私立叢雲学園怪奇譚・番外(須刈アキラ)14
2003年12月12日<コメント>
昔からの友人に5年ぶりに会い、「叢雲」を読んでもらいました。一言「昔みたいな毒がない」
あはは、人間丸くなりましたからねぇ、自分。若い頃は、ひたすら陰惨、悲壮、救い無し、のプロットばかり切ってました。でも、世の中には作り話よりも辛いことや悲しいことがたくさんあります。そんな経験もなくお話を作る矛盾にいつしか気が付いたといいますか。
今は大切なものを守りたいという気持ちで書いてます。暗いお話も書きますが、気持ちが変わってるんですね。
そう言えば、その友人もアキラ君がお気に入りだとか。アキラ君、お姉さまに人気です(笑)
脇役としての彼が、一番彼らしいのかも知れません。
:::::::::::::::::::::
<本文>
しばらくして戻ったジェフが連れてきたのは、見たところ70歳には思える、かくしゃくとした一人の老婆だった。手にはなにやら着替えらしき物を持っている。
「管理人のナタリア婆さんだ。」
紹介も終わらないうちに、二人そろってドアの外へと追いやられてしまう。
「いいかね、覗き見なんて下種な真似するんじゃないよ。」
ヤニに茶色く染まった前歯をむき出すようにしてジェフを睨んだ老婆は、アキラに向かって、にっ、と笑った。
「おまえさんは中にいてもかまわんが?」
するとジェフはアキラの頭を掴み、忌々しそうに老婆を睨み返した。
「こいつはガキじゃねぇんだ、なりはちぃせえが一人前の男だ。」
ふふん、と鼻を鳴らした老婆の姿がドアの向こうに消えると、アキラはジェフを見上げた。問いかける眼差しに苦々しく笑って、ジェフは肩をすくめる。
「ありゃあ、女だ。」
「女? 確かに年を取ったご婦人ですが……。」
「馬鹿、ナタリア婆さんじゃねぇ。キリアンのことだよ。」
「ええっ?」
つい大仰な声を上げたアキラの口を、ジェフが手で塞いだ。
「でかい声を出すな、誰かに見られたら困る。東洋人のガキを連れた海兵隊崩れなんざ噂の元だ、いろいろな意味でな。追われてんだろ?」
黙って頷くと、その手が離れた。
「担いでるときやけに軽いと思ったが、そこまで頭が回らなかった。おまえも気が付かなかったのか?」
「はあ、俺もてっきり男の子だと思って……。」
そう言えば、酒場のカウンター裏で身体を受け止めたとき、柔らかな感触を受けた気がした。置かれた状況下で深く考える暇も無かったが。
「やっかいの種ってのは一つ抱えると、どうしてこう次々に増えていくんだろうな。」
溜息をつくジェフを横目に見ながらアキラも同様の思いにうなだれる。明日の夜には日本に向かう飛行機の中にいるはずなのに、今はそれが叶わぬ現状に思える。
「とにかく、あのお嬢さんから詳しく話を聞かせてもらおう。」
ドアが開き老婆が顔を出すと、ジェフはそう言ってアキラの肩を、ぽん、と叩いた。
濡れた服を乾かすのに十ドル、ピザとコーヒーにもう十ドルを要求してナタリアは自分の部屋へと戻っていった。
「まあ、仕方あるまい。あの婆さん、がめついが面倒見は良いんだよ。孫娘の着ていた服を何着か持ってきてくれたが、その代金はいらんそうだ。」
部屋には熱い湯を張った洗面器が置いてあり、どうやら暖かなタオルで身体を拭いて乾いた服に着替えさせてくれたらしいとわかる。ソファで微かな寝息をたてるキリアンを抱えたジェフが奥の部屋のドアを開けると、そこには妙にこの場にそぐわないベッドが置いてあった。華やかなキルトのカバー、レースとリボンの飾りが付いたクッション。
「そんな目で見るな、出てった女房のベッドだよ。」
アキラがカバーを捲り、ジェフがキリアンを横たえる。女物の白いシャツと少しゆったりしたジーンズ姿で少女趣味なベッドに眠る姿は、確かにしどけない女の子そのものだった。まるで日に当たったことがないような青白い肌。運動したことがないような細い手足。
「これだけがりがりに痩せてたら、間違えもするさ。肝心なところにちっとも肉が付いてねぇ。」
毛布をその身体に掛けてやり、促されてアキラがリビングに戻ると、ほどなくナタリアが食べ物を乗せたトレーを手に扉を叩く音が聞こえた。コーヒーの香りとピザの匂いに、いかに空腹だったかを思い知る。
「このコーヒーは美味いぞ。俺の叔父がキューバでコーヒー園をやってるんだが婆さんが気に入ったってんで送ってもらってるのさ。ピザはナタリアの特製だ。」
アキラが、ちらっと伺い見ると「さっさと食え」という顔で頷く。安心してピザに手を伸ばしたその食べっぷりの良さを見ながらコーヒーを啜り、ジェフは大きく溜息をついた。
:::::::::::::::::::::
◆おっとビックリ!キリアン君は女の子でした。美少年でなくてごめんなさい(笑)やはりか弱い女の子を助けるところにアキラ君の正義があるようです。男の子だものねっ!
★書き終わっている分が貯まりましたので毎日アップできそうです。お話も佳境です、どうなりますかお楽しみに。
<叢雲ご意見掲示板>
http://www.ad-office.ne.jp/cgi-bin/bbs/ad1.cgi?8429maki
昔からの友人に5年ぶりに会い、「叢雲」を読んでもらいました。一言「昔みたいな毒がない」
あはは、人間丸くなりましたからねぇ、自分。若い頃は、ひたすら陰惨、悲壮、救い無し、のプロットばかり切ってました。でも、世の中には作り話よりも辛いことや悲しいことがたくさんあります。そんな経験もなくお話を作る矛盾にいつしか気が付いたといいますか。
今は大切なものを守りたいという気持ちで書いてます。暗いお話も書きますが、気持ちが変わってるんですね。
そう言えば、その友人もアキラ君がお気に入りだとか。アキラ君、お姉さまに人気です(笑)
脇役としての彼が、一番彼らしいのかも知れません。
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<本文>
しばらくして戻ったジェフが連れてきたのは、見たところ70歳には思える、かくしゃくとした一人の老婆だった。手にはなにやら着替えらしき物を持っている。
「管理人のナタリア婆さんだ。」
紹介も終わらないうちに、二人そろってドアの外へと追いやられてしまう。
「いいかね、覗き見なんて下種な真似するんじゃないよ。」
ヤニに茶色く染まった前歯をむき出すようにしてジェフを睨んだ老婆は、アキラに向かって、にっ、と笑った。
「おまえさんは中にいてもかまわんが?」
するとジェフはアキラの頭を掴み、忌々しそうに老婆を睨み返した。
「こいつはガキじゃねぇんだ、なりはちぃせえが一人前の男だ。」
ふふん、と鼻を鳴らした老婆の姿がドアの向こうに消えると、アキラはジェフを見上げた。問いかける眼差しに苦々しく笑って、ジェフは肩をすくめる。
「ありゃあ、女だ。」
「女? 確かに年を取ったご婦人ですが……。」
「馬鹿、ナタリア婆さんじゃねぇ。キリアンのことだよ。」
「ええっ?」
つい大仰な声を上げたアキラの口を、ジェフが手で塞いだ。
「でかい声を出すな、誰かに見られたら困る。東洋人のガキを連れた海兵隊崩れなんざ噂の元だ、いろいろな意味でな。追われてんだろ?」
黙って頷くと、その手が離れた。
「担いでるときやけに軽いと思ったが、そこまで頭が回らなかった。おまえも気が付かなかったのか?」
「はあ、俺もてっきり男の子だと思って……。」
そう言えば、酒場のカウンター裏で身体を受け止めたとき、柔らかな感触を受けた気がした。置かれた状況下で深く考える暇も無かったが。
「やっかいの種ってのは一つ抱えると、どうしてこう次々に増えていくんだろうな。」
溜息をつくジェフを横目に見ながらアキラも同様の思いにうなだれる。明日の夜には日本に向かう飛行機の中にいるはずなのに、今はそれが叶わぬ現状に思える。
「とにかく、あのお嬢さんから詳しく話を聞かせてもらおう。」
ドアが開き老婆が顔を出すと、ジェフはそう言ってアキラの肩を、ぽん、と叩いた。
濡れた服を乾かすのに十ドル、ピザとコーヒーにもう十ドルを要求してナタリアは自分の部屋へと戻っていった。
「まあ、仕方あるまい。あの婆さん、がめついが面倒見は良いんだよ。孫娘の着ていた服を何着か持ってきてくれたが、その代金はいらんそうだ。」
部屋には熱い湯を張った洗面器が置いてあり、どうやら暖かなタオルで身体を拭いて乾いた服に着替えさせてくれたらしいとわかる。ソファで微かな寝息をたてるキリアンを抱えたジェフが奥の部屋のドアを開けると、そこには妙にこの場にそぐわないベッドが置いてあった。華やかなキルトのカバー、レースとリボンの飾りが付いたクッション。
「そんな目で見るな、出てった女房のベッドだよ。」
アキラがカバーを捲り、ジェフがキリアンを横たえる。女物の白いシャツと少しゆったりしたジーンズ姿で少女趣味なベッドに眠る姿は、確かにしどけない女の子そのものだった。まるで日に当たったことがないような青白い肌。運動したことがないような細い手足。
「これだけがりがりに痩せてたら、間違えもするさ。肝心なところにちっとも肉が付いてねぇ。」
毛布をその身体に掛けてやり、促されてアキラがリビングに戻ると、ほどなくナタリアが食べ物を乗せたトレーを手に扉を叩く音が聞こえた。コーヒーの香りとピザの匂いに、いかに空腹だったかを思い知る。
「このコーヒーは美味いぞ。俺の叔父がキューバでコーヒー園をやってるんだが婆さんが気に入ったってんで送ってもらってるのさ。ピザはナタリアの特製だ。」
アキラが、ちらっと伺い見ると「さっさと食え」という顔で頷く。安心してピザに手を伸ばしたその食べっぷりの良さを見ながらコーヒーを啜り、ジェフは大きく溜息をついた。
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◆おっとビックリ!キリアン君は女の子でした。美少年でなくてごめんなさい(笑)やはりか弱い女の子を助けるところにアキラ君の正義があるようです。男の子だものねっ!
★書き終わっている分が貯まりましたので毎日アップできそうです。お話も佳境です、どうなりますかお楽しみに。
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