【私立叢雲学園怪奇譚・第二部〔本章〕29】
2004年5月7日 【小説】私立叢雲学園怪奇譚[第28回のあらすじ]
◇優樹に想いを寄せる、牧原美加の心配をしていた杏子は、いつしか自分の想いを口にしていた。気持ちを測りきれずに戸惑う遼。それでも確かめようと勇気を出したのだが、思いも寄らない展開となってしまった。
:::::::::::::::::::::::::::::
<本文>
優樹と桟橋に赴いた遼は、緒永美月が一人でボートの用意をしているのを見て驚いた。係留されている二〇フィートクラスのボートはフィッシングに利用する事もあると緒永満彦から聞いていたが、美月が操縦出来るとは思ってもみなかったからだ。
「あの……美月さんが操縦するんですか?」
「あらそうよ? 私の操船では心配かしら?」
「あっ、いえっ、そうじゃなくて……冬也さんが操縦すると思ってたから……」
美月に微笑みかけられて、遼は赤面する。満彦が日下部の事で『美月荘』を離れられないと知っていたため、てっきり冬也がボートを出すのだと思っていた。それに美月は、ケーキ教室のアシスタントをしているはずである。
「安心していいわよ、ちゃんと二級小型船舶操縦士免許を持っているから。それに父さんや兄さんより、私の方が操船が上手いのよ? いつも社の管理に行くのは私なんだもの……ところで杏子ちゃんはケーキ教室に参加しなかったの?」
遼の後ろでむくれている杏子に、美月は声を掛けた。
「……あたしはケーキ作りに興味ないんです。美月さんこそ、なんでここにいるんですか? ケーキ教室は、郷田さんと美月さんで教えてるんでしょう?」
「えっ? ええ……でも今は郷田君と及川さんに任せてあるの。私が二人の邪魔をしたら悪いものね」
そう言って微笑んだ美月が、心なしか寂しげに見えて遼は戸惑った。杏子の言い方に、気を悪くしたのだろうか?
「杏子ちゃん、そんな言い方したら……」
「だって……」
湖の散策を邪魔したのは優樹だが、もとはと言えば美月が中島に誘ったからだと八つ当たりしているのだろう。あの時、杏子が言いかけた言葉を最後まで聞く事が出来なかったのは残念でもあり、しかし内心ほっとした気持ちもあった。なぜなら、いつも自分は物事を受け止めるのに時間が掛かりすぎる所があるのだ。考えすぎるうえに覚悟が足りない。
「杏子ちゃんのご機嫌が悪いのは、きっとお天気のせいね? 晴れればもっと綺麗な景観を楽しんで貰えるんだけど……ごめんなさい」
「あっ、美月さんのせいじゃないんです……それに曇り空の風景、あたし好きです! そのっ、中島には行きたかったから楽しみだし……」
生意気な言い方を反省して杏子が取り繕うと、慣れた手つきで舫綱を纏めていた優樹が、からかった。
「なぁんだ、ふくれっ面してるから行きたくないのかと思ったよ。」
杏子は上目使いで優樹を睨みつけ、大きく息を吸い込む。
「あ、の、ねえっ!」
「ちょっと待って!」
急いで遼は、間にはいった。
「頼むよ優樹、君はこれ以上何も言わない方がいいと思う」
真剣な眼差しに何かを察し、優樹は怪訝そうに顔をしかめたが「わけ、わかんねぇや」と呟いて美月の後からボートに乗り込む。ほっとして遼は、杏子に向き直った。
「杏子ちゃん……良かったら明日、またスケッチに付き合って貰えないかな? 明日なら晴れるかも知れないし」
「でも……あたしお喋りだから邪魔になっちゃうよ?」
「話し相手がいた方が、僕も楽しいから」
途端、杏子の顔が明るくなった。
「ホント? 嬉しい!」
遼は笑顔を返し、先にボートに乗り込んだ。だが波に揺れるボートに、杏子は乗り込むタイミングがつかめないようだ。
「大丈夫? 僕に掴まって」
杏子は一瞬、躊躇ってから差し出された手を取った。タイミングを計って引っぱると、ふわり、と飛び乗った女の子の軽さに驚く。髪が頬をかすめ、いつものシャンプーの香りがした。
今の遼には、やりたい事も、やらなければならない事も、心配事も数え切れないほどある。その全てから逃げずに、覚悟を決める事が出来るか自信はなかった。それでも、今の気持ちは大切にしたいと思わずにいられなかった。
:::::::::::::::::::::::::::::
◆何とか今週分もアップです(大汗)
◆スィートな展開は此処まで(笑)
お話は、本筋に戻ります。日下部の目的、轟木の思惑、美月の謎が少しずつ明らかに(なるはず・笑)
中島に渡り、白い獣との因縁も聞く事になります。
◆おかげさまで、一部の改稿が終わりました。
書き上げてから、沢山の方に感想をいただき、それを活かさないのは不誠実だと思って改稿に望みました。
皆さんの意見を全て活かせたか自信はありませんが、とても勉強になりました。改めて有り難うございます。
特にYちゃん、書きかけは数知れず、完結してからも10回くらい読んでくれて、数々の指摘を有り難う。
「けま」さんも、完結してから3回以上読んでくれました。そのたび厳しい書評をありがとう。
改稿した作品は、近日ホームにアップの予定です。
「何処がどうなったか読んでやろう」という奇特な方は、覗いてみてくださいね。
★ご意見ご感想をおねがいします。
「MURAKUMO」
http://mypage.odn.ne.jp/home/kazatoyou
◆hotmail:youkazato@hotmail.com
でも、お気軽に。MSNメッセアドにもなっています。
◇優樹に想いを寄せる、牧原美加の心配をしていた杏子は、いつしか自分の想いを口にしていた。気持ちを測りきれずに戸惑う遼。それでも確かめようと勇気を出したのだが、思いも寄らない展開となってしまった。
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<本文>
優樹と桟橋に赴いた遼は、緒永美月が一人でボートの用意をしているのを見て驚いた。係留されている二〇フィートクラスのボートはフィッシングに利用する事もあると緒永満彦から聞いていたが、美月が操縦出来るとは思ってもみなかったからだ。
「あの……美月さんが操縦するんですか?」
「あらそうよ? 私の操船では心配かしら?」
「あっ、いえっ、そうじゃなくて……冬也さんが操縦すると思ってたから……」
美月に微笑みかけられて、遼は赤面する。満彦が日下部の事で『美月荘』を離れられないと知っていたため、てっきり冬也がボートを出すのだと思っていた。それに美月は、ケーキ教室のアシスタントをしているはずである。
「安心していいわよ、ちゃんと二級小型船舶操縦士免許を持っているから。それに父さんや兄さんより、私の方が操船が上手いのよ? いつも社の管理に行くのは私なんだもの……ところで杏子ちゃんはケーキ教室に参加しなかったの?」
遼の後ろでむくれている杏子に、美月は声を掛けた。
「……あたしはケーキ作りに興味ないんです。美月さんこそ、なんでここにいるんですか? ケーキ教室は、郷田さんと美月さんで教えてるんでしょう?」
「えっ? ええ……でも今は郷田君と及川さんに任せてあるの。私が二人の邪魔をしたら悪いものね」
そう言って微笑んだ美月が、心なしか寂しげに見えて遼は戸惑った。杏子の言い方に、気を悪くしたのだろうか?
「杏子ちゃん、そんな言い方したら……」
「だって……」
湖の散策を邪魔したのは優樹だが、もとはと言えば美月が中島に誘ったからだと八つ当たりしているのだろう。あの時、杏子が言いかけた言葉を最後まで聞く事が出来なかったのは残念でもあり、しかし内心ほっとした気持ちもあった。なぜなら、いつも自分は物事を受け止めるのに時間が掛かりすぎる所があるのだ。考えすぎるうえに覚悟が足りない。
「杏子ちゃんのご機嫌が悪いのは、きっとお天気のせいね? 晴れればもっと綺麗な景観を楽しんで貰えるんだけど……ごめんなさい」
「あっ、美月さんのせいじゃないんです……それに曇り空の風景、あたし好きです! そのっ、中島には行きたかったから楽しみだし……」
生意気な言い方を反省して杏子が取り繕うと、慣れた手つきで舫綱を纏めていた優樹が、からかった。
「なぁんだ、ふくれっ面してるから行きたくないのかと思ったよ。」
杏子は上目使いで優樹を睨みつけ、大きく息を吸い込む。
「あ、の、ねえっ!」
「ちょっと待って!」
急いで遼は、間にはいった。
「頼むよ優樹、君はこれ以上何も言わない方がいいと思う」
真剣な眼差しに何かを察し、優樹は怪訝そうに顔をしかめたが「わけ、わかんねぇや」と呟いて美月の後からボートに乗り込む。ほっとして遼は、杏子に向き直った。
「杏子ちゃん……良かったら明日、またスケッチに付き合って貰えないかな? 明日なら晴れるかも知れないし」
「でも……あたしお喋りだから邪魔になっちゃうよ?」
「話し相手がいた方が、僕も楽しいから」
途端、杏子の顔が明るくなった。
「ホント? 嬉しい!」
遼は笑顔を返し、先にボートに乗り込んだ。だが波に揺れるボートに、杏子は乗り込むタイミングがつかめないようだ。
「大丈夫? 僕に掴まって」
杏子は一瞬、躊躇ってから差し出された手を取った。タイミングを計って引っぱると、ふわり、と飛び乗った女の子の軽さに驚く。髪が頬をかすめ、いつものシャンプーの香りがした。
今の遼には、やりたい事も、やらなければならない事も、心配事も数え切れないほどある。その全てから逃げずに、覚悟を決める事が出来るか自信はなかった。それでも、今の気持ちは大切にしたいと思わずにいられなかった。
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◆何とか今週分もアップです(大汗)
◆スィートな展開は此処まで(笑)
お話は、本筋に戻ります。日下部の目的、轟木の思惑、美月の謎が少しずつ明らかに(なるはず・笑)
中島に渡り、白い獣との因縁も聞く事になります。
◆おかげさまで、一部の改稿が終わりました。
書き上げてから、沢山の方に感想をいただき、それを活かさないのは不誠実だと思って改稿に望みました。
皆さんの意見を全て活かせたか自信はありませんが、とても勉強になりました。改めて有り難うございます。
特にYちゃん、書きかけは数知れず、完結してからも10回くらい読んでくれて、数々の指摘を有り難う。
「けま」さんも、完結してから3回以上読んでくれました。そのたび厳しい書評をありがとう。
改稿した作品は、近日ホームにアップの予定です。
「何処がどうなったか読んでやろう」という奇特な方は、覗いてみてくださいね。
★ご意見ご感想をおねがいします。
「MURAKUMO」
http://mypage.odn.ne.jp/home/kazatoyou
◆hotmail:youkazato@hotmail.com
でも、お気軽に。MSNメッセアドにもなっています。
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