◆本文中、ダークな部分があります。苦手な方はご注意ください。

〔本文〕

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「へへぇっ、素直じゃねぇか。でもなぁ、いまさら命乞いなんかするなよ。『啼恐鬼童子』を殺られちまって、この先不便でしかたねぇんだ……きっちりと礼はさせてもらうぜ!」
 獲物を追い詰めた肉食獣のように、鬼は舌なめずりして逃げ場のない将隆に覆い被さる。大降りに振りかぶった長い爪が喉笛を射程に捕らえ、まさに振り下ろされようとした時。
 鬼の頭が、僅かに仰け反ったのを康則は見た。
 フェンスを跳び越え、コインパーク側に降り立った将隆がゆっくりと右手を挙げる。すると同時に閃いた雷光が、その真後ろに五つの人影を照らし出した。各々が、銃器を手にした黒い戦闘服集団。
「観念した方がいいのは、どうやら貴様の方だな」
 将隆の口元に浮かんだ冷たい笑みに、康則は苦汁を飲んだ。奴等……『六道兄弟』の手を借りる事になったからだ。
「なるほど、随分とでかい仕掛けがあったわけだ……迂闊だったぜ!」
 眉間を押さえていた手をのけると、コインパーク奥に停めてある黒いランドクルーザーに向かって鬼が吠えた。嘗て角があった部分は深くえぐれ、諾々と流れる血が雨と反応して白煙を生む。応えるかのようにランドクルーザーの影から現れた戦闘服は、しなやかな細い肢体とショートカットの小さな頭、白い顔。手には〈MAUSER 66Sp〉スナイパーライフル。
「女……か」
 思いもよらない展開に焦りを覚えたのだろう、鬼はフェンスを跳び越えるとランドクルーザー目掛けて走り出す。女を人質に取るつもりなのだ。〈MAUSER 66Sp〉の装弾数は三発。一発目は康則の危機を救い、二発目は将隆に迫る鬼を退けた。
 ランドクルーザーに到達する数メートル手前、くぐもった破裂音がして鬼が膝を突いた。三発目が膝頭を撃ち抜いたのだ。
「ぐぅっ、げっ!」
 ヒキガエルのような声で呻き踞った鬼は、それでも地を這うようにしてランドクルーザーに躙り向かう。だが野犬に狙われた獲物のごとく、瞬く間に戦闘服の男達に包囲されてしまった。
「撃て!」
 その中で一番体格の良い男が声高に命じると、一斉に向けられた〈H&K MP5SD5〉の重低音が唸った。フルオートで撃ち出された弾は、鬼の身体を踊らせ原型を留めないほどに砕いていく。銃弾が血と雨の膜を作り出し、鼻をつく刺激臭と白煙の中に肉片が四散した。
「止め!」
 足下を揺るがす激震は数分で止み、康則は機銃掃射の凄まじい威力に言葉を失う。目の前のそれは既に肉塊と呼べる代物ではなく、破砕された赤黒い物体でしかなかった。
 気が付けば雷鳴は遠くになり、勢いを失った雨に天空を仰げば雲の切れ間からぼんやりと霞んだ月が見えていた。日が昇るまであと数時間、おそらくこの時間帯が絶え間ない喧噪に満ち溢れた新宿の、いちばん静かな時なのだろう。路上に折り重なる、死体の山は別としてだが……。
 将隆がフェンスに歩み寄り、立て掛けたままの『鬼斬りの刀』を手に取る。焼けてボロボロになった柄を握り、さらりと鞘から引き抜いた刀身は、美しい刀文もそのままに清々しい青みを帯びた輝きを放っていた。
 本体に雷撃による痕跡が微塵もない事を確認すると、将隆は再び刀身を鞘に収めた。その行動に疑問を抱き、康則は慌てて駈け寄る。
「将隆さま、鬼を斬らないのですか?」
「康則は面白いことを言うなぁ、これの何を斬ればいいんだ?」
 笑みを浮かべて将隆は、かつて人の形をしていたものに目を向けた。雨に洗われ、所々に白く突き出しているのは骨の名残だ。だが『鬼斬りの刀』で断つべき角は、既にスナイパーライフルによって砕け散っている。

〔つづく〕

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◆また更新遅れちゃった(てへ
 旦那が新しいマシンを組み始めて、一台しかないモニターを占有してたから更新できなかったんですよぅ(TT)
 それはさておき絶大なる力を持つ「六道部隊」の登場で、風向きが変わってきた康則の立場。それからどうなるのでしょう? 書いている私にも解りません(マテ

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