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<本文>

 黒いランドクルーザーの中は、運転席と助手席の他にシートはなく、ドアや天井には鉄板がビスで止められていた。広く開けられた空間の中央には三脚を固定した台座が据えられ、小さな椅子が外に向いてついている。ジェフに先だって車に乗せられたアキラは、その物々しい内装を不思議に思った。
 ジェフを呼び止めた男は助手席に座り、アキラに銃を向けていた男が運転席に座ってエンジンをかける。自由を奪う拘束はされていなかったが、脇から銃口を向けられては身動きがとれないことに代わりがない。アキラが目線で抵抗すべきか確かめた時、ジェフの目は「止せ」と言っていた。素直に従ったのは、この連中に狂気の匂いを感じたためだ。躊躇い無く周りを巻き添えにして暴力をまき散らす、そんな匂いだ。
 台座を挟んだ向かいに座るジェフが、居心地悪そうに身体を動かすたび脇の男が銃口をちらつかせた。どこに連れて行くつもりなのか? 目的はキリアンらしいが、この男達には渡せない。最も悪い事態が起こる、予感がするのだ。
「これは機銃の台座のように見えるなぁ。あんた達は何者なんだ? 随分と物騒な連中には違いないが。」
 このグループのリーダーらしい助手席の男にジェフが声をかけると、男は振り向き、黙れという動作で銃口を上げた仲間を手で制した。
「立場が解っているのかね? 情報を知りたいのは我々であって、貴様らでは無い。まあ、ここに《リーダー》がいれば、その台座にあるべき物が〈FN MAG58〉だとすぐに解っただろうが。」
「車載改良型機関銃……か、おまえらテロリストだな。」
 くっ、と、男の口元が歪む。
「その呼び方は本意ではないな。思想を開放する者と言ってもらおう。」
「ふざけやがって!」
 激情に駆られ立ち上がろうとしたその首の付け根に、がつり、と、〈S&W M52-2〉のグリップが振るわれた。ぐっ、と、膝を折り蹲るジェフにアキラは思わず息を飲む。これまでとは違う、逃れられない暴力。酒場の爆発音やコンクリートに撥ねた銃弾に現実感はなかった。しかし今、肉体を打ち据える音と苦痛に歪む顔に、生々しい恐怖をおぼえて愕然とする。確実に迫る危機感は現実のものなのだ。
 車は空港からのハイウェイを外れ、延々と続くのどかなトウモロコシ畑を抜けて人気のない森に入った。新しい轍がないことを確かめ、訪れる者の無い場所と判断したのか少し開けた場所に止まり、降りるように促される。
 それぞれ銃を持つ四人の男を相手に勝機はないように思えた。ジェフの〈S&W M65〉は車に乗るときに取り上げられ、アキラの〈SIG〉は万一を考えてキリアンに渡してある。
 少し道から外れたところまで歩き、ごつごつとした岩と木の根が隆起した足場の悪い場所で木の幹にジェフを縛り付けるように命じると、男はホルスターから銃を取り出した。おそらくアキラの命と引き替えに、キリアンの居所を聞き出すつもりなのだろう。
 今まで味わったことのない恐怖に膝が震えた。みっともない、と、抑えようとしても抑えることが出来ない。アキラは血の滲むほど唇を噛み、両手を握りしめて銃口が自分に向けられるのを覚悟した。
 ぱん、と、乾いた音が、木々の間にこだました。その瞬間、ぎゅっと閉じた瞼を、ゆっくりと開く。何故だ? 何も感じない。
「私はこれでも紳士でね、むやみに子供を傷つけたくはない。」
 見ると、左足の太股から血を流し、低い呻き声を漏らしているのは後ろ手に縛られたまま身体をくの字に曲げたジェフだった。
「ほざきやがれっ!」
 ジェフが吐き捨てる。と、続けざまに二度の銃声が響いた。男は手にした〈BERETTA M92F〉の硝煙を嗅ぐように顔に近付け、アキラに向かって笑った。
「左足、右足、左肩、次はどこにするかね? この男は退役したとはいえ軍人だ、《リーダー》の価値を考えれば君の命など取引材料にもならないだろう。しかし普通の旅行者が、命を惜しんでも恥にはならない。連れの少女の居場所を教えたまえ、悪いようにはしない。さもなくば……。」
「駄目だ、アキラっ!」
 叫び声と同時に、ジェフがのけぞるのがわかった。四発目の弾を右肩に受けながらも、声を上げるのを耐えるジェフの足下に血溜まりが広がっていく。
「居所さえ教えてくれれば、君達を殺すつもりはないんだよ。我々は《リーダー》を彼女の生まれ故郷に連れて行き、大事に扱うと約束しよう。今までのように軍の施設で寂しい思いなどさせない。あの子のためになることなんだよ。このアメリカ人は、所詮国益のために我々に渡したくないのさ。信用して貰えないかな?」
 男の言うことを、信用は出来なかった。しかし、黙っていてもいずれキリアンの居るところはわかってしまうだろう。アキラは迷っていた。もしかすると、本当に殺さないでいてくれるかもしれないと、期待が頭をよぎる。
「信用するなっ! 相手はテロリストだ!」
 〈BERETTA M92F〉が、二度火を噴いた。ジェフの両脇腹からじわりと血が滲み出る。
「決断は早めにしたまえ、死んでからでは遅いのだよ。」
 火のように熱い、その銃口がアキラの眉間に押しつけられた。頭の中が真っ白になり、そのじりじりと焼けるような熱も感じないまま、全身の力が抜けていく。父と、母と、弟の顔が、浮かんだ。奥歯が震え、苦い唾液が口腔内を満たす。ごくり、と、それを飲み込み、アキラは口を開いた。
「モーテルに、いる。」
 口の端を上げて満足そうに笑う男の顔が、虚ろな目に霞んだ。

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