私立むらくも高校怪奇譚 1(第43回)
2003年9月26日<コメント>
5月の末から初めて、約半年です。ここまで原稿用紙でほぼ300枚。おつき合いありがとう!もうすぐ1000カウントになるよ。1000カウント踏んだ方、掲示板かメール(掲示板ページの一番下から送れるよ)で教えてね。リクエストキャラのミニエピソードをプレゼントします。
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<本文>
「もしかして、初代ミス叢雲だったかもしれないわね。」
「えっ、母さんの母校は東京の方だって……。」
遼が意外そうな顔をする。
「知らなかったんだ。二年生まで叢雲学園だったそうよ。でも大学受験のために都心の高校に代わったって言ってたわ。」
そこで杏子はまた、何か言いたそうに二人に目配せをした。
「何だ、まだ何かあるんならさっさと話せよ。」
優樹がいらついた声で促す。杏子は勿体ぶってグラスに入った葡萄色の飲み物を一口飲んでから口を開いた。
「これはあくまで推測だけど、おば様は弟の大貫さんを避けて学校を変わったんじゃないかと思うのよね。話を聞いてるとなんだかそんな感じなのよ。榊原さんとの結婚もまだ二十歳くらいの時で、それも大貫さんのためだったみたい。だからあんまり続かなかったんじゃないかな。」
「憶測でいい加減なこと言うなよ! 」
優樹の急な大声に驚いて、杏子は思わずグラスを取り落とした。
「何よ、私はただ……。」
「つまんねぇこと、ぺらぺら言いやがって、だから女は嫌なんだ。」
杏子の目に涙が浮かぶ。
「優樹の馬鹿! 大嫌い! 」
「杏子ちゃん! 」
遼の声に振り向きもせず、彼女は部屋を飛び出した。
杏子が部屋を出た後、遼はこぼれた飲み物を片づけながら、気持ちが収まらない様子でテレビのスクリーンを睨んでいる優樹を伺い見た。
「大貫さんを、そんな風に言うなんて俺は嫌だ。」
「……しょうがないな、君は。叔父さんのことは僕も好きだよ。でもあの人だって人間だもの、いろんなことがあるんじゃないかな。杏子ちゃんの言ったようなことが以前あったとしても、今二人はとても仲がいいんだし、彼女も叔父さんのことを悪く言うつもりはなかったと思うよ。」
「それでも……あいつが軽々しく言うようなことじゃない。」
「僕ならそれほど気にしてない。かえって叔父さんや田村さんが昔どんな付き合いだったのか、何故、榊原さんと母が離婚したのか、知りたいことは沢山あるんだ。あんな風に言ったら杏子ちゃんが、可哀想だよ。謝った方がいい。」
何か言い返そうとしたが、彼は言葉がでなかった。
「……わかったよ。」
素直な答えに、遼がにっこりと笑う。その笑顔を見て、優樹はまるで小学校の時に好きだった女の先生に叱られたときのような気分になった。
秋の文化祭『叢雲青龍祭』まで残り二週間を切り、学園内は慌ただしくざわついた雰囲気に包まれていた。毎日早朝から夕方遅くまで、準備に追われる学生達で校内も校庭も賑やかだ。『青龍祭』とは、本校横浜朱雀校の別名と並んで青龍校と呼ばれているこの学園の呼び名にちなんだものだ。正門の上には、各クラスからの有志と美術部部員が制作した、針金とキャンバス地製の巨大な青龍のオブジェが入校する者を威嚇するような形相で口を開けていた。
この週に入ってから、遼も早朝から体育館の端で、数人の部員と共に美術部展示用パネルの制作に忙しく働いていた。何しろ部員のほとんどが、そのオブジェの制作の方に行ってしまい、人手が足らないのだ。
「いつも早いなぁ、秋本は。」
何よりも早起きが大嫌いなアキラが、この日珍しく体育館に姿を見せた。
「天変地異が起きるぞ。」
遼の隣で二人の一年生と共に写真部用のパネルを制作していた佐野がからかう。
「佐野先輩の言うとおりですよ。困るなぁ、青龍祭の日に空から槍でも降られたんじゃ。どうしたんですか? 今日は。」
「うーん、ちょっと来栖に聞きたいことがあってさ。あいつ、放課後つかまらないんだよ。どこかに籠もってるらしくてね。」
「来栖先輩は、ブロンズの制作で放課後は大抵、館山の鋳物工房ですからね。午後からいないことも多いみたいですけれど、多分朝ならつかまりますよ。あ、丁度来たみたいだ。」
遼が体育館の入り口を指差すと、来栖が手に大量の布を抱えてこちらに向かってくるところだった。
「それじゃぁ、ちょっと行って来るか。ところで秋本、おまえも言うようになったなぁ。ま、それくらいの方がいいけどさ。」
まるで憑き物が落ちたように、今の遼は力強い自信に満ちているようにみえる。
(やれやれ、やっとダンナと復縁したか。)
アキラは片手を挙げてにやりと笑った。
:::::::::::::::::::::
★弱者に強く強者に弱い来栖くん。アキラ君とのやりとりが楽しいぞ。
<叢雲ご意見掲示板>
・キャラ裏設定紹介してます。感想などありましたら遠慮なくどうぞ!
http://www.ad-office.ne.jp/cgi-bin/bbs/ad1.cgi?8429maki
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「もしかして、初代ミス叢雲だったかもしれないわね。」
「えっ、母さんの母校は東京の方だって……。」
遼が意外そうな顔をする。
「知らなかったんだ。二年生まで叢雲学園だったそうよ。でも大学受験のために都心の高校に代わったって言ってたわ。」
そこで杏子はまた、何か言いたそうに二人に目配せをした。
「何だ、まだ何かあるんならさっさと話せよ。」
優樹がいらついた声で促す。杏子は勿体ぶってグラスに入った葡萄色の飲み物を一口飲んでから口を開いた。
「これはあくまで推測だけど、おば様は弟の大貫さんを避けて学校を変わったんじゃないかと思うのよね。話を聞いてるとなんだかそんな感じなのよ。榊原さんとの結婚もまだ二十歳くらいの時で、それも大貫さんのためだったみたい。だからあんまり続かなかったんじゃないかな。」
「憶測でいい加減なこと言うなよ! 」
優樹の急な大声に驚いて、杏子は思わずグラスを取り落とした。
「何よ、私はただ……。」
「つまんねぇこと、ぺらぺら言いやがって、だから女は嫌なんだ。」
杏子の目に涙が浮かぶ。
「優樹の馬鹿! 大嫌い! 」
「杏子ちゃん! 」
遼の声に振り向きもせず、彼女は部屋を飛び出した。
杏子が部屋を出た後、遼はこぼれた飲み物を片づけながら、気持ちが収まらない様子でテレビのスクリーンを睨んでいる優樹を伺い見た。
「大貫さんを、そんな風に言うなんて俺は嫌だ。」
「……しょうがないな、君は。叔父さんのことは僕も好きだよ。でもあの人だって人間だもの、いろんなことがあるんじゃないかな。杏子ちゃんの言ったようなことが以前あったとしても、今二人はとても仲がいいんだし、彼女も叔父さんのことを悪く言うつもりはなかったと思うよ。」
「それでも……あいつが軽々しく言うようなことじゃない。」
「僕ならそれほど気にしてない。かえって叔父さんや田村さんが昔どんな付き合いだったのか、何故、榊原さんと母が離婚したのか、知りたいことは沢山あるんだ。あんな風に言ったら杏子ちゃんが、可哀想だよ。謝った方がいい。」
何か言い返そうとしたが、彼は言葉がでなかった。
「……わかったよ。」
素直な答えに、遼がにっこりと笑う。その笑顔を見て、優樹はまるで小学校の時に好きだった女の先生に叱られたときのような気分になった。
秋の文化祭『叢雲青龍祭』まで残り二週間を切り、学園内は慌ただしくざわついた雰囲気に包まれていた。毎日早朝から夕方遅くまで、準備に追われる学生達で校内も校庭も賑やかだ。『青龍祭』とは、本校横浜朱雀校の別名と並んで青龍校と呼ばれているこの学園の呼び名にちなんだものだ。正門の上には、各クラスからの有志と美術部部員が制作した、針金とキャンバス地製の巨大な青龍のオブジェが入校する者を威嚇するような形相で口を開けていた。
この週に入ってから、遼も早朝から体育館の端で、数人の部員と共に美術部展示用パネルの制作に忙しく働いていた。何しろ部員のほとんどが、そのオブジェの制作の方に行ってしまい、人手が足らないのだ。
「いつも早いなぁ、秋本は。」
何よりも早起きが大嫌いなアキラが、この日珍しく体育館に姿を見せた。
「天変地異が起きるぞ。」
遼の隣で二人の一年生と共に写真部用のパネルを制作していた佐野がからかう。
「佐野先輩の言うとおりですよ。困るなぁ、青龍祭の日に空から槍でも降られたんじゃ。どうしたんですか? 今日は。」
「うーん、ちょっと来栖に聞きたいことがあってさ。あいつ、放課後つかまらないんだよ。どこかに籠もってるらしくてね。」
「来栖先輩は、ブロンズの制作で放課後は大抵、館山の鋳物工房ですからね。午後からいないことも多いみたいですけれど、多分朝ならつかまりますよ。あ、丁度来たみたいだ。」
遼が体育館の入り口を指差すと、来栖が手に大量の布を抱えてこちらに向かってくるところだった。
「それじゃぁ、ちょっと行って来るか。ところで秋本、おまえも言うようになったなぁ。ま、それくらいの方がいいけどさ。」
まるで憑き物が落ちたように、今の遼は力強い自信に満ちているようにみえる。
(やれやれ、やっとダンナと復縁したか。)
アキラは片手を挙げてにやりと笑った。
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★弱者に強く強者に弱い来栖くん。アキラ君とのやりとりが楽しいぞ。
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