私立むらくも高校怪奇譚 1(第11回)
2003年7月10日<コメント>
小説の中では犯人に理由や動機が必要です。書き手は犯人の生い立ちや生活環境などを裏設定して動機を引っ張り出さないといけません。でも最近、動機がない犯罪が多いですね。某テレビドラマじゃないけど何か邪悪な存在が大気の中にあるのではないかと思いたくなります。
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<本文>
しばらくして杏子はちゃんと二人分のコーヒーを持ってきたが、母親に邪魔をしないよう言いつけられたのかベッド脇のテーブルにトレーを置くとすぐに部屋を出ていった。入れ立てのコーヒーに添えられた多めのミルクは小枝子の心遣いであろう。高校生といえども子供はコーヒーにミルクを入れるものと決めつけているようだ。優樹はいつものように砂糖とミルクを多めに入れたが、遼はそのまま口に運ぶ。その強い香りははたして気持ちを落ちつけてくれるものなのだろうか。
「あの人が・・・僕のお姉さんだったなんて・・・。」
「見たんだろ、女の人を。」
遼が頷く。
自分の軽はずみな行動が、結果、遼を傷つけることになってしまったことを優樹は激しく後悔していた。
「俺が・・・余計なことをしたから。」
「君は関係ないよ。」
「なんだよそれ!」
明らかに怒りを帯びた優樹の強い口調に、遼は驚いてコーヒーカップを落としそうになった。ビジョンを見たときから遠からずこうなることは避けられなかったに違いない。彼としてはただ、優樹には何も責任はないと言いたかっただけなのだが優樹はそうは受け取らなかったらしい。
「僕が石膏像を見つけたことも、君がそれを壊したことも、多分彼女が望んだことなんだと思う。」
冷静に自分を見つめる遼に、優樹は赤面した。何時も遼を庇ってきたはずだった。しかしけっして感情的になることはない遼は自分よりもずっと大人なのかもしれない。優樹は、自分の存在の危うさを認識したくはなかった。
「それじゃあ彼女が何が言いたいか、おまえにはわかるってのか?」
それは・・・、と、言いかけて遼は黙り込む。彼にもそこまでわかるわけではない。
「あの時、帰ろうとしたときもおまえ何か見えただろう?刑事に話しかけられてたけど、何が見えたんだよ。」
優樹の言葉に遼は狼狽えた。何故、彼にはわかるのだろう。あの若い刑事、神崎と自分が見た景色を優樹が見たはずはない。彼女の思念が神崎を取り込むのが遼にはわかった。そして深く青い海とその中に漂う制服姿の少女。
「何故君は・・・。」
優樹の勘が鋭いことは以前から気づいていた。クラスメイトに呼び出されたとき、必ず彼が助けに来てくれた。ただ、そんな気がしたから、と言う理由だけで。試験の時もヤマを張れば八割方は当たる。田村と大貫が釣りに行くときも「今日は釣れないよ」と彼が言えば本当にまるで当たりがなかった。たまたまだよ、と、彼は言うが、その的中率に肌寒さを覚えたことさえある。今回石膏像を割ったのさえ、意図しないところで彼の勘が働いたのかもしれないとすれば・・・。
「ごめん・・・。そのことは後で話すよ。」
遼は彼が泊まるときに小枝子が用意してくれる簡易ベットに潜り込んだ。優樹も、割り切れない思いは残っていたがそれ以上遼を追求するのをあきらめ自分のベッドに入る。
しかし夜が更けるにつれ、止めどもない考えが頭の中を駆けめぐり二人とも眠ることが出来なかった。
「遼、寝たか?」
返事はない。優樹は暫く天井を見つめていたが、何時しか眠りに誘われた。
遼はその寝息を聞きながら、先に感じた物とはまた別の不安が胸を覆っていくのを感じていた。
小説の中では犯人に理由や動機が必要です。書き手は犯人の生い立ちや生活環境などを裏設定して動機を引っ張り出さないといけません。でも最近、動機がない犯罪が多いですね。某テレビドラマじゃないけど何か邪悪な存在が大気の中にあるのではないかと思いたくなります。
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<本文>
しばらくして杏子はちゃんと二人分のコーヒーを持ってきたが、母親に邪魔をしないよう言いつけられたのかベッド脇のテーブルにトレーを置くとすぐに部屋を出ていった。入れ立てのコーヒーに添えられた多めのミルクは小枝子の心遣いであろう。高校生といえども子供はコーヒーにミルクを入れるものと決めつけているようだ。優樹はいつものように砂糖とミルクを多めに入れたが、遼はそのまま口に運ぶ。その強い香りははたして気持ちを落ちつけてくれるものなのだろうか。
「あの人が・・・僕のお姉さんだったなんて・・・。」
「見たんだろ、女の人を。」
遼が頷く。
自分の軽はずみな行動が、結果、遼を傷つけることになってしまったことを優樹は激しく後悔していた。
「俺が・・・余計なことをしたから。」
「君は関係ないよ。」
「なんだよそれ!」
明らかに怒りを帯びた優樹の強い口調に、遼は驚いてコーヒーカップを落としそうになった。ビジョンを見たときから遠からずこうなることは避けられなかったに違いない。彼としてはただ、優樹には何も責任はないと言いたかっただけなのだが優樹はそうは受け取らなかったらしい。
「僕が石膏像を見つけたことも、君がそれを壊したことも、多分彼女が望んだことなんだと思う。」
冷静に自分を見つめる遼に、優樹は赤面した。何時も遼を庇ってきたはずだった。しかしけっして感情的になることはない遼は自分よりもずっと大人なのかもしれない。優樹は、自分の存在の危うさを認識したくはなかった。
「それじゃあ彼女が何が言いたいか、おまえにはわかるってのか?」
それは・・・、と、言いかけて遼は黙り込む。彼にもそこまでわかるわけではない。
「あの時、帰ろうとしたときもおまえ何か見えただろう?刑事に話しかけられてたけど、何が見えたんだよ。」
優樹の言葉に遼は狼狽えた。何故、彼にはわかるのだろう。あの若い刑事、神崎と自分が見た景色を優樹が見たはずはない。彼女の思念が神崎を取り込むのが遼にはわかった。そして深く青い海とその中に漂う制服姿の少女。
「何故君は・・・。」
優樹の勘が鋭いことは以前から気づいていた。クラスメイトに呼び出されたとき、必ず彼が助けに来てくれた。ただ、そんな気がしたから、と言う理由だけで。試験の時もヤマを張れば八割方は当たる。田村と大貫が釣りに行くときも「今日は釣れないよ」と彼が言えば本当にまるで当たりがなかった。たまたまだよ、と、彼は言うが、その的中率に肌寒さを覚えたことさえある。今回石膏像を割ったのさえ、意図しないところで彼の勘が働いたのかもしれないとすれば・・・。
「ごめん・・・。そのことは後で話すよ。」
遼は彼が泊まるときに小枝子が用意してくれる簡易ベットに潜り込んだ。優樹も、割り切れない思いは残っていたがそれ以上遼を追求するのをあきらめ自分のベッドに入る。
しかし夜が更けるにつれ、止めどもない考えが頭の中を駆けめぐり二人とも眠ることが出来なかった。
「遼、寝たか?」
返事はない。優樹は暫く天井を見つめていたが、何時しか眠りに誘われた。
遼はその寝息を聞きながら、先に感じた物とはまた別の不安が胸を覆っていくのを感じていた。
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