私立むらくも高校怪奇譚 1(第31回)
2003年9月12日<コメント>
神崎刑事、以外と直情型かも。男の子はみんな、正義の味方になりたいタイプか、、かっこいい悪役になりたいタイプか、どちらかのようですね。
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<本文>
アキラにお茶を入れてもらい、神崎は遼と向かい合って弁当の包みを開いた。濱田が学生から聞いた通り、〈コロッケ弁当〉は味も量も値段の割に満足のいく物で、二段になった入れ物の一つに白飯が、もう一段に山盛りの千切りキャベツとコロッケが三つ入っている。それは学生達においしく食べてもらおうという店の思いやりなのか、揚げたてでまだ熱く、さくさくとした軽い歯触りが嬉しかった。
「これは旨いな。僕が学生のときは学食しかなくてね、それもカレーか肉うどんの二者択一さ。弁当持ってきてる奴らが羨ましかったな。館山からバスで通ってたから朝早くて、お袋は弁当作ってくれなかったんだ。」
「海岸沿いの道から表通りに出る道に入ってすぐの左側に、コンビニがあるでしょう? あの裏でおじさんとおばさん二人でやってるんです。以前は千葉でお弁当屋さんをしてたそうですが、五年くらい前に戻ってきて、今ここと、そのコンビニのお弁当だけ作ってるみたいですよ。でも運動部の合宿とか大会なんてときは、いつもおいしいお弁当を作ってくれるんです。」
学生のように白飯をほおばる神崎に遼が笑った。彼もその弁当屋のレタスとハムがたくさん入ったサンドイッチを牛乳と一緒に食べている。
「ところで今日、優樹君は一緒じゃないんだね。」
部室にはアキラと遼の他にも数人の学生がいたが、その中に優樹の姿がないのを不審に思って神崎は遼に話しかけた。
「そんな、四六時中つるんじゃいませんよ。気が向いたら来るんじゃないかな? 」
遼の代わりにアキラが答える。
「……それもそうか。」
遼の顔色がさっと変わったのを、神崎は見逃さない。あの事件がきっかけで二人の間に壁が出来たのかもしれないと彼は思った。友達から先に進むために、多くの壁を乗り越えなくてはならないことを神崎は知っている。だがその度に信頼と絆は深まっていくものなのだ。
食後にアキラはコーヒーを二人の前に置き、別の机で他の学生と話をしていた佐野を呼んで小声で何かを話した。佐野は頷き、机に戻ると話していた学生達と連れだって部屋から出ていった。
「それで、話って何かな。」
その様子を見ていた神崎の方から話を切り出す。遼はしばらく神崎を見つめていたが、やがてコーヒーを一口飲み、決意したように口を開いた。
「神崎さんは、僕の姉。榊原江里香とどういう関係だったんですか? 」
単刀直入に聞かれ、神崎は狼狽えた。
「どういう関係……、と言われても。被害者と、刑事、かな。」
「誤魔化さないでください。姉は、違うと言っている。」
「えっ? 」
彼は何を言っているのだろう、と、神崎には皆目見当も付かなかった。死んでしまった人間が、話をするわけがない。それに今回の件がなければ、遼に姉がいた事自体彼の知ることとはならなかったはずだ。
「言ってることが、解らないんだけど。」
「石膏像が見つかった日、僕は貴方の足下が水に包まれるのが見えた。その時、神崎さんにも見えたはずなんです。姉さんの姿が。」
神崎の顔色が変わる。
(まさか、あれはただの幻ではなかったのか? )
「幻なんかじゃない。榊原江里香はそこにいて、貴方に何かを伝えようとしていたんです。」
「馬鹿な! 」
思わず声を荒げそうになったが、神崎はそれを抑えた。確かに幻ならば遼が同じ物を見たといえるわけがない。だが、そんなことがあり得るのだろうか。
神崎の両親は神事を重んじる方で、彼がうるさく感じるほど方位や吉凶日にこだわるところがある。彼自身はそれほど信心深くはなかったが、当たり前のようにそれを受け止めていた。だからといって身近に霊の存在や超常現象が起こりうるなどとは思ったこともない。
「にわかに信じてもらえるとは思っていません。でも秋本に、ちょっとした能力があるのは本当ですよ。ヤツはそのせいで子供の頃から結構つらい思いをしてるらしくてね。そのことに関しては、俺より篠宮の方が詳しいんだけど……。現に参号倉庫では山本葉月が殺されるところが見えたようだし、石膏像に何かあるとわかったのも、美術室で榊原江里香のヴィジョンを見たからなんです。」
そう言いながら、アキラは神崎の出方を伺っているようだ。神崎は冷めかけたコーヒーを飲み干し、カップを置いた。二人が嘘をついていないことは見れば解る。
「その話が本当だとしたら、彼女は僕に何を伝えようとしていたというのかな? いったい君達は、僕から何を聞き出そうと言うんだい? 」
油断なく神崎は探りを入れた。
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・キャラ裏設定紹介してます。感想などありましたら遠慮なくどうぞ!
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神崎刑事、以外と直情型かも。男の子はみんな、正義の味方になりたいタイプか、、かっこいい悪役になりたいタイプか、どちらかのようですね。
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<本文>
アキラにお茶を入れてもらい、神崎は遼と向かい合って弁当の包みを開いた。濱田が学生から聞いた通り、〈コロッケ弁当〉は味も量も値段の割に満足のいく物で、二段になった入れ物の一つに白飯が、もう一段に山盛りの千切りキャベツとコロッケが三つ入っている。それは学生達においしく食べてもらおうという店の思いやりなのか、揚げたてでまだ熱く、さくさくとした軽い歯触りが嬉しかった。
「これは旨いな。僕が学生のときは学食しかなくてね、それもカレーか肉うどんの二者択一さ。弁当持ってきてる奴らが羨ましかったな。館山からバスで通ってたから朝早くて、お袋は弁当作ってくれなかったんだ。」
「海岸沿いの道から表通りに出る道に入ってすぐの左側に、コンビニがあるでしょう? あの裏でおじさんとおばさん二人でやってるんです。以前は千葉でお弁当屋さんをしてたそうですが、五年くらい前に戻ってきて、今ここと、そのコンビニのお弁当だけ作ってるみたいですよ。でも運動部の合宿とか大会なんてときは、いつもおいしいお弁当を作ってくれるんです。」
学生のように白飯をほおばる神崎に遼が笑った。彼もその弁当屋のレタスとハムがたくさん入ったサンドイッチを牛乳と一緒に食べている。
「ところで今日、優樹君は一緒じゃないんだね。」
部室にはアキラと遼の他にも数人の学生がいたが、その中に優樹の姿がないのを不審に思って神崎は遼に話しかけた。
「そんな、四六時中つるんじゃいませんよ。気が向いたら来るんじゃないかな? 」
遼の代わりにアキラが答える。
「……それもそうか。」
遼の顔色がさっと変わったのを、神崎は見逃さない。あの事件がきっかけで二人の間に壁が出来たのかもしれないと彼は思った。友達から先に進むために、多くの壁を乗り越えなくてはならないことを神崎は知っている。だがその度に信頼と絆は深まっていくものなのだ。
食後にアキラはコーヒーを二人の前に置き、別の机で他の学生と話をしていた佐野を呼んで小声で何かを話した。佐野は頷き、机に戻ると話していた学生達と連れだって部屋から出ていった。
「それで、話って何かな。」
その様子を見ていた神崎の方から話を切り出す。遼はしばらく神崎を見つめていたが、やがてコーヒーを一口飲み、決意したように口を開いた。
「神崎さんは、僕の姉。榊原江里香とどういう関係だったんですか? 」
単刀直入に聞かれ、神崎は狼狽えた。
「どういう関係……、と言われても。被害者と、刑事、かな。」
「誤魔化さないでください。姉は、違うと言っている。」
「えっ? 」
彼は何を言っているのだろう、と、神崎には皆目見当も付かなかった。死んでしまった人間が、話をするわけがない。それに今回の件がなければ、遼に姉がいた事自体彼の知ることとはならなかったはずだ。
「言ってることが、解らないんだけど。」
「石膏像が見つかった日、僕は貴方の足下が水に包まれるのが見えた。その時、神崎さんにも見えたはずなんです。姉さんの姿が。」
神崎の顔色が変わる。
(まさか、あれはただの幻ではなかったのか? )
「幻なんかじゃない。榊原江里香はそこにいて、貴方に何かを伝えようとしていたんです。」
「馬鹿な! 」
思わず声を荒げそうになったが、神崎はそれを抑えた。確かに幻ならば遼が同じ物を見たといえるわけがない。だが、そんなことがあり得るのだろうか。
神崎の両親は神事を重んじる方で、彼がうるさく感じるほど方位や吉凶日にこだわるところがある。彼自身はそれほど信心深くはなかったが、当たり前のようにそれを受け止めていた。だからといって身近に霊の存在や超常現象が起こりうるなどとは思ったこともない。
「にわかに信じてもらえるとは思っていません。でも秋本に、ちょっとした能力があるのは本当ですよ。ヤツはそのせいで子供の頃から結構つらい思いをしてるらしくてね。そのことに関しては、俺より篠宮の方が詳しいんだけど……。現に参号倉庫では山本葉月が殺されるところが見えたようだし、石膏像に何かあるとわかったのも、美術室で榊原江里香のヴィジョンを見たからなんです。」
そう言いながら、アキラは神崎の出方を伺っているようだ。神崎は冷めかけたコーヒーを飲み干し、カップを置いた。二人が嘘をついていないことは見れば解る。
「その話が本当だとしたら、彼女は僕に何を伝えようとしていたというのかな? いったい君達は、僕から何を聞き出そうと言うんだい? 」
油断なく神崎は探りを入れた。
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