<コメント>
最近、浜省の曲を、ラジオでよく聴きます。実は自分、スラム街の路地裏で泥と油にまみれて働きながら成功を夢見るタイプの主人公が好きです。結局夢は叶わず、しかし小さな幸せを見つける、みたいなお話が書きたいな。
浜省を聞きながら単車に乗ってたとき、よくそんなこと思っていました。
ニューアルバム、買うかなぁー。(あ、でもYちゃんがお誕生日にくれるかも?ねだったんだけどねっ!)

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<本文>

 断崖を伝う石段を上りきり、見晴らしのよい岬の先端に出たところで、岡田は優樹を促し村雲神社の境内に誘った。
 海に向かい湾を見下ろすかのように立つこの神社は、室町時代頃からの古い謂われのあるものだ。その昔、湾で暴れ、漁に出る者を苦しめた海竜を封じるために身を犠牲にした巫女を祭るものだと聞いたことはあるが、学生である彼等にとっては古い伝説など興味のないものだった。だが岡田は、優樹がここから海を眺めるのが好きだと知っている。どうやら彼にとって気持ちの落ち着くところらしかった。
「さっきの、ボートを燃やした話なんだけどさ。あのとき優樹は自分だけが悪いんだって言い張ったんだったよな。」
「うん? そうだったかな。でも結局二人の責任だって事になって、叔父さんのペンションでバイトして弁償することになったんだった。大半はおまえの親や叔父さんに負担してもらったんだけど。」
 二人はしばらく黙って海を見ていた。珍しく水平線上に雲はなく、太陽から海上にのびる光の柱がきらきらと美しく輝いている。
「おまえすぐ、誰かを庇おうとするよな。でもさ、あのとき俺は二人で責任をとるべきだと思ったし、二人で金を返したかった。俺は自分が、おまえの親友だと思ってたからな。」
「……ああ。」
 あの時、岡田はもう少しボートから離れたところで火を焚くように優樹に忠告したのだ。しかし自分も一緒に責任がとりたいと言った彼に、田村は親友ならそうするべきだと言ったのだった。
「迷惑だったのか? 」
「ばっ、馬鹿言うなよ。……嬉しかった、けどさ。」
 優樹の顔が赤く見えるのは、太陽のせいばかりではなさそうだ。
「一人で全部背負い込もうとするの、悪い癖だぜ。秋本は、まわりが思ってるほど弱いヤツじゃない。ホントは解ってたんだろう? あいつの強さが。おまえ、それが欲しかったんじゃないのか? 」
 優樹は何も答えない。
「アプローチ、下手だよな。」
「何でそんなこと、悟に解るんだよ。」
「言っただろ、親友だって。」
 岡田が笑った。
「秋本は、俺とは違うんだ。あいつはおまえに足らないところを補ってくれるパートナーってとこかな。多分……。」
 岡田はそれ以上言うのを止めた。優樹が精神的に寄りかかれる存在は自分ではない、と。
「よく、わかんねぇよ。」
「そのうち、解るさ。ところでアキラ先輩が刑事を味方につけたいと言ってた話、あれ、失敗したらしいぜ。秋本の能力のことうち明けたらしいけど、信用されなかったそうだ。」
「あの石頭!何で信じてやらねぇんだよ!」
 怒って立ち上がった優樹を、岡田は呆れて見つめた。
「言ってること、矛盾してるぞ。佐野先輩から聞いたんだけど、信じてもらえるわけないって、おまえ秋本に言ったそうじゃないか。」
「ううっ、それとこれとは話が違う。」
 何が違うのか、岡田は聞くのも馬鹿らしかった。
「帰ろうぜ。バス、無くなっちまうからな。」
 遊歩道に出ると、この時間のバスに乗り遅れまいとする生徒が何人か走っている。二人はあわててその後を走り出した。

 学生から聞いた情報を元に成田智子の身辺を調査していた神崎は、彼女が付き合っていたらしいと言う男の姿を、未だ掴むことが出来ずにいた。よほど用心深い付き合いだったのか、それらしき証拠は何も見つからず、館山や千葉で目撃したという証言さえ怪しく思える。
 今回の事件が十二年前の事件と関係があると言い切る濱田に対して、県警捜査一課は別の事件として扱う事にしたらしい。神崎は元々、十二年前の事件に関しては濱田と違い専任ではなかったため、今回の事件の捜査チームに入りながら濱田と石膏像の方を担当していた。館山での聞き込みは彼よりも若い女性刑事、早川と組んでいる。
「まがりなりにも教師だからな、そう簡単にはわからんさ。」
 くたびれた様子の神崎の肩を、濱田が叩いた。
(秋本遼に協力してもらえば、犯人がすぐ解るのかな……。)
 ついそう考えそうになって、彼は首を振る。
「それは駄目だ。俺の仕事なんだから。」
「何ぶつぶつ言ってるんだ? 考えがあるなら話した方がいいぞ。他人の助言を聞いてまとまることもあるからな。」
「あっ、いえ何でもないんです。」
 遼の話は濱田にしていなかった。ただ学生が警察の情報を知りたがっていると報告しただけだ。榊原江里香について、濱田にいろいろと聞かれるのが嫌だったからかもしれない。どちらにしても遼の話を濱田が信じるとは思えなかった。
「今日はデパートの聞き込みだと言ってたな。そっちは早川に任せておまえ、館山まで付き合えよ。榊原江里香の墓が出来たそうだから墓参りに行こうと思ってな。」
「行きます! 」
 神崎は急いで車のキーを掴んだ。

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