私立むらくも学園怪奇譚・番外(神崎刑事 編)5
2003年10月21日<コメント>
犯罪を犯す者と犯さない者。その者を隔てる「境界線」と言う言葉があります。
じぶんはそれを、「川」に例えることが良くあるのですが、小説を書くときも、何時も対岸を意識しています。自分の中の淀んだ川を覗き込み、引き込まれまいとします。川を自力で泳ぐほど、まだ追いつめられていませんが、誰かが橋を架けてしまうことが怖い。
対岸が、近く感じるこのごろです。
:::::::::::::::::::::
<本文>
容疑者の一人を確保して署に戻ると濱田に取り調べを頼み、彼は書類の作成に向かう。取調室に連行していったのは早川だが、どうもいつもより厳しい態度に感じるのはかつて少年課に居たためか?
この容疑者は十八歳の少年だった。
地道で根気強い聞き込みが彼女の定評である。「叢雲」の件でも貴重な情報が得られたのは、その彼女のおかげと言って良かった。しかし今回に限って根強い怒りのような物が感じられるのは何故だろう。
パソコンのモニターをぼんやりとながめて考え事をする神崎の後ろから、聞き慣れない女の声が彼を呼んだ。
「神崎さんっ! 濱田さんから聞きましたよ。エリート商社マンと合コンのお話があるそうですねっ!」
「えっ、ああ、まあ……。」
交通課の若い婦警、片桐留美香が彼の顔を覗き込む。
「僕の兄が出版大手のM社に勤めているんだけど、そこの独身男性数人と一緒に食事の場を設けたいって言うんだよ。無理ならいいんだ。直ぐに断れるから。」
「何人行けるんですか? 希望年齢層は? そちらの人数と、年齢、出来れば写真付きでお願いします。」
別の声にふと見ると、高橋の後ろに女の子が二人増えている。神崎は思わず身を引いた。
「詳しいことは、追って連絡するよ。相手の情報も、メールで貰っておくから。僕は取り敢えず仕事に戻りたいんだけど。」
「わかりました。連絡待ってますね。あ、それから神崎さんは参加予定なんですか? 」
「多分……。人数によると思うけど。」
参加したくないのは山々だが、どうも彼は昔から長兄に逆らえないところがあった。
三人の婦警は、くすくす笑いながら神崎を伺い見る。
「神崎さん、女の子より男の子が好きなんじゃないかって噂されてたんですよ。」
「はあっ?」
思わず素っ頓狂な声をあげてしまい、彼は慌てて口をふさぎ辺りを見回した。
「こないだ、色の白いすごく綺麗な男の子と館山のパーラーに居たでしょう? あたしの実家、そっちなんですよ。」
多分それは大貫の事件のことで秋本遼を訪ねたときだ。濱田が田村さんと釣具屋に行ってしまい時間つぶしを一時間以上もさせられたのだが、彼がその間付き合ってくれたのだった。
「あたしが見たのは、ちょっと野性的な感じのする背の高い子でしたよ。スポーツマンタイプでカッコよかったな。大学病院の駐車場でした。」
それは母親の見舞いに来ていた篠宮優樹だ。やはり事件がらみで用があっただけである。
「あたしはねぇ……。」
「勘弁してくれ、まだあるのかい? どれも叢雲の事件で関係してた子達だよ。立件のために会ってただけだ。」
「なあんだ、そうなんですか。」
「あたりまえだっ!」
三人は顔を見合わせイタズラっぽく笑う。
「ちょっとからかっただけですよ。神崎さん、真面目で付き合い悪いんだもの。合コン、楽しみにしてますからよろしくお願いしますね。」
片桐の言葉に、彼はどっと疲れて椅子に寄りかかる。
「あ、ところで三人目は誰だい?」
思いついて、自分が話を遮った子に神崎は声をかけた。
「知的だけど、ちょっと冷たい感じのする子でしたよ。つい先日、署内で一緒にいらしたでしょう?」
須刈君か……。そう言えば三日前、報道部にいる佐野君のおじさんを訪ねてきた彼を、ついでで成田まで送っていった覚えがある。
それにしても何処で見られているのやら。神崎の悩みの種は、また一つ増えてしまった。
:::::::::::::::::::::
★「叢雲」主人公達の名が、ようやく出てきましたか。(笑)アキラ君は神崎さんに成田空港まで送ってもらっていますが、「アキラ君編」の伏線になってます。神崎さんはもちろんノーマルです(爆笑)
◆一言残してくれると嬉しいな(^O^)
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犯罪を犯す者と犯さない者。その者を隔てる「境界線」と言う言葉があります。
じぶんはそれを、「川」に例えることが良くあるのですが、小説を書くときも、何時も対岸を意識しています。自分の中の淀んだ川を覗き込み、引き込まれまいとします。川を自力で泳ぐほど、まだ追いつめられていませんが、誰かが橋を架けてしまうことが怖い。
対岸が、近く感じるこのごろです。
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<本文>
容疑者の一人を確保して署に戻ると濱田に取り調べを頼み、彼は書類の作成に向かう。取調室に連行していったのは早川だが、どうもいつもより厳しい態度に感じるのはかつて少年課に居たためか?
この容疑者は十八歳の少年だった。
地道で根気強い聞き込みが彼女の定評である。「叢雲」の件でも貴重な情報が得られたのは、その彼女のおかげと言って良かった。しかし今回に限って根強い怒りのような物が感じられるのは何故だろう。
パソコンのモニターをぼんやりとながめて考え事をする神崎の後ろから、聞き慣れない女の声が彼を呼んだ。
「神崎さんっ! 濱田さんから聞きましたよ。エリート商社マンと合コンのお話があるそうですねっ!」
「えっ、ああ、まあ……。」
交通課の若い婦警、片桐留美香が彼の顔を覗き込む。
「僕の兄が出版大手のM社に勤めているんだけど、そこの独身男性数人と一緒に食事の場を設けたいって言うんだよ。無理ならいいんだ。直ぐに断れるから。」
「何人行けるんですか? 希望年齢層は? そちらの人数と、年齢、出来れば写真付きでお願いします。」
別の声にふと見ると、高橋の後ろに女の子が二人増えている。神崎は思わず身を引いた。
「詳しいことは、追って連絡するよ。相手の情報も、メールで貰っておくから。僕は取り敢えず仕事に戻りたいんだけど。」
「わかりました。連絡待ってますね。あ、それから神崎さんは参加予定なんですか? 」
「多分……。人数によると思うけど。」
参加したくないのは山々だが、どうも彼は昔から長兄に逆らえないところがあった。
三人の婦警は、くすくす笑いながら神崎を伺い見る。
「神崎さん、女の子より男の子が好きなんじゃないかって噂されてたんですよ。」
「はあっ?」
思わず素っ頓狂な声をあげてしまい、彼は慌てて口をふさぎ辺りを見回した。
「こないだ、色の白いすごく綺麗な男の子と館山のパーラーに居たでしょう? あたしの実家、そっちなんですよ。」
多分それは大貫の事件のことで秋本遼を訪ねたときだ。濱田が田村さんと釣具屋に行ってしまい時間つぶしを一時間以上もさせられたのだが、彼がその間付き合ってくれたのだった。
「あたしが見たのは、ちょっと野性的な感じのする背の高い子でしたよ。スポーツマンタイプでカッコよかったな。大学病院の駐車場でした。」
それは母親の見舞いに来ていた篠宮優樹だ。やはり事件がらみで用があっただけである。
「あたしはねぇ……。」
「勘弁してくれ、まだあるのかい? どれも叢雲の事件で関係してた子達だよ。立件のために会ってただけだ。」
「なあんだ、そうなんですか。」
「あたりまえだっ!」
三人は顔を見合わせイタズラっぽく笑う。
「ちょっとからかっただけですよ。神崎さん、真面目で付き合い悪いんだもの。合コン、楽しみにしてますからよろしくお願いしますね。」
片桐の言葉に、彼はどっと疲れて椅子に寄りかかる。
「あ、ところで三人目は誰だい?」
思いついて、自分が話を遮った子に神崎は声をかけた。
「知的だけど、ちょっと冷たい感じのする子でしたよ。つい先日、署内で一緒にいらしたでしょう?」
須刈君か……。そう言えば三日前、報道部にいる佐野君のおじさんを訪ねてきた彼を、ついでで成田まで送っていった覚えがある。
それにしても何処で見られているのやら。神崎の悩みの種は、また一つ増えてしまった。
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★「叢雲」主人公達の名が、ようやく出てきましたか。(笑)アキラ君は神崎さんに成田空港まで送ってもらっていますが、「アキラ君編」の伏線になってます。神崎さんはもちろんノーマルです(爆笑)
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