◆本文中、ダークな部分があります。苦手な方はご注意ください。

〔本文〕

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 『鬼斬りの刀』が使えなければ、『二角鬼童子』の動きを封じ捕獲するよりなかった。三体の『啼恐鬼童子』を打ち倒すのは康則の仕事だ、将隆に指一本触れさせるわけにはいかない。上空を舐める稲妻を気にしながら康則は、太刀を構え将隆の前に立った。
「たかがガキども二匹だ、『鬼斬りの刀』さえなけりゃあ片付けるのに手間は掛かからねぇ!」
 その声を合図に、三体の影が康則に襲いかかる。長く伸びた爪が首を目掛けて繰り出され、カラーに薄い金属片を仕込んだ襟を切り裂いた。バックステップで間合いをとり、一太刀で目の前の胴を払うと翻す切っ先で二体目の眉間を割く。激しい雨音に掻き消される怒声と悲鳴。街中の戦闘で、雨は所業を覆い隠してくれる。だが長く雨に打たれた身体は、もはや限界だった。二太刀目を振り切ったとき、刀の重みで足下がふらついてしまったのだ。
 雷雲から轟く、重々しい鳴動。落雷覚悟で上段に構えた康則は、三体目に斬り掛かった。しかし初太刀を難なくかわされ、勢い踏み留まったところで鳩尾に一撃を喰らう。
「がっ、くはっ!」
 唇を噛むことで遠のきそうになる意識を堪え、地面に身体を転がし辛うじて二撃目を逃れた。汚水が目に入り、視界が霞む。吐き気を抑えながら体勢を立て直し、間断なく降りしきる雨の水幕に目を凝らせば、映し出されたネオンに浮かび上がった男はまだ幼さが残る少年だった。だが残忍な笑みを浮かべた土気色の顔に、人間らしさは残されてはいない。私利私欲の為に魂を売った、あさましい鬼の下僕だ。
 男は康則の襟首を片手で掴むと、その小柄な体格から想像もつかないほどの力で易々と身体を持ち上げた。振り解こうと足掻いたが、捕まれてしまえば力で敵わない。ぎりぎりと首を締め上げながら、臓腑を剔るため片方の手は爪で学生服を切り裂いていく。 
 殺られる……背筋に冷たい戦慄が走った。
 眼前に迫る、喜悦の表情。が突如、それは奇妙に歪むと康則を掲げていた手が緩んだ。身体を引き剥がした途端、男は膝を折りアスファルト上に突っ伏す。将隆に助けられたかと姿を探せば、数メートル先で対峙する影が二つ。一方は紛れもなく将隆だ。と、すれば……。
 疲れも見せずシャープな体捌きで鬼の攻撃をかわしながら、将隆が康則に視線を投げた。その有無を言わさない透徹な瞳に、ついに康則も了解の意志を持って目を伏せる。
「逃げてねぇで、観念しな!」
 有効な痛手を与えられず焦れた鬼が恫喝すると、フェンスを背にして将隆は動きを止めた。

〔つづく〕

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◆更新が一日遅れました、ゴメンナサイm(__)m 卒園やら入学やら、まだ時間があると思っていたけど気が付けばすぐですね。なんだか、落ち着かないです(笑)
 で、ぼうっとしていて、無駄に時間を過ごしています。気合い入れなくちゃ〜。

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