私立叢雲学園怪奇譚・第二部 序章〔魄王丸〕4
2004年1月13日<コメント>
何とかスランプ脱出したかな?主人公を遼君に決めて、位置決めするのがえらく大変でした。一部と完全に変わってますからね。
「この子はどういう子?」と聞かれて、「とにかく格好いい子」と言ってもわからないのは当たり前。どんな風に格好いいのか説明するのも愚行です。沢山のサイドキャラの中で、どれだけ光るか?難しいです。
ホームーページを作って、一部全編をアップしました。読みやすいように10回に分けてあります。番外編も全編紹介してありますので読み損ねた人、もう一度読んでやろうという奇特な(笑)かた、覗いてみてください。貴重な意見を採り入れて一部改稿してあります。
今回で終了の「魄王丸」編もまとめてあります。
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<本文>
義時の討伐隊が化け物の棲む山と噂される近江の山中に向かったのは、それから十日ほど後の事である。その途中、義時は道のりにある兼光の庵に立ち寄った。
「さても心許ない一行ではあるが。」
兼光は庵の庭の、紅葉の美しい池のほとりに敷物を敷き、義時を頭にわずか十人のこの討伐隊に酒を振舞った。晩秋の、珍しく暖かな陽光とすずやかな風は、気持ち良く酔いをまわらせる。
一行の顔ぶれに不満を隠しきれない兼光をよそに、義時は上機嫌で杯を重ねていた。
「私の刀と槍の腕、加えて弓の名手の佐々木が居れば、山賊などおそるるに足りません。」
「しかし後の連中は金で雇われた足軽ではないか。これから向かう鈴鹿方面は確かに我が軍の勢力ではあるが、敵の斥候にでも出会ったら当てにはならぬぞ。」
「御心配召されるな。あの辺りの土地は私が幼き頃より、よく父上と共に狩をしたところ、いわば庭のようなものですからどんなに細い獣道さえ知っておりまする。かなわぬ相手とあらば見つからぬよう避けて通りますゆえ。」
「されど……。」
「それにあの者どもは、罠を仕掛ける名人ばかり。」
どうやら義時は、本気で狢狩をしてくるつもりらしかった。
いずれにせよ戦が始まれば実光はすぐに義時を呼び戻す事になろう。兼光が案ずるまでもないのかも知れない。
「まあ良い、くれぐれも気を付けて行くのだぞ。だがしかし、随分と嬉しげにして居るのはどういう訳か。」
「は、いやこれは………。」
義時はさっと顔を赤らめると、そこで酌をしている美那をちらりと見た。
「ほう、なるほどそうか。父上よりお許しがでたな。」
「はい、化け物退治は切りよく引き上げ祝言をあげるようにと。」
どうやら実光も、このもくろみを体面のためと見ているにすぎないとわかり、兼光は安堵の息をもらす。
「それはめでたい事よ。では今宵は前祝いといくか。」
秋の日は早々に落ちようとしていた。
翌朝早く、まだ夜の明けきらぬうちに義時一行は兼光のもとを発っていった。その日は朝靄と言うには余りに濃い霧が立ちこめ、隣に立つ者の顔さえはっきりとしないほどであった。
「せめて霧が晴れてからお出かけになればよろしいのに。」
「なんだ、美那。そなた、それほどに名残惜しいのか。」
兼光は、瞬く間に霧にまぎれ見えなくなった義時を、この可愛い妹は何時までも見送っていたかったのだろうと解釈した。
しかし、その顔はどうにも拭いきれぬ不安に曇っている様に見える。
人は幸せの中にあると、ことさら不幸な自分を心に浮かべ、幸せを確認するというではないか? 美那の杞憂をほほえましく思いながら、ふと、以前姉から聞いた言葉が頭に浮かぶ。
『女は愛しい人の事に関しては格別感がはたらくもの』
まさか、と苦笑して、兼光は妹の肩を抱き庵に戻った。この霧が晴れ、ぬけるような青空が広がれば、そんな心配も忘れるに違いない。しかし、期待を裏切るかのように、霧は一日中晴れる事はなかった。
義時が、人とは思えぬ無惨な姿となって還ってきたのはそれから三日後の事だった。
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◆次回から舞台は現代に。やっと遼君、優樹君アキラ君登場です。
◆全文アップ!二部本編に入る前に、キャラ再確認?(笑)
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何とかスランプ脱出したかな?主人公を遼君に決めて、位置決めするのがえらく大変でした。一部と完全に変わってますからね。
「この子はどういう子?」と聞かれて、「とにかく格好いい子」と言ってもわからないのは当たり前。どんな風に格好いいのか説明するのも愚行です。沢山のサイドキャラの中で、どれだけ光るか?難しいです。
ホームーページを作って、一部全編をアップしました。読みやすいように10回に分けてあります。番外編も全編紹介してありますので読み損ねた人、もう一度読んでやろうという奇特な(笑)かた、覗いてみてください。貴重な意見を採り入れて一部改稿してあります。
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義時の討伐隊が化け物の棲む山と噂される近江の山中に向かったのは、それから十日ほど後の事である。その途中、義時は道のりにある兼光の庵に立ち寄った。
「さても心許ない一行ではあるが。」
兼光は庵の庭の、紅葉の美しい池のほとりに敷物を敷き、義時を頭にわずか十人のこの討伐隊に酒を振舞った。晩秋の、珍しく暖かな陽光とすずやかな風は、気持ち良く酔いをまわらせる。
一行の顔ぶれに不満を隠しきれない兼光をよそに、義時は上機嫌で杯を重ねていた。
「私の刀と槍の腕、加えて弓の名手の佐々木が居れば、山賊などおそるるに足りません。」
「しかし後の連中は金で雇われた足軽ではないか。これから向かう鈴鹿方面は確かに我が軍の勢力ではあるが、敵の斥候にでも出会ったら当てにはならぬぞ。」
「御心配召されるな。あの辺りの土地は私が幼き頃より、よく父上と共に狩をしたところ、いわば庭のようなものですからどんなに細い獣道さえ知っておりまする。かなわぬ相手とあらば見つからぬよう避けて通りますゆえ。」
「されど……。」
「それにあの者どもは、罠を仕掛ける名人ばかり。」
どうやら義時は、本気で狢狩をしてくるつもりらしかった。
いずれにせよ戦が始まれば実光はすぐに義時を呼び戻す事になろう。兼光が案ずるまでもないのかも知れない。
「まあ良い、くれぐれも気を付けて行くのだぞ。だがしかし、随分と嬉しげにして居るのはどういう訳か。」
「は、いやこれは………。」
義時はさっと顔を赤らめると、そこで酌をしている美那をちらりと見た。
「ほう、なるほどそうか。父上よりお許しがでたな。」
「はい、化け物退治は切りよく引き上げ祝言をあげるようにと。」
どうやら実光も、このもくろみを体面のためと見ているにすぎないとわかり、兼光は安堵の息をもらす。
「それはめでたい事よ。では今宵は前祝いといくか。」
秋の日は早々に落ちようとしていた。
翌朝早く、まだ夜の明けきらぬうちに義時一行は兼光のもとを発っていった。その日は朝靄と言うには余りに濃い霧が立ちこめ、隣に立つ者の顔さえはっきりとしないほどであった。
「せめて霧が晴れてからお出かけになればよろしいのに。」
「なんだ、美那。そなた、それほどに名残惜しいのか。」
兼光は、瞬く間に霧にまぎれ見えなくなった義時を、この可愛い妹は何時までも見送っていたかったのだろうと解釈した。
しかし、その顔はどうにも拭いきれぬ不安に曇っている様に見える。
人は幸せの中にあると、ことさら不幸な自分を心に浮かべ、幸せを確認するというではないか? 美那の杞憂をほほえましく思いながら、ふと、以前姉から聞いた言葉が頭に浮かぶ。
『女は愛しい人の事に関しては格別感がはたらくもの』
まさか、と苦笑して、兼光は妹の肩を抱き庵に戻った。この霧が晴れ、ぬけるような青空が広がれば、そんな心配も忘れるに違いない。しかし、期待を裏切るかのように、霧は一日中晴れる事はなかった。
義時が、人とは思えぬ無惨な姿となって還ってきたのはそれから三日後の事だった。
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◆次回から舞台は現代に。やっと遼君、優樹君アキラ君登場です。
◆全文アップ!二部本編に入る前に、キャラ再確認?(笑)
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