ちょっと意地悪言ってみただけ。」
「あ、すみません!」
慌てて腰を上げた遼を、待って、という仕草で美月が止めた。
「いいの、私は直ぐにお昼の支度に行かなきゃいけないから今は少し息抜きに来ただけ。ここ、良い場所でしょう? 私もトールの下絵を描いたり考え事したり、何時間も過ごすことがあるわ。」
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興味深そうに遼が尋ねると、美月は少しはにかんだように笑った。
「ええ、そうよ。」
壁に掛けられた数点のトールペイント。キヌガサソウ、タテヤマリンドウ、キバナノコマノツメ、ミズバショウ、キクザキイチゲ、そしてノイバラ。
「僕等の部屋にあった、ノイバラの絵がとても素敵でした。」
黒く塗られたバックに、白く可憐な野のバラ。思い出せば美月のイメージと、どこか重なって見える。
「ありがとう、嬉しいわ。高原の植物に詳しいの?」
「いえ、ここに来る前に少し勉強しただけです。絵の題材にするのに、名前も知らないんじゃ仕方ないから。付け焼き刃ですけど……。」
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「勉強熱心なのね、私でお役に立てることがあったら何でも聞いて下さいな。絵も、見せていただけたら嬉しいわ。」
「はい、喜んで。」
返事の声が少しうわずってしまい、遼の顔に血が上る。その様子に気付いて少し微笑み、邪魔をしては悪いと思ったのか、
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そう言って美月は立ち去ろうとした。
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「あの島には……、何があるんですか?」
「『秋月島』のこと?」
美月は美しく弧を描いた眉を僅かにひそめた。
「小さな鳥居と祠、それだけよ。以前は年に何回か、近くの村の宮司さんが来て荒らされていないか管理していたようだけど、その方が亡くなってしまってからは誰も行かないわね。父が役場に頼まれたときだけ様子を見に行っているわ。」
「動物は、いないんですか?」
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「とても小さな島だし、岩場だからウサギも居ないと思うわ。渡り鳥ならいるかも知れないけど。」
「そうですか……。」
体裁悪そうに俯いた遼を気の毒に思ったのか、美月は水際に歩み寄り島を指さした。
「あの島には、山城から落ち延びた姫君が一匹の獣と住んでいたという伝説があるのよ。」
えっ、と、遼は顔を上げる。
「白い、獣ですか?」
「白い獣? ええ、その通りよ。黄金の鬣を持つ白い獣だと言い伝えられているわ、何故知っているの?」
「昨日の夕方、湖畔のパーキングで島を見たとき湖面を渡る霧が生き物のように見えたんです。まるで白い獣のように見えました。」
小さな嘘だった。しかし見た事を、そのまま話しても信じて貰えるわけがない。
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何より嬉しいのが感想をいただいたときです。主人公よりサブキャラに意見しやすいのかな?相変わらずアキラ君人気です(笑
遼君は、また別の視点で悩んでます。気の毒なお悩みキャラですね、がんばって下さい(無責任・爆)
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▽時間帯により繋がりにくくなっていますが、現在サーバー側で調整中との事です。ご不便おかけしています。
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