<コメント>
年賀状をやっと買いました。でもプリンターのインクが無い。結局宛名は手書きかも。PC歴長いくせにパソコンで年賀状を作ったこと無いんですよ。昔はすごく大変だったし。(5インチプロッピーの頃)多分使い勝手がよくなってから始めた人の方が、色々使いこなせるんでしょうね。機械ってそんな物です。
 落ち込みポイント、クリスマスを外すためにアップの量を調整しました。(気分的にね)押しつけがましい悲劇性で人様の感情を動かそうなんておこがましいことは思っていません。淡々と書きました。淡々と読んでください。

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<本文>

 己の無力さに絶望し、自暴自棄になれるならまだ、先に希望を見ることが出来る。記憶は薄れず残ったとしても、その時に感じた怒りや悲しみは曖昧になっていくからだ。そして、やがて光明を見いだし、立ち直ることが出来るかも知れない。
 しかし責めることしかできない場合、なお深く傷をえぐり、逃れられない自己矛盾に陥り、崩壊か死を選ぶことになるだろう。
 崩壊してしまえ、と、願いながら、アキラは白い壁を見つめた。眠ることは出来なかった。あるいは、意識が混濁しているとき、それが今の自分にとっての眠りなのかも知れなかった。記憶が白く取り変わるわけがないと知りながらも、目の前にあるものが形を成している時間ただじっと壁を見続けた。目を閉じれば救うことの出来なかった少女の青白い顔と微笑みが、真っ赤な亀裂に引き裂かれる幻像をみて、声にならない声をあげる。思考を放棄して、どれだけの時間が経ったのか。
 アキラの扱いに、どのような機関のどういった経緯があったか知る由もない。一人、美しい湖の見える郊外の病院らしきところに連れてこられて部屋の一つを与えられた。シンシアの組織か、カザック少佐の関連か、もう、どうでもいいことだった。
 バスターミナルで正義漢を気取り、彼女の手を取らなければよかった。ジェフのアパートに戻らなければよかった。車に乗らなければ、一人で置いて空港に行かなければ……。もし、の言葉を反芻し、逃避思考から所在を言ってしまった自分を責め、憎んだ。そして疲れ果て、死を望み、その手段を考えることに時間を費やすことで、皮肉にも正気が保たれたのだった。
 あらゆる手段を講じて試みたが目的を果たすことは出来ず、繰り返す暴挙に、とうとう拘束服と流動食で対応すると脅された。それでもいいと思ったが、強硬手段を取られることはなく、自らを傷つけないようにクッション材で覆われた白い部屋で、監視されるようになった。

 日に二度、カウンセラーが訪れた。優しそうな鳶色の瞳をした二十代後半の男性で、会話の糸口を掴もうと親しい友人のように、とりとめのない話を一時間ほどして帰る。しかし部屋を出るとき、彼はいつも落胆の溜息をつくのだった。
 今日もまた午後のカウンセラーが訪れる時間になったが、意識を向けない英単語は意味を持たない雑音でしかない。アキラはベッドに腰掛け片膝を抱えたまま、壁と自分の間の空間をぼんやりと見つめていた。
 ドアが開き、カウンセラーが入ってきた気配がしたが、顔も向けない。
「お客さんだよ、アキラ君。」
 異国の言葉は拒否されていた。だが……。
「よう、アキラ。あまり元気じゃなさそうだな、冴えない顔だ。」
 その声に、ゆっくりと意識が覚醒していく。まさか、と、思いながら声の方に目をやった。
「どうした? 鼻っ柱の強いおまえらしくないなぁ、まさか俺の顔を忘れたとか言うなよ、一言もしゃべらないそうだが。」
 頬の傷を歪めて笑う、ジェフの姿がそこにあった。
「……そうだな、あれからもう五ヶ月近くになる。英語を、忘れちまったか? 何とか言えよ、なぁ。」
 無言のアキラに近付くと、その頭に手を伸ばす。
「随分と、髪が伸びたな。切らせないそうだが……。」
「……触るなっ!」
 怒りを持って撥ね付けた低い声に、手は宙で止まった。
「あんたのせいだ、全部あんたが悪いんだ! だって俺は……。」
 俺は、何だ? 悪いのは全て自分だ。ジェフは精一杯やってくれたじゃないか。命を賭して、キリアンを救おうとした。俺にはそれが出来なかった……怖かったんだ。
 ジェフは並んでベッドに腰掛け、アキラを抱いた。
「俺も、おまえも、悪くない。ただ少し、キリアンが弱かったんだよ。少佐の下を逃げ出した時点で、キリアンの秘匿性は無くなった。だから少佐はシンシアと協力して俺達を助けに来ることが出来たんだ。本心でキリアンを救い、もっと自由になれるように計らうつもりだったらしい。だがあの子は、少しの時間が耐えられなかった。希望を持って生きようとしなかった。俺やおまえが作った時間を、諦めで捨ててしまったんだ。」
 言葉が、渇いた感情に少しずつ染み込んでいった。
「おまえは強い、乗り越えて生きろ。俺の見込んだ、男だからな。」
「うっ……ああ…っ…!」
 抑えていたものが、堰を切って流れた。アキラはジェフにすがりつき、声をあげて泣き続けた。

 カウンセラーの言葉を受け入れ、数々の書類に同意し、一ヶ月後にようやくアキラは帰国を許された。夏休みにJFKに降り立ってから半年。日本は桜の季節を迎えようとしていた。

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★次回、場面は成田に戻ります。
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