<コメント>
 ちょっと危ない展開。優樹君の想いが遼君に通じるといいですね(笑)
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<本文>

 五段ほど下がった踊り場を右に、また十段ほど降りる。するとそこに、高さ3メートルはありそうな巨大な観音開きの鉄の扉があった。
「これ、俺達の力で開けられるのか?」
 力には自信があるはずの優樹だったが、心なしか不安そうだ。
「大丈夫だよ。下にレールと滑車があるからね、僕でも開けられる。」
 その遼は、ステージの下に下りたときから血の気のない青い顔をしている。いつ倒れるやもしれないと、優樹は気が気ではなかったが、その肩を支えて良いものか迷いをぬぐい去れない。
 佐野が鍵を差し込むと、カチャリ、という小さな音と共に簡単にロックは解除された。
「閂だと不便だから、数年前に簡単な鍵に付け替えたんだそうだ。」
 そう言いながらアキラが取っ手を引くと、遼の言うとおり、こともなげに鉄の壁が動いた。
 すぐ右手にあるスイッチを入れると、蛍光灯の明るい光が廊下を照らす。もっと不気味な様子を思い描いていた優樹にとっては、いささか期待外れの感があった。
「部屋は壱号、弐号、参号。壱号は教材置き場で弐号が学校行事の用具置き場。がらくたの類は参号に置いてある。石膏像が置いてあったのも参号だ。」
 真面目な顔をしていたが、アキラはどことなく楽しそうだ。佐野もいつの間にかカメラを手にしていた。
 おそらくこの場所を倉庫にすることが決まった時点で扉は取り払われたのだろう。左手に、入ってきた場所とほぼ同じ大きさの三つの入り口が、並んで暗い口を開けていた。

 比較的綺麗に整理してある壱号・弐号倉庫と違い、参号倉庫は確かにがらくた置き場と言ってよかった。目的の物を探すとしても、容易に見つけることは困難に違いない。
 乱雑に置かれた棚や、古いデスク、壊れた椅子。学園創立以前の物か、価値の判らない絵画。それらは整理も分類もされずに、ただ処分されるのを待っている。
 忙しくシャッターを押す佐野と違い、アキラは入り口近くに立ち腕を組んだままじっと何かを考えているようだった。
(何を考えているんだろう?)
 初めて入る倉庫に、物珍しさからいろいろ手に取りながら、優樹はアキラと遼を交互に見る。
 と、突然、遼が金縛りにあったように身を固くした。自然に身体が動いて、後ろから優樹が支える。
「・・・平気か?」
「う・・・ん。」
 背中を支えて優樹は遼を近くにあったまともな椅子に座らせた。アキラと佐野が駆け寄る。
「何か、見たのか?」
 遼は優樹の腕を払おうとしたが、出来なかった。今は彼の手が欲しかった。
「髪の長い、綺麗な人が・・・此処で・・・。でもあの人、姉さんじゃなかった。」
「犯人、見えたのか?」
「先輩、あんた知ってたんだな!」
 その言葉に優樹は遼から離れ、いきなりアキラに掴みかかるとその襟首を締め上げた。
「だからこいつを此処に誘ったのか!」
 慌てて佐野が優樹を引き離そうと割り込む。しかし力ではかなわない。
「篠宮!須刈を殺す気か!」
 優樹は突き放すようにその手を離した。勢いづいてアキラが床に倒れ込む。
「大丈夫かよ、須刈。」
 アキラは激しく咳込みながらも片手を上げ、佐野に応えた。
「まったく、勘弁してくれよ。何も締め上げなくてもいいだろう?ホント、死ぬかと思ったぜ。」
「どういうことか、説明してくれませんか。」
 アキラはやっと立ち上がると、壁際の棚にもたれかかり身体を支えた。
「何を説明しろと?秋本は何か見えるかもしれないと思ったから一緒に来たんだと思うが。彼は犯人が知りたいんだろう?なぁ、秋本。」
 遼は何も答えない。アキラの言うことは当たっている。しかし彼がそれを知って自分を誘ったことに驚きを隠せなかった。
「同じ中学の出身者が少ないこの学園では、遼のことを知ってる人間なんてほとんどいない。・・・まさか悟が?」
 岡田なら、中学時代遼がいじめの対象となった理由を知っていても不思議はない。
「おいおい、今の台詞、岡田が聞いたら泣くぜ。おまえ、ヤツがそんな男だと思うのか?」
 確かに岡田は人の中傷をするような人間ではないはずだ。やっと優樹は自分が少し冷静さを失っていることに気付いた。
「秋本のことはおまえが部室に連れてくるようになってからちょっと興味があってね、いろいろ調べてみたわけだ。この学園にもおまえらと同じ中学から来てる学生は結構いるからな、話を総合して考えればわかるさ。信じる信じないは別としてね。ただ俺は信じてた。おまえと同じように。」
 優樹は握りしめていた拳を開いた。アキラが自分の興味のために遼を利用したり試したりするつもりではないと判ったからだ。
「・・・すみません、でした。」
「ま、いいさ。とりあえず拳で殴られずにすんだしな。」
 優樹はきまり悪そうに両手を後ろ手にかくした。

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<叢雲ご意見所>
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