【私立叢雲学園怪奇譚・第二部〔本章〕27】
2004年4月23日 【小説】私立叢雲学園怪奇譚[第26回のあらすじ]
◇正体の知れない日下部が、遼に向かって言った言葉。それは、さらなる不安をもたらすものだった。遼にも、優樹本人さえも気付かずにいる何かを、日下部は感じ取っている。「気を付けろ」その言葉が意味するものとは?
:::::::::::::::::::::::::::::
<本文>
胸に去来した恐怖の感情、それを否定できる材料を遼は必死に捜した。優樹が抑え込んでいるものこそが強さの理由であり、また、弱さになりうると知っている。しかし弱さは、遼が補えると信じていた。日下部のような得体の知れない男の言葉に、惑わせられるものかと思う。
『気を付けることだな、優樹ってヤツの強さは……諸刃の剣だ』
繰り返し頭に浮かび、どうしても振り払う事の出来ない言葉。諸刃の剣が意味するもの、優樹の強さが他に向けられた時を遼は恐れていた。あり得ないと自戒しながらも、漠然とした不安が常につきまとっていた。助けを求められる時を、待っているだけで良いのだろうか?
「……ねっ、遼くんもそう思うでしょ?」
「えっ? ああゴメン、何だっけ?」
呼びかけられて我に返ると、話を聞いていないと知った杏子が不機嫌そうに口をとがらせた。
「もう、だからぁ、美加のために力になってあげたいの。あの子がここに来た目的は、美月さんのお菓子作り教室だけじゃなくて、そのっ……」
口籠もる、その先を察して遼は微笑む。
「知ってるよ、優樹だろう?」
「……そう、そうなのよ!」
気持ち顔を赤らめて、杏子は胸をなで下ろす仕草をした。
杏子以外の女の子は、朝から『美月荘』のお菓子作り教室に参加している。シェフの郷田と美月が教えるお菓子教室は、この地域で人気があるらしく旅行雑誌にも紹介されていた。ぬいぐるみや、編み物など手芸好きの杏子と違い、料理好きの三人にとっては魅力的なオプションだ。中でも牧原美加は特にお菓子作りが好きで、この教室を一番楽しみにしていたようだった。
杏子と村上琴美は幼稚園からの友達だが、学校区の違いで小学校・中学校が別々だった。叢雲学園でようやく同級生になり親友の誓いを立てたまでは良かったが、似かよった性格のために何かと対立する事が多かった。そんな時、琴美と同じ中学から入った美加が間に立つのを遼は何度か目にしている。おとなしく控えめで小柄な美加に、泣きそうな顔で取りなされると杏子も琴美も逆らえないらしいのだ。その美加が『ゆりあらす』に遊びに来るたび優樹を目で追っている事を、気付かないのは当の本人だけなのだが……。
「美加、今頃張り切ってるんじゃないかなぁ。さっきも言ったけど、優樹は鈍いヤツだから遼くんからそれとなく伝えて貰えないかと思って」
「ええっ……と、そういった話はあんまり得意じゃないなぁ。なんとか心掛けておくけど……。でも、優樹は食べ物に釣られやすいから、案外うまくいくかもね」
「あはっ、あたしもそう思う!」
屈託なく笑って杏子は、遊歩道に置かれた丸太造りのベンチに腰を下ろした。
「おとなしくて、あたしみたいにお喋りじゃない美加が、優樹の事になると良く話すんだ。帰り道で見かけたとか、グラウンドで走ってたとか、朝挨拶されて嬉しかったとか……。そんなに気になるならあたしが気持ちを伝えてあげるって言ったんだけど、絶対にやめてって言うんだよ。見てるだけでいいんだって。今の優樹は、何か他に気にしてる事があるみたいだから、自分の事で煩わせたくないって言うんだけど……」
どきり、と、遼の心臓が反応した。女の子は、好きな男の子を良く観察しているんだなと感心する。
「そうかもしれないね……入院してるお母さんの事とか、横浜の本家の事とか、進路の事とか、気持ちに余裕が無いのかも知れない。」
「そっか、優樹でも悩む事あるんだ」
「……多分ね」
遼がいたずらっぽく笑って肩をすくめると、杏子もつられて笑った。
:::::::::::::::::::::::::::::
★ようやく区切りがついたので、アップできました。やはり数回は見直して、展開が落ち着くところまで書いてからでないと後から修正する羽目になります。
★今回と次回、「杏子ちゃんがんばれ!」の回です(笑)
女の子を書くのが苦手で更新が遅かった訳じゃないんですよ。女の子を書くのは好きですが、恋愛絡みは何だか照れます。
★ご意見ご感想をおねがいします。
「MURAKUMO」
http://mypage.odn.ne.jp/home/kazatoyou
◆hotmail:youkazato@hotmail.com
でも、お気軽に。MSNメッセアドにもなっています。
◇正体の知れない日下部が、遼に向かって言った言葉。それは、さらなる不安をもたらすものだった。遼にも、優樹本人さえも気付かずにいる何かを、日下部は感じ取っている。「気を付けろ」その言葉が意味するものとは?
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<本文>
胸に去来した恐怖の感情、それを否定できる材料を遼は必死に捜した。優樹が抑え込んでいるものこそが強さの理由であり、また、弱さになりうると知っている。しかし弱さは、遼が補えると信じていた。日下部のような得体の知れない男の言葉に、惑わせられるものかと思う。
『気を付けることだな、優樹ってヤツの強さは……諸刃の剣だ』
繰り返し頭に浮かび、どうしても振り払う事の出来ない言葉。諸刃の剣が意味するもの、優樹の強さが他に向けられた時を遼は恐れていた。あり得ないと自戒しながらも、漠然とした不安が常につきまとっていた。助けを求められる時を、待っているだけで良いのだろうか?
「……ねっ、遼くんもそう思うでしょ?」
「えっ? ああゴメン、何だっけ?」
呼びかけられて我に返ると、話を聞いていないと知った杏子が不機嫌そうに口をとがらせた。
「もう、だからぁ、美加のために力になってあげたいの。あの子がここに来た目的は、美月さんのお菓子作り教室だけじゃなくて、そのっ……」
口籠もる、その先を察して遼は微笑む。
「知ってるよ、優樹だろう?」
「……そう、そうなのよ!」
気持ち顔を赤らめて、杏子は胸をなで下ろす仕草をした。
杏子以外の女の子は、朝から『美月荘』のお菓子作り教室に参加している。シェフの郷田と美月が教えるお菓子教室は、この地域で人気があるらしく旅行雑誌にも紹介されていた。ぬいぐるみや、編み物など手芸好きの杏子と違い、料理好きの三人にとっては魅力的なオプションだ。中でも牧原美加は特にお菓子作りが好きで、この教室を一番楽しみにしていたようだった。
杏子と村上琴美は幼稚園からの友達だが、学校区の違いで小学校・中学校が別々だった。叢雲学園でようやく同級生になり親友の誓いを立てたまでは良かったが、似かよった性格のために何かと対立する事が多かった。そんな時、琴美と同じ中学から入った美加が間に立つのを遼は何度か目にしている。おとなしく控えめで小柄な美加に、泣きそうな顔で取りなされると杏子も琴美も逆らえないらしいのだ。その美加が『ゆりあらす』に遊びに来るたび優樹を目で追っている事を、気付かないのは当の本人だけなのだが……。
「美加、今頃張り切ってるんじゃないかなぁ。さっきも言ったけど、優樹は鈍いヤツだから遼くんからそれとなく伝えて貰えないかと思って」
「ええっ……と、そういった話はあんまり得意じゃないなぁ。なんとか心掛けておくけど……。でも、優樹は食べ物に釣られやすいから、案外うまくいくかもね」
「あはっ、あたしもそう思う!」
屈託なく笑って杏子は、遊歩道に置かれた丸太造りのベンチに腰を下ろした。
「おとなしくて、あたしみたいにお喋りじゃない美加が、優樹の事になると良く話すんだ。帰り道で見かけたとか、グラウンドで走ってたとか、朝挨拶されて嬉しかったとか……。そんなに気になるならあたしが気持ちを伝えてあげるって言ったんだけど、絶対にやめてって言うんだよ。見てるだけでいいんだって。今の優樹は、何か他に気にしてる事があるみたいだから、自分の事で煩わせたくないって言うんだけど……」
どきり、と、遼の心臓が反応した。女の子は、好きな男の子を良く観察しているんだなと感心する。
「そうかもしれないね……入院してるお母さんの事とか、横浜の本家の事とか、進路の事とか、気持ちに余裕が無いのかも知れない。」
「そっか、優樹でも悩む事あるんだ」
「……多分ね」
遼がいたずらっぽく笑って肩をすくめると、杏子もつられて笑った。
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★ようやく区切りがついたので、アップできました。やはり数回は見直して、展開が落ち着くところまで書いてからでないと後から修正する羽目になります。
★今回と次回、「杏子ちゃんがんばれ!」の回です(笑)
女の子を書くのが苦手で更新が遅かった訳じゃないんですよ。女の子を書くのは好きですが、恋愛絡みは何だか照れます。
★ご意見ご感想をおねがいします。
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