私立むらくも高校怪奇譚 1(第45回)
2003年9月29日<コメント>
早っ!いやほんと、1000カウント踏んだ人、教えてくださいよ。嬉しいな。
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<本文>
かすかに白みかけた空から、星が一つまた一つと姿を消してゆく。この埠頭から望む鏡ヶ浦から太陽は昇らないが、墨を流したように黒々と横たわっていた目の前の海が、時間と共に徐々に濃い藍色から鮮やかな空色へと変化してゆくのがわかる。大気に漂う霞は穏やかな風と共に去り、やがて一体となった二つの混じり合う色を、「鏡ヶ浦」はその名の通り映しとっていた。
かねてからの約束を守りたいと言って大貫が優樹と遼を外洋のトローリングに誘ってくれたため、金曜の夜から二人は田村と館山の大貫の自宅に泊まっていた。今朝は眠った気もしないくらい早くに起こされたが、一足先に起きた大貫が作った物であろう、クーラーボックスの上には既に船上で食べるための握り飯が用意してある。そう言えば田村は昨夜少しビールを飲んだが、飲むと朝起きられないと、大貫は一滴もアルコールを口にしていなかった。
デッキの上、強い向かい風に肌寒さを感じた遼が身を震わせると、コクピットから大貫がパイル地のパーカーを彼に手渡した。
「今日は少し、沖の外洋まで出るつもりなんだ。」
クルーザーは既に埠頭を遠く離れ、内湾を抜けようとしている。空気を巻き込んだ美しい波線を後方に引いてスピードが増してくると、舞い上がる水しぶきが朝日にダイヤモンドのように輝いた。
優樹は一人舳先に立ち、ハンドレールにつかまって気持ちよさそうに海風を受けている。その凛とした横顔と日に焼けた肩がやけに眩しく、遼はつい見とれてしまいそうになった。
「何だよ、人のことじろじろ見て。」
視線に気付いた優樹の問いに、遼は笑い返した。
「そんな格好で、よく寒くないな、と、思って呆れてたのさ。」
いくらこの地方が温暖な気候に恵まれてるとはいえ、今の時期、海の上でタンクトップとトランクスだけの姿は、確かに寒々しいといえるだろう。
「はぁ? おまえ寒いのか。軟弱なヤツだな。」
「君とは違うよ。」
遼は優樹の嫌味を軽くいなす。
「こら、優樹。おまえまさかその格好で泳ぐつもりじゃないだろうな。」
後方デッキで釣り竿の組み立てをしていた田村が首を出して大声で叫んだが、彼は敢えて聞こえないふりをして、コクピットの大貫をのぞき込んだ。
「大貫さん、そろそろ止めてくれよ。」
大貫も心得たとばかりにエンジンを止める。
「あっ、おいっ! 優樹! ポイントはまだ先だって……。」
田村の制止の声を振り切り、彼は洋上に身を躍らせた。
「まったく、困ったヤツだな。船から離れるんじゃないぞ! 」
口では不満を漏らしていたが、波間に水しぶきをたてる優樹の姿を、彼は嬉しそうに目で追っている。
「それにしても、彼には驚かされるな。」
コクピットから大貫も出てきて、遼の横に立ち海上を眺めた。
「そうですね、本当に。この時期外洋で泳ぐなんて、彼ぐらいだと思いますよ。」
「いや、違うんだよ。田村が釣りをする予定のポイントはもう少し先なんだが実はそこは潮の流れが速くてね、もし泳ごうとするのであれば、この場所が一番いいのさ。だから私も船を止めたんだが……。彼は海流が読めるかな? とても偶然とは思えない。」
遼の鼓動が、大貫の言葉で早くなる。
(何だろう?この得体の知れない胸騒ぎは……。)
それは彼が、あの石膏像を見つけた夜に感じたものと似ていた。
「もしかして優樹君は海神の申し子かもしれないなぁ。」
ただ、冗談めかして言った大貫の言葉だった。しかし遼の心臓がびくり、と、反応する。
『この世の全ては必然から導きだされたものであり、そこに偶然の要因は存在しない』
誰かからそう言ったのを覚えている。何時のことだったのか? 誰の言葉だったのか? 大事な人から伝えられた言葉だった気がするのに、思い出すことが出来ない。
『この宇宙に存在する自分自身も、経験する全てのことも、目的があって成り立っている。』
目的。理由。今までの一連の出来事が何かに繋がっている。姉を殺した犯人を見つけることの他に、いったい何があるのだろうか? そしてなぜ、今その言葉が頭に浮かんできたのだろう?
「遼、どうした浮かない顔をして。まだ悩んでることでもあるのか? 」
「あっ、いいえ。何でもないんです。」
「そうか。おまえが優樹君とまた以前のように付き合えるようになった事を田村はすごく喜んでいたよ。むしろ前よりお互い踏み込んで話せる仲になったようだな。良いことだ。」
遼は少し恥ずかしそうに俯いた。
「田村さんに言われたんです。目に見えるものだけが真実じゃない、他人を理解できると思うことは傲慢だと。彼を、一人の人間として、信じて受け入れることが大事なんだと……。」
「田村が、そう言ったのか……。」
大貫は目を細めて後方の田村を見やる。
「遼、おまえは何時だったか私と田村のようになりたいと言った事があったな? 全てに対等で信頼しあえる仲が羨ましいとも。だがね、私はかえって、この先いくらでもやり直すことが出来る君たちの方が、羨ましいよ。」
そう言った彼の笑顔が、心なしか一瞬寂しそうに見えたのは気のせいだったのか? それがどういう意味なのか、その時遼は聞くことが出来なかった。
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★なんだか照れちゃう仲良しさん(*^_^*)
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かすかに白みかけた空から、星が一つまた一つと姿を消してゆく。この埠頭から望む鏡ヶ浦から太陽は昇らないが、墨を流したように黒々と横たわっていた目の前の海が、時間と共に徐々に濃い藍色から鮮やかな空色へと変化してゆくのがわかる。大気に漂う霞は穏やかな風と共に去り、やがて一体となった二つの混じり合う色を、「鏡ヶ浦」はその名の通り映しとっていた。
かねてからの約束を守りたいと言って大貫が優樹と遼を外洋のトローリングに誘ってくれたため、金曜の夜から二人は田村と館山の大貫の自宅に泊まっていた。今朝は眠った気もしないくらい早くに起こされたが、一足先に起きた大貫が作った物であろう、クーラーボックスの上には既に船上で食べるための握り飯が用意してある。そう言えば田村は昨夜少しビールを飲んだが、飲むと朝起きられないと、大貫は一滴もアルコールを口にしていなかった。
デッキの上、強い向かい風に肌寒さを感じた遼が身を震わせると、コクピットから大貫がパイル地のパーカーを彼に手渡した。
「今日は少し、沖の外洋まで出るつもりなんだ。」
クルーザーは既に埠頭を遠く離れ、内湾を抜けようとしている。空気を巻き込んだ美しい波線を後方に引いてスピードが増してくると、舞い上がる水しぶきが朝日にダイヤモンドのように輝いた。
優樹は一人舳先に立ち、ハンドレールにつかまって気持ちよさそうに海風を受けている。その凛とした横顔と日に焼けた肩がやけに眩しく、遼はつい見とれてしまいそうになった。
「何だよ、人のことじろじろ見て。」
視線に気付いた優樹の問いに、遼は笑い返した。
「そんな格好で、よく寒くないな、と、思って呆れてたのさ。」
いくらこの地方が温暖な気候に恵まれてるとはいえ、今の時期、海の上でタンクトップとトランクスだけの姿は、確かに寒々しいといえるだろう。
「はぁ? おまえ寒いのか。軟弱なヤツだな。」
「君とは違うよ。」
遼は優樹の嫌味を軽くいなす。
「こら、優樹。おまえまさかその格好で泳ぐつもりじゃないだろうな。」
後方デッキで釣り竿の組み立てをしていた田村が首を出して大声で叫んだが、彼は敢えて聞こえないふりをして、コクピットの大貫をのぞき込んだ。
「大貫さん、そろそろ止めてくれよ。」
大貫も心得たとばかりにエンジンを止める。
「あっ、おいっ! 優樹! ポイントはまだ先だって……。」
田村の制止の声を振り切り、彼は洋上に身を躍らせた。
「まったく、困ったヤツだな。船から離れるんじゃないぞ! 」
口では不満を漏らしていたが、波間に水しぶきをたてる優樹の姿を、彼は嬉しそうに目で追っている。
「それにしても、彼には驚かされるな。」
コクピットから大貫も出てきて、遼の横に立ち海上を眺めた。
「そうですね、本当に。この時期外洋で泳ぐなんて、彼ぐらいだと思いますよ。」
「いや、違うんだよ。田村が釣りをする予定のポイントはもう少し先なんだが実はそこは潮の流れが速くてね、もし泳ごうとするのであれば、この場所が一番いいのさ。だから私も船を止めたんだが……。彼は海流が読めるかな? とても偶然とは思えない。」
遼の鼓動が、大貫の言葉で早くなる。
(何だろう?この得体の知れない胸騒ぎは……。)
それは彼が、あの石膏像を見つけた夜に感じたものと似ていた。
「もしかして優樹君は海神の申し子かもしれないなぁ。」
ただ、冗談めかして言った大貫の言葉だった。しかし遼の心臓がびくり、と、反応する。
『この世の全ては必然から導きだされたものであり、そこに偶然の要因は存在しない』
誰かからそう言ったのを覚えている。何時のことだったのか? 誰の言葉だったのか? 大事な人から伝えられた言葉だった気がするのに、思い出すことが出来ない。
『この宇宙に存在する自分自身も、経験する全てのことも、目的があって成り立っている。』
目的。理由。今までの一連の出来事が何かに繋がっている。姉を殺した犯人を見つけることの他に、いったい何があるのだろうか? そしてなぜ、今その言葉が頭に浮かんできたのだろう?
「遼、どうした浮かない顔をして。まだ悩んでることでもあるのか? 」
「あっ、いいえ。何でもないんです。」
「そうか。おまえが優樹君とまた以前のように付き合えるようになった事を田村はすごく喜んでいたよ。むしろ前よりお互い踏み込んで話せる仲になったようだな。良いことだ。」
遼は少し恥ずかしそうに俯いた。
「田村さんに言われたんです。目に見えるものだけが真実じゃない、他人を理解できると思うことは傲慢だと。彼を、一人の人間として、信じて受け入れることが大事なんだと……。」
「田村が、そう言ったのか……。」
大貫は目を細めて後方の田村を見やる。
「遼、おまえは何時だったか私と田村のようになりたいと言った事があったな? 全てに対等で信頼しあえる仲が羨ましいとも。だがね、私はかえって、この先いくらでもやり直すことが出来る君たちの方が、羨ましいよ。」
そう言った彼の笑顔が、心なしか一瞬寂しそうに見えたのは気のせいだったのか? それがどういう意味なのか、その時遼は聞くことが出来なかった。
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