<コメント>
 掛け値なしの信頼を寄せてくれる友人がいます。心ない言葉や裏切り、悪意に満ちた対応。その中で救いになる友人と一時、会話を交わすことがどれだけ心に平穏をもたらすか。
 信頼を得ることは簡単ではありません。自分を偽らず、なおかつ押しつけず、ゆっくりと育てなくてはなりません。でも、失うときはほんの一瞬だといいます。
 本当に、そうでしょうか?信頼した人を、簡単に切り捨てられるのでしょうか?裏切られてもどこかで信じたい。そんな気持ちが捨て切れません。

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<本文>

地下鉄ではタイミング良く電車で相手を捲く自信がない。ターミナル内には他に仲間がいるかも知れないと、判断した上での行動だ。激しい雨と、傘をさし窮屈そうに行き交う人波に紛れた方が、確実に難を逃れられそうに思えた。
 案の定、下方をかいくぐるようにして走る小柄な二人に比べ、男達は顔の高さにある傘に邪魔され思うように追ってこれない。ちら、と、アキラはたすき掛けにして前に抱えたカメラバックのことを案じたが、まあ、多分大丈夫だろう、と、あきらめるより他になかった。

 マジソン・スクエアガーデン方面を目指して3
ブロックほど走り、アキラは周りのあまり好ましくない状況に足を止めた。もとよりこの辺りの町並みに詳しいはずもなく、夜のとばりと雨の暗さが行きたいと思った方向への正常な判断を誤らせてしまったようだ。気が付けば、華やかなネオンと明るい人の話し声は絶え、暗く明滅する怪しげなネオンと、饐えた匂いの充満する人気のない路地へと迷い込んでいた。
「何だか、ヤバそうな所だな。」
 旅行者を歓迎しないその空気を一目で察して周りを見回す。表通りに出るためにはどの方向に行けばいいのだろうか? 闇雲に歩いては、ことさら悪い状況を招く事になりかねない。
 夢中で走ってきたために腕を取ったまま話しかけることもしなかった少年をあらためて見ると、蒼白な顔をして小刻みに震えている。しかし空いている方の手は、アキラのシャツを強く握りしめていた。
「心配すんなよ、置いてきゃしないからさ。君、名前は?」
「キリアン。」
「年は?」
「十四。」
 聞く方もおぼつかない英語だが、答える方もどうやら英語圏の人間ではない気がする。かぼそい声には生気がなく、かなりの疲労が見て取れた。夜になって、雨に煽られた風が身体を冷やし始めている。せめてタクシーの拾えるところへ出なければとアキラが何とか来た道を探ろうとしたとき、石畳を蹴る甲高い靴音が近づいてきた。
「嘘だろ? おい!」
 一人の男の姿が派手なピンク色のネオンに浮かび上がった。ターミナルで床に払い倒した男だ。無線らしき物に向かって何かを叫んでいるが、やはり英語には聞こえない。どこの言葉か?ふと頭をよぎったが考えている暇はなかった。方向などかまわず路地の隙間に滑り込む。距離を離す方が先だ。
 それにしても、と、アキラは疑問を抱いた。なんと鮮やかに、あの男達は後を追ってくる事が出来るのだろうか。逃走する者は無意識に一定の行動を取ると、聞いたことがある。もしそれを踏まえ、後を追い、先回りしているとしたら? つまりは追跡のプロと言うことであり、そんな相手に逃げおおせる訳がない。逃走者の心理を知っていれば裏をかくことも出来るかも知れないが、いかんせん自分は素人なのだ。
 狭い路地が切れそうなところに、表通りらしき明かりが見えてきた。ほっと息を付いたのも束の間、明かりは人影に遮られる。やられた、と、アキラは立ち止まった。素人にはこれが限界か? 後ろからの追っ手に挟まれ、申し訳ない気持ちで少年を見た。すがるような瞳。
「ここまで来たんだ、もう一頑張りしてみるか。」
 前後を挟まれて立ちつくす二人に追っ手の男達は走るのを止め、ゆっくりと歩きながら近付いてくる。アキラは一メートルほど後に下がった。横目でとらえた小さなネオンと半地下に隠れた狭い入り口。一か八か、願わくば誰か助けてくれ、と、祈るような気持ちで地下に飛び込み勢いよく扉をたたいた。

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◆アキラ君はやはり方向音痴のようですね。「かざと」は方角音痴で東西南北がわかりません(笑)
★3000ヒット、目前だ!
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