【私立叢雲学園怪奇譚・第二部〔本章〕21】
2004年3月21日 【小説】私立叢雲学園怪奇譚[第20回のあらすじ]
◇女性4人が加わり、華やかになった『美月荘』。専属シェフのフランス家庭料理を囲み賑やかに夕食を取る。しかし、なにやらこの旅行には、触れてはいけない経緯があるらしかった。杏子を諭した遼は、何を口止めしたのだろうか?
:::::::::::::::::::::::::::::
<本文>
食卓に並んだ料理はどれも一流料理店に引けを取らないものばかりで味も申し分ない。しかし、料理の感想やお喋りに余念のない仲間達を尻目に優樹は黙々と料理を口に運んでいる。
「少しは味わって食べてるのか?」
茶化す様な佐野の言葉に少し目を向けて、「美味いですよ」と答えると、さりげなく美月がパンのお代わりをその手元に置いた。
昨夜はあまりビールを飲まなかった轟木は、今日はまるで水を飲むようにワインのグラスを空けている。ワインはあまり得意でないアキラが見ると、満彦が三本目を開ける所だった。
「このワインは、どこで手に入れているんですか?」
感慨深そうにグラスを回し、鮮やかに紅い液体の美しさをライトに透かして轟木は一気に飲み干す。
「色も、香りも最高だ。個人的に手に入れる事は出来ませんか? 販売権を独占したくらいですが、それはお許し頂けそうにない。あまり本数を作っていないんでしょう?」
驚いた顔を向けた満彦に、アキラが苦笑する。
「轟木は見かけによらず、結構手広い商売をしてる大手海運会社の御曹司なんですよ。次期社長が有望視されているからって、こんなところで商売っ気を出さないでくれよな」
「ひどいなアキラさん、そんなつもりは無いですよ。でも緒永さんが気を悪くなさったなら謝ります」
穏やかな微笑みに気圧されて、満彦の方が狼狽えた。
「このワインが気に入りましたか? 実はフランスいる郷田君を私が訪ねた時に、働いていたレストランのオーナーからワイナリーを紹介して貰ったんです。古くからワインを作っているシャトーで、日本ではうちだけしか扱っていません。うちも無理を言って本数限定で分けて貰っていますから、確かに販売権を独占されたら困りますよ。しかし、まあ……」
そこで満彦は轟木に向かって笑った。
「個人的にでしたら分けて差し上げますよ、価値の解る方が一人でも多くいてくれると私も嬉しい。随分とワインに、お詳しいようだ」
「御曹司の上に家柄もいいからな、俺たちと違って。確か華族の出だとか聞いた事があるぞ」
軽口のように佐野が付け加えると、轟木は困ったように眉を寄せる。
「それほど大袈裟なものじゃないよ、武家上がりの下級華族末裔みたいなものさ。家柄をいうなら篠宮の方が上だしね」
意外な発言に、皆の視線が優樹に集まった。が、優樹は鴨肉のローストを口に運ぶ手を休めず、事も無げに言葉を返す。
「爺さんの事を言ってるんなら、俺には関係ねぇよ。あの家とはもう、縁もゆかりも断ち切ってるからな」
「そうかい? 直系の嫡子は君だと聞いている。維新時に海運で名を成した篠宮家からすれば、後に事業の一端を任されて会社を興した轟木は家臣に当たる。僕からすれば……」
「ごっそさん!」
突然、優樹は立ち上がると、
「関係、無いですから」
そう言い置いて、言葉のない一同を振り返ることなく食堂を出て行った。意味深に目を細め、薄く笑いを浮かべて見送る轟木にアキラが不振な眼差しをむける。
「篠宮にあんなこと言うなんて、いつものおまえらしくないな」
はっ、と、我に返ったように轟木はアキラを見返した。
「えっ、ああ、そう……ですね。何故だろう、俺にも解らない。言う必要のない話でした、後で謝っておきます」
「……そうだな」
一転して轟木は、ひどく落ち込んだ顔になった。思わぬ状況で嘗て誰も知らなかった優樹の背後が明らかになり、アキラが遼を伺い見ればやはり落ち着かない様子で食事の手を止めていた。今にも席を立ちたい様子が見て取れたが、優樹と違い料理はまだ皿に残っている。
「秋本、まだ調子悪いんなら無理するなよ。食えないなら残したって構わないと思けどなぁ」
さりげなくアキラが声を掛けると、冬也が、その通りだと頷いた。
「食べられるだけ食べて、休みたまえ。デザートは後で持って行ってあげよう、優樹の分もね」
「有り難うございます。あの、すみません、それじゃ先に失礼します」
席を立った遼を心配そうに見送った杏子が目で問いかける。
「今日貧血起こして、少し具合が悪いんだ。大したこと無いから心配いらないよ」
アキラの言葉に安心して再びフォークを手にすると、親友の琴美が肘でつついた。
「ねっ、あたし達もデザートは秋本先輩と一緒に食べようよ。美加も篠宮先輩と一緒がいいでしょ?」
牧原美加が抱く密かな優樹への想いを知っていて、琴美がいたずらっぽく笑う。途端、真っ赤になって俯いた美加を庇い、杏子が琴美を睨んだ。
「もう、美加をからかわないの!」
「はいはい、で、どうする?」
すると美加は、消え入りそうな声で答える。
「あの、そうできたら嬉しいけど、でもっ……」
にっこりと笑って琴美は、別室でデザートが取りたいと伝えるために席を立った。
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◆以後、本文になるべく触れないようにします。どうしても裏設定が知りたい方はホームの『MAKING & HITORIGOTO』へどうぞ。
◆創作支援サイトで一様に言われているのが、「作者のキャラ萌えが嫌い」。うーん、そうか。実は自分も嫌いです(笑
せっかく思い入れて読んでいるのに、ラストに向かってキャラの心象風景がくどく描かれていると、げんなりします。スパッ、と終わって、余韻を残すくらいの方がいい。
自分の小説は、ラストの展開早すぎとも言われますが(苦笑
そういうわけで、本文は読んで下さる方にお任せします。
◆話が佳境に入り、「かざと」の逃げが出ました。
作品から距離を置きます。そして開き直って、書きます。でないと、あれこれ考えすぎて書けなくなる。
一週間、逃げました。やっと開き直ったのでがんばります。はっ、チビ達春休みじゃん。うわーい、どうするべー(汗
でも怖くないもん!
◆ご意見ご感想はホーム「MURAKUMO」にいらしてください。
http://mypage.odn.ne.jp/home/kazatoyou
hotmail:youkazato@hotmail.com
でも、お気軽に。MSNメッセアドにもなっています。
◇女性4人が加わり、華やかになった『美月荘』。専属シェフのフランス家庭料理を囲み賑やかに夕食を取る。しかし、なにやらこの旅行には、触れてはいけない経緯があるらしかった。杏子を諭した遼は、何を口止めしたのだろうか?
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<本文>
食卓に並んだ料理はどれも一流料理店に引けを取らないものばかりで味も申し分ない。しかし、料理の感想やお喋りに余念のない仲間達を尻目に優樹は黙々と料理を口に運んでいる。
「少しは味わって食べてるのか?」
茶化す様な佐野の言葉に少し目を向けて、「美味いですよ」と答えると、さりげなく美月がパンのお代わりをその手元に置いた。
昨夜はあまりビールを飲まなかった轟木は、今日はまるで水を飲むようにワインのグラスを空けている。ワインはあまり得意でないアキラが見ると、満彦が三本目を開ける所だった。
「このワインは、どこで手に入れているんですか?」
感慨深そうにグラスを回し、鮮やかに紅い液体の美しさをライトに透かして轟木は一気に飲み干す。
「色も、香りも最高だ。個人的に手に入れる事は出来ませんか? 販売権を独占したくらいですが、それはお許し頂けそうにない。あまり本数を作っていないんでしょう?」
驚いた顔を向けた満彦に、アキラが苦笑する。
「轟木は見かけによらず、結構手広い商売をしてる大手海運会社の御曹司なんですよ。次期社長が有望視されているからって、こんなところで商売っ気を出さないでくれよな」
「ひどいなアキラさん、そんなつもりは無いですよ。でも緒永さんが気を悪くなさったなら謝ります」
穏やかな微笑みに気圧されて、満彦の方が狼狽えた。
「このワインが気に入りましたか? 実はフランスいる郷田君を私が訪ねた時に、働いていたレストランのオーナーからワイナリーを紹介して貰ったんです。古くからワインを作っているシャトーで、日本ではうちだけしか扱っていません。うちも無理を言って本数限定で分けて貰っていますから、確かに販売権を独占されたら困りますよ。しかし、まあ……」
そこで満彦は轟木に向かって笑った。
「個人的にでしたら分けて差し上げますよ、価値の解る方が一人でも多くいてくれると私も嬉しい。随分とワインに、お詳しいようだ」
「御曹司の上に家柄もいいからな、俺たちと違って。確か華族の出だとか聞いた事があるぞ」
軽口のように佐野が付け加えると、轟木は困ったように眉を寄せる。
「それほど大袈裟なものじゃないよ、武家上がりの下級華族末裔みたいなものさ。家柄をいうなら篠宮の方が上だしね」
意外な発言に、皆の視線が優樹に集まった。が、優樹は鴨肉のローストを口に運ぶ手を休めず、事も無げに言葉を返す。
「爺さんの事を言ってるんなら、俺には関係ねぇよ。あの家とはもう、縁もゆかりも断ち切ってるからな」
「そうかい? 直系の嫡子は君だと聞いている。維新時に海運で名を成した篠宮家からすれば、後に事業の一端を任されて会社を興した轟木は家臣に当たる。僕からすれば……」
「ごっそさん!」
突然、優樹は立ち上がると、
「関係、無いですから」
そう言い置いて、言葉のない一同を振り返ることなく食堂を出て行った。意味深に目を細め、薄く笑いを浮かべて見送る轟木にアキラが不振な眼差しをむける。
「篠宮にあんなこと言うなんて、いつものおまえらしくないな」
はっ、と、我に返ったように轟木はアキラを見返した。
「えっ、ああ、そう……ですね。何故だろう、俺にも解らない。言う必要のない話でした、後で謝っておきます」
「……そうだな」
一転して轟木は、ひどく落ち込んだ顔になった。思わぬ状況で嘗て誰も知らなかった優樹の背後が明らかになり、アキラが遼を伺い見ればやはり落ち着かない様子で食事の手を止めていた。今にも席を立ちたい様子が見て取れたが、優樹と違い料理はまだ皿に残っている。
「秋本、まだ調子悪いんなら無理するなよ。食えないなら残したって構わないと思けどなぁ」
さりげなくアキラが声を掛けると、冬也が、その通りだと頷いた。
「食べられるだけ食べて、休みたまえ。デザートは後で持って行ってあげよう、優樹の分もね」
「有り難うございます。あの、すみません、それじゃ先に失礼します」
席を立った遼を心配そうに見送った杏子が目で問いかける。
「今日貧血起こして、少し具合が悪いんだ。大したこと無いから心配いらないよ」
アキラの言葉に安心して再びフォークを手にすると、親友の琴美が肘でつついた。
「ねっ、あたし達もデザートは秋本先輩と一緒に食べようよ。美加も篠宮先輩と一緒がいいでしょ?」
牧原美加が抱く密かな優樹への想いを知っていて、琴美がいたずらっぽく笑う。途端、真っ赤になって俯いた美加を庇い、杏子が琴美を睨んだ。
「もう、美加をからかわないの!」
「はいはい、で、どうする?」
すると美加は、消え入りそうな声で答える。
「あの、そうできたら嬉しいけど、でもっ……」
にっこりと笑って琴美は、別室でデザートが取りたいと伝えるために席を立った。
:::::::::::::::::::::::::::::
◆以後、本文になるべく触れないようにします。どうしても裏設定が知りたい方はホームの『MAKING & HITORIGOTO』へどうぞ。
◆創作支援サイトで一様に言われているのが、「作者のキャラ萌えが嫌い」。うーん、そうか。実は自分も嫌いです(笑
せっかく思い入れて読んでいるのに、ラストに向かってキャラの心象風景がくどく描かれていると、げんなりします。スパッ、と終わって、余韻を残すくらいの方がいい。
自分の小説は、ラストの展開早すぎとも言われますが(苦笑
そういうわけで、本文は読んで下さる方にお任せします。
◆話が佳境に入り、「かざと」の逃げが出ました。
作品から距離を置きます。そして開き直って、書きます。でないと、あれこれ考えすぎて書けなくなる。
一週間、逃げました。やっと開き直ったのでがんばります。はっ、チビ達春休みじゃん。うわーい、どうするべー(汗
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