【私立叢雲学園怪奇譚・第二部〔本章〕28】
2004年4月30日 【小説】私立叢雲学園怪奇譚[第27回のあらすじ]
◇杏子と一緒に湖を散策する遼の気持ちは晴れない。どうしても日下部の言葉が頭から離れないからだった。杏子は遼に相談事をしたいのだが、聞いて貰えず不機嫌になる。それはどうやら、友人の恋愛問題らしかった。
:::::::::::::::::::::::::::::
<本文>
「健気な美加の事だから、気長に待つつもりなんだろうなぁ……あたしには無理かも」
杏子に見つめられて遼は、どぎまぎしながら目を逸らす。
「でも、牧原さんのケーキは美味いって言ってたから、優樹もまんざらじゃないかも知れないよ」
「ふふっ、美加ってば最近腕を上げたもん。優樹も、つられちゃうよねっ。……遼くんは、何かにつられちゃったりする事ある?」
思いもよらない事を小さな声で尋ねられ、遼は視線を戻した。すると今度は杏子が目を逸らすように俯く。
「……そっ、そうだな……僕は何かに釣られたりしないと思うんだけど……」
どう答えたら良いのか解らず、遼は言葉につまった。
「あっ、ゴメン、つまんないこと聞いちゃって……」
俯いた杏子の耳が赤いのに気付いて、遼の胸に温かな物が広がり鼓動は早くなった。もしかして自分に好意を抱いているのかな、と、思う事が何度かあったが確信は持てなかったし、よもや聞いてみる事など出来ない。むしろ従妹で幼なじみの優樹に対する遠慮のない物言いの方が気持ちが通じあっているように思えたが、それは好き……とは違った感情なのだろうか?
悩んでも仕方がないと、今まで考える事を避けていたのかもしれない。人に見えない物が見える力を気持ち悪がられる事に不安があって、今まで女の子はおろか男友達さえつくらなかった。だから杏子の事は気になるし可愛いと思っても、それ以上の感情を抱く事には躊躇いがあったのだ。ヴィジョンを見る力を杏子は知っているはずだが、口に出した事は一度もない。触れてはいけないと、思っているのだろうか? それともやはり、気味が悪いと思っているのだろうか……?
錯綜する思考を、遼は一度閉じた。考えすぎる性格に辟易しながらも、こんな場合は特に答えが出せない。
「えっと、そのっ……だけど、何に対してもひたむきで、一所懸命な人には惹かれるかな」
そう答えるのが精一杯だった。
杏子は顔を上げ、真っ直ぐな瞳で遼を見た。遼も視線を逸らさず受け止める。鼓動がやけに大きく耳に響き、外にまで聞こえたらどうしようかと戸惑った。
「……それって、やっぱり優樹の事?」
「えっ?」
意想外の言葉に、遼は目を見開く。
「確かに優樹は単純で馬鹿だけど、いつだって直向きで一所懸命だもんね。昨夜、轟木先輩に言われたことで、今日は何だか元気がなかったみたい。横浜の家のことは一番言われたくないんだって、あたしも知ってる。でも厭な事を表に出さないで、いつも無理してるようなトコがあって……」
どうやら伝えたい気持ちは、伝わらなかったようだ。遼は解らないように小さく溜息をついて、笑顔を作った。
「……そう、だね。心配してるの? 優樹の事」
「ちょっとだけ。一つしか年は違わないけど、世話の焼けるお兄ちゃんみたいに思ってるんだ、ちっちゃい時は結構頼りにしてたし。今なんか、あたしの方がお姉ちゃんみたいだから、優樹の事を代わりに心配してくれる女の子がいれば、あたしだって……あのねっ……」
収まりかけていた鼓動が、再び高鳴る。
「あたし……」
「遼! 此処にいたのか! なんだ、杏子も一緒なら丁度いいや。美月さんが、これから湖の中島に渡るっていうから誘いに来たんだけど、行くだろっ?」
しかし、遊歩道の上にある車道から大声で呼びかける優樹の声に、杏子の言葉は遮られてしまった。
「……優樹の、ばかぁっ!」
「ええっ?」
杏子に叫び返され目を白黒させた優樹を、遼は笑うより仕方がなかった。
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◆残念だったね、杏子ちゃん。これはまあ、お約束と言う事で(笑)
★ご意見ご感想をおねがいします。
「MURAKUMO」
http://mypage.odn.ne.jp/home/kazatoyou
◆hotmail:youkazato@hotmail.com
でも、お気軽に。MSNメッセアドにもなっています。
◇杏子と一緒に湖を散策する遼の気持ちは晴れない。どうしても日下部の言葉が頭から離れないからだった。杏子は遼に相談事をしたいのだが、聞いて貰えず不機嫌になる。それはどうやら、友人の恋愛問題らしかった。
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<本文>
「健気な美加の事だから、気長に待つつもりなんだろうなぁ……あたしには無理かも」
杏子に見つめられて遼は、どぎまぎしながら目を逸らす。
「でも、牧原さんのケーキは美味いって言ってたから、優樹もまんざらじゃないかも知れないよ」
「ふふっ、美加ってば最近腕を上げたもん。優樹も、つられちゃうよねっ。……遼くんは、何かにつられちゃったりする事ある?」
思いもよらない事を小さな声で尋ねられ、遼は視線を戻した。すると今度は杏子が目を逸らすように俯く。
「……そっ、そうだな……僕は何かに釣られたりしないと思うんだけど……」
どう答えたら良いのか解らず、遼は言葉につまった。
「あっ、ゴメン、つまんないこと聞いちゃって……」
俯いた杏子の耳が赤いのに気付いて、遼の胸に温かな物が広がり鼓動は早くなった。もしかして自分に好意を抱いているのかな、と、思う事が何度かあったが確信は持てなかったし、よもや聞いてみる事など出来ない。むしろ従妹で幼なじみの優樹に対する遠慮のない物言いの方が気持ちが通じあっているように思えたが、それは好き……とは違った感情なのだろうか?
悩んでも仕方がないと、今まで考える事を避けていたのかもしれない。人に見えない物が見える力を気持ち悪がられる事に不安があって、今まで女の子はおろか男友達さえつくらなかった。だから杏子の事は気になるし可愛いと思っても、それ以上の感情を抱く事には躊躇いがあったのだ。ヴィジョンを見る力を杏子は知っているはずだが、口に出した事は一度もない。触れてはいけないと、思っているのだろうか? それともやはり、気味が悪いと思っているのだろうか……?
錯綜する思考を、遼は一度閉じた。考えすぎる性格に辟易しながらも、こんな場合は特に答えが出せない。
「えっと、そのっ……だけど、何に対してもひたむきで、一所懸命な人には惹かれるかな」
そう答えるのが精一杯だった。
杏子は顔を上げ、真っ直ぐな瞳で遼を見た。遼も視線を逸らさず受け止める。鼓動がやけに大きく耳に響き、外にまで聞こえたらどうしようかと戸惑った。
「……それって、やっぱり優樹の事?」
「えっ?」
意想外の言葉に、遼は目を見開く。
「確かに優樹は単純で馬鹿だけど、いつだって直向きで一所懸命だもんね。昨夜、轟木先輩に言われたことで、今日は何だか元気がなかったみたい。横浜の家のことは一番言われたくないんだって、あたしも知ってる。でも厭な事を表に出さないで、いつも無理してるようなトコがあって……」
どうやら伝えたい気持ちは、伝わらなかったようだ。遼は解らないように小さく溜息をついて、笑顔を作った。
「……そう、だね。心配してるの? 優樹の事」
「ちょっとだけ。一つしか年は違わないけど、世話の焼けるお兄ちゃんみたいに思ってるんだ、ちっちゃい時は結構頼りにしてたし。今なんか、あたしの方がお姉ちゃんみたいだから、優樹の事を代わりに心配してくれる女の子がいれば、あたしだって……あのねっ……」
収まりかけていた鼓動が、再び高鳴る。
「あたし……」
「遼! 此処にいたのか! なんだ、杏子も一緒なら丁度いいや。美月さんが、これから湖の中島に渡るっていうから誘いに来たんだけど、行くだろっ?」
しかし、遊歩道の上にある車道から大声で呼びかける優樹の声に、杏子の言葉は遮られてしまった。
「……優樹の、ばかぁっ!」
「ええっ?」
杏子に叫び返され目を白黒させた優樹を、遼は笑うより仕方がなかった。
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◆残念だったね、杏子ちゃん。これはまあ、お約束と言う事で(笑)
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