<コメント>
 本編で、大貫さんが「昼間の月が嫌いだ」といいました。でも「かざと」は好きです。
先日も、雲一つない夕暮れには少し早い時間。空の一部が欠け落ちたような白い月が見えました。その下を、入間に向かう輸送機が低空飛行してゆくのをぼーっと見ていたらやはりきれいだなぁ、と。
自衛隊の知人がいます。輝きたいと願う人は多いのですが、願い叶わず。危険地区への派遣は私も反対です。

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<本編>

 カウンターの中に投げ込まれた瞬間、アキラは咄嗟に受け身の体制を取ると後から同じように投げ込まれたキリアンの身体を受け止めた。はなから下敷きになる方を決めてからの行動に間違いはなかったようで、受け止めた身体は見た目よりも軽く柔らかい。
 その感触に意外さを感じる間もなく、ジェフの巨体が覆い被さるように落ちてきて二人の襟首を掴み酒瓶の並ぶ棚の下壁を蹴る。すると薄いベニヤが張られただけのそこが四角い口を開けた。
「非常脱出ルートだ、修理代は後請求だぜ。」
 引きずり込まれるように姿を消した彼らの後から、老紳士がビール樽で穴を塞いだ。
 穴の中は小さな小部屋になっていた。丸テーブルに粗末な椅子が四脚。並べられたポーカーチップとカード。さしずめ隠れ賭博場といった様相だ。壁際には小さなテレビと頑丈そうなチェスト。そのチェストの棚からジェフが取りだしたのは二丁の拳銃だった。
「やれやれ、こんなもんでも何かの役には立つか。武器があるなんて言わなきゃ良かったな、小型拳銃くらいしかないのにあんな連中が乗り込んでくるとは思わなかった。どうやら脅しが利きすぎちまったか。」
 ほれ、とばかりにその一つ差し出され、アキラはごくりと咽を鳴らした。
「オートマチックが良いだろう〈SIG P203〉だ。これならその細っこい腕でも使えるはずだ。」
 ジェフは自分で使う大型リボルバーの弾をチェストの引き出しに探しながらこともなげに言ったが、受け取ることなど出来ない。
「グズグズすんな! マガジンに弾は入ってるがちゃんと一発目を装填して忘れずにセーフティーを……おい、まさか使えない訳じゃねぇだろうな?」
 無言で頷くアキラに呆れたように口を開け「おまえ、どっから来たんだ?」と今更ながら目で問われてアキラは苦笑した。
「俺は日本からの旅行者です。アメリカの高校生と違って銃の扱い方なんか習ってないし、触ったこともない。」
「はあ? ジャパニーズ・ボーイか。」
「言わせてもらえば、もう十八だ。ボーイは止めてくれ。」
 精一杯の虚勢に、ジェフが声を立てて笑った。
「ジャパニーズにしちゃあやけに鼻っ柱の強いガキだな。横須賀におまえみたいなのはいなかったぞ。いいから、とりあえずその大事そうに抱えてる鞄の中にしまっとけ。今は逃げるのが先だ。」
 言われて初めて、自分の胸に抱えていたナイロンバックの存在に気が付いた。クッションに包まれてはいるが、小型の一眼レフは無事だろうか? 早くしろ、と、グリップでつつかれ、アキラは仕方なくファスナーを開けると渡された銃をクッションの隙間に押し込んだ。いきなり、バッグがずしりと重い物に感じられる。
「俺の名はジェフリー・ヘイワードだ、ジェフと呼んでくれ。そっちの方はさっき聞いたがおまえはなんて名だ? ボーイでよけりゃ、そう呼ぶが。」
「アキラ、須刈アキラだ。」
「OK、アキラ。この部屋には『ドラゴン・テイル』の裏にあるデリからしか入れない。だが奴等はプロだ、直ぐにここを見つけるだろう。床下から地下下水道に出てウエストサイドの方まで案内してやるからあいつらを捲いて俺はそこでおさらばだ。いいな?」
 取り敢えず頷くより仕方のないアキラを背に床の汚れたカーペットを引き剥がすと、そこだけ床材は貼られておらず丸いマンホールの蓋のような物が現れた。ジェフに促され引き上げられた鉄の蓋の下にあく、暗い穴を覗き込む。
「早くしろ! 」
 息を一つ飲み、キリアンの肩を抱くとアキラは穴の底に続く梯子に足を掛けた。二人が底に着くよりも早く、壁の向こうに追っ手の気配を感じてジェフはカーペットを大きく持ち上げ穴に滑り込む。ガタリ、と、蓋が閉じ、その上に何事もなかったかのようにカーペットがふわりと落ちた。

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◆「叢雲」とカラーが違うというご意見をいただきました。駄目?受け入れられない?別物として楽しんで貰えないかなぁ…。
★アキラ君、奇しくも銃を手にすることに。彼が銃口を人に向けることなどあるのでしょうか?
▼本編もばりばりがんばるぞ!
<叢雲ご意見掲示板>
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