私立むらくも高校怪奇譚・番外(須刈アキラ 編)1
2003年11月4日<コメント>
パソコンがクラッシュしたおかげで、いろんなところのパスワードを入れ直し。中には無くしたり、忘れたりしているものもあって大変です。でもやっとメインマシンが復活。サブマシンからのデータを移したりやらなんやらで今日のアップが午後になりました。午前中にのぞいてくれた方、ごめんなさい。
さて、クラスメイトに「宇宙人にさらわれた」とうそぶいているアキラ君。空白の半年間にいったい何があったんでしょうね。皆さんが色々考えてくれてもいいのですが、「こんなお話はいかがでしょう?」といった感じでお付き合いくだされば嬉しいです。
本編3部の伏線にもなるので、少し長くなりますがまじめに書こうと思っています。どうぞよろしく。
:::::::::::::::::::::
<本文>
子供の頃から写真を撮るのが好きだった。父親のお下がりでもらった古い型の一眼レフは、小学生の身に少々重かったかも知れない。しかしそんなことを感じることなく、少年は毎日カメラを首から下げて手当たり次第に写真を撮った。
現像代が馬鹿にならないと渋い顔をする母親に、「将来ピューリッツァー賞を取るかも知れないぞ、投資だと思え。」と、父は良く笑っていた。しかしさすがに気が引けて、何時しか現像も自ら自分で手がけるようになったのだった。
銀行員の父は転勤が多く、日本各地を転々としながらマンションの窓から見える景色、山、川、海、至る所をカメラに納めていった。花、昆虫、動物。車、電車、飛行機。史跡、寺院、オフィスビル。そして人間。
「須刈ぃ! 何やってんだ、おいてくぞ。」
「おう、悪ぃ!」
千葉県警本部の建物を見上げていた須刈アキラは、友人に呼ばれて急ぎ足で後を追った。
『叢雲学園高等部』写真部三年のアキラが同じ部の同級生である佐野和紀の叔父を県警報道部に訪ねたのは、これから受験する大学
の出身カメラマンがそこにいると聞いたからだった。同じ大学を受けると知った佐野がアキラを誘ったのだが、アキラの興味は報道部のカメラマンよりどうやら県警本部の見学にあるようだ。
「お前も写真、続けるつもりなんだろう?」
受付で用件を述べ、叔父が来るのを待つためにロビーの長椅子に座った佐野は、当然のようにアキラに言った。
「うーん、そうだなぁ。」
しかしアキラは曖昧な返事を返しただけだ。
一年生で佐野が写真部に入ったとき、アキラは二年生だった。活動熱心で後輩に親切な彼は、皆に好かれていたのだが……。
「最近あまり、カメラを持たないんだな。」
「デジタルカメラの時代だしねぇ。そうだな、良いデジカメを手に入れたらまた熱意がわくかも知れないけど。」
それだけか? と、佐野は疑念を抱いていた。アキラが夏休みに撮影旅行の目的で訪れたアメリカで半年もの間行方がわからなくなり、翌年の春に帰ってきたことを誰もが知っていた。それからのアキラが少し変わった、変人になった、と、言う者もいるが、本質までは変わっていないのではないだろうか? 佐野はそう、信じていたかったのかもしれない。
アキラの留年が決まり佐野と同じ学年になったとき、自分はもう先輩ではないから呼び捨ててくれと言ったのだが、皆は「さん」付けで呼ぶようになった。しかし四月生まれの自分と一月生まれのアキラを同年という意識でとらえ、同じクラスメイトとして付き合いたかった佐野だけが「須刈」と呼んでいたのだ。
アメリカでいったい何があったのだろうか? 今のアキラは全てのことにおいて、一歩引いた関わり方しかしようとしない。興味のないふりをしているように、彼には思える。
しかし、秋本遼の関係した例の『叢雲石膏像事件』では何故かアキラは積極的に関わり、動いていた。以前の彼が戻ってきたようで、正直、佐野は嬉しかったのだが、事件が結末を迎えてしまってからはまた無為に毎日を送っている。そしてその目は、何時も遠くを見ているように思えるのだ……。
さほど待たずして佐野の母方の叔父、石井が受け付け横のロビーにやってきた。小柄で人の良さそうな三十代半ばの男性で、カジュアルだがきちんとジャケットとネクタイを付けていた。事件記者に、もう少しむさ苦しいイメージを持っていたアキラが意外そうな顔をした。
「やあ、君が須刈君だね。初めまして、こいつの叔父の石井武彦です。」
その表情から自分に対しての印象を察したのか、石井はにこやかに右手を差し出した。遠慮がちにアキラがその手を握る。
「和紀から君のことは良く聞いているよ、一度会いたいと思っていたんだ。」
おしゃべりな佐野が、どのような話をしているか予想がついたのだろう、アキラは苦笑した。
「自分はただの高校生です。ダブリですけどね。」
石井は声を立てて笑った。破顔の彼は、誰からも好感を持たれるようなタイプだった。
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◆アキラ君編始まりました!ご意見ご感想、お待ちしてます。
<叢雲ご意見掲示板>
http://www.ad-office.ne.jp/cgi-bin/bbs/ad1.cgi?8429maki
パソコンがクラッシュしたおかげで、いろんなところのパスワードを入れ直し。中には無くしたり、忘れたりしているものもあって大変です。でもやっとメインマシンが復活。サブマシンからのデータを移したりやらなんやらで今日のアップが午後になりました。午前中にのぞいてくれた方、ごめんなさい。
さて、クラスメイトに「宇宙人にさらわれた」とうそぶいているアキラ君。空白の半年間にいったい何があったんでしょうね。皆さんが色々考えてくれてもいいのですが、「こんなお話はいかがでしょう?」といった感じでお付き合いくだされば嬉しいです。
本編3部の伏線にもなるので、少し長くなりますがまじめに書こうと思っています。どうぞよろしく。
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<本文>
子供の頃から写真を撮るのが好きだった。父親のお下がりでもらった古い型の一眼レフは、小学生の身に少々重かったかも知れない。しかしそんなことを感じることなく、少年は毎日カメラを首から下げて手当たり次第に写真を撮った。
現像代が馬鹿にならないと渋い顔をする母親に、「将来ピューリッツァー賞を取るかも知れないぞ、投資だと思え。」と、父は良く笑っていた。しかしさすがに気が引けて、何時しか現像も自ら自分で手がけるようになったのだった。
銀行員の父は転勤が多く、日本各地を転々としながらマンションの窓から見える景色、山、川、海、至る所をカメラに納めていった。花、昆虫、動物。車、電車、飛行機。史跡、寺院、オフィスビル。そして人間。
「須刈ぃ! 何やってんだ、おいてくぞ。」
「おう、悪ぃ!」
千葉県警本部の建物を見上げていた須刈アキラは、友人に呼ばれて急ぎ足で後を追った。
『叢雲学園高等部』写真部三年のアキラが同じ部の同級生である佐野和紀の叔父を県警報道部に訪ねたのは、これから受験する大学
の出身カメラマンがそこにいると聞いたからだった。同じ大学を受けると知った佐野がアキラを誘ったのだが、アキラの興味は報道部のカメラマンよりどうやら県警本部の見学にあるようだ。
「お前も写真、続けるつもりなんだろう?」
受付で用件を述べ、叔父が来るのを待つためにロビーの長椅子に座った佐野は、当然のようにアキラに言った。
「うーん、そうだなぁ。」
しかしアキラは曖昧な返事を返しただけだ。
一年生で佐野が写真部に入ったとき、アキラは二年生だった。活動熱心で後輩に親切な彼は、皆に好かれていたのだが……。
「最近あまり、カメラを持たないんだな。」
「デジタルカメラの時代だしねぇ。そうだな、良いデジカメを手に入れたらまた熱意がわくかも知れないけど。」
それだけか? と、佐野は疑念を抱いていた。アキラが夏休みに撮影旅行の目的で訪れたアメリカで半年もの間行方がわからなくなり、翌年の春に帰ってきたことを誰もが知っていた。それからのアキラが少し変わった、変人になった、と、言う者もいるが、本質までは変わっていないのではないだろうか? 佐野はそう、信じていたかったのかもしれない。
アキラの留年が決まり佐野と同じ学年になったとき、自分はもう先輩ではないから呼び捨ててくれと言ったのだが、皆は「さん」付けで呼ぶようになった。しかし四月生まれの自分と一月生まれのアキラを同年という意識でとらえ、同じクラスメイトとして付き合いたかった佐野だけが「須刈」と呼んでいたのだ。
アメリカでいったい何があったのだろうか? 今のアキラは全てのことにおいて、一歩引いた関わり方しかしようとしない。興味のないふりをしているように、彼には思える。
しかし、秋本遼の関係した例の『叢雲石膏像事件』では何故かアキラは積極的に関わり、動いていた。以前の彼が戻ってきたようで、正直、佐野は嬉しかったのだが、事件が結末を迎えてしまってからはまた無為に毎日を送っている。そしてその目は、何時も遠くを見ているように思えるのだ……。
さほど待たずして佐野の母方の叔父、石井が受け付け横のロビーにやってきた。小柄で人の良さそうな三十代半ばの男性で、カジュアルだがきちんとジャケットとネクタイを付けていた。事件記者に、もう少しむさ苦しいイメージを持っていたアキラが意外そうな顔をした。
「やあ、君が須刈君だね。初めまして、こいつの叔父の石井武彦です。」
その表情から自分に対しての印象を察したのか、石井はにこやかに右手を差し出した。遠慮がちにアキラがその手を握る。
「和紀から君のことは良く聞いているよ、一度会いたいと思っていたんだ。」
おしゃべりな佐野が、どのような話をしているか予想がついたのだろう、アキラは苦笑した。
「自分はただの高校生です。ダブリですけどね。」
石井は声を立てて笑った。破顔の彼は、誰からも好感を持たれるようなタイプだった。
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◆アキラ君編始まりました!ご意見ご感想、お待ちしてます。
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