<コメント>
 今日は雨で寒かった。とうとう長袖出しましたよ。寒さに年々弱くなるなぁ・・・。
 来栖君、実はお気に入りです。ほんとよ。

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<本文>

 館山市はこの地域では一番大きな市である。この街で、遼は必要な画材をいつも決まった店で購入していた。駅から少し離れたところにあるその店は、こぢんまりとしていたが品揃えに不足はなく、近くに中学・高校があることもあって数多くの学生が利用している。
 大貫は後で迎えに来ると言って遼を店の前に降ろし、自らは大手のディスカウントストアに酒を仕入れに行った。財政に不自由は無いはずだが、会社を興したばかりの時の苦労が身に付いているのか、彼は無駄遣いが嫌いだった。しかしいざという時には、全てを投げ出すことの出来る懐の深さのある人間だと、彼の両親も田村も認めている。彼もまた、そんな叔父を尊敬していたが、大貫も遼の父も大酒飲みで、そこに田村が加わるとどれだけのアルコールを消費しているのか分からなくなるほどだ。夜通し続く宴会に、彼の母は呆れていつも先に休んでしまい、遼もこればかりは尊敬出来ないと思っていた。
 必要な物を買い揃え、時間潰しに遼は狭い店内を物色していた。入り口の自動ドアが開く音がして、大貫が来たのかと思い彼がその方向を向くと、来栖弘海が店内に入って来るのが見える。彼もまたこの店を利用しているのだろう。
(出来れば、顔を合わせたくないな……。)
 遼は来栖に見つからないように棚の陰に隠れ、そっと店内から外に出た。
 通りに出て大貫が車を停めやすい所で待とうと、彼が交差点に向かって歩き出したとき、その肩を誰かが強く掴んで引き戻した。
「やあ、秋本。こんな所で会えるとは思わなかったな……。こっちに来いよ、話があるんだ。」
 肩越しに耳にかかった来栖の声に、遼の背筋が凍り付く。
「すぐに叔父さんが迎えに来るんです。話なら学園でしてください。」
「冷たいこと、言うなよ。すぐに済むからさ。」
 有無を言わせず、来栖は遼を画材店の横の、積み上げられた資材の蔭に連れ込んだ。
「何ですか、話って。」
 来栖の様子は学園で会う時と違い、その身体を得体の知れない黒い霞のような悪意が取り巻いているのが遼には見える。努めて強気に振る舞おうとしたが、その霞に対して自分の気力が萎えてゆくのを彼は感じていた。
「前から頼んでるだろう?卒業制作にどうしてもおまえをモデルにしてブロンズ像を作りたいんだ。卒業したらもう、二度と頼めないだろうからな。引き受けてくれよ。」
「嫌です。」
「何故嫌なんだ? 」
 生理的にどうしても来栖の事が好きになれない。その相手と毎日顔を付き合わせることなど真っ平だと、正直に言わない限り彼のつきまといから逃れることは出来そうになかった。しかし、遼は言葉を発することが出来ない。霞は不気味な黒い糸となって彼の身体の自由を奪っていた。
「変だな、いつもはもっと近づきがたい感じがするんだが……。」
 どうやら来栖もそのことに気が付き、口元をゆがめる。
「まあ、いいか。それなら今ここでよく観察させてもらうさ。」
 来栖は遼の肩をコンクリートの壁に押しつけ、その造形を記録するかのように両手で彼の顔を撫でまわした。額から頬骨、眼窩の窪みから鼻骨へと指でなぞる。
「嫌……だ。やめて……。」
 右手の親指が唇を割り、顎のラインから喉元を伝う左手が、シャツのボタンをはずした。
「秋本、俺は前からおまえが好きだったんだぜ。」
 来栖の息が髪に掛かる。
(優樹……! )
 遼は堅く目を閉じ、助けを求めて優樹の名を呼んだ。
「痛っ! なんだよっ! 」
 ざわつく感覚から解放されて、遼はそっと目を開いた。すると大貫が来栖の右手をねじり上げている。
「遼、こいつはおまえの知り合いか? 」
「……美術部の、先輩です。」
 大貫はその手を離した。
「では殴るのをこらえるとしよう。二度と遼に近づくな。」
 来栖は右手をさすりながら、逃げるようにその場を立ち去った。
「大丈夫か? 」
「はい。」
 大貫が、力無い足取りの遼を支える。その肩に寄り掛かりながら、遼は改めて自分を情けなく思う。
 しかし彼は、自分がいつも何に護られているのかが、ぼんやりと解ったような気がした。

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★未遂で終わって、あら残念という方。クレームはこちらに。

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