<コメント>
 毎回読んでくれている方に感謝しつつ、アキラ君NY編です。と、言ってもずっとNYにいるわけでなく、あちこち移動せざるを得ない状況に追い込まれるのですが。
 トラブルに対して、前向きになろうとする事は良いことです。大概が憤りを感じてもどうすることも出来ず、冷笑的に自分を被害者に見立ててあきらめてしまいがちです。
 だからせめて、主人公達には自分の信じる道に真っ直ぐ立ち向かって欲しいですね。その先に何が待っていようとも。

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<本文>

 その日は朝からひどく蒸し暑かった。
 早朝ホテルを出た時点では快晴だったために、天気予報に気を付けるのを怠ってしまい、案の定、ほんの半日郊外からの風景を撮影するだけだからという考えの甘さを激しく後悔する羽目になってしまったのだ。
 ハドソン川の対岸、リバーロードを北上してミッドタウンを望む高台から夕景を撮るつもりで、ルート158番の「Fort Lee」に向かうバスに乗り、途中「Weehauken」で下車して良い撮影スポットをようやく見つけたところだった。ここからの夕景はニュージャージー方面に沈む太陽がミッドタウンのビル群に反射してすばらしく美しいと聞いていたために、この旅行の最後にどうしてもカメラに納めておきたかったのだ。
 ところが雲行きは次第に怪しくなり、とうとう空はその望みが叶わないほど重く暗い色の雲に覆われてしまった。撮影を中断して慌ててカメラを片付け帰りのバスに乗ったのだが、リンカーントンネルにさしかかる頃ぽつぽつと窓に当たり始めた雨はトンネルを抜けるとスコールの激しさとなり、滝のように流れる水は外界を完全に遮断してしまっていた。
 こうなることが分かっていれば防水性のステンレスケースを持っていったのに、と、須刈アキラは憮然とした表情で客を降ろし停車場を去っていくバスを見送った。だがバスに乗るときはなるべく荷物は少な目にと、どのパンフレットにも記載されていたために、律儀にコンパクトなナイロン製のカメラバック一つで出かけたのである。車内の冷房に用心して持ってきたパーカーがあったことがせめてもの救いだったが、ここからホテルまで激しい雨を完全に避けて帰り着くことは不可能とおもわれた。
 世界最大級のバスターミナルであるニューヨーク・シティ『ポート・オーソリティ・バスターミナル』は東西は八番街と九番街の間、南北は40丁目と42丁目の間の2ブロックを占める巨大な建物であり、全米各地やカナダからの長距離バスをはじめ中距離バス、通勤バス、グレイラインなどの観光バスを含め40以上のバス会社路線が乗り入れている。地上4階、地下2階のビルに400以上のゲートを持ち、その一つに帰り着いたアキラはタクシーを拾うべきか、何時止むとも知れない雨をやり過ごすべきか窓の外を眺めて思案に暮れていた。

 家路を急ぐビジネスマン、ダークスーツに身を固め機械的な正確さで人混みを縫って歩くキャリアウーマン。もたもたと大荷物を抱えた旅行者。声高にわめき散らすアジア系の集団。
 夏の夕暮れに降り出した雨で、多くの人種で込み合ったターミナル内はまるでサウナのような蒸し暑さである。慣れない構内で他人とぶつかり、荷物に躓き、「Sorry」という単語を100回近く繰り返してアキラはようやく8番街線の地下鉄入り口に辿り着くことができた。つい、何度か訪れた事のある「新宿」の駅ビルの光景を思い出し、苦笑する。その時も確か、JR線の改札がわからなくなって一時間以上も買い物客の間を歩き回った覚えがあるのだ。
 激しい雨は、一向に衰える気配がない。電車がホテル近くの駅に着くまでに止んでくれることを願うしかないが、東28丁目まではわずかな距離であるため期待は出来なかった。防水加工してあるパーカーを被って走ればいいか、と、覚悟して、乗り場に向かおうとしたその時。
「そのパーカーを、譲ってくれませんか?」
 背後から消え入りそうな声がアキラを呼び止めた。

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◆美少年登場その正体は?(笑)
 …さて、行ったこともない場所を書くのは楽しいですが、読んでいる人に雰囲気が伝わるかどうか心配です。得意のSF小説ならやりたい放題だけど、いかんせん実在の場所となるとなぁ。違和感がなければよしということで(苦笑)
★たまにはコメントくださいね。
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