[第19回のあらすじ]
◇優樹の抱える影に不安を持ちながら、問いつめる事が出来ずに遼は本棟に戻った。そこには優樹に反感を持つ、後輩の真崎宙(まさきそら)がいて、遼と優樹との関係が納得できないといわれる。

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<本文>

 女性四人が加わって、途端『美月荘』は賑やかになった。女性陣の参加を歓迎していなかった優樹だが、車が到着するなり真っ先に駆けつけ甲斐甲斐しく荷物を運び込んでいる。そんなところは律儀だな、と、テラスから眺めていた遼と目が合って、わざと口をとがらす仕草をして見せた。
「何がそんなに可笑しいの?」
「やあ杏子ちゃん、別になんでもないよ。」
 リビングからテラスに出て来た田村杏子は少し訝しそうな目を遼に向けたが、直ぐに笑顔になると並んで手すりに寄りかかった。
「解った、優樹でしょう? あいつ琴美のお姉さんにいいトコ見せたいのよ。あんなにせっせと働いちゃって、馬鹿みたい。」
 確かに村上琴美の姉、村上黎子の手荷物まで半ば無理矢理引き受けようとしているようだ。
「優樹はいつもそうだよ、あれも体力作りだと思ってるんじゃないかな、きっと。」
 くすくす笑う遼をちらりと見て、杏子は呆れたように溜息をついた。
「ホント、馬鹿みたい。」
 従妹であり幼なじみでもある杏子は、優樹が女の子に優しくするのを面白くなさそうに見ている。そういえば美月に対する態度や過去の言動を考えると、優樹はやはり年上の女性がタイプらしい。
「あのね、来る途中、霧が出てきたんだけど林の間から見えた湖が幻想的で素敵だったんだ。あの話を聞いた時は、正直、止めようかと思ったけど……でも来て良かった! すっごく綺麗なところ!」
「杏子ちゃん、その事は……。」
 微笑みを浮かべながらも諭すような目を向けた遼に、慌てて杏子は手を口に当てた。
「やだ、遼くんってば。あたしのお喋りを心配してるんでしょう? 大丈夫、余計な事は言わないもん。それより明日は、湖の周りを案内してねっ!」
「いいよ、僕もスケッチに良い場所を探すつもりだったから。」
「嬉しい!」
 明るい杏子の笑顔に気持ちが和む。
「おーい、飯だってさ。早く来いよ、二人とも!」
 リビングから大声で呼ぶ優樹の声に、二人きりの時間を邪魔されて杏子が顔をしかめた。
「ん、もう! 食べる事しか頭にないんだから。」
 遼は笑って、杏子とリビングに戻った。

 『美月荘』自慢のフランス家庭料理に腕を振るうのは、郷田彰一という若いシェフだった。若干三十二歳ながら、フランスで5年の修行を積み、有名ホテルに勤めていた事もあるという。細面で小柄だが、軽々と大きな鍋を持ち上げ、鮮やかに重そうなフライパンを返す。そして驚くべき繊細さで美しい盛りつけをして見せた。
「いやん、食べるのもったいなーい!」
 皿を並べるたび女子が口々に叫ぶと、嬉しそうに微笑む。
「スープはポタージュ・ア・ラ・コンチィ、空豆のポタージュです。サラダは美月さんが育てたアンディーブとニンジン、和えてあるクルミはオーナーが取ってきた山クルミです。魚料理はニジマスを、肉料理は鴨肉をご用意致しました。」
「甘くて香りの強いニンジンだわ。アンディーブはチコリの事ね、クルミとドレッシングがとても合ってて美味しい。このビネグレットソース、何か隠し味があるのかしら?」
 デパートの地下食品売り場でフードコーディネーターをしている村上黎子が指先にドレッシングを付けて舐めると、妹の琴美が顔をしかめた。
「やだ、お姉ちゃんてば行儀悪い!」
 慌てて黎子は、決まり悪そうにナプキンで指を拭う。
「良くおわかりですね、ビネガーにシェリービネガーを、甘味にはここでとれるレンゲの蜂蜜を使っています。レシピは内緒です。」
「うーん、残念。そう言わないでこっそり教えてくれないかなぁ?」
 郷田がにっこりと笑って厨房へ戻っていくと、美月より少し落ち着いた感じの女性が、ニジマスのムニエルを運んできてテーブルに置いた。 
「口では、そう言ってますけど、厨房で見学するのは構わないんですよ。レシピは見て盗め、ってことです。よろしければいつでもいらしてください、彼はそう簡単に味が盗まれない自信があるんです。」
「ここでもう長く働いてくれている、及川君だよ。」
 冬也の紹介に及川睦美が会釈すると、後から続いて皿を運んできた美月がからかうように付け加える。
「郷田さんと、婚約したばかりなの。」
「もう、美月ちゃん。お客様にそんな事……。」
「ふふっ、だって牽制しておかないと気を揉むかと思って。」
 睦美は途端、顔を赤らめた。
「なんだ、郷田さんには素敵な婚約者がいらしたのね。それじゃぁ厨房にお邪魔しにくいなぁ。」
 黎子の言葉に慌てて「そんな事ありません!」と言うと、睦美は恥ずかしそうに俯く。
「郷田君のお蔭でリピーターも増えたし、二人が婚約してこれらからって時に……。」
 残念そうに呟いた美月に、満彦が顔を曇らせた。
「美月……!」
「あ、デザートの用意に行かなくちゃ。睦美ちゃん、飾り付け手伝ってくれる?」
「えっ、ええ。」
 二人が厨房に戻ると、取り繕うように満彦は手にしたワインをテーブルに置いた。
「良いワインがあります、今日はこれを開けましょう。遠慮せずに飲んでください、女性グループのお客様にはサービスしてるんですよ。男性の方々には私の奢りです。」
「それは嬉しいですね、是非いただきます。」
 アキラが申し出を受けると、冬也がワインを注ぎ、「乾杯」と、グラスを掲げた。

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◆このところ、たて続けての更新です(笑
もう、ここを早く読んで欲しい!というところがあると、かっ飛ばす悪い癖です。のんびり構えて読んでいる人は、「おおっ?どこまで読んだっけ」という事態に。(汗)

◆というわけで(?)
今回から冒頭に、前回の簡単なあらすじを置きます。文を要約するのは苦手ですが、本文に入るお手伝いになれればいいとおもいます。いらない人は飛ばして下さい。

◆書くのに行き詰まると、オエビを徘徊するこの頃。「かざと」の落書きが見てみたい方はこちらを覗いてみてください。ただし、「叢雲キャラ」はいません。あくまで落書きです。
http://www12.oekakibbs.com/bbs/murakumo/oekakibbs.cgi

◆オフラインで、気晴らしにアキラ君の袴姿を描きました。合気道有段者なので、当然、袴。そう言えば優樹君も袴、杏子ちゃんも弓道部で袴。うーん、別の意味で袴萌え(←いい加減にしろ!・自分突っ込み・大馬鹿)
袴で構えたアキラ君、ちょっと格好良く描けました。スキャナがないからアップできません、いやぁ、残念。(内心、ほっ・笑)

◆次回、ずっと伏せていた優樹君の生い立ちがちらりと出ます。でもまだ秘密です、うふふ。

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