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 春だから浮かれてんのか、浮かれてるから春なのか? 俺には、どうでもいい事だ。
 ただ、色々な感情や思惑が巷にあふれかえる季節だという事は確かで、その思念が蜷局を巻いて天空に昇り、暗く重たい雨雲を作る。
 滴る雫は狂気に満ち、頭の先から、指先から、染み込んで、俺を歓喜にも似た気分にさせてくれるんだ……。なんて格好つけてはみたけれど、目下の関心は新しいクラスにどんな女の子がいるかって事だったりする。
 テレビでは、天気予報のおっさんが昼ごろ雨があがるといっている。新学期初日からついてないな、天気がいいと気分だって晴れがましくなるのに。
 昨夜自分でアイロンを掛けたシャツを着て、クリーニングから返ってきた学生服のビニールを剥がしゴミ箱にほうりこむ。朝飯は……炊飯器に残った飯に昆布の佃煮のっけてお茶漬けにした。コンビニの握り飯は飽きたからなぁ、今夜の夕飯は何にしようか?どうせ兄貴は帰っちゃ来ないんだし。
 二年前に両親が離婚して、今の俺はマンションで兄貴と二人暮らしをしている。と、言っても放浪癖のある兄貴は滅多に家に帰ってこないから、実質一人暮らしと言った方が良いかもしれない。
 兄貴が大学に入った時に銀行員の親父が買った1LDKの部屋を、俺はとても気に入っている。リビングは広めで、兄貴はそこにベッドや私物を置いて生活空間にしているから個室は完全に俺の物。立地は学生街だから、コンビニも、安い定食屋も、ファーストフードの店も事欠かない。夜中でも安全だし、近所付き合いも楽だ。
 両親は、俺がどちらかと一緒に暮らす事を願ったが、新しい彼女と上海の支店に行った親父の世話になるのは真っ平だし、専業主婦から離婚を機に大手メーカーの検査技師として北陸の工場に勤め口を見つけたお袋に付いていくのも厭だった。兄貴が面倒を見てくれると言ってくれて、正直ほっとしている。俺は東京から離れたくなかったし、親父もお袋も、大嫌いだからだ。
 歯磨きして、いつもより少し気合いを入れて髪型を決める。うん、いい男、これで朱輝都中学校3年のナンバーワンは俺、鴻野邦孝で決まりだ。あとは……あの子が同じ、いや、同じだとアプローチしにくいから、隣のクラスになる事を祈るのみ。
 おっと時間だ、そろそろ行くか!

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★朱輝都中学校三年生の「鴻野 邦孝(こうの くにたか)」くんのお話です。普通の学園恋愛物を目指していますが、ちょっとはサスペンスがあるかも知れません。でも「かざと」には珍しくちゃんと(?)女の子がメインに出てきます。それも沢山(うふ)

★鴻野君のお兄ちゃんは、存在は語られますが出てきません。電話や手紙、メールで色々助言します。
「叢雲」読んでる人ならすぐに解ると思います。

★出来れば週一回で更新したいと思います。えっ?浮気ばかりしてる?はい、ちゃんと「叢雲」も書きます(笑

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