私立むらくも高校怪奇譚 1(第22回)
2003年9月1日<コメント>
なんだかすっきりしない天気です。今日から新学期なのにね。このまま秋雨前線がくるのかしら・・・。
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<本文>
「秋本が見たのはおそらく最初の犠牲者、山本葉月だと思う。」
アキラは少し咳払いをした。その声はまだかすれている。
「当時演劇部の部長だった彼女は、長く美しい黒髪の持ち主で、ミス叢雲といわれていたそうだ。」
演劇部は代々女子学生が部長を務める習わしになっている。美人で聡明、長い黒髪を持ち長身であることという宝塚並みの厳しい条件を満たした者だけがその座に就くことが出来るのだが、女子学生の総数自体が少ないこの学園では無理な相談ともいえた。部長たる女子学生がいない場合、部長不在のまま実質副部長の肩書きを持つ男子学生が責任者となる。しかしミス叢雲になりたいばかりに入学する女子学生も時にはいるようで、現部長の倉持美沙都もそのうちの一人であった。
「その彼女と並んで、あと二人ミス叢雲と称される女子学生がいた。一年生の乾陽子と君のお姉さん、榊原江里香だ。」
「なぜ僕が見たのがその山本さんだとわかるんですか? 」
遼はやっと落ち着きを取り戻した。犯人を知りたいという漠然とした気持ちが、なんとしても突き止めたいという決意に変わっているのが自分でもわかる。優樹の手はまだ彼の肩に置かれたままだ。ふと顔を上げると彼と目が合い、優樹はそっとその手を離した。
「乾陽子の場合、崖から落ちるところをこの学園の生徒に目撃されていて、直ぐにボートや漁船を持つ人たちと警察が総出で捜索したんだ。しかし見つかった遺体には絞殺の後があって、警察の調査ではどうやら村雲神社の境内で殺され崖下に落とされたらしい。山本葉月の場合は部活の後行方不明になり、学園から出た様子のないことから警察は校内が犯行現場との見方をしていた。教師の中でも、もう一部の人間しか知らないけどね……この倉庫が彼女が殺された犯行現場なんだ。」
アキラは部屋から出るように三人を促し、電気を消した。
「部室で言った言葉は嘘だよ。俺だってこの学園に殺人犯がいるかもしれないなんておもしろくないさ。本当は秋本が何か犯人につながる手がかりをくれる事を期待していた。その能力を確かめたくもあった。君等を騙すつもりじゃなかったが、知っていることを隠していたのは悪かったと思っている。」
「いいんです、もう。先輩の言うとおり、僕も犯人が知りたい。そのためにこの能力が役に立つならかえって嬉しいくらいです。」
遼の言葉にアキラは微笑んだ。
「なんだか逞しくなったな、おまえ。……篠宮はどうだ? 」
「俺は……わかりません。」
優樹は廊下の突き当たりにある、閂の掛かった一際大きく頑丈そうな扉に両手をついた。悔しいような、情けないような、そんなやり場のない気持ちがこみ上げてきて、アキラや遼に顔を見られたくなかった。今まで感じたことのない感情に、自分がとまどっているのがわかる。
アキラが小さくため息をついた。
「とりあえず、此処を出ようか。」
強気で強引ないつもの優樹とは様子が違うことに、遼は少し心配になる。やはり自分の言ったことが原因なのだろうが、それが優樹を変えることになるとは思ってもみなかったのだ。
「優樹、僕は……。」
君に助けてもらいたい、と、言おうとして、遼は差し出しかけた手を反射的に戻した。
彼には見えた。何か青白い光のようなものが優樹のまわりを取り巻いているのを。そしてそれはまるで生き物のように姿を変えて、いまにも彼を扉の奥に引きずり込もうとしている。
「優樹!」
怯えたような遼の叫びに、驚いて優樹は振り返った。その瞬間、青白い光は霞のように消えてなくなる。
「何だよ、急に大声出して。」
「あ、うん……何でもない。あのさ、今更だけど君も力を貸してくれないかな、と思って。」
優樹は少し、意外そうな顔をしたが、
「何だ、そんなことか。当たり前だろ? 」
そう答えて優しく笑った。
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<叢雲ご意見所>
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なんだかすっきりしない天気です。今日から新学期なのにね。このまま秋雨前線がくるのかしら・・・。
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<本文>
「秋本が見たのはおそらく最初の犠牲者、山本葉月だと思う。」
アキラは少し咳払いをした。その声はまだかすれている。
「当時演劇部の部長だった彼女は、長く美しい黒髪の持ち主で、ミス叢雲といわれていたそうだ。」
演劇部は代々女子学生が部長を務める習わしになっている。美人で聡明、長い黒髪を持ち長身であることという宝塚並みの厳しい条件を満たした者だけがその座に就くことが出来るのだが、女子学生の総数自体が少ないこの学園では無理な相談ともいえた。部長たる女子学生がいない場合、部長不在のまま実質副部長の肩書きを持つ男子学生が責任者となる。しかしミス叢雲になりたいばかりに入学する女子学生も時にはいるようで、現部長の倉持美沙都もそのうちの一人であった。
「その彼女と並んで、あと二人ミス叢雲と称される女子学生がいた。一年生の乾陽子と君のお姉さん、榊原江里香だ。」
「なぜ僕が見たのがその山本さんだとわかるんですか? 」
遼はやっと落ち着きを取り戻した。犯人を知りたいという漠然とした気持ちが、なんとしても突き止めたいという決意に変わっているのが自分でもわかる。優樹の手はまだ彼の肩に置かれたままだ。ふと顔を上げると彼と目が合い、優樹はそっとその手を離した。
「乾陽子の場合、崖から落ちるところをこの学園の生徒に目撃されていて、直ぐにボートや漁船を持つ人たちと警察が総出で捜索したんだ。しかし見つかった遺体には絞殺の後があって、警察の調査ではどうやら村雲神社の境内で殺され崖下に落とされたらしい。山本葉月の場合は部活の後行方不明になり、学園から出た様子のないことから警察は校内が犯行現場との見方をしていた。教師の中でも、もう一部の人間しか知らないけどね……この倉庫が彼女が殺された犯行現場なんだ。」
アキラは部屋から出るように三人を促し、電気を消した。
「部室で言った言葉は嘘だよ。俺だってこの学園に殺人犯がいるかもしれないなんておもしろくないさ。本当は秋本が何か犯人につながる手がかりをくれる事を期待していた。その能力を確かめたくもあった。君等を騙すつもりじゃなかったが、知っていることを隠していたのは悪かったと思っている。」
「いいんです、もう。先輩の言うとおり、僕も犯人が知りたい。そのためにこの能力が役に立つならかえって嬉しいくらいです。」
遼の言葉にアキラは微笑んだ。
「なんだか逞しくなったな、おまえ。……篠宮はどうだ? 」
「俺は……わかりません。」
優樹は廊下の突き当たりにある、閂の掛かった一際大きく頑丈そうな扉に両手をついた。悔しいような、情けないような、そんなやり場のない気持ちがこみ上げてきて、アキラや遼に顔を見られたくなかった。今まで感じたことのない感情に、自分がとまどっているのがわかる。
アキラが小さくため息をついた。
「とりあえず、此処を出ようか。」
強気で強引ないつもの優樹とは様子が違うことに、遼は少し心配になる。やはり自分の言ったことが原因なのだろうが、それが優樹を変えることになるとは思ってもみなかったのだ。
「優樹、僕は……。」
君に助けてもらいたい、と、言おうとして、遼は差し出しかけた手を反射的に戻した。
彼には見えた。何か青白い光のようなものが優樹のまわりを取り巻いているのを。そしてそれはまるで生き物のように姿を変えて、いまにも彼を扉の奥に引きずり込もうとしている。
「優樹!」
怯えたような遼の叫びに、驚いて優樹は振り返った。その瞬間、青白い光は霞のように消えてなくなる。
「何だよ、急に大声出して。」
「あ、うん……何でもない。あのさ、今更だけど君も力を貸してくれないかな、と思って。」
優樹は少し、意外そうな顔をしたが、
「何だ、そんなことか。当たり前だろ? 」
そう答えて優しく笑った。
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<叢雲ご意見所>
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