私立叢雲学園怪奇譚・番外(須刈アキラ)17
2003年12月15日<コメント>
クリスマスに向けて、杏子ちゃんがマフラーを編んでいます。青い海を優樹に、春の草原を遼くんに、そして自分にはお日様みたいな向日葵の色。
遼君とお揃いだとちょっと恥ずかしいから、ついでに優樹の分を編んだだけ。でも房総は暖かい。プレゼントしたって多分出番は無いんだろうなぁ。でもいいや、一度でも使ってくれたらそれで幸せ…。
:::::::::::::::::::::
<本文>
「あの婆さんの孫娘がこんな美人だとは思わなかったが、キリアンを連れてきてくれて感謝するよ。ここにはよく来るのか? ぜひ一度、一緒に食事がしたいねぇ。」
「生憎だけど、あたいの住んでるところはノースカロライナのダーラムなんだよ。スパニッシュ・ハーレムに住んでる叔母さんの所に遊びに来てたんだけど、今日ナタリアに会ったら帰るつもりなんだ。食事の誘いはまた来た時にでもしてくれる? いつになるかはわかんないけどね。」
大げさにがっかりした顔になったジェフに、シンシアはお愛想で笑って見せた。
「ところでこの子は口がきけないのかい? 今朝会ったばかりなんだけど、ひとっ言もしゃべりゃしないんだよ。ナタリアに聞いても何も教えてくれなくて、ただあんたのとこに連れてってくれと言われただけなんだ。」
どうやら約束を守って、口止めされた昨夜の経緯は話さなかったらしい。キリアンは顔色も良く、今日は薄いピンクのTシャツに白いデニム地のスカートをはいていた。シンシアのお下がりだとすれば、発育の良い体型の彼女がかなり幼いときの物に違いない。
「口が利けない訳じゃねぇが、わけありでな。ちっとばかりつらい目にあってまだ脅えてるのさ。」
「へえ、何があったの?」
そこでジェフは、しまった、という顔になった。女性の気を引くために、つい言わなくてもいいことまで言ってしまうのはどうしようもない性だが、そのために何度となく非道い目にあっている。が、しかし、と思い直す。
「まあ、いろいろとな。ところでシンシア、あんたダーラムにはどうやって帰るんだ? バージニアまででよけりゃあ、一緒に行かないか? 今から車を借りて、シャーロッツビルまで行くところなんだが。」
「あら、それなら……。」
シンシアは目を細め、また魅力的な笑顔をしてみせた。
「運転手をしてくれるなら、あたいの車に乗せてってあげてもいいわよ。女一人のドライブは、あまり安全とは言えなくて。あんたが信用できるかわかんないけど、その子達も一緒なら心配なさそうね。」
願ってもないことだ。キリアンが女だとわかってから、長い道中何かと女手が欲しいと思っていた。女性の機微を察するのは苦手なところで、そのため妻も失った……。
「そいつはありがたい、是非お願いするよ。」
「それじゃ、ナタリアに伝えて車を取ってくる。一時間後に表通りで待ってるから。」
片手を上げて微笑み、エレベーターに向かうシンシアの腰のラインを十分眺めてから部屋に戻ったジェフは、安心しろといった笑顔をキリアンに向けた。
「やれやれ、運がよかった。結構悲観的に考えていたんだが、思いの外簡単に済みそうだ。実は車を借りる金の当てが無くてな、ブルネットの美人とドライブも出来るしお袋の所までいければ金も借りられる。結構何とかなるもんだ。念のために州境に着く前に赤毛のウイッグとカラーコンタクトは用意するとして……。」
所在なく立つアキラに歩み寄り、ジェフはその肩に手を置く。
「昨夜よく考えてみたんだが、おまえはやはり日本に帰った方がいい、深入りは身のためにならんよ。何事もなく済めばいいが、銃を持ったこともないおまえが万が一にでも不測の事態に巻き込まれたら、へたすりゃ命に関わる。チケットの予約はもう取り消しちまったのか? 確か今日の夜の便を……。」
「いまさら、何だ!」
睨むような目に、ジェフはたじろいだ。
「俺は最後まで付き合うと決めた、自分の意志でだ。あんたの指図は受けない。」
「だがなぁ……。」
頑固そうな瞳だ。若いが故の正義感や義務感、自尊心がありありと現れた澄んだ瞳。そそのかすような昨夜の言葉を後悔しながらも頼もしさを感じて、ジェフは大きく溜息をついた。
「そうだな、悪かった。ではアキラ、おまえが自分で自分の面倒を見られるように、出発前にやることがある。」
そう言って、ジェフはアキラのバッグを指さした。
「〈SIG〉を出すんだ。扱いを教えてやる。」
無言で頷くアキラに、もう迷いはないようだった。
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◆ヒーローは自信過剰が多い気がしますが、ヒーローになろうとしてがんばって突っ張るのが男の子。自信過剰に見えるのはその現れかも知れません。
★最後まで、突っ張れるか?世の中そんなに甘くないのだ(笑)
<叢雲ご意見掲示板>
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クリスマスに向けて、杏子ちゃんがマフラーを編んでいます。青い海を優樹に、春の草原を遼くんに、そして自分にはお日様みたいな向日葵の色。
遼君とお揃いだとちょっと恥ずかしいから、ついでに優樹の分を編んだだけ。でも房総は暖かい。プレゼントしたって多分出番は無いんだろうなぁ。でもいいや、一度でも使ってくれたらそれで幸せ…。
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<本文>
「あの婆さんの孫娘がこんな美人だとは思わなかったが、キリアンを連れてきてくれて感謝するよ。ここにはよく来るのか? ぜひ一度、一緒に食事がしたいねぇ。」
「生憎だけど、あたいの住んでるところはノースカロライナのダーラムなんだよ。スパニッシュ・ハーレムに住んでる叔母さんの所に遊びに来てたんだけど、今日ナタリアに会ったら帰るつもりなんだ。食事の誘いはまた来た時にでもしてくれる? いつになるかはわかんないけどね。」
大げさにがっかりした顔になったジェフに、シンシアはお愛想で笑って見せた。
「ところでこの子は口がきけないのかい? 今朝会ったばかりなんだけど、ひとっ言もしゃべりゃしないんだよ。ナタリアに聞いても何も教えてくれなくて、ただあんたのとこに連れてってくれと言われただけなんだ。」
どうやら約束を守って、口止めされた昨夜の経緯は話さなかったらしい。キリアンは顔色も良く、今日は薄いピンクのTシャツに白いデニム地のスカートをはいていた。シンシアのお下がりだとすれば、発育の良い体型の彼女がかなり幼いときの物に違いない。
「口が利けない訳じゃねぇが、わけありでな。ちっとばかりつらい目にあってまだ脅えてるのさ。」
「へえ、何があったの?」
そこでジェフは、しまった、という顔になった。女性の気を引くために、つい言わなくてもいいことまで言ってしまうのはどうしようもない性だが、そのために何度となく非道い目にあっている。が、しかし、と思い直す。
「まあ、いろいろとな。ところでシンシア、あんたダーラムにはどうやって帰るんだ? バージニアまででよけりゃあ、一緒に行かないか? 今から車を借りて、シャーロッツビルまで行くところなんだが。」
「あら、それなら……。」
シンシアは目を細め、また魅力的な笑顔をしてみせた。
「運転手をしてくれるなら、あたいの車に乗せてってあげてもいいわよ。女一人のドライブは、あまり安全とは言えなくて。あんたが信用できるかわかんないけど、その子達も一緒なら心配なさそうね。」
願ってもないことだ。キリアンが女だとわかってから、長い道中何かと女手が欲しいと思っていた。女性の機微を察するのは苦手なところで、そのため妻も失った……。
「そいつはありがたい、是非お願いするよ。」
「それじゃ、ナタリアに伝えて車を取ってくる。一時間後に表通りで待ってるから。」
片手を上げて微笑み、エレベーターに向かうシンシアの腰のラインを十分眺めてから部屋に戻ったジェフは、安心しろといった笑顔をキリアンに向けた。
「やれやれ、運がよかった。結構悲観的に考えていたんだが、思いの外簡単に済みそうだ。実は車を借りる金の当てが無くてな、ブルネットの美人とドライブも出来るしお袋の所までいければ金も借りられる。結構何とかなるもんだ。念のために州境に着く前に赤毛のウイッグとカラーコンタクトは用意するとして……。」
所在なく立つアキラに歩み寄り、ジェフはその肩に手を置く。
「昨夜よく考えてみたんだが、おまえはやはり日本に帰った方がいい、深入りは身のためにならんよ。何事もなく済めばいいが、銃を持ったこともないおまえが万が一にでも不測の事態に巻き込まれたら、へたすりゃ命に関わる。チケットの予約はもう取り消しちまったのか? 確か今日の夜の便を……。」
「いまさら、何だ!」
睨むような目に、ジェフはたじろいだ。
「俺は最後まで付き合うと決めた、自分の意志でだ。あんたの指図は受けない。」
「だがなぁ……。」
頑固そうな瞳だ。若いが故の正義感や義務感、自尊心がありありと現れた澄んだ瞳。そそのかすような昨夜の言葉を後悔しながらも頼もしさを感じて、ジェフは大きく溜息をついた。
「そうだな、悪かった。ではアキラ、おまえが自分で自分の面倒を見られるように、出発前にやることがある。」
そう言って、ジェフはアキラのバッグを指さした。
「〈SIG〉を出すんだ。扱いを教えてやる。」
無言で頷くアキラに、もう迷いはないようだった。
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◆ヒーローは自信過剰が多い気がしますが、ヒーローになろうとしてがんばって突っ張るのが男の子。自信過剰に見えるのはその現れかも知れません。
★最後まで、突っ張れるか?世の中そんなに甘くないのだ(笑)
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