<コメント>
 
 ニューキャラクターは佐野君と藤堂君。女の子で倉持美沙都ちゃん。美沙都ちゃんの言ってた「キュパリッソス」の話は「ギリシャ神話」で調べてみてね。

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<本文>

 文化祭で写真展示に使うパネルを出したいという名目で、倉庫の鍵を職員室から借りた三年生の佐野が、一足先に体育館のステージ脇で待っていた。
「待ちくたびれて眠くなった。」
 大きくあくびをした彼の目に涙がにじんでいる。どうやら本当にうとうとしかけていたらしい。
 何時もくだらない冗談を飛ばし半ば皆にあきれられている彼だが、どういう訳かアキラとは気が合うようだ。年齢的に一年上の相手に対して気兼ねするところが全くないところが、アキラにとって気持ちがいいのだろう。部室で話に出た、県警報道部にいる写真部OBは佐野の叔父に当たる人間である。
 ステージの上では文化祭の公演に向けて演劇部が熱の入った練習をしている。下手から階段を下りた広い控えの間には、山のような衣装や大道具小道具が所狭しと置かれてあった。
「おーい、藤堂いるか?」
 アキラの呼びかけに答えて、大道具の影から縁なし眼鏡を掛けた少し小柄な学生が、台本を片手に姿を現した。演劇部副部長の藤堂光樹である。
「アキラさん、何ですか?」
「少し聞きたいことがあってね。忙しいトコ悪いんだけど、今いいかな?」
「はぁ、かまいませんが。」
 藤堂は優樹と遼に目をやる。むろん彼も美術室での件を知っていた。当の二人は真っ直ぐ倉庫に向かわないアキラに困惑の表情を浮かべている。
「手短に頼みますよ、アキラさん。あの一件のおかげで、台本に手直しが必要になっちゃって・・・。もう日もないのに大変なんですから。」
「そうぼやきなさるな。あの二人に責任はないんだからさ。」
 藤堂は演劇部で脚本と演出をしている。アキラと同じ三年だが、他の生徒同様アキラをさん付けで呼んでいた。
 演劇部の今年の文化祭公演は[スローターハウス5]というSF小説を題材にしたものなのだが、タイトル和訳の「屠殺場」という名が教師間で問題になり、公演を中止するように言われたのだ。しかし演劇部員とOBが説得に当たり、タイトルと脚本の手直しでどうやら公演にこぎつけることが出来たのである。
「それで、聞きたいことってなんです?・・・ああ、警察に話した夏休みの練習のことでしょう。」
「ご明察。」
「やれやれ、その物好きな性格が災いして留年することになるんです。」
 藤堂はズボンのポケットから手帳を取り出した。几帳面な彼は夏休みの練習を全て記録していた。
 彼の記録によれば、夏休み中ほぼ毎日のように誰かがこの体育館に来ていたことになる。
「揃っての練習は平日午後からで、下手すると夜の九時、十時なんて事もありました。でもコーラスやダンスの連中は休日や午前中に自主練習してたし、運動部と掛け持ちの多い大道具小道具の奴らなんかは早朝に集まってましたよ。」
「と、なると、誰もいないのは深夜だけか。」
「聞き込みにきた刑事さんも頭を抱えてました。深夜倉庫にはいるには、学校の鍵、職員室の鍵、体育館の鍵、倉庫入り口の鍵、四つの鍵がいりますからね。正門からはいるのは無理ですが、裏門からは塀を乗り越えられないこともない。その現場検証もしてたようですよ。でもやっぱり・・・。」
「そういうことだろうねぇ。」
 外部の人間ではないのだ。では誰が?
「俺も実は現場検証に来たんだ。ちょっと倉庫まで行ってみるよ。」
 お好きにどうぞ、と、藤堂は肩をすくめた。
 四人が控えの間から更に下に続く階段の影に消えたとき、衣装らしき軍服を身につけた、長身の女生徒が顔を出した。
「ねえ今、秋本遼がいたでしょう?あたし前から彼を演劇部に誘ってるんだけど、振られっぱなしなんだ。是非、彼にキュパリッソスを演じてもらいたいなぁ・・。ヒュアキントスでもいいけど。で、あたしがアポロンを演るの。」
「倉持、おまえ部長だろ?その趣味何とかしろ。」
 藤堂が言い終わる前に、長い黒髪の美女、倉持美沙都の姿はもう無かった。


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<叢雲ご意見所>
・キャラ裏設定紹介してます。
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